はじまり
「えっと、どういうことなんでせうか?」
自らのことをパンツと名乗る女の子がを混乱を極めた俺はとりあえず質問をする。
「んーそうじゃの。言葉の通りなんじゃが、何のことやらさっぱりかもしれん。百聞は一見に如かずじゃ。見るのが一番早いの。よく見ておれ。」
そう言うと目の前の女の子はにやりと笑ったと思うと、次の瞬間に消えていた。
そして、目の前には先ほどの派手な女物のパンツが一枚。そこにはあった。俺には何がなにやらわからぬ。今目の前で起きている現象はいったい何だというのだろうか。
「ほら、わかったか。うちがパンツであるということが。」
どうやら、声がするのは目の前のパンツからのようである。そして、俺がパンツをよく見ようと瞬きをしたが、その間の一瞬でパンツはまた女の子に早変わりしていた。これは手品か何かなのだろうか。それとも俺がバイトの疲れから幻覚を見ているのだろうか。
「俺はどうかしてしまったのだろうか。」
一人呟く。これは現実か夢幻か。別に返答を求めたものではなかったが、目の前の女の子は答えてくれた。
「いいや、お前さんは健全よ。むしろうちがお前さんらの常識から考えるとあり得ぬものなのであろう。でもな、うちはここにおるし、現実のものなのじゃ。」
なぜか得意そうだ。いや、我らが人間に出来ぬことをやってのけるのだから得意顔なのも無理はないのかもしれぬ。人間・・・・。こいつは人間なのか。ふと、思う。パンツから人間になるという離れ業。これは人間ではない。いや、人間であってはならないのではなかろうか。
「では、もしお前が存在するのならば、お前は人間なのか?」
間髪入れずに目の前の女の子は答える。
「違う。うちは人間ではない。確かにお前さんと同じ哺乳類ではあるがな。うちは狐よ。誇り高く化けの道を究めんとする一族。化けに騙されて間抜け面をさらす人間を見るのが楽しみで楽しみでしょうがない種族。それがうちらじゃ。そしてうちはそのうちの一匹よ。」
えっと、なんだって。俺の頭はカオスである。そうカ〇スヘッドである。声が出ない。つまりこういうことか、なぜかうちの家にパンツに化けた狐が一匹紛れ込んでいたと。なるほど。わからん。
「えっと、本当に?本当に君は狐なのか?狐の姿を見たいんだけど。そうでもしないと信じられない。」
「いやじゃ。」
即答だった。
「なんでさ?」
「なんでもじゃ。乙女狐の化けのはがれた姿を見ようなどとお前さんは不届きものか。やれやれじゃ。」
また、ため息をつかれた。いや。俺が悪いんだろうか?
とりあえず、俺は目の前の女の子は狐であるとすることにするべきであろうか。そうだとしても、そうでなくてもなんかどうでもよくなってきた。幻覚の可能性だって考えられる。では、目の前の女の子が幻覚だとしたら、なぜ幻覚が見えているのか?考えられることは一つ。疲れであろう。疲れを取り除けば、もしや目の前の女の子(幻覚)は消える?となるとである、善は急げという言葉に従えば、はよ寝ろ。ということか。
「わかった。俺はひとまず寝る。では、お休み。狐の女よ。」
そう言うと、俺はそっこう布団にもぐる。目の前のきつね女など知らぬ。なにやら、「うちにだって名前はあるコンじゃ。お休みちひろ。」と聞こえたような気もしたが夢であるのか夢でないのか俺にはわからなかった。
ただ、なんで俺の名前を知っているんだろうか。そんなことを思いながら俺は寝具に体をゆだねた。