第17話「自由人と真の強さ」
ザザーザンが、ヤラライの発した開始の合図と同時に、精霊理術を発動した。
暴風が、刃となって俺の周りで猛狂う。
だが。
「ん?」
確かに、その精霊理術は強力な物だ。
暴風が生み出す真空が、鎌鼬のごとく、獲物を切り刻むのだ。
しかし、俺はこれを知っている。
螺旋の波動を纏い、その場で回し後ろ蹴りを放つと、暴風が蹴りの風圧に負けて拡散していった。
「「「「なっ!?」」」」
驚いたのはザザーザンだけでは無い。エルフの戦士たち全員が目を剥いてその光景に驚愕したのだ。
こんなのは、ラライラとの模擬戦で何度もお目にかかってる。
しかも威力は彼女の方がはるかに上だ。
最近、ラライラとの模擬戦では、螺旋竜槍グングニールの使用を禁止されてるからな。自然にトルネードマーシャルアーツ(わらい・わらえない)の出番が増えてるんだよ。
「どんな手品を!」
ザザーザンはいつ装備したのか、弓矢をつがえていた。
「精霊よ! 天焦がし燃え上がる炎の精霊よ! 我が作りし、魂の鏃に宿り、敵を燃やし尽くせ!」
灼熱の炎を纏った神速の矢が同時に3本せまってきた。
どうやって、同時に放った!?
だが、驚きとは別に、飛んでくるのは所詮ただの弓矢だ。波動を纏った腕で軽く迎撃してやる。
炎も大した問題にはならない。
ハッグに聞いたのだが、ドワーフは熱した鉄を掴むために波動を身に纏うのだと。つまり、このくらいの炎は大したことも無し。
弓矢としての速度は神速だが、ヤラライやハッグの動きに慣れてるからな。これなら箸でも掴めそうだわ。
「なん……だと?」
こぼしたのはグーグロウ団長のようだが、気にしてる余裕は無い。……あるか?
200mの距離を、一気に詰める。
俺の背後に、土煙が螺旋状に巻き上がった。
「「「速い!!!」」」
ギャラリーうるさいぞ。
だいたいこんくらい、ヤラライなら軽いだろうに。
「くっ!」
ザザーザンが慌てて腰の剣を抜く。てっきりレイピアかと思ったが、妙に薄刃の片刃剣だった。
強度の無さそうな剣だなぁ。
しかし、マジで真剣使うのかよ。
「喰らいなさい! 変幻自在、幻惑のイリュージョンダン――」
最後、ダンスって言おうとしていたのかね?
なるほど、よくしなる金属らしく、まるで硬質ゴムのようにブレていたが、それだけだった。
波動を乗せたコークスリューを刃の横にたたみ込むと、あっさりと折れた。
「ばっ!?」
ラライラだったら、これくらい接近すると、精霊魔法より詠唱の速い空想理術で距離を取ろうとするのだが、エルフの大半は空想理術を使えないらしい。
「くぉぉおおお!」
どうしたら、この勝負を終わらせられるのかと、一瞬だが考え込んでしまったのが、その隙を生んでしまった。
ザザーザンがどこからか、黒い棒付きあめ玉を取り出した。
……あ、空理具じゃねーか。
「光剣!!!!!」
二人の間に生まれた光の剣が、俺の顔面を貫こうとした。
殺る気満々じゃねーか!
光剣を躱しながら、念の為、掌底で光剣を砕いておく。方向転換して背後から急襲とかされたら面倒だからな。
「「「「!?!?」」」」
ぽんと、青年エルフの頭の上に手を置いた。ラライラが相手だったらここで終了だ。
「くっ!」
だが、ザザーザンは身体を捻って数歩距離を取って、短剣を抜いた。
あれ? まだ続くの?
踊るように短剣を振って迫ってくるが、うん。遅い。
流石にラライラよりは剣の扱いは上の様だが、ヤラライと比べるとなぁ。
殺意の乗った刃を避けながら、どうするか悩む。
とりあえず危ないから、取り上げておくか。
彼の腕が伸びきったタイミングで、短剣をむんずと掴む。ハッグ直伝の波動のおかげで、集中すればこのくらいの芸当は朝飯前だ。
そのまま波動のパワーに任せて、相手の手から短剣を引き抜いた。
「「「「な!?」」」」
なんかギャラリーがうるさいぜ。
理術使い、つまり魔法使い系と接近戦なら、波動使いの方が有利じゃ無いか。そんなに驚く事じゃないだろ。
シミュレーション系のゲームなんかでも、魔法使い系は接近したらただの雑魚だよな。
取り上げた短剣を、弄びながら、いまいちレギュレーション不明の模擬戦の終了を尋ねた。
「なあ、これ、どうすれば終わりになるんだ?」
「くっ! まだです!」
元気よく、殴りかかってくるが、最近トルネードマーシャルアーツの動きを自分流に取り入れ、さらなる強さをみせるヤラライの格闘術に比べたら……。
そもそもだ。この威力だと当たっても大したダメージにならんだろう。
ザザーザンは魔法タイプのエルフなのだろうなと、ぼんやりと考えながら、拳撃と脚撃をかわし続けた。
五分もすると、ザザーザンの動きが覿面に悪くなる。
人間、全力で動ける時間は10秒も無いのだ。
え? そんなに短いのかって?
100m走を想像してみてくれ。本当に全力を出し続けられるのはそんなもんなんだよ。
だから、上手く体力を振り分けて、全力に近い状態を維持するのが、技や技術になる。
それでも、全身運動だ。限度がある。
波動はその時間を大幅に伸ばしてくれるし、ヤラライのように精霊を身に纏えばまた別なのだが、ザザーザンはそういう能力を使っていない。
そりゃあ、疲労もするだろう。
「それ、まで!」
ようやくヤラライが終了の合図を出すと、ザザーザンはその場にへたり込んだ。
全身から汗が噴き出し、地面に水たまりが出来そうな勢いだった。
「アキラさん!」
走り寄ってきたラライラが、タオルと水を差しだしてくれた。
たいして汗もかいてないので、水だけ受け取ると、わざわざ彼女が汗を拭ってくれた。
「ありがとう、でも大丈夫だ。それよりも」
視線を向けた先は、呆然とこちらを見ていたザザーザンだ。
そんなに俺を見つめられてもな。いや、見ているのはラライラか。どうもこいつ気がありそうだしな。
……ん?
今脳裏に、こいつ殴り倒しておいても良かったんじゃ無いかと思考がよぎったんだが、なぜだろうな?
それよりも、そろそろ答え合わせをして欲しいんだがな?
ヤラライを睨むと、彼はちらりと見返した後、ザザーザンの横に立った。
「ザザーザン、お前、俺の若い頃に、似ている」
「……え?」
「お前、頭に、血が、昇りやすい。それ、戦士として、欠点」
「そ……それは」
「俺も、そこは、まだまだ、修行中。だが、お前、未熟」
「くっ……ですが! あれほど……あれほど侮辱されれば誰だって頭に来ます! 感情を殺せと言うのですか!?」
ああ、なるほど。ちょっと見えてきたな。
だけど、感情的にならないってのは、ヤラライ。お前もそこまで出来てないだろう。
テッサからの旅路で見せた、おっちょこちょいというか、早合点。
依り代の時も冷静さを欠いていただろ。
そうか。だからか。
「違う。感情、頭にやるな。身体に沈めろ」
「身体に?」
「そうだ。怒り、頭にやれば、熱くなる。周りが、見えなくなる。だが、身体に沈めれば、それは、力になる」
「……」
「そこの、ドワーフ」
唐突にヤラライが示したのはドワーフのハッグだ。
「悔しいが、それ、出来てる。だから、強い」
「!? ヤラライさんが! ドワーフを! 褒めた!?」
俺もびっくりだぜ。
「実力を、認めてる、だけだ。あいつ、いつも、冷静」
へえ。そのあたり、ちゃんと見えてたのか。
ハッグは大ざっぱな性格だが、こと闘いにおいては常に理性的だった。依り代を見てすらな。
内心煮えくりかえってたかもしれないのによ。
「俺、外で学んだ。強さ。力だけじゃ、ない」
その言葉に目を丸くしたのは、ザザーザンだけでは無い。
エルフの戦士団長であるグーグロウもだし、娘であるラライラもであった。
唯一、嫁さんのルルイルだけが、ほわわんとした笑顔を向けているだけだった。
それほど衝撃的な事なのだろう。
俺だって驚いてる。
「心、強くする。それ、大きく、成長する」
「あなたは……いえ。色々と納得のいかない事も多いですが、ありがとうございました」
「お前、強く、なれる」
ヤラライはザザーザンに背を向けると、今度は俺の前に立った。
「謝らなくていいのかよ?」
伝えたい事は理解したが、やり過ぎだ。
「ザザーザン。俺を恨む権利、ある。謝罪は、侮辱に、なる」
「そうか?」
「そいつは考え方が独特なんだよ」
会話に割って入ってきたのは、グーグロウだった。
テッサからの旅路で見せた、おっちょこちょい < 3巻で明らかに!




