第025話 カツアゲするっきゃない!
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。
サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。
ジオ・サンコーザ……43歳。貴族の次男坊。筋肉質で、生え際が後退している。
ビリー・ブルドッグ……38歳。貴族の五男坊。アフロヘアーにだらしない体型。
ツェーマン・ベーション……〔杖のベーション堂〕の店主。元々は杖職人だったが、現在は射撃場を経営。
ビショッポ……チクニーダイアモンドから指令を受けた謎の子供。ウニのようにとがった黒髪に、つややかな黒肌。2本の杖を持つ。
「よ、サオ!」
アナコンダが訪れたのは、ツェーマン・ベーションが経営する射撃場。
先日の戦いで、かなり散らかってしまった射撃場だが……
「かなり片づいたみたいだな」
「アナコンダくぅ~ん」
サオがアナコンダに抱きついた。
「おい。やめろよ。汚い」
「ふえぇ~。そんなこと言わないでよぉ~」
サオは汗まみれだった。
いつものかわいい服ではなく、地味な作業服を着ている。
国家魔術師試験を受けると決意したはずなのに、こんなところでこんな格好で何をしているのか。
実は、これもれっきとした魔術の修業。
というのも……
「魔力は体力や精神力の向上に比例する」
だからチッチによって射撃場での労働を言いつけられた。
かつてツェーマンが杖職人として腕をふるっていた頃、チッチが上客だったこともあり、
「いいよ。サオちゃんのこと、こきつかってあげようじゃないの」
ツェーマンはこころよくサオを受け入れてくれた。
まずは、不良中年のせいで荒れた店内の片付けや修理。
それが終わると、今度は射撃場内の設備を作動させる仕事をいいつかった。
射撃場の様々な設備は、ハンドルをぐりぐり回すことにより、人力で動く仕組みとなっている。
サオのように日々をぬいぐるみ作りについやしているインドア派にとっては、
「ふえぇ~。なんでぼくがこんな目にぃ~」
毎日が地獄だった。
とは言え、それ以外に魔力増強の方法はない。
アナコンダはサオの体をじろじろ見ながら、
「少しは筋肉ついたか?」
「つけたくないんだけどなぁ~……あ! ぼくの体が今どんな感じなのか気になるぅ? なら、触って確かめてみてもいいよぉ?」
「どれどれ……」
「ひゃぁ!」
「逃げるなよ」
「だって、くすぐったいんだもぉん」
サオは喜ぶが、
「いまいち発達してないぜ」
「ゆっくりでいぃじゃぁ~ん」
「よくない! このペースじゃ試験に間に合わないだろ!」
ところが、サオは目を丸くして、
「あれぇ? ママから聞いてないのぉ?」
「何を?」
「やっぱりアナコンダくん、知らないんだぁ……?」
「だから何のことだよ」
と、そこへ――
ツェーマン・ベーションが、
「アナコンダちゃんじゃないの! 久しぶりだねえ」
笑顔で現れた。
しかし、
(気のせいかな?)
ツェーマンは顔色がさえず、背中を丸めて、いかにも意気消沈した様子だった。
一体どうしたのかと言うと、
「実はね……泥棒に入られたの」
「ふえぇ~!?」
サオも知らなかったらしい。
だが、サオはずっと射撃場にいた。
泥棒に気づかないはずがない。
「射撃場じゃないの。倉庫の方よ」
「何を盗まれたのぉ?」
「杖よ。昔ぼくが作った杖。売れ残りは全部、倉庫に保管しておいたんだけど、そこが荒らされてるの」
不幸中の幸いで、たった1本の杖以外に盗まれた物はないらしい。
金庫さえ手つかずだったとのこと。
ケガした人もいない。
それはよかったのだが、アナコンダはどうしても気になった。
「盗まれたのは俺の杖か?」
ツェーマンはアナコンダの才能に惚れこみ、アナコンダのためだけに特注品を作ってあげると約束した。
そのために、アナコンダは身長を測られたり、魔術を何百発も発動させられたり、大通りを何往復も走らされたり、必要なデータ集めにあれこれ付き合わされた。
散々苦労したのも、オーダーメイドの杖が魔力を最大限に引き出せると言われたから。
「あら。大丈夫よ。アナコンダちゃんの杖はまだ完成してないんだもん」
「早くしてくれ! 楽しみにしてるんだぜ!」
「まあ……急がなくていいじゃないの」
「試験は来週だぜ!?」
「……おや」
ツェーマンは意外そうな表情を浮かべ、
「アナコンダちゃん。知らないの?」
「じいさんも、それかよ。何だよ、俺が知らないことって?」
「そりゃもちろん国家魔――」
「あー!!!」
ふと気づいた。
「師匠から金をもらうのを忘れてたぜ!」
一文無しでは遊びようがない。
いったんアルージャン邸へ帰らなければ。
「せっかくここまで来たのは何のためだったんだよ! ったく。一瞬たりとも無駄にできないってのに。……いや、待てよ……」
アナコンダはサオの肩にぽんと手を置いた。
「ど、どうして見つめるのぉ~。ダメだからねぇ~。今月のおこづかいは残り少ないんだから、貸してあげらんないよぉ~」
「貸してくれとは言わないぜ。よこせ」
「ふえぇ~。カツアゲやめてぇ~」
口では嫌がるサオだが、アナコンダにポケットをまさぐられると、
「ふえぇ~……」
顔を赤らめている。
このままサオが押しきられるかと思いきや、
「うう……」
アナコンダがへたりこむ。
同時に、腹が鳴る。
空腹だった。
「遊ぶ前に飯だ!」
「それも結局ぼくが払うんでしょぉ~!?」
「おすすめの店を教えてくれよな!」
「ツェーマンさぁん。助けてぇ~」
ずるずる引きずられて行くサオ。
ツェーマンはほほえみ、
「ごめんなさいね。ぼく、警察へ行かなきゃいけないから、サオちゃんのこと助けてあげられないの」
「カツアゲのことも通報しておいてぇ」
「ふふ。本当に仲良しねえ」
「どこがぁ!?」
射撃場を出て、大通り。
快晴。
初夏の心地よい日差しが、ゆきかう人々の心と体をあたためる。
が、アナコンダの体内ではニョルモルモがのたうちまわる。
『こんなことなら尻から出とけばよかった!』
「何を食べようかなー。楽しみだなー」
『なあ。こっそりトイレ行って、わしをここから出してくれや。わしも美味いもん食いたいねん』
「軽くファストフードですませるか? いや、分厚い肉にかぶりつくのもいいよなー。デザートもほしいし」
『なにシカトしとんねん』
「サオの意見も一応聞いておくか。サオは何を食いたい?」
サオは答えなかった。
急に立ち止まり、そっぽを向いている。
(すねたのか?)
アナコンダは媚びるように、
「ちょっとしか食べないから! お金も来月……いや、1年以内には返すから!」
「……」
「なあ、サオ」
「あれ見てぇ」
「?」
サオが指を指したのは、店と店の路地。
「あっ」
アナコンダは驚くより、あきれた。
薄暗い路地裏にいるのは、
「またあいつらかよ……」
不良中年のジオとビリーだった。
アナコンダたちから数メートル離れている上、背を向ける形となっていたため、見られていることに気づかない。
射撃場で火の玉をぶつけられまくった際の焦げ跡はなくなり、すっかり回復している模様。
が、腐りきった性根は治らないようで、
「金を置いていけ」
ジオが杖を突きつける相手は子供。
同じくビリーも杖を構えて、
「ジオさんったら、お優しいこと。おい。ガキ。聞いたか? 金で命が助かるんなら安いもんだろ?」
「くく……ビリー。あまり怖がらせてやるな。ビビって声も出なくなっちまってるじゃないか」
「こいつぁ失礼しやした! げへへ!」
要するに、大の大人が二人がかりで子供一人を、
「カツアゲしてるんだ……」
「ださぁい……」
アナコンダもサオもドン引きだった。
もちろん、犯罪を見逃すつもりなどない。
自分たちと同年代に見える子供を救うため、路地へ足を踏みこんだ。
しかし、意外にも、
「あんたらが金を出しな」
どこに隠し持っていたのか、その子は杖を取り出した。
しかも、二本。
「お前、魔術師なのか……!?」
ぎょっとするジオとビリー。
「ってことは、国家魔術師試験に受験するつもりだったんだな!?」
「ジオさん。どうしやす?」
「かなり気は早いが、今のうちにライバルを潰しておくのも悪くない」
「同感ですぜ!」
おっさん二人が杖を構えた。
「まずいぜ……!」
アナコンダとサオは、思いもかけない展開に驚く。
今更ながら、あわてふためき、急いで杖の準備をする。
が、結果的には魔術を発動するどころか、杖を構える暇もなかったし、そもそもそんなことをする必要すらなかった。
なぜなら……
「噴水」
子供の放った水の激流がジオとビリーを襲い、
「お゛っ……」
「ん゛ほぉお」
中年二人は壁に強く打ちつけられ、地面に倒れて意識をうしなったのだ。
「すっげー……」
「ふえぇ~……」
アナコンダとサオは感心するあまり、まばたきも忘れている。
「サオ。見えたか?」
「すごい速撃ちだったねぇ。しかも二刀流ならぬ二杖流だよぉ」
「そんなこともできるんだな、魔術って」
「できるにはできるけど、よっぽどの技術が必要なんだぁ。あの子、ただ者じゃないねぇ」
「おもしろいやつだ。あ。あいつ、おっさんたちの財布を盗んでる。本当におもしろいやつだ」
おっさんたちのポケットをまさぐる子供は黒かった。
ウニのようにつんつんした髪の毛も、きめ細かい肌も、闇をたたえた瞳も、すべて黒い。
ただし、身につけているものは白いパーカーに紫のドカンパンツ、金色のイヤリングと、色とりどりだった。
そして性格はというと、
「お前、強いんだな!」
駆け寄ったアナコンダとサオに一切反応を示さず、黙々と盗みに精を出すような豪胆さだった。
アナコンダはうんうんうなずき、
「こいつら大人のくせにヤバイから、痛い目にあわせた方がいいぜ」
「で、でもぉ」
「ん?」
「盗むのはよくないよぉ」
「別に命まで奪おうってんじゃないんだ。それでこいつらが反省するなら安いもんだろ」
アナコンダは、財布を盗み終えた子供に向き直り、
「俺はアナコンダ・クーパー。国家魔術師に、俺ぁなる! よろしくな! それから、こいつはサオで……ま。こんなところで話すのもなんだし、どこかで飯でも食いながら話そうぜ。こいつのおごりで」
「ふえぇ~。ぼくのおこづかいの使い道、勝手に決めないでよぉ~」
「……おい?」
「ふえぇ?」
黒い肌の子供は、アナコンダとサオのやりとりをまるっきり無視して、2本の杖を再び構えていた。
その狙いは、気絶したジオとビリーに定められている。
「ど、どうするつもりぃ……?」
ここで初めて、二杖流の子供はサオと目をあわせ、
「死んだ方がいいやつらを死なせてやるのさ」
呪文を唱えようとしたが、
「待て!」
アナコンダが制止した。
もちろん、ただ言葉だけで凶行を止めることができたわけではない。
アナコンダの手には杖が握られていた。
例のカリフラワー形の杖が。
「確かに悪いおっさんたちだけど、命まで奪う必要はないぜ」
「あるね」
「なんで? どうして? 具体的に言えるか? 大切な命を奪っていい理由を」
「その大切な命ってやつを、こいつらぁ奪おうとしたじゃないか」
確かに、ジオとビリーは本気でこの子を殺すつもりだったし、発覚していないだけで、これまでに殺人の罪を犯してもいる。
そのことを、偶然からまれただけのこの子は知らなかったけれど。
とにかく、極悪で危険なやつらであるのは間違いない。
それでもかばうのであれば、
「あんたも同類と見なすぜ」
二杖流の子がすごんだ。
しかしアナコンダも熱血では負けない。
「家族をうしなう悲しみは誰にも味わわせたくないんだ」
「あまちゃん」
「甘くて結構。人を殺していい理由なんてないんだからな」
「殺さなきゃ殺されるんだよ……こんなふうに!」
突如として、攻撃の矛先はアナコンダに向けられた。
「噴水!」
杖から大量の水がほとばしる。
たかが水。
されど水。
体積のどでかい水は人間を吹っ飛ばすくらいの力を持っている。
幸い、サオが、
「生里芋葉!」
大きな葉っぱを大量に生成してくれたから直撃をまぬかれたものの、そうでなければ、
(俺だけじゃなくてサオまで巻きぞえを食ってたかもしれないぞ……!)
それも、骨折程度ではすまなかっただろう。
「俺はちょうど溜まってるんだ……」
むらむらと湧いてきた怒りに任せて、
「噴炎!」
アナコンダは炎を発射した。
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よろしくおなしゃす(*-ω人)




