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第015話 アナコンダの熱血推理

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。

ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。ショタコン。

フェニカイ・パンカ……ラトン町教会の神父。つるっぱげの老人。


 礼拝堂では、神への祈りがささげられている。

 フェニカイがありがたい話をする。

 町民たちは両手を組んで、熱心に祈る。

 この神聖かつ厳粛な場において不真面目な態度をとれるのは、ある意味、才能かもしれない。


「チッチに密告しないでくれて嬉しかったぞ♡」


 ネオンだ。

 アナコンダに腕をからめて彼女面。

 チッチに知らせなかったのは、


(少年が私を愛しているから……)


 だと思いこんでいる。

 しかしアナコンダは痴女を相手にせず、祈る。


「……少年。ガチではまってしまったのか? よせよ。宗教なんてくだらない。愛だの不戦だの、現実で通用するわけないだろう。はまるならお姉さんにはまってくれ。いや、お姉さんをはめてくれ」


 やがて一同はフェニカイの後に続いて工場へ向かった。

 フェニカイは溶解炉の近くの床板を外す。

 ちょっとした空間に箱が収納されていた。

 その中には杖や刀がわんさか入っている。

 もちろん、アナコンダやネオンの杖もある。


「今から、これを溶解炉へ投げこみます」


 フェニカイが宣言したタイミングで、


「さあ、おまつりの時間だ!」


 ネオンが指をパチンと鳴らした。

 それが合図となって、群衆の中で騒ぎが起こる。


「どいてちょうだい!」

「盗賊団のお通りだよ!」


 町民にまぎれこんでいた〔ペドベッド一味〕の連中が暴れだしたのだ。

 交通整理をしていた警察官が彼らを制止しようとするも、あっけなくどつき倒されてしまった。

 のんびり田舎ライフを送る警察にまともな戦闘経験値はない。


「杖のありかを探すのは手間だったよ」


 ネオンが杖の入った箱に手を伸ばす。

 フェニカイは身を挺して、


「武器は誰にも渡しませんよ。世界の平和を乱させないために」

「神父よ。私は高齢者男性に興味はない。抵抗するなら痛い目にあってもらうが、どうする?」

「死ぬことは怖くありません。私が目指すのは現世での幸福ではなく、死後、天国へ行くことなのです!」


 これに対し、ネオンが言い返すより先にアナコンダが、


「バカ!」


 この場の全員の耳をつんざくほどの大声で、


「あんたが死んだら誰がここの子供たちの世話をするんだ!」


 幸か不幸か、この言葉がフェニカイをためらわせた。

 そこに、すきが生じる。

 好機を見逃すネオンではない。

 ぱっと箱を奪うや、自分の杖を取り出す。


「運べ」


 ネオンのそばへ寄った部下に箱を投げる。


「御頭。ご無事でなにより。して、金目の物は?」

「なさそうだ」

「では参りましょう」

「うむ……いてて」

「腰を痛められたのですか?」

「ま、まあな……」


 言いつつ、ネオンはちょこまかと走った。

 部下が人々を突き飛ばして道を作る。


(今夜は上々の首尾だ)


 ほくそえむネオン。

 だが、しかし――


「お゛っ!?」


 走っている最中、何かに足をとられた。

 ネオンだけではない。

 共に逃走しつつあった一味全員が転倒した。

 箱は泥棒の手から地面へと落下。

 その衝撃でふたが開き、そこら中に杖がぶちまけられてしまう。


「ラッキー!」


 アナコンダはそのうちの一本をひろった。

 白に近いくらい薄い黄色で、先端部分がまるく膨らんでおり、まるで、


「カリフラワーみたいだな」


 ちょっとダサいが、何も無いよりはましだろう。

 これを構えて攻撃魔術を放とうとした。

 準備は完璧。

 すでにアナコンダの体内にはニョルモルモが挿入っている。

 だが、


「教会の敷地内で戦闘するなんて、許されませんよ!」


 フェニカイがアナコンダの服をつかんで妨害する。


「大丈夫。安心してくれ」

「しかしですね……」

「ちょっと〔火まつり〕するだけだからさ」


 この時。

 ネオンは、アナコンダが杖を手にしたのを目視しており、


「少年よ。しばらく気絶しててくれ」


 アナコンダに先制攻撃を加えようとしているところだった。

 アナコンダは急いで、


噴炎(オレオム)!」


 炎を放つ。

 これが自分でもびっくりするほど、


(おっきい……)


 のだった。

 例えば、対猪人族(ウリマン)戦で出した炎よりも、今回出した炎の方が遥かに大きい。

 ネオンが放った虫を焼き殺したまではいい。

 だが、このままではネオンたち盗賊団の命まで奪ってしまいかねない。

 急遽、火力を抑えなければならなくなった。

 微調整はアナコンダの不得意とするところ。


(もういっそのこと、めちゃくちゃ火力を下げてやる)


 思いきった判断をしたのだが功を奏した。

 あり得ないくらい火力を下げた結果、むしろちょうどいいくらいの火力になったのだ。

 ちょうどいいくらい、というのは、


「あちちち!」

「あぢぃ! あぢあぢっ」

「ひぃ」


 ネオンの杖、そして他の一味の武器や服を燃やし、なおかつ本人たちの体にはダメージを食らわせない程度、ということだ。


「今日は〔火まつり〕。武器を燃やす日……だろ?」


 アナコンダが不敵な笑みをフェニカイに向けた。

 ネオンたちは武器をうしない、戦闘不能におちいった。

 アナコンダは彼らにこれ以上の攻撃を加えるつもりはない。

 それにしても、


「なんであんなに、いっぱい出ちゃったんだろ……?」

「杖の紋章を確認してみろ」


 答えたのは、闇から、ぬうっと出てきた一人の女性。

 チッチだった。


「杖には、どの系統(カラー)に適しているかを表わす紋章が表示されている」

「なるほど……」


 確かに、杖には不思議な紋章がある。

 だが、アナコンダはまるで無知。

 紋章を見たところで、それが、


(レッド)向きのやつなのかわかんないぜ!」


 運よく、自分の系統(カラー)に合った杖をひろっていた。

 チッチは弟子の無知にあきれると同時に、その魔力が想像以上であることに舌を巻いた。

 さて。

 アナコンダが杖に見入って、ちょっと目を離したすきに、チッチは一味全員を蔓で拘束していた。

 彼らを転倒させたのも、もちろんチッチの魔術だ。


「教会を去ったはずじゃ……?」


 いぶかしがるネオンに対し、チッチは一枚の紙を見せつけ、


「私の弟子はバカなのか賢いのか、よくわからないやつでな」


 その紙には誤字だらけの汚い字でただ一言、


「教会に一味が盗みに入るから張っててくれ!」


 というアナコンダからのメッセージが書きつけられていた。


「少年……きみはお姉さんたちの計画に気づいていたのか?」

「熱血だぜ!」

「いつ気づいた? お姉さんに怪しいところはひとつもなかったはず……」

「存在そのものが怪しいから、最初から疑ってた」

「!?」


 存在自体はもちろんだが、それ以外にも不審な点はいくつもあった。

 例えば、腰を痛めたと言いながらベッドで安静にせず、やたら動き回っている。

 また、工場で男児に殴られた時、ネオンは喜ばなかった。

 普段は男子児童に夢中なくせして、その時ばかりは熱心に何かを探している様子だった。

 そして極めつけが、


「俺、パンツを履いてないんだ!」


 声高らかに叫んだアナコンダを、町民が呆然と見つめている。

 明らかに困惑した声でチッチが、


「な、何を言っている……? 推理はどうした?」

「トイレで脱いだ時に、パンツをはいてないことに気づいたんだ」

「話を聞け」

「夕べまでは確かにパンツをはいてたはず。それは師匠も知ってるだろ?」

「まあ、な……」


 化粧問屋にて、チッチは見たくもないものを見てしまっている。


「ここから、ある答えが導き出されるわけだ」


 アナコンダはネオンへ人差し指を向け、


「おばさん。あんたは俺のパンツを盗んで、そしてはいてる!」

「うっ……!!」

「俺のパンツは子供サイズ。大人のあんたにはきっつきつだ。あんたが前かがみなのは腰をケガしたからじゃない。俺のパンツの締めつけがきついからだ!」

「うわぁぁぁああ! つい、できごころで……!」

「いいや。計画的だった。あんたがケガしたふりをして教会にとどまったのは杖を探してたから。今夜、盗むためにな!」


 ネオンはうなだれた。

 どうやら推理は完全に的中しているらしい。

 ちなみに……

 アナコンダは自分の頭脳だけで推理をしたわけではない。


『わしのおかげやん』


 下腹部でニョルモルモが指摘した通りだ。

 アナコンダは教会の門前で気絶した際、目を開けていた。

 だからニョルモルモはアナコンダの視界を通して、ネオンの行動の一部始終を見ていたわけだ。

 ところが蛇人族(ニョルーマン)という種族は衣服を身にまとわない。


『あの泥棒がアナコンダから布切れを奪った理由は、さっぱりわからんかったわ』


 と、まあ、そういうチートはあったものの、ネオンの思惑に気づいたアナコンダは、教会を離れずネオンを監視する決意を固めたのだった。

 それにしても、


「貴様。私の弟子に手を出したのか……?」


 チッチは怒りを抑えることができない。

 ネオンはがくがく震えて、


「勘違いするな。パンツを盗んだのは確かだが、それ以上のことはしていない。いや、もちろん、したかったけども! 意外と神父が教会から出て来るのが早くて、ナニしている暇はなかったんだ」


 ネオンはわけもなく戯言を抜かしているのではない。

 部下が煙玉を放つまでの時間稼ぎのつもりだった。

 ところが、


「えい」

「お゛ぉっ!?」


 同じミスを二度も繰り返すほど、アナコンダはバカではなかった。

 一味の女の股間を杖で押しこみ、煙玉が排出されるのを防いだ。

 ネオンはこれを見て悔しがるどころか、


「いいな! 少年。お姉さんにもツッコミを入れてくれ!」


 とうとうチッチはブチギレた。


「昨日の私は甘かった……」


 一味を縛る蔓を太く生長させる。

 すると一味の体に蔓がきつく食いこみ、


「骨が折れる……あ゛っ」

「折れただろう?」

「お、折れちゃった……」

「これで逃げられないな」


 口から血を流しながらも、ネオンはしつこい。

 フェニカイに助けを求めたのだ。

 それも、チッチが教会の敷地内で魔術を使ったから、


「不敬だ! 国家魔術師失格だ! 杖を奪え!」


 と、自分のやっていることを棚にあげて、言いたい放題の主張。

 フェニカイは、しかし、町民をなだめるように、


「さあ、みなさん。〔火まつり〕の続きをしましょう」


 完全にネオンを無視した。

 それでもネオンが食い下がるので、フェニカイは仕方なしに冷たい瞳で犯罪者を見下すと、


「お嬢さん。次に変なことをしたら追放と言ったでしょう?」

「う……」


 何も言い返せないネオン。

 すかさずチッチが、


「こいつは他にも変なことをしていたのか? なら、もっと厳重に拘束しておかないとな」


 ネオンを縛る蔓に魔力を追加した。

 国家魔術師嫌いで敬虔で保守的な町の人たちも、さすがにショタコンで盗賊の犯罪者をかばおうという気にはなれなかったらしい。

 誰もがチッチとアナコンダの戦闘行為に目をつむった。

 一件落着。

 めでたし、めでたし。

 ……だが、悲しみを隠せない者たちもいた。


「アナコンダくん。もしかして……行っちゃうの?」


 教会のみなしごたちだ。


「国家魔術師に、俺ぁなる」

「さみしいよ」

「俺もだぜ」

「じゃあ、ここに残りなよ。またいっしょに遊ぼ?」

「熱血だ」

「え……どっち? 残るの?」

「行くよ」

「そっちか……」


 教会にみなしご仲間が増えることは、そうそうない。

 だからこそ彼らはアナコンダの登場をこころよく迎えいれたし、別れを言うのがとてもつらかった。

 悲しいのはアナコンダも同じだ。


「ここ、みなしごが多いんだ。俺と同じ。居心地がいいぜ!」


 その言葉は嘘ではなかった。

 心のどこかに、この地に留まりたい気持ちがある。

 だが、アナコンダは泣かない。


「じゃあな! 俺……熱血だからさ!」


これにて第2章完結です!

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