閑話「赤褐色はビターの香り」
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「あれ? ここ、カカオの実か?」
「あら、よく知ってるね。発酵させてから、干したもんだよ。健康に良いからね! 砕いて料理の隠し味にするんだよ!」
周りの女子大生体型のエルフと比べると、大幅に貫禄たっぷりのお腹を持つ、おっかさんエルフが俺の肩を叩いてきた。
「カカオか……」
「一度炒ってね、石臼で根気よく磨り潰すんだよ。そっちが粉末で、そっちがその時出てきた油だね!」
「ほうほう」
ココアマスとココアバターが揃ってるのか……。
俺はちょっとした悪戯心で、デザートを作ってみようと決意した。
幸いエルフの里には、砂糖なども豊富に揃っている。
「よし、ちょっとやってみるか。材料をもらってもいいか?」
「ああ、もちろんだよ」
おっかさんエルフに手伝ってもらいながら、ココアマスとたっぷりのココアバターを必死で混ぜていく。
「折角分けたのに、一緒にしちゃうんだねぇ」
「そうだな」
滑らかになったところで、砂糖をたっぷり。
その辺りで、チェリナやラライラ。その母親のルルイルも集まってきた。
「わっ! 凄いたっぷり入れるんだね! でも薬を作ってるの?」
「俺の故郷だと、昔は確かに薬として流通していたらしいが、今は嗜好品として出回ってるな」
「ふーん。珈琲みたいな感じかな?」
「言われてみると、似たような歴史だな」
幸いおっかさんの手際が良く、状態の良いペーストが出来たので、それを木枠に入れていく。
折角だからと、その辺にあったアーモンドっぽいナッツ類を混ぜたものも作ってみた。
「さて、キャンピングカーの冷蔵庫で冷やすか」
「冷やす?」
「ああ、一度冷やして固めるんだ」
「それなら氷室を使う良いよ」
「そんなものがあるのか」
遠慮無く氷室を借りた。
固まるのを待っている間に、若手エルフと模擬戦をするハメになったり、退屈はしなかった。クソ。
「さて、どうだ?」
脱脂ミルク系を加えていないが、おっかさんエルフが経験で分量を調節してくれたからな。
俺一人だと、比率が怪しかったので助かった。
「うん。ちょいビターで美味いな。ラライラ、チェリナも食べてみてくれ」
「はい」
「うん!」
黒い物体におっかなびっくり囓るチェリナと、大きな塊を口に放り込むラライラ。
なんか性格がでるな。
「んっ……これは!」
「! 凄い! これ! 美味しい!」
途端に残っていたチョコに手を伸ばす二人。
「甘くて苦くてとろけて! こんなの初めて食べたよ!」
「これは未知の味です。ただ甘い訳でも、ただ苦いだけでも無く……不思議と後をひきますね」
「あたしにも食べさせておくれよ! んん! これは凄いね! 口の中で美味さがとろけ出すよ!」
「なんじゃなんじゃ。美味いもんならワシにも喰わせんかい!」
ハッグやヤラライ、ザザーザンにグーグロウもやってきた。
全員が小さい欠片を口に含む。
「ふむ……ワシにはちと甘いな。ワシは酒の方がええ」
「美味しいですねこれ。商品ですか?」
「いや、材料が揃ってたんで作った。脱脂ミルクとかあれば、マイルドになったんだがな」
「よくわかりませんが、私は好きですよ」
運動後のエネルギー補給にも最適だぞ、とは言わなかった。
ザザーザンのプライドを傷つけそうだ。
「これ、元気に、なりそう」
「そりゃあカカオたっぷりだからね」
「あれは薬だろう?」
「食べ過ぎない方がいいかもしれないね」
「ああ! もう一口! もう一欠片お願いします!」
チェリナ……。
「あああ! ボクも! ボクももうちょっとだけ!」
ラライラ、お前もか。
「がははははは! 美味いが我が輩も酒が良い! ハッグよ、一緒に飲もうぞ!」
「それはいいが、お主限界じゃろ」
「こんな美味い酒、無理してでも飲まずにおられるかよ!」
「それは同感じゃな」
みるみるエルフたちに消費されて消え去った。
「はあ……美味しかった。アキラさん、これは何て言う料理なの?」
「ん? チョコレートだ」
「チョコレート。うん美味しかったよ!」
「それは良かった」
「商会で作ってみたいですが、カカオというのが手に入りませんね。仮に手に入っても、かなりの高級品になりそうですわ」
「元々は高級なものだからな」
今は流通が発達しているから、おやつ感覚だが。
もちろん日本の話だ。
「作り方は覚えたから、またつくって上げるよ!」
「おばさん、ボクにも教えて!」
「あの、良ければ私にも……」
いつの間にか試食会に参加していたユーティスが、ちょっと頬を染めつつお願いしていた。
恥ずかしがる事では無いだろう。
「なるほど、贈答用であれば、貴族などに売れそうですね」
「贈り物か……そういや女子が好きな男子にチョコを渡すなんてイベントもあったな。俺には無縁だったが」
まったく無い訳では無いが、付随するエピソードを思い出すと泣きそうになる。
アレも、二度と女なんて信じないと思った出来事だったなぁ。
遠く苦い……というか苦しい記憶を思い出したが、不思議と今までほど胸くそが悪くならなかった。
「チョコレートを、贈るのですか? 女性から?」
「人はあまり女性から何か贈らないよね」
「そうですね。一般的には男性からが普通です」
「元になるエピソードはあるみたいだが、そのイベント自体、チョコレートを売るための戦略だったみたいだな」
詳しくはしらんが。
「なるほど……」
「ふぅん」
何か考え込んでいる二人。
「まあいいや。楽しんでもらえたならいいんだ。エルフの皆さんには世話になってるからな」
「あはは! 義理堅い戦士さんだねぇ!」
「そこは行商人と言ってくれよ」
「ザザーザンに勝てる行商人とか、笑いしか出ないよ!」
「うぐ」
すまん、ザザーザン。
「さて、料理はまだまだあるよ!」
「「「おー!」」」
そんな感じで祭りの夜は更けていった。
◆
その後、色々とあったのだが、一旦割愛する。
数日後の事だ。
しばらく居座ることになったエルフの里の夕飯後、チェリナとラライラが揃って現れた。
あんな事があったばかりなので、妙に照れる。
(詳細は、本編をお待ちください!)
「あの、アキラ様」
「アキラさん」
妙に緊張した様子の二人。
「お、おう、どうした?」
色々決意した後なんだが、なんなんだろうなこの緊張感は。
(詳細は、本編をお待ちください!!)
「じ……実は……」
「うん……その……」
もじもじと顔を赤らめる二人。
やめてくれ。こっちまで落ち着かなくなる!
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「今日、これを作りまして……」
「う、うん。おばさんに聞いて、頑張ってみたんだ」
二人が差し出して来たのは、赤褐色に輝くチョコレートだった。
「これは」
「ほら、アキラさん言ってたでしょ? 女性が、す、好きな男性に贈ることがあるって」
「お、おう」
耳の先まで真っ赤にしている美少女エルフ。
彼女の反応はエルフとしてはかなり珍しい。
(詳細は、本編をお待ちください!!!!)
「その……私も軽い運動がてら……」
「お、おう」
その美しい紅い髪と紅い瞳に負けないほど頬を赤らめて、チョコを差し出すチェリナ。
やめて、俺の心臓爆発しちゃう。
って、違うな。
うん。違うんだ。
「ありがとう二人とも。その、すげぇ嬉しい」
「うん!」
「は、はい」
やっぱりどこかギクシャクしてしまうが……きっとあの日から、考えていてくれたのだろう。
(詳細は、本編をお待ちください!!!!! 爆発しろ!)
「食べて良いか?」
「もちろんです」
「うん!」
俺は、小さなハート型のチョコレートを口の中に、二つ同時に放り込んだ。
それは、苦くて、甘い。
その味は、きっと……。
二人の満面の笑みに、さらなる決意を新たにする夜だった。
爆ぜろ\(^o^)/




