仕立てあげられた英雄
仕立てあげられた英雄
「もう一度言うわ。フミト、私の国に来ない?」
食事の配膳が終わり、ティアに初めてミソを渡したのでどんな味に仕上がってるかなと少しワクワクしながらスープをすすろうと器を持った瞬間言われ、危うく落とす所だった。
「えっと、観光か何かでか?」
「そーね、それもいいかもしれないわね。でも、そんなことで私がこんな事わざわざ言いに来ると思う?」
とぼけて観光と言ってみたけど、やはり本当に勧誘だったようだ。
「残念ながら思わないな」
「何が残念なのかわからないけど、どう?来ない?」
随分と適当なスカウトの仕方だ。今日遊ぶ?というような感じで聞いてくる。人の人生が大きく変わる変換点となる事をこれほど簡単に、いや、雑に誘うとはさすがに驚いた。
「あのな、いくら何でも適当過ぎないか?その誘い方」
「そう?それじゃ、艶っぽく行くわ。ねぇ、お兄さん、一緒に来ない?」
何処で覚えたのか手のひらを上に向け、小指からゆっくりと折りたたむ仕草をする。口はやや半開きで少し上目遣い。その手のお店で学んできたかの様な完璧な艶加減だった。年齢が魔法使いになった俺なんかは本来簡単に落とされるだろう。だが、今日に関してはどうも最初から警戒が最高値に達していた為、からくも耐えることができた。くそう、年下のしかもまだ高校卒業したばかりくらいの小娘に手玉に取られそうになるなんて。
「そ、そんな誘い方しても、理由も待遇もわからない状況でホイホイ答えは出せないよ」
「あら?私でも誘惑できちゃったのかな?」
「うるせー!」
どうやらバレバレだったようだ。ちくしょー。なんでか妙にドキドキしてる。小娘程度でこんなことになるなんて、この世界にサキュバスがいなくて良かった。いや、出会ったことが無いだけかもしれないが。まあ、小娘は訂正する。多少凹凸は少なめだが、元の世界でも綺麗系と言われる容姿と、愛嬌のある笑顔、引かれるのは仕方がないのかもしれない。
「そーねー、理由は貴方とだと楽しそうだからかな」
「おいおい、まだ俺で遊ぶ気か?」
「あら、楽しそうというのは本音だよ。それ以外には元だけど、同じ世界の人がいるのは安心するのよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
自分の意志で決めたとは言え、知っている人がいない世界に放り出されたのだ。3年経ったが、不安はあるのだろう。その気持ちはわからなくもない。
「それで、俺はどういう待遇になるんだい?」
「そーね、ダリアン、どのくらい行けそう?」
「准男爵号、いわゆる名誉貴族の位をお渡しすることは出来るかもしれません」
「はぁ!?」
いきなり突拍子もないことを言われ、間の抜けた声を出してしまう。平民が貴族になるのにはありえないほどの幸運と功績が必要になる。冒険者であれば冒険者としての功績と名声、技術者であれば、技術者としての功績と名声、商人であれば商人としての功績と名声。俺程度の功績や名声程度で1代限りとはいえ、貴族になることは不可能だと思っている。
「ちょっとまて、そこまで俺がしてもらう理由が今のだけじゃわからん。どうしてだ?」
いくら何でも破格過ぎる。国の貴族ってそんなにホイホイ作れるものではないはずだ。もしくは桜にはそれほど力があるのか?勇者とはそれほど地位が高いのか?
「いいじゃないの。そんなに高い事を言ってるようには思ってないしね。貴方のお味噌汁毎日飲みたいのよ」
「それ、俺のいた時代でプロポーズの言葉に使われてたぞ……性別は逆だが……」
俺がいなくなった日本でどのようなプロポーズになっていったかわからないが、使っている人はいると聞いていた。まさか、それをこの場所で聞く、しかも俺に向かって言ってくる人がいるとは思ってもみなかったが。
「そーなの?まあ、そう取ってもらっても良いよ」
「え?」
意表を突かれた言葉に俺はまた間の抜けた声を出してしまう。だが、桜のこの言葉で左右からの殺気が膨れ上がる。先ほどまでもほとんど感じられない程度ではあったが殺気が混ざっていた。だが、今は簡単に把握できるほどにまでなっている。非常にまずい。早めにこの会話は終わらせなければ。
「ともかく即答は出来ない。明朝答えを出すからその時にしてくれ」
「うん。わかった。さすがに私も言い過ぎたみたいでちょっと怖くなってたからね」
どうやら桜にもこの殺気は感じていたらしい。ダリアンさんも座っているのにすぐに戦闘態勢に移れるのではないかという形で止まっている。
さて、この二人をどうしたもんか、と頭を悩ませようとしたところで突然声がかかる。
「どうもー!ご協力お願いしやーっす」
「お、待ってたよ。結構遅かったじゃない」
どうやら、夜間歩哨の冒険者が来てくれたようだ。おかげで二人は怒りのタイミングをずらされた形になり、膨れ上がった殺気が薄れていくのを感じた。
「すいませんっす。数日前から怪我してるパーティー多くて回収手間取っちゃって。って、ひょっとしてグリフォン倒した英雄さん達っすか?」
助かったと感じていた俺の安堵から来た笑顔が引きつる。また面倒事か……?
「英雄かどうかは知らないが、グリフォンは倒してきたよ」
もうどうせ隠してもダメなのだろうと諦めて素直に話すことにした。煮るなり焼くなり好きにしろ!という気分もあったが、そのまま抵抗しないのも何か納得できない。
「おお!なら今日はお代はイイっす!噂でしか聞いてなかったんで、会えて良かったっすよ。しっかりと守りますんでゆっくり寝てくださいっす!」
そう言うと冒険者はさっさと次へと行ってしまった。ノンナを餌にしてさっさとテントに逃げ込む悪巧みをしていたのだが軽く済んでしまい、肩透かしを喰らう。
「何あれ?なんでフミト達はタダになったの?」
桜がそんな質問をしてくる。当然リーアとレンティも不思議そうな顔して俺を見ていた。
「グリフォンに痛めつけられたパーティーは今後のことを考えると今日の費用も抑えたい所なんだろう。それで支払う支払わないって揉め事が多かったんじゃないかな?それで、グリフォンを倒した俺達がいるって事をその支払ってないパーティーに言えば、安心料として徴収できるって所じゃないかな?」
「そんなもんなの?」
「そんなもんだろう」
食事の後片付けが終え、同じテントで寝るわけにはいかないので桜達は自分たちの野営場所に戻っていった。
「師匠、どうするんッスか?」
「まあ、魅力的な提案ではあるけど、無理だろうな」
「え?どうしてッスか?かなり美味しいお話じゃないッスか」
「考えても見ろ、俺が貴族様って柄か?」
「それもそーッスね」
「即答はちょっと気に食わないがそう思うだろう」
まあ、俺が貴族って言うのは自分でもおかしいと思う。歳相応になったらふさわしくなるのかもしれないが。第一土地を分け与えられて運営しなきゃならない身になるのなんて俺には本当に無理だと思う。いわゆる会社の社長なんだろう?そんなの俺には無理だ。大学では経済学部に入ったが、単位はギリギリ卒業を見込める程度しか学んでいない上に、いつも評価はギリギリ合格ライン。遊ぶために大学入ったと言われる様な俺に何を期待するんだよ。
話を終え、イオタは自分のテントへと向かう。だが、そこで聞き捨てならない言葉がつぶやかれた。
「おしいなー、貴族様ならハーレム作れるかもしれなかったのになー」
うぐっ!おい!イオタよ!去り際にうっすら聞こえる程度で危険な言葉を……。そう言えば、アイガーの冒険者ギルドのギルド長は3人目の奥さんをもらっていたはず……。3人目……。嫁が3人目。マドンナが3人目。天使が3人目。乙女が3人目。美人が3人目。婦人が3人目。ナイスバディが3人目。女性が3人目。異性が3人目……。
いやいやいやいや、冷静になれ。冷静になるんだ!ハーレムだ!いや、違うだろ!第一初婚さえまだな俺に貴族になったからといって着いて来てくれる人がいるかどうかもわからん。それにレーニアに居る知人、友人、従業員達を放り投げることも出来ない。レーニア周辺での准貴族という扱いなら乗るかもしれないが、現在帰れる場所と言うものができてしまった俺にとって他の土地で暮らすという事はそれ相応のエネルギーが必要になる。第一今のパーティーメンバーはどうなる?彼女達は冒険者としての金・名声・力を欲しているはずだ。ティアやナイア、ノンナに関しては名声より別のものを見出してる様なので気にしなくていいかもしれない。レンティも多分大丈夫だろう。ここ1・2ヶ月でかなり彼女の内面が見ることができた。多分、金づると言っていたのは全てではないが本心も混ざっているだろう。それはそれでいい。だが、リーアだけはまだ良くわからない点がある。食う為に冒険者になったのであれば、あそこまで必死にはならないだろう。逆にお金に執着してくるはずだ。力を求めてという事であれば、ハパロバについていくのが一番近道だと俺は思う。だが、俺達と袂を分かつ雰囲気も全くない。そう考えると多分、一度レンティが口止めされた件の事なのだろう。金でもない、力でもないと来れば、名誉だろう。何か大きなことを成し遂げ、名声を上げることがリーアにとっては必要になるのかもしれない。かつての仲間達の様に。
ここまで考えると嫌でも冷静になってきた。そうだ。俺は今のメンバーを放り投げることは出来ない。俺にとって名声は余り必要ない。正直、商品が売れるためにはと思わなくもない。前世では商品を売るために名前の売れた芸能人を使うことが多かった。あの人が使っているのならいいものなのだろう。大丈夫だろう。美味しいのだろう、等。だが、有名税というのか、プライベートが充実していたのかよくわからない。頻繁に結婚・離婚を繰り返す報道が多く聞こえた。ただ、報道があったため良く聞くことができただけかもしれないが。ただ、その様な自分の時間や仲間を売るという表現は適切ではないが、犠牲にしてまで金銭を稼ぎたいとは思わない。そして、俺は貴族になりたい為に行動しているわけではない。だから、明日桜に断りを入れなくては。
テントの中に入り、さっさと寝ることにする。今夜は歩哨も無いし、ゆっくりと出来そうだ。と、思ったが、ハーレムやらパーティーメンバーやらが頭に浮かび、結局朝までまともに寝ることが出来なかった。
「おはよう。桜」
「おはよー。なんか変に元気だね?フミト」
アクビと伸びをしながら俺に朝の挨拶をする桜。健康な青少年・少女は朝までぐっすりと眠れるのだろうが、それでもまだまだ寝足りないのだろう。
「おはようございます。フミト様」
「おはようございます。ダリアンさん」
そう挨拶をするとダリアンさんは俺に食材を手渡してきた。
「毎度ごちそうになるだけでは申し訳ないので、食材だけでもと思いまして」
「ありがとうございます。特に不足しがちな野菜をこんなに頂いていいのでしょうか?」
「はい。ティアさんの作られる料理はとても美味しゅうございましたので今朝も是非にとも思いまして」
「その言葉、ティアが喜びます。では朝食までどうぞ座って待ってください」
頂いた食材を持ち、ティアの元へと向かう。ダリアンさんが食べたのは昨日のティアが造ったミソ汁のはずだ。隣の国の人にもミソは受け入れてもらえそうだという事がわかり、大豆の輸入を少し期間を伸ばしただけだが、こちらの増産体制が整った後もしばらくはより増産していくために輸入を続けたほうがいいかもしれないな。
「フミトどうしたの?何か機嫌がいいみたいだけど」
若干不機嫌なティアが俺に質問をしてくる。不機嫌な理由は昨日の件だろう。まあ、皆が揃ってから伝えることでもいいだろう。だから素直に機嫌がいいことだけを伝えることにした。
「桜の執事みたいな人にダリアンさんっていたでしょ。その人がティアの料理が美味しかったって言ってたんだ」
「本当?」
「ああ、今聞いてきた。それのお礼と今朝もよろしくって事でこれだけ食材をもらうことができたよ」
「野菜をこんなに?いいのかな?」
「それだけ美味しかったってことだろう?どうせ2パーティー分だ、全部食べられちゃうだろう」
「フフッ。嬉しい。フミトの機嫌が良いのはそれ以外もあるんじゃないの?」
「あら?わかった?ティアの料理が美味しかったと言うのは間違いないのだけど、昨日はミソを使っていただろう?隣の国の人の舌にもミソが合うんだなって思ってね」
「なるほどね。美味しいって思ってもらったのと、増産しなきゃって思ったところかな?」
「よくわかったね」
「まあ、短い付き合いじゃないしね」
エルフにとって10年ちょいなんて短い付き合いなんじゃないかと思うのだが。森の外に出たエルフは寿命が少し短くなるとも聞いたことがある。まあ、500年の寿命が450年そこら程度らしいが。それだけ周りの流れが濃く、そして密な付き合いになるからなのかもしれない。
配膳が終わり全員が食べ始めたところで俺は桜に昨日の答えを伝える。
「桜、昨日の件、ありがたいことだけど遠慮させてもらうよ」
「やっぱりね。理由を教えてよ」
やっぱりと言った事は、桜も来ないことをわかっていて誘っていたという事か。
「理由はやりたいことも多いし、今のパーティーメンバーといることが楽しいという事かな」
「それなら貴族になってみんなお妾さんにしちゃえばいいじゃない」
「そそソそ……、そんなこと出来るわけないじゃないか!」
なんてことを言ってくるんだ!かなり驚いてしまったぞ!大丈夫。動揺はバレてないはずだ!
「なにそれ……。ちょっとは考えちゃったりしたんじゃないの?」
桜は呆れた顔して俺のことを見てくる。動揺したのも、昨夜寝れなく、朝が妙に元気だった理由も似たようなところにあるという事がわかっていたようだ。
「いやいや、そんなことはなイゾ」
あくまで紳士的な態度をとる。とれてるはず。うん。大丈夫。
「そんなに動揺するとこっちもいじりづらいじゃないの」
ほぅぁっ!ナンテコッタイ!バレバレだったのか!ふと少しだけ他のメンバーの方に視線を向けると、呆れた顔をしたティアやレンティの顔が見えた。なんか桜といると俺の地位がどんどん下がっていくような気がしてならない。だが、ふと先ほどの会話の中に違和感があったことに気づく。
「あれ?妾?という事は正妻がいるってことだよな?誰だ?」
桜がいきなり言った妾という一言。それが非常に気になった。話をそらすという効果を見込んでこの話に振る。まあ、動揺した話からさほど遠くないが直接的でないだけまだマシだろう。
「それね、さすがに私の国、碧玉の国の誰かじゃなきゃダメみたいなのよ。他の国の人を貴族にするにはその国の貴族の次女以下の人と結婚するのが手っ取り早いからね」
「なんだよそれ。手っ取り早いと言っても貴族じゃなきゃダメなのか?」
「そうでもないみたい。碧玉の国の人であれば、そこまで問題じゃないみたいよ。例えば私でもね」
「ちょっ!」
桜を止めようと、そして弁解しようと思ったが、背筋が凍り、声が止まってしまった。
「なんて冗談よ。まあ、私の国の人であれば誰でもいいというのは言いすぎかもしれないけど、ある程度の人であれば誰でもいいと言うのは本当みたいよ」
若干殺気が緩む。だが、まだ背筋が冷たいと感じる状態である。このままでは食事の味もわからないかもしれないので、さっさと桜にはっきりと断ることにする。
「桜、いいかげんに遊ぶのやめてくれ。俺は今貴族になる気はない。やりたい事や、離れたくない人達がいる。だから、そのスカウトは断らせてくれ」
「そう。わかったわ」
ん?やけにあっさりと引き下がったな。
「楽しいと思ったんだけどなー。意外と気が合うし。まあ、しょうがないよね。会ったばかりだし」
正直会ったばかりでも気を許せる人と許せない人と言うのはそこそこわかったりする。桜の場合は前者になるだろう。彼女の表裏の無い点はなかなか好感が持てる。だから、時間的理由で引き下がるのはいまいち納得できなかった。
「ミソを販売することができたら連絡ちょうだい。ガッツリ買っちゃうから」
「ああ、わかった。元の世界の味だもんな。桜はホームシックとかにはなってないのか?」
「うーん、何してるんだろうなーとは思うけど、自分で決めてこっちに来たからそこまでは無いかな?戻ったら若くなってるのもわかっちゃったしね。長期留学みたいなもんかな?」
「なるほどな。長期留学なら納得できそうだ」
「だから、留学先で持ってきたミソが切れちゃって、日本食が食べたくなる程度にはミソが欲しいのよ」
「必要不可欠とは言いがたい状況だな。でも、何となく理解した」
「そう?結構美味しかったから、欲しいのは本当よ」
「わかったよ。優先的に確保しておくよ」
「ありがとー!」
食事を終え、出発の準備をする。桜たちはもう何日かこの周りで狩りをするらしいので、ここで別れることにした。
「じゃあね、フミト。ミソよろしく!」
「ああ、またな桜。ミソは任せておけ!」
「貴方のこと諦めた訳じゃないからね」
そう言うと自分たちの仲間のもとへと歩いて行ってしまった。
「全く自分勝手だな」
その言葉が聞こえたのかわからないが、裏を向きながら桜は手を振る。まあ、冒険者を続けていればまた合うこともあるだろう。隣の国の勇者だから、ひょっとしたらもう逢えないかもしれない。そう思うと少し寂しい気持ちになった。
俺達もケイトウへと馬車を進める。ボルカ達を含めると16人、馬車2台。護衛のようなものだが随分と増えたものだ。
歩き始めてから少しするとナイアから質問が来る。
「フミトさん、ミソが出来た時にどうやって届けるのですか?」
そう言えばそうだ。考えたら桜の居場所がわからない。アホか俺は……。
「まあ、碧玉の国の王都に行くしかないだろうな」
「どうやって行くのですか?」
ナイアのこの言葉ですっかり忘れていたことを思い出す。俺が生まれた辺りで、碧玉の国は国同士の条約や法、何処の国にもある冒険者ギルドとの法を守らず、俺達の国に攻め込んで来たのだ。攻め込まれ、占領された街が現在国境の町と冠名を変えたオルティガーラだ。今までは最北の街と呼ばれていたが、それ以北にケイトウが出来てしまったので、名前を変えなくてはと言われ続けていたが、この事件の後名を変えることになった。オルティガーラは占領され、略奪、陵辱、虐殺が行われ、壊滅の危機に貧した。オルティガーラは広大な穀倉地があり、砂漠が国土の3分の1を占める碧玉の国にはとても魅力的だったのだろう。この国は正面から戦争をし、碧玉の国の王都まで攻め入り、滅ぼす寸前まで行ったそうだ。この時、裏で手引きしていたのが冒険者ギルドだとも聞いている。王都で占領下においた時、王や第一王子に虐げられていた第二王子が城の一室に隔離されていた。当時の王が面会するとかなり聡明な人で、この人ならば道を間違えることは無いだろうとの確信を得たそうだ。本来なら完全に占領でき、併合するつもりだった碧玉の国だったが、愚かな王と第一王子、その身辺で国税を無駄に浪費していた者達だけを討ち、俺達の国の指導の元復興していった国である。だが、未だに自由に国境を行き来することは出来ず、王都に通行許可証を貰いに行かなければならない。その時も、大まかな日程を申請し、その申請が通れば許可されると言うかなり厳しい状況となっている。行商や商売では余り許可されにくいらしいが、力試しにケイトウに来ると言うのは隣の国からも実力を認められた人ならば許可されやすいとは聞いたことがある。勇者もそれに漏れなかったのだろう。
「王都に許可証貰いに行かなきゃな」
「それでしたら、リスィのルートで行きましょう!」
突然レンティが話に割り込んでくる。
「どうするかな?俺の故郷のリモはダウラギリ山の東周り、リスィルートは西回り。悩むな」
「フミトさんの故郷ってリモだったんですね?」
「おう。田舎も田舎。農業と羊毛、あと羊皮紙以外は何もないとこだよ」
「でも、すごく古い街だった気がしますけど?」
「らしいな。王都と同じくらい古いらしいんだが、なんにも無い所でね、人がそんなに増えないんだよ。ただ良い所と言えば、ほとんど魔獣が出ない。それだけかな」
「魔獣がでないというのはすごいことですね」
「ここから考えればね。マルビティンやアイガーを作る時の拠点にはなったらしいけど、多分華があったのはその時期だけかな」
生まれ故郷の街を思い出す。しばらく合っていない友人、もう年老いたであろう家族、迷惑をかけた女性達、魔獣と初めて遭遇した森。何もかもが懐かしい。だが、まだ何者にもなれていない俺が故郷に寄ってもしょうが無いだろう。唯一の利点は羊皮紙が格安で買えるところか。今回結構使ってしまったから補充のために寄ってもいいが、リーアとレンティはまだかけ出して間もない。家族にも逢いたいだろう。
「よし、ミソ届ける時は西回りにする。ちょっとだけ日数増えるけど、依頼を進めながらなら問題無いだろう」
「ありがとうございます!」
リーアとレンティが二人そろってお礼を言う。やはり家に帰ってみたかったのだろう。この決断は良かったと思えるな。
歓喜天がいたわけではないのだが、ケイトウに着くまで全く魔獣と遭遇しなかった。ここまでグリフォンの影響があったのかと思うと、あの黒い個体はかなり面倒な奴だったのだろう。もしくは、ケイトウに戻るパーティーが多かったから魔獣が近づかなかっただけかもしれないが。
やはり街で体を休めるというのは違うのだろう。壁に囲まれ、安心できる場所で眠ることが出来るというのはかなり違うのだろう。だが、そんなに甘いことはなかった。
「英雄たちの到着だ!」
非常に嫌な言葉が聞こえる。誰だ?俺達の事を街に伝えやがった奴は……。
街の方から衛兵が幾人か走ってこちらに向かってくる。その中に見覚えのある奴もいた。
「フミト!またやったな!俺はお前がまた面白いものを狩ってくる事を信じてたぞ!」
うん。気分は最悪だ。またお前かゼリザ。人間拡声器とまではいかないが、お前が居ると余計な噂ばかり広がるような気がする。
ケイトウの北門を入った辺りにすでに人だかりができていた。
「新しい英雄の誕生か?!」
「誰がグリフォンを倒したんだ!?」
「え?グリフォンを?すごいわ!」
このままだとまずい!昔のドラゴンを退治した時を思い出す。あの時はダグラスに押し付けるというか、防具が派手だったから目立ったおかげでそのまま逃げることが出来たってだけだ。まあ、あの時はこっそり逃げたはずなのにメルトヒルデもピッタリと後ろに着いて来てかなりビックリした記憶がある。魔法戦士でそこそこ重い金属鎧を着ていた筈なのに音もなく着いて来たというのはなんて恐ろしい娘!って思わず声に出てしまった。
ふとそこで気づく。ん?派手な鎧?途中から御者席のティアの隣で座っているリーア。ここで頭に電球が光ったような気がした。
「リーア、そこで立ち上がって手を振るんだ!」
「え?え?はい??」
なんのこと?と思いながらゆっくりと立ち上がり手を振る。タイミングよく風が吹き、マントが広がり、牡丹色のワイバーンスケイルメイルと同色の盾があらわになる。
「おおおおお!!!」
「赤い鎧の英雄だ!」
「可愛い女の子だぞ!」
「なに?!美少女だと!?」
「かわいー!こっち向いてー!」
よし!作戦成功だ!ほとんどがリーアのことを見ている。少し視線をそらすとティアもおだてられて手を降っている。よし!このまま行けば俺のことは誰も気づかないくらいになるだろう。
「リーア、ティア、後はよろしく」
多分聞こえるだろう程度の声量で伝えるとフードを深くかぶり人ごみの中に紛れていく。冒険者なんかは珍しくない街である、人ごみに紛れれば簡単に目立たなくなる。メイン通りでは人ごみで歩きづらい。裏通りを通ってフェスティナ商会に逃げこむとしよう。
見物人に紛れ、人の間を縫うように進む。誰も俺のことを見てないことを確認してから馬車上のリーアとティアを見る。うん。予定通りあたふたしている。リーアのあたふたした仕草は結構かわいいから、そのうち下心たっぷりな男共かゼリザが仕切りだすだろう。もう少しの辛抱だリーア。
裏通りに入り、小走りだった状態から普通の速度に落とす。左右を確認し、こちらに注目している視線が無いことを確認し、フードを上げる。
「ふぅ。なんとか逃げ切ったな」
「そうですね」
「ほわぁっ!」
声のした方向に慌てて振り向く。そこにはナイアがどうしたの?って顔で俺のことを見ていた。メルトヒルデよりは隠密能力は高いだろうが、どっちにしても驚かされているのには変わりない。
「びっくりしたよ、着いて来たんだ」
「突然フードをかぶり早歩きで行くんですから、どうしたのかと思いまして」
あんな状況で俺を見分けていたのか、ナイアの観察力はすごいものがあるな……。
「まあ、英雄扱いされるのは好きじゃなくてね。ゼリザとかが居なければこっそりと入るつもりだったんだよ」
「そうじゃないかと思いました」
「バレバレだったのね」
「はい」
「他のみんなも気づいていると思う?」
「リーアさんだけ最初わからなかったと思います」
「あら……ノンナもわかってたんだ……」
「あの子たまに鋭い時ありますから」
「そっか。さて、フェスティナ商会に行こうか」
「はい」
俺とナイアがフェスティナ商会にたどり着いてからたっぷりと1刻かかってから4人は到着した。
疲労困憊のリーアから四半刻ほど説教喰らうとは思いもしなかったが……。
ここまで書かなくては、と思ったところまで書くと、どんどん思った文字数より増えてきてしまっています。もっと簡潔にしなくてはなりませんね。
暑くなって来ましたね。今年はかなり暑くなるようです。暑いからと言って冷たいものばかり食べると胃腸が弱ってより夏バテしやすくなるらしいので、鍋とまでは言いませんが温かいものも口にされたほうが良いですよ。他には夏野菜は水分が多めなので、若干体温を下げる役割があります。「秋茄子は嫁に喰わせるな」のような言葉がありますが、秋茄子も水分が多いので、妊娠中の女性に体温が下がってしまう野菜はオススメしません。と言う意味です。ナスと言えば、焼きナスに生姜と醤油があいますね。この生姜は、生で使うと最終的には体温を下げる役割があります。東南アジアの料理などでは生の生姜を多く使いますよね。乾燥した生姜の場合は体を温める役割があります。使い方次第では、暑いイメージの食材も体を冷やす役割があるので、食べ合わせと共に使ってみてください。
夏ホラー企画ですが、面白そうですよね。ただ、自分にはホラーの才能が無さそうなので、投稿することはないと思いますが、プロットだけでも考えてみようかと思っていたり…。




