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第20話「自由人と露天風呂」


 そこは、桃源郷と呼んでも良いような、絶景の露天風呂だった。

 高低差のある崖の端に、石を並べて造られたそこは、背後に世界樹、正面にエルフの森を望む、最高のスポットにあった。

 気がつかなかったが、この集落は世界樹を中心に、少し標高があるようだったのだ。車移動だったので気付かなかった。


 その、風光明媚な情緒溢れる温泉にこだまする笑い声。


「がはははははははははは! これは凄い! 我が輩感激であるぞ!!」

「温泉、久し、ぶり」

「ワシも風呂は久々じゃな。キャンピングカーのおかげでシャワーには困らんかったがな!」

「あの馬無し馬車にはそんなものまでついてるのか?」

「ヤラライさん、お酒飲みますか?」

「もらおう」

「なんじゃ、酒ならワシにもよこさんかザザーザン!」

「はいはい。用意してますよ」


 スポーンのおっさん、ヤラライ、ハッグ、グーグロウ、ザザーザン。

 ……なぜだろう、風呂に来てるのだから、これで正しいはずなのに、何か納得いかない。

 筋肉量のせいだろうか?


「なんじゃアキラ、ぼーっとして。景色に見とれたか? 湯船からでも充分堪能できるぞ?」

「いや、何でもない。身体洗ったら入るよ」


 日本にいるときの癖で、湯船に浸かる前に身体を洗う。公衆浴場のマナーなんだが、直接湯船に入ってもエルフ達は気にしていないようだった。

 文化の違いか。


 どうでもいいがお前ら、全裸で腰に手を当てて仁王立するんじゃないよ、暑苦しい。

 洗い終わって湯船に浸かる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁ……」


 溶ける……、久しぶりの湯船……最高だろ。

 しかもエルフの森を一望できる露天風呂……。仰げば巨大な世界樹の枝が伸びている。

 桃源郷かここは。


 大量の湯が沸いているらしく、崖側に大量の湯が落ちて、小さな滝になっていた。

 これであとは……。


「がはははははははははは!」


 静かだったらこの上ないんだがな。


「ちったー静かに入れやおっさん」

「がはははは! あまりに気分が良くてな! 我が輩も一杯もらおうか!」

「どうぞ」


 なんかしらんがザザーザンが皆の面倒をみていた。

 苦労性なのか貧乏性なのか。

 あと、ナチュラルに俺を無視するのやめてください。酒ください。


 どうにか酒を確保して、お盆を浮かべて森見酒。

 ハッグは風景そっちのけで飲み始めやがった。


「アキラも付き合えぃ!」

「お前な、エルフの奢りだからって飲み過ぎだろ。遠慮しろよ」

「その分働いてやっておるわ! ここの連中、あまり貨幣を使わんからの」

「使っていないわけでは無いですよ。ただやはり、森の中では昔ながらの物々交換が主流ですが」

「エルフ独自の通貨とかないのか?」

「え? そんなの考えた事もありませんでした。なるほどわざわざヒューマンの通貨を獲得してこなくても言い訳ですか。やはり商人の考えることは違いますね」

「造るとなると、また問題も多いからなぁ。現状で問題がないなら、それで良いと思うぞ」

「なるほど」


 ザザーザンが腕を組んで頷いた。


「それにしても良い風呂だな。もうここに住みたいほどだぜ」

「それはどういう……」


 ザザーザンの目が細く絞られた時だった。

 脱衣所になっている、掘っ建て小屋からのんきな声が聞こえてきた。


「ちょっ! 母さん! ほんとダメだよ!」

「え~? お風呂はみんなで入るものじゃない~。忘れちゃったの~?」

「ぼ! ボクは人族で暮らしてた時間が長かったから……!」

「わ! わたくしもこのような格好では! そもそも男女が一緒だと知っていたら……!」

「お風呂は裸で入るものよ~」

「でしたらわたくしは入らなくても!」

「ラライラちゃんのお友だちと一緒に入りたいわぁ~」

「ああああ! 引っ張らないで! タオルが! タオルが!」

「外で裸なら恥ずかしいだろうけど、エルフが風呂で恥ずかしがるのは変じゃないか! さあ行くよラライラ!」

「おばさん待って! 引っ張らないでえええええ!」


 筋肉風呂に突如現れた美女軍団。

(約一名、エルフとは思えないふくよかな方がいらっしゃったが、気にしない)


 あっけらかんと肢体を晒しながら、チェリナが身体に巻いたタオルを引っ張りながらぽわぽわとやって来たのはラライラの母親であるルルイルだ。


「待ってくださいまし! ああああ! そこ引っ張られると……!」

「え~い」


 湯船の横まで引きずり出されたチェリナだったが、哀れタオルを取り上げられて、その肢体を晒すことになった。


「ああああああああ~……」


 思わず両腕で身体を隠し前屈みになるチェリナ。

 ザザーザンがチラ見したが、興味なさげに視線を逸らした。

 なんだろう。ぶん殴ってやりたくなった。


「チェリナ。湯船に入っちまえ。白濁のお湯だから隠せるぞ」

「え? あああはい!」


 慌てて俺の横に飛び込んで、顎まで身体を沈めた。

 ルルイルがゆったりとヤラライの隣に入ってきたが、特に気にするヤツはいなかった。

 どうやらエルフにとって風呂場の裸は普通の事らしい。

 俺は……内心ちょっと恥ずかしいが、そこは日本人。風呂は別世界なのだ。


「おばさん! 待って! 押さないでぇえええ!」

「ははは! 久しぶりなんだから全員で入るんだよ! ほら!」

「あああああああ!」


 今度はラライラがおばちゃんに押されてやって来た。

 うん。こっちは見ない方が良いだろう。俺がそっと視線を逸らすとちょうどザザーザンが目に入った。

 チェリナの時とは違い、若干そわそわしていた。あとで訓練を申し込んでやろう。うん。


「ほらほら! ラライラはそこだよ!」


 おばちゃんエルフに無理矢理俺の隣に追いやられたラライラ。

 耳まで顔を真っ赤にして、チェリナと同じ様に顎まで湯に沈むラライラ。


「っ!」


 おいザザーザン。俺を睨むんじゃないよ。


「あれ~?」


 不意にルルイルがのんびりと娘の顔をうかがった。


「もしかしてラライラちゃん発情期になったの~」

「はつっ! 母さんは黙ってて!」

「え~」


 自分の娘に向かって発情期って……。


「商人アキラ、エルフの習性を知らんのか?」

「ああ」

「エルフになかなか子が増えないというのは知っているか?」

「それは聞いたな」

「人族と違ってエルフはあまり子作りをしない。大きな理由として、発情期がなかなか訪れないからだ」


 そういや万年発情期なのは人間くらいらしいな。だからこそあんだけ増えたんだろうが。


「特にエルフの発情期は、相手を心底好きにならんと訪れないという厄介な性質でな。お互いがそうなる事が少ない」

「ああ、なるほど」


 一方通行の恋があっても、相手も同じ状態じゃないと、子作りが成り立たない訳か。


「恐らく、人族のイメージする発情期という言葉と、我々エルフのイメージする言葉の意味は大きく違うと思うぞ。我らにとってそれは恥ずかしい事などなにもない。歓迎すべき自然現象だ」


 丁寧に説明してくれるのは嬉しいが、それを俺に伝えてどうしろというのだ。


「ううう……ボクはヒューマン世界が長いから……」


 恥ずかしそうに湯船にぶくぶくと沈んでいくラライラ。


「安心しろ、俺の故郷も風呂は裸で入る文化だったから、ここじゃ何も思わないぞ」

「それはそれで……」


 少なくとも、何も思わないようにしてるからな。


「うふふ~」

「ご機嫌、だな」

「だって~」

「そう、だな」


 心なしか嬉しそうに、お互いの杯に酒を注ぎ合うヤラライとルルイル。

 ああ。

 なんか良いな。


 俺も両手に花を意識しないように、くいっと酒をあおった。


「ククク! これは絶景じゃの!」

「あの、本当に全員で入るんですか?」


 崖っぷちに全裸で仁王立ちしてるのは、もちろんファフだ。馬鹿じゃねーの?

 おずおずとタオルで身体を隠して入ってきたのは、他の女エルフに連れられたユーティスだった。

 あと、エルフの男たち。


 広い露天風呂に大量の美男美女が集まっていた。


「ああ。いい湯だぜ」


 俺はタオルを頭の上に載せた。

 ここは最果て、桃源郷。

 本当にここに住んじゃおうかな。


 俺はゆっくりと湯船に沈んでいった。



神さまSHOPの③巻ですが、発売日が変更になりました。

4月17日となります。

ご迷惑おかけします。


コミカライズの方はちゃんと進行しております!

続報待て!

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