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第10話「最強商人と魔女への報告」


「それでは私は、レイクレル使節団と話を煮詰めてきますね」


 ヴェリエーロ商会に屯できたブロウ・ソーア復興大臣が疲れた表情でため息を吐いた。

 ブロウ・ソーアは一度俺を暗殺しようとした、前国王の側近だが、革命後その類い希なる能力を買われて、復興大臣として忙しい日々を過ごしている。


「それにしても、年単位は先になると思っていたシフトルームの交渉を、わずか数ヶ月で決めてくるとは……いえ。ありがたい事です」

「あまりありがたいって声じゃないな」

「やることが多すぎて、疲れているだけですよ」

「そうか」


 俺は栄養ドリンクをまとめて10本購入すると、ブロウに手渡した。


「ああ、これはありがたい。とても効きますからね、これは」

「無理しすぎないようにな」

「それこそ無理ですね」


 苦笑しながら使節団と一緒に別室に移動する、ブロウの背中を、こちらも苦笑しながら見送った。

 申し訳無いという気持ちもあったが、流石に国家間の会話に首を突っ込むつもりは無いからな。任せたブロウ。


 その後、すぐにチェリナの両親が部屋に入ってきた。

 少し待っててもらったのだ。


「お久しぶりですわね、チェリナさん。アキラ様」

「二人とも元気そうでなりよりだ」

「お父様、お母様」

「お久しぶりですお二人とも」

「ほう、君が一緒に戻って来たという事は、いよいよチェリナをもらってくれる気になったのかね?」


 チェリナの父親、カルゴ・ヴェリエーロの冗談に、思わずチェリナと顔を見合わせてしまった。

 雰囲気の変化に気付いて、今度はカルゴが妻の魔女……フリエナ・ヴェリエーロへと顔を向けた。


「まったく。貴方は鈍い方ですね。二人がもうそういう関係なのは見ればわかるでは無いですか」

「なっ! なんと!?」

「それで、そちらの可愛らしいエルフさんも、新しい家族という事でしょうか?」

「なんじゃとー!?」


 落ち着いて状況を確認していくフリエナとは正反対に、珍しく慌てふためいているカルゴとパロスだった。

 ……ん?

 パロス兄ちゃん、いつからいた!?


「最初から一緒にいましたよ。それにしても驚きました」


 す、すまん、なんか二人の印象が強すぎて、完全に気がつかなかったぜ。

 どうやら三人一緒にやってきていたらしい。うん。ステルス兄ちゃん。


「ま、魔女……」


 こちらが何も説明していないのに、次々と状況を予測していくフリエナに、ラライラが微妙に顔を青くして俺にしがみついてきた。


「大丈夫だ。食べられたりはしない」

「ふふふ」

「フリエナさん。そこでそういう冗談はやめてください。怯えますから」

「ちょっとした冗談ですわ。それで、あちらの二人もお嫁さんなのかしら?」


 フリエナが視線をやった先にいたのは、褐色ロリドラゴンのファフと、たぶん商売神の神官にクラスチェンジしたユーティスだ。


「ククク。その通りなのじゃ」

「ちげーよ」

「滅相もありません! 私はただの旅のお供で、無理を言ってついてこさせていただいているだけです!」

「なるほど……理解いたしましたわ」

「なにをどう理解したのかは聞かないからな」

「ふふふふ……」


 ほんと、こういうところチェリナの上位バージョンだよな! まったく!


「あ、アキラさん。チェリナさんも大きくなったらお母様みたいになるのかな?」

「うーん……」


 なって欲しいような、なって欲しくないような……。

 非常に難しい事を聞かれてしまった。


「それにしても、すでにおめでただったとは……流石に気付きませんでしたわ」

「あー、わかりますか」

「チェリナさんの着ている服は、エルフ産の良い物ですね。パッと見ではお腹のラインの変化は気付きにくいでしょうけれど、これでも母親ですから」


 いや、母親関係無い。絶対あんただから気付いたんだろ。


「それで、もちろん責任は取っていただけるのでしょうね?」

「それなのですが、一つお願いがありまして」


 俺は左右に嫁を座らせると、正面の席にカルゴ、フリエナ、パロスと着席してもらった。

 ヤラライとルルイルは俺たちのソファーのすぐ後ろに立っている。


「まず、報告です。お二人の娘さん、チェリナを俺の妻といたしました。色々言いたいこともあるでしょうが、認めてもらえると嬉しいです」


 ペコリと、素直に頭を下げた。


「へぇ! 仲が良いとは思っていたけど、まさかチェリナが結婚とはね! 驚いたよ!」

「……パロスさん。チェリナさんの気持ちに気付いていなかったのですか」

「え? それってこの国にいた時からの話?」

「当たり前ではないですか」

「えええええ! 全然! 気付かなかったよ!」

「はあ……これだけの優良物件に、相手が出来ないわけですわよね」


 珍しく疲れたよう表情を見せる魔女フリエナ。

 どうやらパロスの嫁問題は難問らしい。


「ふーむ、そうか。うむ。まぁ君なら、そうだね、可愛いチェリナだが、致し方ないというか……」


 父親のカルゴはカルゴで、なんだか支離滅裂な感じだ。テッサを旅立つ時の威厳はどうしたおい。


「こちらの壊れた商船は無視して、お願いとはなんでしょう?」


 うわ、ダンナを壊れた商船扱いとか。いや、今気にするのはそこじゃ無いな。


「はい。実は、私はアキラ・ヴェリエーロを名乗らせていただきたいのです」


 もう名乗っちゃってるけどな!


「ぬ? それはウチに養子に来ると!?」

「おわっ! はっはい。可能であればですけれど……」

「よろしい! チェリナとの結婚を認める! 今日からアキラ君は我が息子である!」

「お、おお……いやありがとう、ございます?」


 カルゴの唐突な変化について行けない。


「ふふふふふ。あれですよ。チェリナを連れて行かれると思っていたのですよ。婿入りと言うことは、ヴェリエーロを継ぐ覚悟があると?」

「パロスさんの事情次第だとは思いますが——」

「もちろん! ボクは認めるよ! やあ! すばらしい弟が出来たな! ……いや、年齢を考えると、ボクが兄さんと読んだ方が良いかもしれないね!」

「よ、よろしいのですか?」

「一つだけ条件があるけどね。これを飲んでもらえないなら、結婚には反対させてもらうよ」


 にこやかに言い放つが、どこか本気のオーラを感じる。


「な、なんでしょう?」

「ボクを船に乗せてくれ!」

「今までと変わらないではないですか」


 チェリナが呆れていた。


「そう! 変わらず船に! あー、出来ればもうちょっと予算を回してもらって新造船とかあると嬉しいけど」

「はは……わかりました。努力します」

「決まりだ! それじゃあさっそく式の準備を!」


 珍しく興奮しているパロスの兄貴。


「ああ、それなのですが、実はエルフの国で、すでに大々的な式を挙げさせていただきまして」

「なんと! そうか、そちらのエルフさんと一緒にということか」

「貴方、そろそろお互い自己紹介を初めては?」

「そうだったね。まずは可愛らしい、私の新しい娘の名からおたずねしても?」

「はい! 私はラライラ! ラライラ・ヴェリエーロと申します!」


 こうして、ヤラライ、ルルイラと挨拶を交わし、その夜はお披露目を兼ねた宴会となった。

 宴に招待された色黒細マッチョイケメンの漁業ギルド長マイル・バッハールに激しく肘打ちを食らった。

 ああ、チェリナに惚れてたんだったな。前はお似合いとか思ってたが、もう渡す気は無いぞ。


 他にもレッテル伯爵なども招待され、無礼講のらんちき騒ぎが朝まで続いた。

 途中バッハールが、俺を潰そうと酒を持ってきまくったが、逆にバッハールの方が潰れてしまった。

 なんだ、海男のくせに弱いな。


「お……お前が……異常だ……がく」

「ふん。ワシと飲み明かせる人間と勝負するなど阿呆な事よ」

「よしハッグ、飲むか」

「おうよ!」

「はー。ボクも見た目よりは飲むってよく言われるけど、アキラ兄さんは本当に人間なのかい?」

「さあ? その辺はあまり自信がありませんね」

「お兄ちゃんって女たらしだったんだね。知ってたけど」

「そうですね」

「チェリナさん……」

「だったら私もお妾さんくらいになれないかなぁ? ちらちら」

「あはは……」


 なんか部屋の隅から悪口っぽいものが聞こえた気もするが、深く考えない事にした。

 こうして、荒野の国の一日目は過ぎていったのだ。


 神さまよ、俺はこの世界に来られて、満足してるぜ。



ちらっちらっ

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