第028話 意外な助っ人
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。
チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。
ツェーマン・ベーション……〔杖のベーション堂〕の店主。元々は杖職人だったが、現在は射撃場を経営。
ソシーツ・アルージャン……庶民から愛される、王宮勤めの下級貴族。
ビショッポ……チクニーダイアモンドから指令を受けた謎の子供。ウニのようにとがった黒髪に、つややかな黒肌。2本の杖を持つ。
ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。ショタコン。
ネオンはアナコンダを見下ろし、
「まあ確かに、きみを捕まえて興奮しているのは事実さ。逆にお姉さんが捕まるのも気持ち良さそうだ。想像しただけで濡れるよ。それは認める。だが、少年よ。お姉さんの善意を信じてほしい。今日はきみにイイコトを教えてあげる」
「やっぱり、いやらしいことをするつもりだな!? 師匠が言ってたぞ。あんたのこと、児童で興奮するゴミカスクズ女だって!」
「ふん。年増の女に罵倒されても嬉しくないな」
「ゴミカスクズ女!」
「んほぉおぉお~~~。少年に罵倒されるの、たまんないにょぉ~~~~」
「誰かー! 変態がいる! 助けてくれー!」
大声を出したアナコンダ。
その口へ、
「むごご!?」
棒状のお菓子がぶちこまれた。
「美味しいか? たんと味わえ。お高いやつだ」
アナコンダの下腹部でニョルモルモが、
『お前ばっかり、ええもん食いやがって』
不満をあらわにしたが、それはネオンの知るところではない。
「ところで、きみは国家魔術師になりたいんだろ?」
「もご」
「だが、今年は試験が中止になって困っているはず。この決定をしたのは国王陛下だが、させたのはプリケッツゴールド王子殿下だ」
ネオンが言うには、プリケッツゴールドは現在4歳。
わがまま言いたい放題のお騒がせ坊やだが、国王も息子にデレデレで、厳しいしつけをしていないらしい。
「モグモグアルージャンのおっさんがモグモグ言ってた通りなんだな」
アナコンダは口の中のお菓子を食べきって、
「やっぱ殴らなきゃ!」
「う~ん。暴力的な少年も悪くない。だが、王子はもうすぐ誕生日らしいぞ」
「だから?」
「王子の周囲には大人ばかり。大人はみんないそがしい。誰もがおちびちゃんの誕生日を忘れてる。王子殿下はしょんぼりしてるんだとさ。かわいそうに。お姉さんが慰めてあげたい」
「俺、もう行くから。この糸、外せよ」
「そ、こ、で。もしもの話だが……きみが王子の誕生日を盛大に祝ってあげたら、どうなるだろうね? 例えば、プレゼントでもしてごらん。ショタ同士で仲良しになれる。たまんないだろ?」
「は?」
「きっと、王子は君に感謝して、お願いのひとつや二つ、聞き入れてくれるだろうよ」
「!!」
アナコンダの体を拘束していた糸がほどけた。
ネオンはにちゃりと笑って、
「お姉さんがきみに入れ知恵した……というのは伏せておいてほしい」
「んで、見逃してほしいってか?」
「ウィンウィンでいこう、少年」
アナコンダは立ち上がり、犯罪者に背を向けた。
できれば逮捕したい。
魔術を乱射して、ケンカで負けた憂さ晴らしをしたい。
だが……
「わかったぜ、おばさん。今日のところは見逃してやる」
「お姉さんと呼んでほしいな」
「だけど、次に会った時は遠慮しないぜ」
「力ずくで、つ・か・ま・え・て♡」
アナコンダは走り出した。
お菓子が美味しかったと言い残して。
さて、残されたネオンはしばらく少年の尻を見つめていたが、やがて姿が見えなくなると、
「もういいぞ」
暗闇に声をかけた。
すると――
「本当にこんなんで上手くいくかね」
物陰から、子供が一人、ぬうっと姿を現した。
黒い髪と肌。
2本の杖。
ビショッポだ。
「あいつぁ、てんで強くないよ。利用できるとは思えないけどね」
「少年には誰にも負けない熱血がある」
「意味がわからないよ」
「とにかく。王子殿下の誕生日に、あの少年が騒ぎを起こすのは間違いない。きっと厳重な警備に緩みが生じるだろう」
「ふうん……」
「私は御頭だぞ。もっと信用してくれたまえ」
ネオンは歩き始める。
ビショッポは冷めた目つきで、
「ショタコンに信用もクソもないだろ」
* *
その頃。
ソシーツはアナコンダを見うしなったが、まだ通りをうろついていた。
(確か、こっちへ行ったと思ったが……いったん馬車まで戻るべきかな?)
汗が顔を濡らす。
上着を脱いでいると、
「お。おっさんじゃん」
どこからともなくアナコンダがふらっと現れた。
「捕まえたぞー!」
「お、おっさん! あんたもショタコンか!?」
「違ーう!」
否定しつつ、ソシーツはアナコンダを抱き締めて離さない。
当然ではある。
放っておくと王子を殴りに行くだろうから。
「ああ。それなら、やめた」
「え?」
「帰ろうぜ」
「お……おい?」
ついさっきまでの怒りはどこへやら。
アナコンダはあっけらかんとしている。
「どうしてだい?」
「それは、おばさんが……あ」
「おばさん?」
「いや、なんでもないぜ! まあ、なんて言うか、熱血だよ、熱血」
「わからないな……」
ソシーツがより深く追及しようとした矢先。
ぐうぅ~……。
二人のお腹の鳴る音が重なった。
ソシーツとアナコンダが顔を見合わせる。
そして噴き出す。
手をつないで、夕暮れの道を歩いた。
「やれやれ。こんなに腹がへったのは、いつぶりだろう」
ソシーツは屈託なくほほえんだ。
* *
その翌日――
「ケーキを作ろうぜ!」
射撃場にアナコンダの大声が響く。
昨日、帰宅するやいなや、チッチにボコボコにされたアナコンダ。
おかげで顔も体もあざだらけになった。
ソシーツのとりなしがなかったら、こんなものではすまなかっただろう。
「しばらくの間、お前に修業はつけない。おとなしく謹慎していろ」
今朝、アナコンダは目が覚める前から物置部屋に監禁された。
朝食も抜き。
が、めげることを知らない少年は、物置部屋の屋根と壁の間にわずかなすきまを見つけ、こっそり屋敷を脱け出した。
子供の体型と子供の視点と子供の発想を甘く見たチッチの敗北と言わざるを得ない。
さて。
アナコンダはまっすぐ射撃場へ走った。
「またママに怒られちゃうよぉ~?」
心配するサオをよそに、アナコンダは上記の宣言をしたのだ。
が、今日も今日とて射撃場での労働に汗を流すサオは、即座にその提案を拒否して、黙々と作業にいそしむ。
アナコンダは約束通り、情報の出所がネオンということを伏せていたので、
「きっと王子はみんなに誕生日を忘れられて悲しんでるはずだ」
と主張したところで、
「なんでそう言い切れるのぉ?」
「えっ……それは……」
「いくらいそがしいからって、子供の誕生日を忘れる親なんていないと思うよぉ? しかも王子様なんだもぉん。なおさらじゃぁん」
簡単に反論されてしまう。
また、チッチとソシーツに協力を求められないのも痛かった。
(どうせこの二人には反対されるだろうな)
と判断したわけだが、そうなると、頼れるのはサオだけになる。
田舎出身のアナコンダに人脈などないのだ。
「とにかく! やれるだけやってみようぜ! 俺の計画はこう。まずケーキを作る。それを王子のところに持って行く。喜んだ王子はお礼に試験の中止を撤回してくれる。めでたし」
「安直すぎるんじゃないかなぁ。大体、材料はどうするのぉ?」
「お前が出すんだよ」
「へぇ!?」
魔術でフルーツを生成してもらおうという考えだ。
火が必要ならアナコンダの魔術で無尽蔵に出せる。
サオは呆れ顔で、
「アナコンダくぅん。ケーキの作り方は知ってるぅ?」
「よくわかんないけど、わかるぜ。最近サオん家で毎日食ってるからな。柔らかいやつの上に白いやつとか果物をのっければ完成。だろ?」
「うん……」
「じゃあ作ろうぜ」
「あのねぇ。手作りって大変だよぉ? ぼく料理は得意じゃないけど、ぬいぐるみ作りはするから手作業の大変さがわかるんだもぉん」
それくらいアナコンダにも想像がついた。
それでも手作りすることにこだわったのは、
「だって、店にクソデカケーキなんて売ってないだろ?」
王子様といえばお金持ち。
ケーキなんて飽きるほど食べたことがあるだろう。
普通サイズのケーキでは喜ばせられなくて当然だ。
だから巨大なケーキをプレゼントすべきだし、巨大なケーキは手作りでしか用意できない。
「おやおや。面白いことを考えてるじゃないの」
射撃場の店主ツェーマンは、カウンターに座って客の相手をしつつ、少年二人の会話に耳をかたむけていた。
派手な扇子をはためかし、
「サオちゃん。これも修業だよ」
にこやかに言う。
「失敗したっていいじゃないの。青春だよ、青春。全力で楽しみなさい」
「クリームをかきまぜたり、ケーキを冷やしたりするには、紫の魔術師に手伝ってもらう必要がありますよぉ?」
「紫の魔術師? う~ん。今日のお客さんの中にはいないみたいね」
「ここにいるじゃないですかぁ?」
サオはじとっとツェーマンを見つめる。
見つめると言うより、にらんでいる。
ツェーマンはサオの意図を察して、
「え? ぼくが手伝わなきゃいけないってことなの?」
口をあんぐりと開けた。
ツェーマンの系統はまさしく紫だった。
サオは、にやりとする。
別に本気で老人を酷使しようなどと考えているわけではない。
(手伝うの嫌でしょぉ? だったら、ぼくと一緒にアナコンダくんを説得してもらうよぉ)
ところが、これはとんだ読み違いだった。
むしろツェーマンは目を輝かせて、
「いいじゃないの! 青春!」
「……えぇ?」
「ぼくは何をすればいいの? そもそも、どういうケーキにするの? それによって必要な材料も調理器具も違うんじゃない?」
「うぅ~ん……果物はぼくの魔術で出せるけど、牛乳とか砂糖とかは買うしかないし、大きなケーキを作れる調理器具は……どうすればいいんだろぉ」
「任せなさい!」
白髪のツェーマンが年齢に似合わぬ走りっぷりで、射撃場を飛び出した。
アナコンダもサオも唖然とするばかりだった。
それから、およそ十分後。
「今日はもう店じまいよ」
戻ってきたツェーマンが、一方的に客へ宣言した。
かと思うと、
「店内にある物を全部すみっこに移動しちゃって。ほら。客も全員、手伝うのよ!」
無茶苦茶な指令を出した。
よその店なら総スカンを食らうだろう。
が、そこはツェーマンの人徳。
客も従業員もおもしろがって、言われるがまま店内をかたづけた。
それにしても、
「じーさんのやつ、何を考えてるんだ?」
その疑問はすぐに解けた。
「ツェーマンさん。お待たせ」
城下町で店を営む人たちが大勢おしかけてきた。
商売は様々だが、ここへ来た理由はみんな同じ。
「粋だねえ!」
王都の人々は皆、どれだけ馬鹿げていても楽しくて気持ちのいいことであれば、それを全力で楽しむという心意気を持っている。
「こんなバカなことを思いついたのはどこの天才だ?」
「久々に腕がなるねぇ」
「半端じゃつまらねえ。見たこともないくらい大きなケーキにしようぜ」
「いつもなら食べ物で遊ぶなって怒るところだけど、これは話が違う」
「王子様への貢ぎ物だもんな」
大騒ぎしながら、彼らは持参した物を台に並べ始めた。
牛乳や果物、盛りつけに使う小さな菓子は、八百屋と菓子屋から提供された。
調理器具は金物屋が持って来てくれた。
大きな皿など、現在注文中の物もたくさんあるらしい。
それぞれ自分の商品やツテを持ち寄ってくれたわけだ。
「これって……」
アナコンダの言葉にならない問いかけに、ツェーマンはウインクで答えた。
「みんな! ありがとう!!!」
アナコンダが簡単な自己紹介と経緯の説明をして、
「要するに、でっかいケーキを作ろうってことなんだ! 俺は……いや、俺たちは熱血だー!!!」
こうしてケーキ作りが始まった。
☆⌒(*^∇゜)v




