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これは非日常も氣龍にとっては日常  作者: 神常神


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Phenomenal

彼、おじさんことレインズは、両親を幼い頃に無くしていた。

父親は魔族と戦い殉職。

職務を全うした警察官だった。

それから母は五年ほど、彼を女で一つで育てたが、無理がたたり病に伏せてしまう。

その後、半年ほどで母も他界してしまう。

そんな大好きな母親が、普段から口酸っぱく言っていた言葉が一つある。


「お父さんのように、大事なものを守れる男になりなさい」


この言葉は40になった今でも、彼の人生に正しさを問う、呪いになっていた。

母親が他界後、親戚に預けられたが、そこでは面倒くさいお荷物として、愛はかけらも与えてはもらえなかった。

そして15歳になる頃、彼は警察に捕まる。

理由は窃盗だった。

彼は警察の取り調べで、自分がやったと全ての罪を認めた。

しかし、それは嘘だった。

彼は好きな人を庇っていた。

家での生活が耐え難く、その日も夜家を抜け出し散歩していた時、学校で気にしている女の子に会った。


「あ、レイ君!」

「あ、こんな時間にどう―」

「助けて!」

「え?」


この時彼は、久しぶりに人に抱きしめられた。


「待てー。どこ言った!」


大きく響くその声に彼女がビクッとなったのを感じた彼は、そこで彼女を逃すことを決めた。


「ここは任せて」

「え、でも」

「いいから。母さんに言われたんだ。大事なものを守れる男になれって」

「ご、ごめんね!ありがとう!」


この時、彼女はバッグを置いていった。

そうして彼女が去ったところに警察が来て、バッグを所持していた彼を捕まえた。

その中には盗品が数多く入っていた。

しかし彼に後悔はなかった。

薄々彼女が悪いことをしてるんじゃないかと、勘付いた上でやったことだったからだ。

それがその時の彼の正義だった。

そして理由はそれだけではない。

家より施設の方がマシだと思ったこと。

環境が変われば、自分が変われたと思えるんじゃないかと。

むしろ罪を被る行為は、彼女よりも自分の為という割合が大きかった。

しかしそれは彼女を救う、正義の行いの副産物だと彼は思うようにした。

だが、その行いが間違いだったと突きつけられたのは、彼が施設から出てきた18の頃だった。

彼が助けた女の子は、その後も犯罪に手を染め続けていたようで、彼が施設の中にいる間に、警察からの逃走中に死んでしまったと知った。

彼は施設の中でも、コイツらと違い俺は正義を貫いたんだと、大切な者を守ったんだと自分は思って過ごしていた。

さらに施設から出てきて、これからの未来は、明るいとも思っていた。

しかし彼女の死が、それは独りよがりの偽善で、間違った行いだったと、三年越しに彼を襲った。

それから彼は両親の墓前で、涙ながらに手を合わせこう言った。


「俺は母さんの思うような人間になれない。父さんのような立派な人間になれない。ごめんなさい」







レインズはあらかじめ背中に、()()()()と書いた紙を数枚貼り、虫対策をしていた。

彼のこの行動は、彼女との一度目の遭遇の時に、虫を使う能力と山を張ってのことだった。


「で、この虫はなんて言うんだい?」


彼は得意げな笑みを浮かべている。


「ふふ。ふふふ。ふはははははははははははは」


彼女は気でも触れたのか、大声で笑い出す。


「えっと、大丈夫か?」

「ははははははははっ……はーあ。まさか……こんなに上を行かれるなんて」


男の先を読んだ行動の数々に、彼女は怒りとは違う感情を抱き始めていた。


「私はあんたのことを誤解してたよ」

「うーん。じゃあ今は、戦いたくないぐらい良い男に見えてるってことかい?」


レインズは背中の虫を包むように、ワイシャツを脱ぎつつそう言った。

しかし彼女は目を閉じ首を振る。


「いーや。今の私には、お前がご馳走に見えてるってことだよッ」


彼女は彼に襲いかかる。


「そんなにおじさんの体に興奮しないでよ」


彼は40歳に思えない、なかなかに筋肉質な良い体をしていた。


「誰がテメェの汚ねぇ体に興奮すんだよッ」


彼女は丸い黒い球を、四連続で口から吐き出した。

彼はベルトに付けたポーチから、紙を数枚取り出しつつ、黒い球を全て避ける。

しかし、その隙に一気に間合いを詰めた彼女は、凄い力でレインズの両腕を掴み上げた。

すると、彼は先ほど取り出した紙を、辺りにペラペラと落としてしまう。


「へぇ、こりゃ、凄い力だ」


彼の顔に驚きが浮かぶ。


「ふふ、お前が今避けたのは、ただの球じゃない」


彼女がそう言うと、彼の背後で身の毛もよだつ音が響き渡る。

カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサッ。

それは大量のムカデだった。

彼女が先ほど吐いた黒い球は、ムカデを数十匹丸めていたもので、その全てが彼の足元に向かい進行していた。


「私はお前を超えることで、より進化する。お前は試練だッ!私はお前を超えるッ!」


彼女は自分の中に、力がみなぎるのを感じていた。

レインズは彼女の手を振り払おうとするが、その力の前に振り払うことが出来ない。


「無理無理無理ッッ!絶対に逃さないッッ!」


彼女は興奮気味にそう大声を出した。

しかし、レインズは息をひとつ吐くとこう言った。


「熱くなってるとこ悪いんだけどさ―」


先ほど落とした紙が形を変える。


「チェックメイトなんだよね」


二人の周りが一気に炎に包まれる。


「な、なにいッ!」


彼女の動揺。その一瞬の隙をつき、彼は腕を振り払う。

そして、彼女の右膝を蹴り片膝を着かせ、彼女の後頭部を踏み台に高く飛び上がった。

後頭部を激しく踏まれた彼女は、顔面を地面に打ちつけた。


「ぐはッッ」

「動揺しなきゃ、勝ち目はあったのにな」


彼は近くの高い木の枝に捕まり、そのまま炎の届かない高さまで登り、彼女を見下ろす。

彼女が頭を振り、彼を見上げる頃には、炎は凄い高さで彼女を囲んでいた。

そして、そんな彼女の上に、ペラペラと紙が舞ってきた。

その光景に彼女は息を呑んだ。


「くそおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああッッッッ…………」


紙はガソリンに代わり、彼女の上に降り注ぎ、炎は彼女を丸焼きにした。

レインズは彼女が動かなるのを確認しすぐに、大きなバケツを一気にひっくり返したような感じで、水を何度か広範囲に降らし鎮火した。

そして、倒れ動かなくなった彼女の元に歩み寄る。


「驚いたな。まだ息があるのか。いや、しかし限界そうだな」


彼の見立ては正しく、虫の息の彼女はもう戦うことはできない。


「にしても、俺のPhenomenal(リチュアル)をここまで追い込むなんて、たいしたもんだよ、お嬢ちゃん」


そう言いながら、彼女の消失の開始を待っていた彼の肩に、一匹の()()()()()()が降ってきた。

その感触に彼は咄嗟に手でムカデを払い飛ばしたが、その左肩を噛まれてしまった。


「うっ、いってぇ!」


彼は肩を押さえ(うずくま)る。


「くそっ。ッ、油断した」


彼は足元の枯葉の下に姿を隠す、大きいムカデを確認した。


「こいつ生きてやが―」


彼は目線を彼女に戻す。

するとすでに体はほぼ消えていて、彼が確認出来たのは膝から下の消失だけだった。

彼は消失の速さに驚いたが、痛みが増してくる肩の治療を優先することにし、お湯と書いた紙と、おけと書いた紙を用意した。

そしてそれを能力で実体化し、傷口を洗い流しはじめた。

だから彼は気づかなかった。

近くの滝に何者かが飛び込んだことに。

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