第二十五話 巨人機『スカル』
本日2本目。
1話丸ごと対『スカル』戦で行きます。
「そうはいかないぞ、ボヘミアン」
たどり着くのには、そう時間はかからなかった。
梯子を駆け上がり、たまに姿を見せる敵を一撃で倒し、艦橋後部の小さなヘリポートのような場所にたどり着いたのは、数分と経っていなかった。
ルートは巨人を前にして銃を構える。レイとフラッシュはそのすぐ後ろに立っている。
巨人がぐるりと身を翻し、正面を向く。胴体の部分はコックピットになっており、眼帯をした男、ボヘミアンが座っている。その口元は面白い物を見つけた子供のように吊り上っているが、目はこれ以上にないほどの殺気を放っている。
「貴様らか、俺の艦に土足で踏み入ってきたのは」
ボヘミアンはコックピットで腕を組んでいる。足のギアで巨人の足を動かし、大きく1歩を踏み出す。地鳴りのような音がして、ルートたちの足元を揺るがす。
「お前にはいろいろ聞きたいことがある。命までは取るつもりはないから、投降しろ!」
「おいおい、そんなことで俺が投降するとでも思っているのか? 貴様らは3人、ああ、後3人下にいたか、たかが6人で俺を止められると思っているのか? この俺を? 距離を取ってこいつを撃てば貴様らと戦う必要さえない俺が?」
ボヘミアンは心底滑稽だと言わんばかりに天を仰ぐ。
そして巨人の腕を操り核弾頭を指差す。
「マガスと何を企てているか知らんが、罪もない人を殺すのであれば、今ここで貴様を止める」
レイが銃を向ける。
すると、それを見たボヘミアンは目を細めてレイを睨む。
「機械人だな、貴様のような人間もどきが命を語ることは俺が許さんぞ」
「レイは人間もどきなんかじゃない! お前なんかよりもよっぽど人間らしい!」
フラッシュが声を張り上げるが、ボヘミアンは耳を貸さない。
「前言撤回だ。貴様らを殺す動機ができた。今ここでこの『スカル』を以て俺が殺してやる」
ボヘミアンは組んでいた手を解いて操縦桿を握った。そして核弾頭を背中に回して、戦闘態勢に入った。
「レイ、フラッシュ、常に敵を囲むように戦うぞ。決して固まるんじゃない!」
「「了解」」
「死ねえええええっ!!」
ボヘミアンが操る『スカル』が狭いヘリポートの端から勢いよくレイに向かって突撃する。レイが銃で牽制するが、その程度で『スカル』は止まらず、その巨大な腕を振りかぶってレイを吹き飛ばそうとする。
「させるか!」
「ぬうっ!?」
ルートが『スカル』の胴体目掛けて銃身下のグレネードを撃つ。弾速は遅いが、当たればそれなりの威力がある。真横からグレネードを食らい、『スカル』の動きが一瞬止まった隙に、レイが『スカル』の足元を潜り抜けて背後から『スカル』のふくらはぎ目掛けてグレネードを発射する。駆動部に命中して黒々とした煙が『スカル』の下半身を覆う。
「どれだけ頑丈でも、駆動系をやられればいくらかは……っ!?」
フラッシュの声が驚愕のものに変わる。
「効かんわあああああっ!!」
煙の中から無傷の足が姿を現し、フラッシュを踏みつぶそうと大きく足を上げる。勢いよく下ろされた足をギリギリで避け、ヘリポートを転がりながら距離をフラッシュは取り、『スカル』の頑丈さに茫然とした。
「グレネードを食らって無傷なんて……」
「フラッシュ、この程度であいつは止まらんぞ」
レイがグレネードで『スカル』を牽制しながら、フラッシュに声をかける。その声にフラッシュが振り返る。
「あいつは『大崩壊』の時に機械人が使った陸戦兵器『ジャッカル』の後期型を人間でも操縦可能にしたものだ。35センチクラスの主砲弾の直撃にも耐えられる耐久性と、最高速度80キロを超える敏捷性を備えた化け物だ!」
「んなもんどうやって倒すの!?」
「ボヘミアンを狙え! グレネードで動きを止め、銃で仕留めろ! 1発や2発であいつは死なん!!」
「くくく、ここでは狭いな。どれ、戦場を移すとしようか」
ボヘミアンが不気味に微笑むと、艦橋付け根の方に走り出し、ヘリポートの隅に置かれていた巨大な銃を持ち上げた。『スカル』の両手に収まった銃は、ごつごつとした無骨な砲身を持ち、銃身下には巨大な丸いマガジンが取り付けられていて、形からしてマシンガンクラスと思われる。
ボヘミアンはそれをヘリポートの床目掛けて乱射し始めた。
「な、なにを!」
「ルート、足元!」
最初、何をしているのか理解できなかったルートはレイの言葉で地面を見た。そこには無数のヒビが入り、それは『スカル』が撃って開いた銃創から蜘蛛の巣状に伸び始めていた。
「あの野郎、ヘリポート落とすつもりか!」
ルートは走り出した。ヘリポートは艦橋後部、地上50メートルはある場所に取り付けられている。そんなところから落ちれば間違いなく死ぬ。
「レイ、俺とフラッシュを!」
「分かってる!!」
レイが走ってルートの腰のベルトを掴み、フラッシュの襟首を掴んでヘリポート端まで走り出す。すでにヒビはヘリポートを埋め尽くしており、何時崩れてもおかしくない状況にある。
そしてボヘミアンはそこまでいって引き金から指を離した。そして腕を振り上げて『スカル』の太い腕でヘリポートの地面を殴りつけた。
ビシッ
何かが折れる嫌な音が響き、ヘリポートが傾く。そして重力の法則に則って艦の側部を崩れ落ちていく。
「無茶苦茶だ、あいつは!」
「だから、”クレイジー”なんだって!!」
ヘリポートの地面をすべり、すぐに宙に投げ出されたルートは、そう叫んでいた。レイが抱えているため死ぬことはないが、紐無しバンジーをやって楽しい人間などいない。
瓦礫がルートたちと共に降り注ぐ中をレイが器用に空中で姿勢を変え、瓦礫を避ける。50メートルなどあっという間の距離だったため、レイが2人を自分の腰に抱えると、足から地面に着地、衝撃でコンクリート製の道路にひびが生じる。
レイは着地するやすぐに2人を放り出し、自分もその場を飛び退く。
コンマ5秒後にそこに巨人が降り立ち、ヒビが入っていた道路が砕け散る。
「やはりリングは広いに限るな」
「くっそ、ここだとあいつのスピードが生かされちまうな。しかも今は武器装備だ……」
「何とかしないと、背中の核を撃たれる。ここで止めるぞ、……ん?」
レイが足元の地面に広がり始めたオレンジの煙を見て凍りつく。
振り返るとフラッシュの足元に発煙筒の細い筒が転がっている。
「ごめん、ミスった」
「「馬鹿野郎!!」」
煙は徐々に高度を上げ、あっという間に周囲を覆った。幸運にもそのおかげで『スカル』から姿を隠すことができたが、煙の中にいることは非常にまずい。
3人が慌てて走り出すと、遠雷のような爆音が轟いてきた。それが意味するのはただ1つ。
「逃げろ!」
「言われなくとも」
「分かってる!!」
甲高い音が上空から聞こえてくる。
上空からオレンジの煙を確認した旅団の戦闘機が爆弾を投下、黒く細長い物体がオレンジの煙目掛けて降り注ぎ、その一帯を爆発が覆い尽くした。
ルートたちは済んでのところで近くのビルに飛び込み、爆発から逃れることができたが、ルートは起き上がるとフラッシュの頭にきつい1発をお見舞いした。
「阿呆! お前はどうしてそんなに投げるのが下手くそなんだ!」
「殴らなくたっていいじゃないか! 誰だって失敗はするよ!」
「今するな、今!」
「2人とも、敵を前に喧嘩をするんじゃない」
外を睨むレイが一括すると、ルートとフラッシュは黙りこくった。
「あの爆撃でボヘミアンが生きているとは思えんが……」
「お生憎だな、奴はピンピンしているぞ」
「嘘だろう……」
煙が晴れていくと、巨大なクレーターの中に巨大な影が姿を現した。コックピットを両手で守った『スカル』が体を軋ませながら動いていた。
腕がどかされると、そこには相変わらず口元を吊り上げているボヘミアンが煤にまみれながらも心底面白そうにしていた。
「開幕の花火は上がった。さあ、人類の敵ども、戦争をしよう」
『スカル』が銃を構え、3人のいるビル目掛けて弾をばら撒き始める。分厚いコンクリートの壁の陰に隠れ、そこから銃で応戦するが、戦車砲並みの弾を連射する『スカル』相手には役不足だ。甲高い音と共に弾き返されてしまう。ボヘミアンは『スカル』の身体を捻るようにして、ルートたちにコックピットを狙われないようにしている。左腕と盛り上がった肩のおかげで、ルートたちからはコックピットはほとんど視認することができない。
「レイ! 屋上から狙撃しろ!」
「分かった、5分持たせろ!!」
レイがビル奥へと走っていく。それを見送りルートはビルの窓目掛けて銃を撃ち、ガラスを砕く。
「フラッシュ、掩護する!」
大声を上げて、フラッシュの背中を押す。フラッシュが腰を曲げた状態で砲弾の雨の中を走り出す。ルートはフラッシュを狙われないように派手に『スカル』目掛けて銃を撃つ。
「隠れているだけでは俺は倒せんぞ、戦争屋!!」
外でボヘミアンが叫んでいるが、その声はルートには届かない。あまりに強烈な発砲音で耳がどうにかなりそうになる。
ルートに引き付けられた間に、フラッシュが窓から外に飛び出し、グレネードで『スカル』の腕を撃つ。爆風で一瞬攻撃が止んだ隙を逃さず、ルートもビルから飛び出す。
「馬鹿が! 自ら的になりに飛び出してきたか!」
ルートが飛び出してきたのを見て、ボヘミアンが銃をルートに向ける。そして間髪入れずに発砲、巨大な銃に相応の薬莢が銃側面から排出され、地面に音を立てて落ちる。砲弾はコンクリートの道路を穿ち、砕き、吹き飛ばす。その瓦礫の中をルートは走り、決して距離を広げず、狭めずに『スカル』の周囲をグルグルと回り始める。そして『スカル』を円の中心にしてルートとフラッシュの射線が『スカル』で直角に交わるように十字砲火を加え、足止めする。
「牽制程度で何ができる」
「ぐおっ!」
『スカル』が突貫し、ルートの目の前に来ると思い切り拳を振り下ろしてきた。一瞬前までルートがいた場所に穴が開き、腕が地面にめり込む。そしてその腕を力任せに振り払うと、地面が抉れて無数の瓦礫が弾幕となってルートを強襲した。無数の瓦礫が身体を襲い、ルートが吹き飛ばされる。
「ルート!」
フラッシュが一瞬ルートに気を取られた隙を、ボヘミアンは見逃さなかった。最高時速80キロの『スカル』が銃を構えてフラッシュ目掛けて突っ込んでくる。そして目の前で体を捻って強烈な回し蹴りをフラッシュにお見舞いした。反射的に銃でガードをしようとするが、巨大な鉄の足は銃をいとも簡単に折り、勢いを衰えることなくフラッシュの全身を打ち、ビル目掛けて蹴る。窓ガラスを粉砕してフラッシュがビルの中に消えていった。
「くくく、弱すぎる。所詮は生身の人間だな、貴様らは。この『スカル』の前には貴様らが扱えるような武器は無意味、俺を殺したければ戦艦でも連れてくるんだな」
ビルに蹴り込んだフラッシュを確認もせずに、ボヘミアンはルートの方に向き直った。
「うん? 機械人がいないな。逃げたか?」
「そんなわけがないだろう」
ルートが痛む身体を叱咤して起き上がる。
そしてボヘミアンを睨み付けるが、今のルートの状況では虚勢にしか見えなかった。
「くくく、では貴様を倒した後にゆっくり探し出すとするか。それと上を飛ぶうるさいハエも叩き落とさなければな」
ルートを目の前にしてボヘミアンは突如空目掛けて巨大な銃を発砲した。無数の薬莢がルートの真上に降りかかり、ルートは慌てて距離を取る。
ドウンッという何かが爆発するくぐもった音が空から聞こえ、ルートが見上げると黒い煙を吐いた戦闘機が通過するところだった。主翼をもぎ取られて錐もみ状態で高度を下げつつ、ビルの合間へと消えていった。
「マガスも良いものを作ったな。機械人の物だというのが癪だが、これぐらいは我慢せんとな」
銃を下げてルートを侮蔑の目で見つめるボヘミアン。
「もう少し、お前が理性的だったら、俺の前にたかだか3人では現れなかっただろうがな。恨むなら自分の非力を恨むがいい」
これで最期だと言い、ボヘミアンは銃をルートに向けた。
そしてボヘミアンが引き金を引こうとした時、ルートは不意に笑みを浮かべた。
そして、言い放った。
「バースト」
真上から銃弾が寸分の狂いもなくボヘミアン目掛けて放たれたのを、ルートは見逃してはいなかった。
はい、やっぱり、ルートたちって頑丈ですね。
常人だったら瓦礫食らった時点で意識飛んでると思います。
さて、ボヘミアンが駆る巨人機『スカル』ですが、ものごっついです。
以前、本文でも書きましたが、『大崩落』時には人間を最も苦しめたとも言われるほどの兵器です。そんなのに3人で立ち向かうんですから、どんな鬼畜ゲーというか無理ゲーというか……。
書いている本人が言うのもなんですが、主人公たちってある程度チート入りますよね。単純に打たれ強いのはまあ置いといてもらうとしても、そんなやり方で倒せるのかとか、ありえない速度で戦っているんじゃないかとか、書いてても思いますから。
で、でも、こういう作品って、大概主人公が戦場に立つと戦況ひっくり返りますよね! そうですよね!?
そうですよね!? そうなんですもん!! (`へ´)エヘンプイ
威張れることじゃないですよね。某少し前の芸人コンビの女装してない方風に言ってみましたけど。
でもまあ、エスコンなんてその極みですよね。好きですけど、というかミサイル切れ起こしたらダメなゲームですしね、あれ。
AC6とかホライズンとかやってみたいですけどX箱が無かったりと嘆いてますよ……。
どうせ私は04からXまでの人間ですよ。キースさんは別ですけどww
はっはっはっ、挟まっちま(以下略
話が逸れました。
まあ、それが楽しみで書いているわけですから、これからもこんな感じで行きます。
20数話書いておいて今さらとか思われるかもしれませんが、そういう文句は聞こえませんので。
レイが放った弾丸の行方はいかに!
そんな感じの回に次回はする予定です。
次回ぐらいで対『血の盟約』戦は一段落する予定ではあります。
誤字脱字でも構いません。
感想お待ちしております。