第13話「最強商人と最強商人」
<side:アルベルト・アラバント>
私には野望がある。
世界最大の商会、アラバント商会の長男として生まれた、私アルベルト・アラバントは、当然その商会を継ぐことになる。
父アストラ・アラバントは、五代目の商会長だ。
だが、ほとんどの貴族や大商会の常だろうか、跡取りというのは代を重ねるごとに無能になっていくものだ。
そういう意味でも、資産を減らさなかった父は、まぁ有能であると言える。
私には野望がある。
私はアラバント商会を、世界一にしたいのだ。
なに?
すでに世界一の商会だろうって?
ああ、その通りだ。
その商業規模において、並ぶ商会など存在しない。
大国家アトランディアの貴族を、王族をして、教会をして、我がアラバント商会に大きく依存しているのだ。
なるほど。世界最大だ。
だが!
最近の王家を見ろ!
金を借りることと、金を搾り上げる事にだけ熱心な無能揃い!
ああ!
金を借りたいと言えば貸してやるとも!
利子を踏み倒さなければな!
ああ!
税金だって払ってやろう!
それが適正であればな!
貴族にしても王族にしても、商売というものを全く理解していない!
私は商売ならば、誰とでも取引しよう!
だが!
詐欺師と商売する気はない!
……。
襟を正す。
私には野望がある。
それは、この世界の商売の仕組みを変えること!
だが、等しく無能しかいないこの世の中でそんなことが出来るのか?
いや、無理だ。
だから、私は決意した。
この世の商売全てを支配する!
と。
大げさな夢だとは理解している。
だが、不可能では無いのだ。
アラバント商会は、商業ギルドの筆頭である。
つまり、実質的にはアトランディアの商業を牛耳っているともいえる。
だが、商業ギルドと国家というのは、すこぶる相性が悪いのだ。
国家が小さいうちは、便利な現金引き出しマシーンとして散々利用しておいて、いざ利子代わりの免税特権を行使すれば、邪魔者扱いされる。
奴らからすれば、儲けているのに、金を納めないごうつくばりとでも思っているのだろうが、この国の発展に貢献し続けてきた、正統な権利を行使しているだけだ。
アトランディアが太陽神ヘオリス教と組み、国家基盤を整え、他国と領土戦争を繰り返す今、商業ギルドが商人たちから金を吸い上げるシステムが喜ばれるわけが無い。
本来ギルドと言われる組織は、現在の商業ギルドだけだったのだが、いつの頃から、反旗を翻すように職人どもが鍛冶ギルドや、服飾ギルドなどといった、同職ギルドを乱立したのだ。
当時の商業ギルドはどう対応したのか、日和ることで、その存在を認めたのだ。
商業ギルドと密接な関係を維持するという、一点において、個別のギルド設立を容認していった。
それは世界的な流れとなり、どの国も似たような状況になっている。
無能な国家、無能な貴族、無能な職人が、それぞれの思惑で商売を始めたのだ。
商売というのは、ド素人が出来るような物では無い!
結局、商売で最も面倒な、会計やら税務やらの外注を、商業ギルドが引き受ける形になっている。
本当に馬鹿な奴らだ。
商業ギルドに加入すれば、税務処理、会計相談、店舗の貸出、人員の貸出、警備の貸出。この警備の中には、裏の組織にみかじめ料をまとめて払い、ギルドの加盟店を襲わないよう口をきいているという側面もある。
他にも商会の横の繋がりを理解しているがゆえ、何か商売をするさい、最適なアドバイスも出来るし、原材料の仕入れ先の紹介などもお手の物だ。
ギルドの加盟商会が儲かれば、上納金が増えるのだから、いくらでも協力しよう。
商売をする人間は、すべからく、商業ギルドに加盟するべきなのだ。
それが、貴族でも! 法王でも! 国王でもだ!!
そして、現在、その夢は現実に一歩近づいていた。
国王が掲げる、領土拡大計画。
いや、正式名称は「正統なる権利者への領土奪還計画」だったか。
一体誰が正統なのやら。
土地は、金を払って購入した人間の物だ。
それ以外の法があって良いわけが無い。
最近まで、ドワーフが治める唯一の国、鉄槌王国ドワイルと小競り合いを続けていたが、その国名通り、鋼のような頑強さで、鉄壁の防衛戦をひかれたと聞いている。
結局、適当な理由をつけて、軍を引き上げたはずだ。
それで戦争をやめると思っていたのだが、最近街にある情報がまことしやかに囁かれている。
意図的に流された物なのは明かなのだが、気付く人間は案外少ない。
その噂とは「人間嫌いのエルフが、森資源を独占している」というものだ。
明らかにコントロールされた情報で、日に日にエルフの悪行が追加されていく。
最初は森の独占、次に人間が嫌いで、森から追い出した。
森資源を独占している。
自分たちの森を守るため、隣国の森を切り開いて畑にした。
アトランディアの首都アトラントにいるエルフは、全員スパイ。
エルフはアトランディアに攻め入ろうとしている。などなど……。
冷静に考えれば、そんなわけが無いのだが、商人でも無ければ、ほとんどの人間は生まれた土地から外に行くことは無い。
田舎の村に生まれれば、やせ細った麦と共に生きて死ぬし、大都市アトラントに生まれれば、積み上げられた石の迷路に生きて、ドブの臭いのする集合住宅の一室で死ぬのだ。
だから遠いミダル山脈の反対側の国のことなど、彼らは何も知らないのだ。
それを悪いとは言わない。
ただ、無知だからと言って、ただただ自分に都合の良い話だけを鵜呑みにしていくのは、無能の証だ。
商業ギルドが、世界の実権を握っていれば、そんな事は起こりえないというのに。
商売に必要なのは、情報であり、教育だ。
読み書き計算。それに流通。
流通とはまさに世界の仕組みそのものであり、それを覚えれば世界の住民になれるのだ。
だからこそ、商業ギルドで、世界を掌握しなければならない。
……、話がそれたな。
私は机に積み上がっている、幾多の重要書類を決裁しながら、さらに思考の海へと沈む。
鉄槌王国ドワイルへの侵攻を諦めてから、すぐに流布されたこの噂話を考えれば、王国が次にどこを狙うのかなど、海が塩辛いことよりも明確だ。
なるほど、数年前から、難所であるミダル山脈道の整備に金をつぎ込み始めたわけだ。
ここまで話せば、想像できるだろうが、この案件に大金を払わされている。
もちろん、完成の暁には、通行税の免除を始めとした、様々な特権を条件にだ。
彼らが、後日、特権を与えてくれるのならば、それは立派な商売だからな。
ミダル山脈。
それはこの大陸を真っ二つに分ける険しい連峰の通称だ。
剣山のように、前人未踏の山々が雲を穿ち、人の侵入を寄せ付けない。
国家は冒険者という者を雇い入れ、自領に近い頂に送っては、その山頂に自国の旗を立てることによって、領土を主張してきた。
もっともそれも、標高の低い、両端の話なのだが。
つまり、ミダル山脈のほとんどは、どの国家のものでも無い。
現在はミダル山脈を越えたシフトルームが完成していて、山と湖の国レイクレルと真輝皇国アトランディアの行き来は容易だ。
利用料は高いが、事故率8割以上と言われる、数少ないミダル山脈道を渡る意味など無いのだから。
ミダル山脈を横断する、ミダル山脈道の中で、最大のものは実質アトランディアが管理するものである。
いつ終わるとも知れない、絶壁と渓谷に無理矢理作られた、馬車1台が辛うじて通れる細い道。
油断すれば、即滑落。
油断しなくても、落石で死亡。
それらを避けられた幸運な人間が、害獣に襲われる。
そしてそのような碌でもない道を1~2ヶ月かけて、ようやく横断できる。
まだシフトルームが無かった頃、一攫千金を夢見て、幾多の商人が挑み、無事生還した者を勇者と崇めたといえば、その激しさが伝わるだろうか?
その、山道を整備。
もちろんそれ自体は歓迎だ。
全てをシフトルームに依存するのは危険だからだ。
もし、呆れる話だが、アトランディアがエルフの国に進軍するのであれば、シフトルームは使えない。
理由は簡単だ。
シフトルームを管理するカズムス教が許すわけが無いからだ。
現地の人間を……この場合エルフだが、力で押さえ込んで従わせたところで、まともな商品が出来るわけが無い。
本当に国家というのは馬鹿らしい。
この世は。
すべからく、商業ギルドで面倒を見るべきなのだ。
――。
決算書類を片付けると、私はベルを鳴らす。
すぐに、執事が入室してきた。
「アルベルト様、ペバード様がお知らせしたいことがあるとお待ちになっております」
「ペバードが? わかったすぐ行く」
私の優秀な片腕であるペバードは、いくつもの重要案件を担当しており、よほどの要件でも、普通は使者か手紙を使う。
良いニュースであれば良いのだが、こういう時は大概厄介ごとだろう。
密談用の部屋に向かうと、ペバードは立ち上がって一礼してきた。
「挨拶はいい、本題を」
「はい。この首都アトラントでもっとも高級な土地で、世界一地価の高いヴォーレント通りの件です」
「ああ、あの借金馬鹿貴族が、ようやくあの一等地の別荘を手放す気になったか。どのくらい買いたたけそうだ?」
首都アトラントは、いくつもの城壁、市壁が入り組んだ複雑な構成をしている。
だが、いくつかの道は、意図的に広く真っ直ぐに作られていた。
当然そういう道なので、利便性が高く、利用率も高い。
結果的にその両脇の店舗価値は跳ね上がり、売上げも期待できる。
現在では、もはや生半可な商会では手が出ないほど価値が跳ね上がり、この地域に店を構えることはアトランディアの……いや全世界の商人の最終到達地点と言っても良いだろう。
無論、その地域は、我ら商業ギルドが抑えるべき土地であり、物件だ。
商業に適した土地に別荘など、ゴミは早々に片付けて、有効活用するべきなのだ。
「それが……」
「なんだ?」
ペバードにしては歯切れが悪い。
それでこれがバッドニュースであることを悟る。私は顎で続きを促した。
「すでに例の物件は購入されました」
「なんだと? それは商業ギルドが買い上げ、それを販売した……訳がないな」
だったら、ペバードがこんな顔をするわけが無い。
「半分は正しく、半分は間違っております」
「……どういう事だ?」
「土地建物を購入したのは、アッガイ・アラバント様。現在アラバント商会レイクレル支店長である、アッガイ様なのです」
「なんだと?」
どうしてここで、ミダル山脈の向う側で小銭稼ぎに精を出しているはずの弟の名前が出てくる?
いや、考えてもしょうがない。
「物件に向かう」
「はっ!」
普段外に出るならば馬車に乗るのだが、その必要は無い。
なぜなら、その物件は大通りを挟んで、向い側なのだから。
新作「冒険者をクビになったので、錬金術師として出直します! 〜辺境開拓? よし、俺に任せとけ!」
好評連載中です!
よろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n2199ex/




