第25話「自由人と闇夜の咆哮」
時は既に夕方。
森の小道はヘッドライトで照らしてもなお闇が深い。
それでも俺は限界までアクセルを踏み込んでいた。
「ヤラライ! 道なりで良いのか!?」
「問題! 無い!」
既にキャンピングカーの天井で、完全武装しているヤラライ。もちろんハッグもいつでも飛び出せる状態だ。
途中で立ち寄った2つの村も、同じ様に全滅していた。
どう考えても狙われている。
本来であれば街灯一つ無い森の中を進むのは危険な時間帯だった。
だが、とてものんびりキャンプする気にはなれなかった。
実際次の村まではあと少しらしい。
その時だった。
小道の脇から太い枝をへし折りながら、見上げるような巨体が姿を現したのだ。
「なんじゃぁ!? あれは!」
「ククク……」
「おいおいおい」
俺はその姿に見覚えがあった。いや、本やゲームで見た事があると言うべきだろう。
「スピノ……サウルスだと?」
背中に大きな背びれのあり、顔は長く痩せたワニ顔。そして二足歩行の巨大爬虫類。
それは、恐竜。スピノサウルスだった。
「知っとるのか!?」
「アキラ! 進め!」
天井から鈍い発砲音。なぜかヤラライの銃にはサプレッサー……消音装置が標準装備だった。
それでも無音とはほど遠い膨張した空気音が炸裂する。
「グギャアアアアアアアア!!!」
見事に目を狙撃されたスピノサウルスが、悲鳴を上げて暴れ回る。
危険なダンスの足下を右に左にとハンドルを切り、ギリギリで走り抜ける。
「またかい!」
「今度はティラノサウルスだと!?」
最も有名な凶悪恐竜の代表1位。ちょい頭のでかい二足歩行の爬虫類野郎だ!
「どうなってんだ!?」
「進め!」
再びヤラライのスナイプが、ティラノサウルスのつぶらな瞳を撃ち抜いた。
「ゲギャアアアアアアアアア!!!」
再び荒れ狂う巨神の足下を踊るように駆け抜ける。
それから一分も走らないうちに、道の反対側から走り逃げてくるエルフの集団を見つけた。
「なんだ!? 馬車!?」
「俺だ! ヤラライだ!」
「なんだって!?」
「こっちはダメだ! 戻れ!」
「村が襲われてるんだ!」
「こっちも……くそ! 来た!」
急停止したキャンピングカーに向かって、荒れ狂うように迫り来る二体の恐竜。
まるでビルか山が襲いかかってくるようだった。
「ククク……どうするのじゃ?」
「ハッグ! やるぞ!」
「おうよ! 腕が鳴るわい!」
「俺も……!」
「ヤラライはそいつらと村に向かえ! すぐに追いつく!」
「……了解! 行くぞ!」
「しかし……」
「俺が必ず助ける! この道は待ち伏せされている! 森の中から襲われたら防ぎ切れん!」
「わ、わかった」
エルフの女性たちを先導していた戦士が、ヤラライの勢いに負けたのか、大きく頷いた。
それよりも、猛狂い涎をまき散らしてやって来る爬虫類野郎だ!
「アキラ! 右をやれい!」
「一対一か!?」
「お主ならやれるわい! ……ワシは鉄槌! 全てを打ち砕く鉄槌! 立ちはだかる全てを叩いて砕く! ワシは鉄槌!!」
ど派手にハッグの身体が輝いた。
全力の波動だ。久々に見るぜ。
俺も螺旋竜槍グングニールを取り出し構えた。
全力で行くぜ!
「巻き上がれ! 俺の螺旋!」
……あとあと冷静になって考えるとなんて恥ずかしい事を叫んでいたのかと、頭を抱えて悶えたくなるようなセリフを、この時思いっきり叫んでいた。
だが、自然に出た言葉だったからか、精神と波動が結びついたからか、俺の手足も発光現象を起こし、初めて全力全開でグングニールを振るうことになった。
「どうりゃああああああああ!」
ハッグがティラノサウルスの顎を避けて、足下に潜り込むと、片足を鉄槌でへし折った。
「殺ったぞおおおおおおおおお!」
地面を揺らして倒れ込んだティラノサウルスの頭部に、渾身の一撃を加える。だがそれだけでは死に至らず、激しく咆哮を上げた。
「しぶといわぁ! 往生せいやああああああああああ!!!」
再び、波動全開の鉄槌が振り下ろされると、ティラノサウルスは激しく痙攣した後、その動きを止めた。
流石ハッグだった。
俺は……。
顔を低くして、地面すれすれにせまってくるスピノサウルスの額に、全力の螺旋波動をつぎ込んだドリルを突き入れる。
巨大化したドリルは高速回転しながら、スピノサウルスの頭から胴体までを、木っ端微塵に吹き飛ばした。
さすが俺のドリルだぜ。
「一撃の破壊力だけならば、ワシを超えたのぅ」
「ハッグが作ってくれた武器のおかげさ」
「ふん。それが言えるなら問題なかろ」
「しかし、まさか恐竜が出てくるとはな」
ドラゴンはドラゴンでも、ちとジャンルが違くないか?
「ヌシよ。この生き物を知っておるのか?」
「ファフ? 少しは手伝えよ」
「瞬殺ではないか。ククク……それより、ヌシの世界にはこんな生き物がおったんか?」
「大昔にいたらしい。化石ってわかるか? 古い骨とかから、再現した姿があんな感じでよ」
「ふむ……」
ファフが珍しく考え込んでいた。
「とにかく今はヤラライを追うぞ!」
「うむ!」
ハッグと二人で車に飛び乗ると、音も無くファフも着席していた。
クソッ。強いんだから手伝えよ!
だが、心のどこかで、俺はファフの参戦を望んでいなかった。上手く言えないのだが、頼ってはいけない力のような気がするのだ。
「行くぞ!」
頭を振ってよそ事を追い払い、アクセルを踏み込んだ。
そして村が見える開けた場所まで飛び出して、絶句してしまった。
「なん……じゃと?」
「おいおいおい……」
「ククク」
小さなエルフの村。周りには小さな畑が作られていたので、少し開けている。
そしてその開けたスペースに……。
「何十匹いるんだよ……」
「ククク。28匹じゃな」
即答するファフ。
28匹?
この……恐竜軍団が!?
村の中からは大量の矢が射かけられ、柵で足を止めている恐竜に降り注ぐが、大したダメージも与えられていない。
時々、炎の塊や、氷の柱が飛び出して、ようやく怪我を負わせているレベルだ。
ラライラやグーグロウの精霊理術に比べると貧弱すぎる。
だが、村の一角。
「こっちだ! この建物に逃げ込め!」
村で一番大きく丈夫と思われる木製の建物に、エルフたちが逃げ込んでいた。
その屋根の上には。
「ヤラライ! あそこだ!」
「うむ!」
ヤラライはその手にした、ドラグノフSVDヤラライスペシャルで、恐竜どもを近づけていなかった。
体制を立て直したエルフの戦士も、弓で理術で応戦し、そこを最終防衛拠点としたようだ。
「よし! 守りはヤラライに任せて、俺たちはトカゲ野郎を狩るぞ!」
「おうよ! アキラ! 別々に動くが、離れてはいかんぞ! お互いをフォローしあうんじゃ!」
「了解! どいつを殺るか指示をくれ!」
「良い判断じゃ! まずは柵の薄い村の入り口周辺を一掃するぞい!」
「了解だ!」
二人して輝く大剣と化し、暴風となって謎の恐竜どもをなぎ倒していった。
押し寄せるティラノサウルス、スピノサウルス、さらにアロサウルスにヘレラサウルスまでいやがった!
動きの速いヘレラサウルスの方が、デカいだけのでくの坊よりよっぽど厄介だったぜ!
とりあえず、全部が肉食恐竜って事だけ理解してくれれば良い。
20匹くらい片付けたら、突然残りが逃げ始めた。
しかも、同じ方向に。
どうする?
追うか?
見れば怪我をして倒れているエルフもいる。
救出が先か!
「アキラ! 追うぞ!」
「ヤラライいつの間に! だが怪我人は……」
「それはここの戦士に任せろ! 今追わなければ見失うぞ!」
「確かに……よし! 車に乗れ!」
「おう!」
「了解!」
キャンピングカーがタイヤを鳴らして急発進する。
逃げる巨体を追いかけて。
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