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第9話「最強商人と灼熱の風と小さなメイド」


「お兄ちゃーーーーーん!!!」


 ずどーんと腹筋に突っ込んで来たのは、小さなメイドだった。

 メイドに抱きつかれる理由がわからなかったが、上げた顔を見て、なるほどと理解した。


「元気だったかナルニア」

「うん! でも寂しかったよ!」


 少女は元ピラタスの宿屋、クジラ亭の看板娘、ナルニアだった。

 なんでメイド服なのかは意味不明だが。


 ◆


 シフトルーム、簡単に言えば瞬間移動装置が完成したことを受け、俺たちは慌ただしく動いていた。

 まず、レイクレル王国に本格稼働する申請。

 次に、アッガイと水晶……いや、理力石とキャンピングカーの取引。

 理力石は約束通り、即金で1億5000万円を受け取り、さらに1億5000万円分の小麦の証書を受け取った。

 ちなみに1億5000万円という現金なのだが、真輝大金貨(10万円硬貨)ですら、1500の枚数になるのでどうするのだろうと思ったら、真輝金剛貨という、真輝大金貨の中央にダイヤモンドが埋め込まれている特殊な貨幣で支払ってもらった。


 両替している商会が少ない上に、手数料がかなり取られるので、アラバント商会での両替に関して、手数料免除の証書をもらった。

 もっとも、メルヘスの能力である、コンテナを通せばいくらでも両替可能なので、必要は無いのだが、ありがたくもらっておいた。


 キャンピングカーに関しては、予想外の大取り引きの事もあり、1000万円で売ることになった。

 エンジンもバッテリーも外しているが、充分にオーパーツの塊なので、充分特価だろう。

 実際現物を見たアッガイは大興奮だった。

 自走する仕組みを解明するのは諦めたようだが、備え付けの冷蔵庫などに食いついていた。

 電気が無いから動いてないんだけどな。


 それでも、新たな貴族用の馬車のヒントになりそうだといっていた。

 専用の炊事車を作ってみるかなどと言っていたので、コンパクトなシンクにアイディアを刺激されたらしい。


 ちなみに、金を受け取って最初に購入したのはタバコだった。

 エルフ産のキセルと、エルフ産の刻みタバコを沢山もらってたので、しばらくそれを吸っていたのだが、やはり馴染んだ銘柄が一番だ。

 ハッグとヤラライも、日本産のタバコが気に入っているらしく、同じく最初にタバコを所望してきた。


 三人並んで煙を吐いていたら、なぜかチェリナとラライラにクスリと笑われた。なんで?


 さらに空理具をいくつか購入した。

 流石に物流拠点だけあって、テッサとは比べものにならないほど品揃えが良かった。

 購入したのは、炎槍、光盾の二つだ。

 これで俺の持つ空理具は炎槍、光盾、清掃、光剣、照明、火、風の7つになる。


 ハッグに頼んで、時間のある時に金属製カードに作り直してもらう事にした。

 あれ、格好いいからな。


 そんななか、ユーティスが大地母神アイガス教の特殊部隊を辞めてきたという話になった。

 そこで、ユーティスが最後に超重要な情報を持ってきてくれた。


 真輝皇国アトランディアに、確かに異能を持った特殊部隊が存在していると。


 これでサリーの言っていた事に信憑性が増した。

 これ以上の情報は、流石に辞める人間には教えてもらえなかったようだ。

 それでも貴重で重要な情報なのだ。感謝しかない。


 話のあと、ユーティスが商売神メルヘス教に入信したいと言い出した。

 どうすりゃ良いのかわからないので、保留という事にしたのだが、とりあえず、聖印を渡しておいた。


 ……これがいけなかったのか、正解だったのか。


 聖印を受け取ったユーティスが、それを握りしめて神への感謝を捧げると、突然身体の周りに光の粒子が舞い踊り、失ったばかりの神威法術を手に入れてしまったのだ。


 うん。深く考えないことにしよう。

 貴重な回復役をゲットできたということで。

 本人も感涙にむせび泣いてるしな。


 数日、こんな感じで忙しい準備を終えたうえで、ようやくシフトルームを使用することになった。


「なあトキさん、転移は妊婦に負担をかけないよな? 大丈夫なんだろうな?」


 事あるごとに尋ねまくっていたら、流石にチェリナに怒られた。

 もちろんトキは大丈夫だとその度に答えてくれていたのだが。


 小麦の搬入は、輸出扱いになるという事で、最初は人の移動だけということになっている。

 トキはこのまま常駐の操作員になるという事だ。

 給料とかどうなっているのだろうと聞いてみると、レイクレル王国と、カズムス教の両方から出るらしいので安心する。


 メンバーは俺、チェリナ、ラライラ、ハッグ、ヤラライ、ルルイル、ユーティス、ファフ、それにアッガイとレイクレルの使節団だ。

 この使節団は、新たな国家である経済自由都市国家テッサと協定とシフトルームの条約を結ぶ為に派遣されるそうだ。

 両国できちんとしたルールがなければ、犯罪者や違法な品物がやり取りされてしまうし、税金や利用料の取り決めもある。

 その辺は全部ブロウ・ソーア復興大臣殿に丸投げする予定だ。


 ザザーザンには残ってもらい、エルフの戦士たちのリーダーとして荷物の護衛をお願いした。

 本人は一緒に来たかったようだが、他に任せられる人間もいないので、諦めてもらった。クックルもいるしな。


 シフトルームは巨大な半円状の建物だった。

 大きさは学校の体育館くらいか。

 床には彫り込まれた複雑な魔方陣が描かれていた。


「随分と広いんだな」

「馬車などの乗り入れもありますからね」

「こんな巨大な装置を動かすと、魔力というか、疲労が凄いんじゃ無いのか?」

「はい、ですので稼働は一日に二回が限度ですね」

「それでも凄いな」


 ファフがこっそり耳打ちしてくれた。


「ククク、空間の領域はカズムスががっつり握っておるのじゃ。カズムス教の神官以外が稼働させようと思ったら、ショック死しかねんの」

「カズムス教に最適化されているのか」

「そういうことじゃ」


 俺がSHOPなんて力を使えるのも、商売という領域をメルヘスが握っているからと考えると、少し納得出来る話だな。

 しかしコンテナの能力は、むしろカズムス教の領域なんじゃないだろうか?

 まぁ使えるからどうでもいいが。


 シフトルームの中に入ると「壁に手を触れないように」とトキに注意された。

 場合によっては触れた場所が消え失せるらしい。怖い。


 トキが部屋を出て、シフトルームを起動すると、床の魔方陣が淡く発光した。そのタイミングで少し視界がゆがみ、一瞬空中に投げ出されたような浮遊感を感じた。

 あれだ、バンジージャンプのような感覚が、一瞬だけ。

 上司に付き合わされて遊園地に行った時、強制されたのを思い出すなぁ。


「チェリナ、大丈夫か」

「はい、一瞬だけ目眩がありましたが、問題ありません」

「なら良かった」


 巨大な門が開くと……そこから熱風が流れてこんできた。

 懐かしの荒野の空気だった。


「ああ、本当に戻って来たのですね」


 外に出ると、テッサの市壁すぐ外だった。

 どうやら市壁の外に建設したようだ。


 テッサ側のカズムス教神官に挨拶したあと、すでに開きっぱなしの市壁を潜る。

 基本出入りフリーなのだが、門番はちゃんといた。

 そしてその門番がチェリナを見つけると、すぐに大騒ぎになった。


 とりあえず、ヴェリエーロ商会に移動し、王城にいるはずのブロウ・ソーアを初めとした面々に使いをやり、彼らにもこちらに来てもらう事になった。

 それで、ヴェリエーロ商会でくつろいでいたら、メイド姿のナルニアが突撃してきたという寸法だ。


「お久しぶりでね、ナルニアさん」

「チェリナ様! お久しぶりです!」


 現在ナルニアは、チェリナの屋敷でメイド見習いとして働いているらしい。

 元々はチェリナのお付きとして雇われたらしいのだが、チェリナが旅立ってしまったので、メイドとしての訓練を積んでいたそうだ。

 なるほど、メイド服な訳だ。


 こうして俺たちは、懐かしのピラタス……テッサに戻って来たのだ。

 荒野の熱い風と、照りつける太陽が懐かしかった。



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[一言] ナルニア 完全に忘れてたわ
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