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第14話「最強商人と商業ギルド」

すいません、更新おくれました(´Д`)


<side:アルベルト・アラバント>


 アラバント商会の本店は、この世界で最も地価が高いと言われる、アトランディアの首都アトラントが誇る大通りの一角、ヴォーレント通りにあった。

 それはつまり、世界最高の商会である証明でもある。


 そんな商売の為の土地のど真ん中に、年に1度も来る予定の無い巨大な別荘を持ち続けていた三流貴族が、ようやく没落しそうなのだ。

 落とすのは簡単だった。

 高値で買うという提案を断られた時点で、その貴族と商業ギルドは敵対したからだ。


 まず、それまで貸し付けていた借金の返済を求めた。

 当然貴族は今まで通り(・・・・・)追加の融資を求めてきた。

 当然、それは全てお断りした。

 借金の肩代わりに、例の別荘を取り上げようとしたら、猛反発。

 どこからともなく、利子分の金を持ってきた。


 馬鹿な奴だ。ヤミ金に手を出すとは。

 もっとも、実際にはヤミ金に偽装させた部下なのだが。本当にヤミ金に借りられると、骨までしゃぶり尽くされる。

 偽装ヤミ金の高い金利で金を借りた貴族は、財産を切り崩しつつ、衰退。

 とうとう、最大の見栄の産物を手放したという事だ。

 恐らく廃嫡させられるだろうが、知ったことでは無い。


 このように非常に苦労して、手に入れる予定だった物件だ。

 それを弟のアッガイが購入したという。


 確かに、表だっての入札はしたが、事情を知っている他の人間が手を出すわけが無い。

 誰も入札しないと思い込んで安値入札をしたのが裏目に出た形だ。


 たしかに、この国の商業ギルドに加盟していれば、入札に参加出来るのだが、いったい何を考えているのだ、あの愚弟は。


 大通りを横断すると、旧貴族屋敷が鎮座していた。

 リフォームすれば、良い商業施設になるだろう。

 大きな馬小屋も、無駄に沢山あるゲストルームも、だだっぴろいリビングルームも、謎の一階フロアも。

 馬小屋は荷揚げ上に。ゲストルームは商談室に。リビングルームは会議室。ただ広いだけでの一階には、仕切りを付けて、受付カウンターを設置すれば、立派な商会館の出来上がりだ。

 その為の物資はすでに全て揃えてある。


 にもかかわらず……。


 貴族屋敷の前に、数人の男女がいた。


「――というわけだアキラ。良い物件だろ?」

「ああ。想像以上だ。助かるぜアッガイ」


 聞こえてきた声に思わず眉根を寄せてしまう。

 あの愚弟が、お互い呼び捨て?

 それほどに親しい人間が出来たということか。


 一人はもちろん愚弟アッガイ・アラバント。

 そのアッガイと気安く話しているのは、見慣れない黒のスッキリした上等な服に身を包んだ、黒髪で眼鏡の男だ。

 一瞬税理士か徴税官かとも思ったが、違うようだ。


 もう一人、その黒ずくめの男に寄り添っているのは、なんとエルフだ。しかも女の。

 今、このアトランディアで、エルフの肩身は狭い。

 あれほどの美貌を持つのであれば、適当な理由をつけて、襲われる可能性が高まるだろう。

 アッガイもアッガイだ。護衛も連れずに何をしているのか。


「久しぶりだな、アッガイ」

「やあ、アルベルト兄さん。用事が終わったら挨拶に行こうと思ってたところだ」

「聞きたいことがある。どういうことだ(・・・・・・・)?」

「どうもこうも、一等地の物件が入札に出てたから、ダメ元で入札したら手に入ったんだ。ずいぶんの渋い金額で入札したのに、不思議なこともあるもんさ」

「お前の担当はレイクレルだろう」

「ああ。もちろんそっちの仕事はきちんとしてるさ。だからといって、アトランディアで一切商売を禁じられている訳じゃないってのは知っているだろう?」

「お前」

「おっと、紹介しておこう、彼はアキラ・ヴェリエーロ。西の果てにある経済自由都市国家テッサの若旦那さ。今回修行を含めて、アトランディアに支店をここに(・・・)作るんだ」

「アキラ・ヴェリエーロだ。よろしく頼む」

「アルベルト・アラバントです。……修行で、アトランディアに、支店?」


 それだけ聞けば、あり得ない話では無い。

 だが、それはアトランディアの一等地に店を借りるという意味では断じてない。それはつまり、すでに成功していると言うことなのだから。


「ああ、それとそちらの可愛いお嬢さんはアキラの嫁で、ラライラ・ヴェリエーロ。見ての通りエルフだね」

「こんにちは。よろしくお願いします」


 ペコリと頭をさげたのは、随分と若いエルフの娘だ。


「エルフ……」


 私が苦い表情を見せると、アッガイはゆっくりと頷いた。

 つまり、この国の状況は把握した上での行動と言うことになる。ならばこの件についてはこれ以上言う気は無い。


「色々と旅の土産話を聞きたいところだが、その前に、一つ確認したいことがある」

「何でも聞いてくれよ」

「この街での建物の売買は、商業ギルドに加盟していることが条件だったな? なのに、そちらのアキラさんにこの物件を売るという事かね?」


 アッガイが、ニヤリと笑った気がした。


「いいや? 買ったのは私だし、ここは賃貸として貸し出すだけさ」

「なんだって?」

「賃貸だよ、賃貸」

「だが、このヴォーレント通りに店を構えるのだろう? ああ、もしかしてこの後、商業ギルドへの加盟手続きをするつもりだったのか。出来れば事後報告は困るのだが」

「ん? ヴェリエーロ商会は、この国の商業ギルドへ加盟するつもりはねぇぜ?」

「それは理屈が通らない。このヴォーレント通りで商売をするならばそれは――」

「そんな法律は無い。確認済みだ」

「――なんだと?」


 黒髪の男が、濁った黒い瞳を向けてくる。


「この地域を実質的に牛耳っているのが商業ギルドなのは知っているさ。だが、その義務はない。違うか?」

「それは……」


 確かに国が決めているのは、商業地区や、工業地区であって、それらの管理を実質的に……いや、言葉を悪くすれば勝手に管理しているのがギルドという事になる。

 だが、ギルドが管理しなければ、誰が秩序を守るというのだ!

 同じ商品を扱う店が隣り合ったりしないよう、管理しているのは我々だぞ!


「それに、俺たちはただの店子だ。まさかアパートみたいな賃貸住宅に住み込む奴にまで、商業ギルドに加盟させる義務なんてないだろう?」

「いやまて、だが君たちは、そこで商売をするのだろう!? 賃貸の件を別にしても、ここで! 商売をするならば! ギルドに加盟したまえ!」

「メリットが無いんだよ」

「……なに?」


 いま、こいつは、なんといった?

 世界最大のアトランディア商業ギルドに、加盟する、メリットが、無い?


「ああ。むしろ加盟するとデメリットしか無くてな」

「なんという……」


 馬鹿なのだ。と続けなかった自分を褒めたい。

 まさか、このアトランディアで商売をしようという人間が、商業ギルドに入るメリットを理解出来ないとは……。


「アルベルトさんは、そのギルドの代表をやっているんだったか。良ければメリットを説明してくれないか?」


 そんなもの、一言で言えば、加入しなければ、この街での商売を許さない。

 それに尽きるのだが、そう口に出すわけにはいかない。

 一応、あくまで、この国で商売を始めるには、国に届け出をすればいいのだから。


「まず、商会などの開業にあたる、面倒な手続きを、全てギルドが代行いたします」

「ああ、これのことか。もう終わらせてあるぜ?」


 アキラという黒髪男が、カバンから羊皮紙を取り出した。


「見ても?」

「どうぞ」


 確かにそれは、王国の印が入った、許可証であり、証明書だった。

 よりにもよって、連帯保証人がアッガイになっている。

 なるほど、アラバントの人間が保証人になれば、役人とていつもの手続きだと思うだろう。


「た、確かに。しかしこの国の納税システムは大変複雑です。ギルド加盟の商会には、優秀な税理士を……」

「数値は適当だが、納税用の計算はすでに構築済みだ」


 アキラが更に何かを取り出す。妙に薄っぺらく、真っ白な羊皮紙だった。

 数枚束ねられたそれをめくると、衝撃が走った。


 丁寧に定規で枠線が引かれ、そこに恐ろしく綺麗で、歪みの無い数字が羅列しているのだ。

 不思議なことに、一切の乱れなく均等に書かれた数字は、私が見ればわかる、決算書だ。

 それもとびきり詳しくわかりやすい。


「この列が仮の商品名、この列が販売日、個数、売値、値引き額、差し引き総計、この列がどの役所に連絡するか。これは売上げ別の表だが、2枚目は日付順、3枚目は商品ごとの集計になってる」

「……!」


 そんなのは!

 見れば!

 わかる!

 だが、これをいちいち全て並べ替え、計算しなおしているとうのか?

 本来、台帳を読み込み、頭の中で理解すべき事柄だろう!?


 しかし改めて数字にされると、何とわかりやすいのか。

 3枚目など、頭がおかしいと思うほどだ。

 これはサンプルなのだろうが、そこに描かれているのは衝撃だった。


 ・高級ワイン

 6/19午前(フリエナ)=4本=50代・男

 6/19午前(フリエナ)=1本=30代・男

 6/19午後(アキラ)=20本=マイル・バッハール

 6/19午後(アキラ)=100本=レッテル伯爵

 6/19午後(フリエナ)=2本=20代・女

 6/19午後(フリエナ)=1本=40代・男


 頭がおかしくなりそうだった。

 売った時間に、担当者だけで無く、客の年齢性別まで収集しているのか!?

 うっすらと「閉店前の駆込み需要が見込める、おそらく晩餐用」と殴り書きされていた。

 なるほど、たしかにこの情報をまとめられれば、そういうアイディアも出てくるだろう。


 だが! それは! 商人のカンというものであって、経験が導くものだろう!?

 こんなクソ面倒な統計を、とり続けるというのか!?


 どの情報も細かく記され、用途別に、わざわざ並びを変えて書き出してあるのだ。いったいどれだけの重労働と言うのか。


「まぁ見ての通り、納税に関しては問題ねぇよ」

「あ……ああ、そうだな」


 どんな厳しい徴税官だろうと、これを見せられたら文句など言えないだろう。

 むしろ余りに細かすぎて、脱税が難しいレベルだ。


 ……。

 もしかしてこいつは馬鹿なのか?

 これほどわかりやすくしてしまったら、どうやって税金を誤魔化すというのだ?


 そこでようやく気付いた。

 こいつ、そんな気がないんだと。


 突然、そいつの瞳が悪魔のように思えてきた。


 ならば!


「ほ、他にも原材料の仕入れ優遇だけでなく、独自の自衛組織が見廻りを……」

「ああ、いらんいらん。どっちも間に合ってる」

「確かに一見このヴォーレント通りは治安が良い様に見えるが、そこはやはり大都市の宿命というものがあり……」

「大丈夫だ」

「そ、そうか。他にも!」

「お誘いはありがたいが、商業ギルドに入るつもりはない。問題はないだろう?」

「……なるほど。理解した。一ヶ月もいられると良いな」

「激励感謝するぜ」


 私の、私の商業ギルドがコケにされたのだ。

 この男は潰す!

 完膚無きまでに!


 まずはギルド加盟店への警告からだ。

 一切の商売を許さないと。


 ふん。干からびてから、後悔して死ねばよいさ。



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