元勇者、取り敢えず治療する
床で頭を下げていた男性を改めて見る。濃い茶色の髪に亜麻色の目をしているがそれよりも投げた時も思ったが随分と痩せている。
見た目は30いってそうなのに腕も足も痩せ細り、農具すら持てなそうだ。
{鑑定}を発動し、見てみると重度の栄養失調と出る。
このままコイツを連れて村の場所…………?
「なぁ、村って言ったか?この森の中に?」
抱き上げていたリースを下ろし、男性用に水を頼む。こくりと頷いたリースはキッチンに向かった。その隙に男性の前でしゃがむ。男性は今尚救うと言った事が信じられないのか、はたまた理解できていないのかポカーンとしている。だがそれは俺には関係無いので頭を掴み、ちょっと力を込め、遮音の結界を張る。
「いや、答えろよ。」
「いだだだだだだ⁈え?夢じゃない!」
どうやら自分の夢だと思っていたらしい。
「あのな、答えろよ。大人だろ?」
「ぃたぃいだい⁈答えます!有ります!」
そう言い、男性は俺の手を払うと立ち上がり、急に立ったせいか立ちくらみを起こし床に倒れた。
「……。」
「……。」
「お父さん……おみ⁈」
戻ってきたリースは先程とは違い倒れている男性に驚き、持ってきた湯呑みを落とす。
パリンと砕ける湯呑みと床に飛び散る水。一昔前のドラマの様な光景だなぁと頭の片隅に思いながら男性を引っ張り上げる。
「栄養失調、弱りすぎだな。取り敢えず適当に準備してくるからその間粥でも食ってろ。リース、危ないから離れてなさい。」
テーブルに無理矢理座らせ、目の前に俺の分のミルク粥を置く。男性が「いや、でも!」とか言っているが聞く気は無い。
砕けた湯呑みの破片を掻き集め、ついでに魔法で修復する。綺麗サッパリ元どおりになった湯呑みをリースに再度渡し、水を汲んで来てもらう。
「それじゃあ俺は出掛けるけどそんなに時間は掛けずに戻ってくる。その間に食べ切れよ。っとその前に……。」
面倒なので了承せずに[翡翠の回剣]を男性に突き刺す。何が起きているのか分からない男性は自分の胸から飛び出てる剣を掴もうとし、触れられずにいた。
これである程度回復していきなり食事を取っても大丈夫になった。いくら粥が消化に良いとはいえ重度の栄養失調相手に食べさせて吐き戻されても後始末に困る。
今尚剣を掴もうとわたわたしている男性だが俺以外触れないし、俺が意識しないと消えもしない。後、回復しきったら一応消える。
そうこうしているうちに剣は消え、男性が短い悲鳴を上げて「これは夢⁈やっぱり夢なのか⁈」と慌てているが知ったこっちゃ無い。
俺は一応ローブを羽織り、リースを抱き上げてから出掛けようとする。だがリースが珍しく抱き着いてこない。これでは出掛けられない。
「リース、どうした?何処か怪我でもしたのか⁈」
右手に[翡翠の回剣]を取り出し、左手で高位の回復魔法の魔方陣を展開する。
今までこの子は留守番を極力嫌っていた。俺から離れるのも嫌がり寝る時は常に一緒、出掛ける時なんてお出かけ用のローブを買い与えるまで凄く悲しそうな顔で我慢をしていた。そんなリースがチラチラと男性を見ながら戸惑っている。
「えっとね……あのね?…………わたしここにいるよ?……急がないとダメだから……我慢する…だからね……お父さん頑張って……。」
チラチラと上目遣いで俺に意見をするリース。前まではこんな事は言わずに溜め込んでいたのにちゃんと自分の意見が言える様になって……なんか寂しい。けど嬉しい。
それに、多分リースはそれだけを考えて言っていない。自分達の家に知らない人がいる。もしかしたら助けてって言っておきながら物取りかもしれない。だから見張る意味でも残るのだろう。
だから俺はこっそり準備していた魔法用の杖(魔法少女が持ってそうなやつ)を渡し……。
「何かされたらこれを振って魔力を流すように……。」
そう言って家を出た。取り敢えずさっさと肉や果実を集めよう。




