第026話 子供同士の理解らせバトル
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。
ジオ・サンコーザ……43歳。貴族の次男坊。筋肉質で、生え際が後退している。
ビリー・ブルドッグ……38歳。貴族の五男坊。アフロヘアーにだらしない体型。
ビショッポ……チクニーダイアモンドから指令を受けた謎の子供。ウニのようにとがった黒髪に、つややかな黒肌。2本の杖を持つ。
チクニーダイアモンド……ドジョウ王国の第1王子。大胸筋をさらけ出す奇抜な服装だが、頼もしい男。
プリケッツゴールド……ドジョウ王国の第2王子。もうすぐ5歳。わがままで生意気。魔力がない。
ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。ショタコン。
ここのところ勉強漬けで体がなまっていたアナコンダ。
溜まったストレスを魔術で発散しようとしたものだから、
「やっべ……」
思わず、とんでもない量の炎を噴射してしまった。
その瞬間――
脳内によぎる、これまで出会った優しい人たち。
師匠。
ラトン町教会の神父や子供たち。
ハジャ村のみんな。
ここで殺人を犯してしまうことで、彼らの顔に泥を塗ることになる。
幻滅もさせてしまうだろう。
逮捕。
ムショ行き。
国家魔術師になるという夢は叶わない……。
と思ったのだが、
「噴水!」
なんと、アナコンダの放った巨大な炎は、対する黒髪の子供の放った水によって消されてしまった。
その子は立て続けに、
「水鉄砲! 噴水! 溺肺!」
青の魔術を発動。
アナコンダへ向ける敵意は、はったりではなく本物のようだ。
その瞳は怒りに満ちている。
この子の名前はビショッポ。
王宮にてチクニーダイアモンド王子から、
「お前の仲間を盗んでこい」
と意味深な指令を受けた、あの子供だった。
もちろん、アナコンダもサオも、そうした背景を知らない。
アナコンダはただひたすら戦闘に夢中だし、サオにいたっては、
「ふえぇ~。ぼく死んじゃぅ~!」
自分の身を守るだけで精一杯だった。
決して広くはない路地裏で、子供とは言え規格外の魔術師二人が本気の戦いをするものだから、まるで戦場のようなありさま。
そもそも、ジオとビリーを、
「殺す!」
「殺させない!」
で始まった戦いなのに、今となっては誰もが二人の中年を忘れている。
攻めてかわして逃げ惑って、みんなそれぞれ必死になっているため、中年二人を平気で踏んづけるし、踏んづけたことにも気づかないのだ。
「くそ……」
アナコンダは歯ぎしりする。
彼がどれだけすごい逸材なのかは、これまで散々述べてきた。
普通なら、そんじょそこらの魔術師など物の数ではない。
それなのに、自分と同じくらいの背丈の子供を倒すどころか、むしろ押されている。
(こんな強いやつは初めてだぜ!)
初体験だ。
あの対猪人族戦でさえ、魔術を使えない時には苦労したが、魔術を使えるようになったとたん楽に勝てた。
アナコンダにはとてつもない才能がある。
向かうところ敵なし。
自分でもそう思っていた。
なのに、今日はその常識が通用しない。
『土下座せえ、お前』
下腹部からニョルモルモががなりたてる。
『こりゃ勝てんわ』
「なんでだよ!」
『あいつ強いやん』
「俺も熱血だ!」
『うんうん。そやな。熱血やな。でも、お前は魔力の量がすごいだけや。コントロールは下手やから、戦術がごり押し一択やないか』
それに比べて、ビショッポは、
『上手い』
2本の杖を器用に使いこなし、速射する。
また、アナコンダのように、
「ざっくり撃つ」
のではなく、きちんと狙いすましているから、命中率が高い。
その上、
『系統の相性も考えてみい』
「相性……!?」
ニョルモルモと会話しつつ、アナコンダは、
「火玉!」
攻撃の手を緩めない。
が、どれだけ頑張ったところで、アナコンダの攻撃はあっさり水で消火され、逆に、水魔術を火魔術で防御しようとこころみても、
「うっ……」
火で水をかきけすのは困難だった。
すでにアナコンダは身体中いたるところにダメージをあたえられている。
『まさに、これや』
火と水。
考えうる中で、最も最悪の組み合わせだ。
青の魔術師を相手に戦うのは、赤の魔術師には分が悪すぎる。
まったくもって完璧な解説だった。
とうとうアナコンダは、
「水鉄砲!」
「あ゛ーっ!」
まともに攻撃を食らい、倒されてしまった。
「く、くそ……」
全身びしょびしょでうめくアナコンダ。
その口の中へ、杖が突っこまれた。
「てこずらせやがって。覚悟はいいかい?」
ビショッポが血走った目でアナコンダを見下している。
(殺される……!)
覚悟したアナコンダだったが、
「やめてくださぁい!」
すんでのところで、サオがビショッポの足にしがみついた。
涙をぼろぼろ流しながら、
「どうか命だけはぁ!」
「クズに生きている価値はないよ」
「この人はバカだけどクズじゃないんですぅ。世間知らずの田舎者だから、悪いやつにも優しくしちゃうだけであってぇ」
「ふ。クズじゃなくってバカ、ね。そりゃおもしろい。こんなバカを生んだ親の顔が見てみたいもんだ」
「いないんですぅ」
「……?」
「アナコンダくんは、ご両親を魔物に殺されちゃってぇ……」
「!!」
しばしの沈黙。
台風一過のように、荒れた路地裏が静けさに包まれる。
が、大通りの方から、
「いったい何事だ?」
「誰かが戦ってるみたいなんだけどさ」
「警察は?」
「もう呼んだよ」
ちょっとしたざわめきが聞こえてきた。
すると、ビショッポはアナコンダの口から杖を出し、すたすたと歩きだした。
てっきりそのまま中年二人を、
(殺しちゃうのかなぁ……?)
びくつくサオだったが、ビショッポは濡れ雑巾のようなおっさんたちを一瞥すらせず、その場を去った。
ビショッポの背中を見送ると、サオはおずおずとアナコンダに近寄った。
熱血少年は仰向けになったまま動かない。
だが、騒ぎが大きくなる前に、この場を離れた方がいい。
「どこか痛むのぉ?」
返事の代わりにアナコンダは地面をたたいた。
「俺は……俺は……!」
想いが言葉にならないらしい。
サオはアナコンダを立たせ、肩を貸す。
大量の水を浴びて、二人はびしょ濡れ。
ただでさえ陰気な路地裏を、ぐっぽぐっぽ音を鳴らす靴を引きずりながら歩いていると、どんどん心が沈んでしまう。
目から涙がこぼれ落ちそうな、ぎりぎり限界のところで、
「俺、もっと強くなりたい……」
「うん……」
「だって、弱いと試験に合格できないから……」
「あぁ……そのことなんだけどさぁ」
「何だよ」
「今年は国家魔術師試験、中止だよぉ」
「……え?」
* *
「襲撃だ!」
アナコンダが敗北した数時間後――
王都の西のはずれにある監獄で、騒ぎが起こった。
「俺たちだけじゃ対応できん! 相手は魔術師だ!」
「クソッ……やっぱり魔術師なんてろくなもんじゃねえ。国家魔術師試験が中止になったのも当然だな!」
「応援を要請だ! 狼煙をあげろ!」
「ふざけるな。あんなちっこいガキ、俺たちだけで対処できなくてどうする」
「俺も国王陛下のために命を捧げるぜ」
「おい。早まるな!」
〔ホウサイ独房塔〕。
重犯罪者用の監獄として最も悪名高いいわれのひとつは、位置する場所が盆地にあり、夏は暑さが、冬は寒さが大変きびしいことにある。
独房内に冷暖房の設備はない。
まともな食事もあたえられないし、トイレや浴槽もない。
最悪な衛生環境下であることに加え、
「音も光もない……」
独房に全裸で収容される。
ゆえに、この監獄には入り口がひとつある他は窓すらない。
以後、刑期を終えるまで誰とも交流できないのだが、実際にこの監獄へ収監された犯罪者の中で1年以上生き長らえた者はいない。
地獄のような監獄は今日、たった一人の子供によって壊滅させられることになる。
「く、苦しい……」
突然の襲撃に対し、徹底抗戦の構えをとった刑務官たちだったが、その命はあっさり絶たれてしまった。
死因は溺死。
陸でおぼれてしまったのだ。
「生き残ってるやつぁいないだろうね?」
犯人である子供が自分のセリフに笑う。
(いたとしても、これだけ水びたしじゃあ狼煙をあげるこたぁできないか)
ビショッポだ。
例によって二杖流。
片方の杖を提灯へ持ち替えた時、
「あんにゃろ……」
手に痛みが走った。
軽いヤケドを負ったのは、数時間前のアナコンダとの対戦においてだ。
その時はすずしい顔で立ち去ったが、実はかなり我慢していた。
さて……。
〔ホウサイ独房塔〕は廊下でさえ、独房内へ光が入りこまないよう、一切の照明が設置されていない。
光を拝む〔ナマバ教〕が国教に指定されているドジョウ王国において、これは異様な光景だった。
「水鉄砲」
ビショッポは魔術で扉を破壊。
水も高圧で使用すれば、岩をも砕く破壊力を発揮する。
暗闇に包まれた空間を提灯の光で照らし、
「やっぱり、ここかい」
「ま、まぶしい……」
地下の独房。
一番厳重で一番暗い場所に、一番悪い犯罪者が収容される。
提灯の光によって浮かび上がったのは、しかし、人の姿ではない。
白い骨と、赤黒い臓物。
その周囲に、赤や青の線が無数にうねっている。
ところどころに黒い毛もある。
たとえるなら人体模型が最も近い。
「久しぶりだな、御頭」
「その声は……ビショッポか? やめろ。見ないでくれ……」
「すぐ支度しとくれ」
「見るなと言ってるだろう」
弱々しい声で嘆願する者は、身体を手で隠そうとするが、その手も肌が透明になっているから実質なにも隠せていない。
この特徴と、
「御頭」
という肩書きから、この半透明人間がネオン・ペドベッドであるとわかる。
盗賊団〔ペドベッド一味〕のリーダーだ。
長期間、暗いところに閉じこめられていたため、光に対して敏感になっている。
しきりに提灯を、
「わあぁ……」
まぶしがる。
こうなると見越していたビショッポは、
「ほら。黒いベールを盗んで来てやったよ」
「これだけ着用して外へ出ろと言うのか? 変態だと間違われたらどうするんだ?」
「変態じゃないか」
「そんな意地悪をしないで服をくれたまえ。それから……もしあれば……」
「化粧道具だろ。服も。ついでに藍用の杖も盗んでるさ」
「助かるぞ! ……ん?」
次々に渡される物品を喜んで受け取りながら、ネオンは透明の眉間にしわを寄せる。
「……? そもそも、どうやってここへ侵入した?」
「正面から」
「……刑務官は?」
「殺したよ」
にやりと笑うビショッポ。
ネオンが顔にぱたぱたと白粉を塗ったくるにつれて、次第に怒りの表情が浮かび上がる。
「〔ペドベッド一味〕は物を盗むが命は盗まない」
「あまちゃん」
「きみが血気盛んなのは元からだが、それにしても今日のきみはやけにイライラしているな? 何があった? 包み隠さず私に説明するんだ。思春期特有のイライラか?」
「さっさと服を着な」
「ごまかすな。私はきみの体に二次性徴が始まっているのを把握ずみだぞ」
「殺されたいのかい? おら。さっさと服を着なってんだ」
「きみを心配してるんだ」
ビショッポは鼻を鳴らし、
「大したことじゃないよ。ちょいとおもしろいやつがいたのさ」
監獄生活で筋力の衰えたネオン。
とろとろと服を着る間、ビショッポの話を聞いていた。
からんできた中年から、見知らぬ少年との裏路地での戦いまで。
すると、これがネオンにとっては大したことのある情報だったらしく、
「少年だ!」
またたく間に支度をととのえ、
「さあ。少年に会いに行こう!」
完全に元気を取り戻した。
ビショッポはあきれつつ、
「王子からの連絡をつけるよ」
「中年に興味はない」
ネオンはずんずん進む。
が、その足取りが、
「王位はプリケッツゴールド王子が継承するってさ」
という言葉によって、ぴたりと止まった。
しかも、
「国家魔術師試験は中止になったよ」
追い打ちまでかけられた。
「……それで?」
「始まるのさ」
今度はビショッポがずんずん歩き出し、
「国盗り合戦が」
(゜Д゜ ||)




