元勇者、同業者に出会う
村での一夜が明け、朝からリースが知らない場所と勘違いして怯えて抱きつくイベントが発生した。だが途中で昨日の事を思い出したリースが顔を赤くしながら「……あぅ、えっとね。……おとーさん、ごめんなさい……。」と言ってきた。多分だがいきなり抱き着いた事に対する謝罪だろうが俺は気にしていない。なので寝転んだまま抱きしめてひたすら頭を撫でた。
そのせいかテントから出た時は髪がちょっとごちゃごちゃになったが取り出した櫛で梳いたので問題はない。リースが嬉しそうだから問題ないったらない。
村では昨日の支給した食料から足の速い食材を朝飯で調理している様で、テントから出た時からいい香りがしていた。
その匂いに釣られる筈の魔物などの確認に結界の側まで足を運ぶと結界の側には魔物の気配が無く、風下の方にも異変がない。
しっかりと発動している事を改めて確認し、朝食に呼ばれたのでご随伴する。
メニューは雑穀がゆの中に魔獣の肉が入っている。昨日の飯とあまり変わらないが村の人達は涙を流しながら食べていた。
昨日[翡翠の回剣]にてトラウマを消した女性陣は明るく、他の村人達と笑顔で粥を食している。
側のリースは嬉しそうにしながらも俺の膝上から動かず、やはり人が苦手なようだ。
だけどそれでも人を救いたいと思ったなら、この子は優しい子になる。そう思いながら俺も食事を楽しんだ。
…………途中でリースがモモルを食べたそうにしていたので渡した。遠慮していたがしっかり食べて大きく育って欲しい。
食事が終わり、村人達がこれからをどうするかを話し合っている。集まった広場にて近くの町まで行き、新しい斧などを購入したいと皆んなで意見し合っている。だが前に冒険者に食料や金銭を持っていかれ、まともに金が無いので買いにも行けないという事に議論が終わり掛けの時に気が付き、また議論が始まる。
「どーすんだよ!金なきゃ斧も買えねぇ、斧がなけりゃあ木が切れねぇ、木が切れなきゃ開拓できねぇ、お国の意向に逆らっちまう!」
「んだが今のぼろっちい斧じゃ一本も切ねぇよ。」
「ですが、国からの命令での開墾です。出来ませんではすみません。」
「八方塞がりだ!」
「……わ、私、奴隷になってもいいのでそのお金で斧などを揃えられませんか?」
「……奴隷になってもいいってのはお宅さん意外にもいる。けどよ、何処に商人がいるんだ?国からの派遣してもらっていた商人はもう一年も来てないぜ?」
「そ、それは……。」
自分を売ろうとしている未亡人の女性、だが肝心の商人がいないので結局売れない。ちなみに俺は最初にあまり金が無い事を伝え、輪から外れてリースと積み木(魔力で加工してささくれなどカケラもない)で遊んでいる。
「おとーさん、お城!」
「あぁ、お城だな。此処には誰が住んでるんだ?」
「……おとーさんとわたし?」
「んー2人なら広いお城より家がいいなぁ…。」
「うん!お家がいい!」
周りに人がいないのでリースが元気いっぱいだ。嬉しそうで何よりである。
暫くして積み木で遊んでいた俺達に漸く方針が決まったのか村長代理が寄ってくる。それに合わせて慌ててリースが俺に抱き着く。
「遊んでいるところ済まねぇんだが、えっとよ、そのだな、恵んでもらった食料を売るってのはいいか?」
「アレは俺がお前らに譲った物だ。だから好きにしろ。」
「そうか。後だな、出来ればだが町までの護衛を頼めねぇか?食料売った中から謝礼は出すからよ。まぁ元々オメェさんの何だが、肝心の金がねぇんだわ。」
「……まぁ良いけど。」
「助かる。」
頭を下げる村長代理だが本当に申し訳無さそうだ。口調はぶっきらぼうだが悪い奴ではないのだろう。貰ったものでの謝礼とか情け無いとか考えてそうだ。
「ところで何だが。」
「ん?何だぁ?」
「辺境伯はそんなに此処を軽視しているのか?」
「……へ?」
???何で不思議そうな顔をしているんだ?
訪ねた質問に村長代理が間抜けな面をしている。その態度にまさかと思いながら疑問をぶつけてみた。
「……何処の国の命令で開墾してるんだ?」
「何処ってオメェ、ファーブル国だが?」
半ば予想通りな答えに俺は手で顔を覆い、空を仰ぐ。そんな俺の態度に不思議がる村長代理とリース。途中でリースが空を見てリンコ型の雲を見つけてはしゃいでいるが可愛いので撫でる。
「えっとよぉ、どうしたんだ?」
「いやな、ファーブル国だけどな…………滅んだぞ?」
「………………は?」
またも間抜け顔、先程よりも間抜け顔、そんな村長代理だが俺は最近の情勢を語った。
語った結果はマジかよ……って顔をしながら項垂れる村長代理と異変に気が付いて聴きに来たウルドの2人、実に仲が良さそうだ。
「えっと、つまりは国が滅んだから上が変わってゴタゴタの中で忘れ去られている可能性が高いって事?」
「たぶん。」
「……そっかぁ、滅んじまえって思ってたけど滅んでたのかぁ、思う前に……あはは…………。」
「援助も来ねぇ、冒険者も来ねぇ、上は何を考えてんのか分かんなかったけどよぉ、上いないんじゃ考えるなんて無理だよなぁ……。」
二人揃って頭を地面に擦り付ける。中々にシュールだがこの光景が続いたって何も解決しないので速く方針を決めるべきだろう。
二人仲良く五分程項垂れていた村長代理とウルドだが方針を決める為に立ち上がり、村人の輪に戻って行った。
そんな中、俺は遠くから聞こえる音に気が付く。馬の足音に車輪のガタついた時の音、紛う事なき人、それも商人などの確率が高い音だ。
だが、それは単体ならではの事、複数重なれば意味が変わる。
ふと思い出す、元ファーブル国王都での噂。
新しい領主様は有能で……。
もし、国取りの後始末を一年で終わらせたら?
もし、最近の森の恵みの数及び品質向上の書類が存在したら?
もし、それらの書類を魔毒の森の書類として纏めていたら?
もし、それの中に此処の開拓書類があったら?
もし、有能な領主がそれを見付けたら?
そして、それを改善するためにギルドに依頼を出していたら?
もしの話、可能性の話、だけれど、こういった話はよく当たりやすいのが今までの俺の人生であり、呪いとも言える。
そして、見える範囲までやって来た荷馬車とその護衛に気が付いた村人達は歓喜し、その反対に俺は嫌な思いをしていた。
なぜなら、見知った顔が先頭に立っている………。
一応、妖精の森は住んでいる魔獣が強く、生半可なランクでは生きて帰るのも難しい。なので基本的に森のクエストは高ランクの冒険者が受ける。
最初にこの村にいたであろう冒険者はランクも高かっただろうが仲間が喰われて危機感を感じて逃げたのだろう。
だが当然クエストは失敗扱いを受けているはずだ。なら次に来るのはより高位の冒険者、しかも有能な領主が出したであろうクエストなら生半可な冒険者ではない。
結果、先頭にて馬を操る女性はファーブル辺境伯領の中でトップクラスの冒険者。
「ふ〜〜ふ〜ふん♪ラ〜?おろ、農家じゃん。」
ランクにして最上位魔金剛の二個下のランク、魔銀のランク。
「あー、何でお前なんだろうなぁ……。」
「おろおろ、嫌な言い方だねぇ。」
名はミスティ・レイド、俺が弱くないと見抜いている冒険者だ。




