第23話「自由人と家族の形」
「アキラく~ん。うちのラライラちゃんをよろしくねぇ~」
「あ、ああ。いや、はい」
まったりとした笑みで俺の両手を握ってきた母親のルルイル。
どうも心から嬉しいようなのだが、基本恐ろしくまったりしているので、なんかこっちのテンポが狂う人だった。
「チェリナさんもよろしくねぇ~」
「はい。三人で仲良くする事をお約束しますね」
「うんうん~。じゃあ今日からチェリナちゃんもお母さんの娘よねぇ~」
「そう言って頂けると、嬉しいですわ……わぷっ!?」
「もぉん! じゃあお腹の赤ちゃんは私の娘じゃないの~! や~ん!」
「ちょ! お母様! 苦しっ!」
なんで娘って決めつけてんだよ。
「ラライラ。エルフは子供の性別がわかったりするのか?」
「違うよ。お母さんいつも適当だから……」
「ああ……」
いるよな。何でも決めつけて行動するタイプ。
まぁ問題無い……よな?
周りのエルフたちはそんな性格をよく理解しているのか、特に何かを言うまでも無く、お祝いムードのバカ騒ぎモードに突入していた。
「なんだ? 何かあったのか?」
やって来たのは、今まで村を見廻りしていただろう、エルフの戦士たちだった。
「グーグロウ団長、交代の時間なんだが」
「ああすまない! もうそんな時間だったか!」
「少しくらいならかまわんですが、何かあったんですか?」
「ああ、詳しい話は他の者に聞いて欲しいが、客人がおめでたで、ラライラの結婚がきまったのだ!」
「ええ!? 相手はザザーザンですか?」
「うっぐ!」
「……違うっぽいな。じゃあ?」
「客人の商人アキラだ」
「へえ? ザザーザンに勝てる戦士ならさもあらんか」
「う……」
「なんでグーグロウ団長が凹んでるんです?」
「さっき団長もアキラにやられたんだよ」
「はぁ!? 冗談ですよね!?」
「いや……悔しいが完敗だ。おっと、交代してやらんとな。あとは任せるぞ。行くぞザザーザン!」
「はい」
「いやー。しかしおめでたかぁ! だからまた宴の仕度をしてるのか」
「本格的なのは後日と言ってあるんだがな」
「こんだけめでたい事が重なったら聞きゃせんでしょ。俺も相伴に……」
「お前は明日のために早く寝ろ!」
「そんな殺生な……」
「獣騒ぎを終わらせてからゆっくりな!」
「わかりましたよ。はぁ……あ、この乾し肉もらっていいか?」
「まったく……ほどほどにな」
「へーい。ところで」
「なんだ?」
「その格好で見廻りに行くんですか?」
「ん?」
交代要員として集まっていたエルフたち。全員黒スーツだった。
うん。ダメだろ。
人間相手なら、むしろ威圧感があって良いかもしれんがな。
「すぐに着替えてくる」
「商人さんと同じデザインか……俺の分もあるかな?」
「全員分あるらしいぞ。それでは改めて行ってくる」
エルフにも色んなヤツがいるなぁ。
「それにしても……」
「ん?」
チェリナがクスリと笑った。
「みなさま、すっかり私たちがここで式を挙げる前提になってますね」
「「「あ」」」
ピタリと動きを止めたのは、慌ただしく動き回っていたエルフたちだった。
「そ、そいや、なんかつい俺たちの習慣で……」
「そうだよ。人族なんだから、人族の習慣だってあるだろう」
「しまった。お祝いは別にしても……」
俺はチェリナと顔を見合わせて、思わず吹き出してしまった。
ちなみにラライラはいまだ感涙しながら呆けていた。
「ふふふ。折角ですから、こちらで式も挙げてしまいましょうか。エルフに祝って頂いたとあれば、自慢の種になりますしね」
「ああ。どうせしばらくは滞在することになりそうだからな」
「おそらく2ヶ月ほどはお世話にならなければならないかもしれませんね」
「チェリナちゃん~。もっとも~といて良いのよ? 生まれるまでいましょう?」
「それは……まだちょっと決めかねますね」
「お母さん、孫が見たいわ~」
「ふふふ。時間はありますから、ゆっくり決めていきましょう」
「うんうん~。ずーーーーーといても良いんだからね?」
「感謝いたしますわ」
ルルイルがむぎゅーっとチェリナに抱きついていた。
「式……結婚式か」
「実感が湧きませんか?」
「ああ。流石に隠せないか」
「隠す気もないでしょう?」
「まぁな。なんていうか……現実感が無い」
「一般人ですと、ちゃんとした式を挙げる方は少ないですし、商人などであれば、逆に大々的にやったりしますね」
そういや、世界観も違うんだった。
「エルフは……問答無用で大騒ぎするみたいだな」
「そのようですわね」
「ラライラ、そろそろ復活できそうか?」
「ふぇ!? あ! あの! ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
がばりと頭を下げる姿に、申し訳無いが苦笑してしまった。
「ああ、よろしくな。それで、エルフは挙式をするのが普通なのか?」
「え? ああうん。だいたいお祭りになっちゃうよ」
「ま、そうだろうな」
式は先だってのに、祭り気分半端ないからな。
「えっと、迷惑かな?」
「いや、折角だから甘えさせてもらおうと思ってるんだが、ラライラはそれでいいか?」
「うん! 凄く嬉しいよ! ああ……なんか夢見てるみたい……ふわふわするよ」
本当にどっか飛んで行っちまいそうだな。手を握っとくか。
おっと、今度は茹で蛸になっちまった。こっちも照れるからやめてくれ。
ヤラライは壁に背を預けて、わずかに微笑んでいた。
「ククク。ワレも結婚してやろう」
「ノーサンキュー」
「愛人でもええのじゃぞ?」
「ノーサンキュー」
「ふむ。素直に情婦と――」
「お前とは何もせんっつーの」
「ククク……。照れ屋じゃのう」
まったくファフの冗談はめんどくせぇな。
「さて、これからのことを考えていかないと何だが……」
一旦無視していた神の声、SHOPの事を思い出す。
軽く目を瞑り、いつものリストを……と思ったら、大変な事になっていた。
「なんだこりゃ」
思わず声が漏れるほどの驚きだった。
事情を知らない人間も多いので、周りに説明は出来ないのだが。
いつも無機質にリスト化されていた、一部現代日本の品物が表示されていたSHOPが、カラフルな、大型WEBショッピングサイトの様相を呈していたのだ。
そりゃあ驚く。
生前たまに使っていた大手ショッピングのWEBサイトに酷似した画像が表示されるのだ。
しかもかなり細かくジャンル分けされているようで、キッチン用品やらインテリアやらオモチャやら家電やら食品やら。
それだけでなく、自動車なんてカテゴリもあって、新車から中古の車がずらりと並んでいたのだ。
さらにGUNコーナーなんてのもあり、銃器まで揃っていた。
異世界なんてコーナーがあり、そこを開くと今までにこの世界でSHOPに登録された商品が並んでいた。
おいおいおい。なんだこりゃ?
「アキラ様、どうかしましたか?」
「あーいや。後で話す」
「わかりました」
それだけで、能力に関係することだろうと察したのだろう。それ以上問い詰めてくることは無かった。
やっぱ頭良いよこいつ。
アンリミテッドモード……なるほど、無制限モードね。
一体全体うちの神さまは何を考えてるんだろうね?
しかし、本当に謎な能力だぜ。
これは神格ってヤツが上がりきったと考えて良いんだろうか?
まぁいい。
今まであまり能力に頼る気は無かったが、これから、俺の大事な者を守る為なら、何だって利用してやるさ。誰かさんの思惑通りになるかもしれんがな。ふん。
俺の……俺の家族に手を出すヤツがいたら容赦しねぇ。
そんな内心の決意に呼応するかのように、悲鳴のような声と共にエルフの戦士が村に走り込んできた。
「村が……南の村がいくつか全滅してる!」
お祭りムードが吹っ飛び、俺たちは凍り付いた。
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