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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
26/83

戦闘の慣れ

戦闘の慣れ


 ~~~~~


「ぐぁっ?!」

 視界が急激に変わり、右側に地面が見えた所で止まった。突然の突風に弾き飛ばされたようだ。晴天の空、多少風が強く感じてはいたが、こんな強い突風は今までに経験したことがなかった。全身を叩きつけられたようだ。まだ痛みが来ないのが幸いなのか、それほど痛くなかったのか……。いや、視界が追いつかないくらいに叩きつけられたのだ、痛みがまだ感じていないのだろう。何が起こったのか確認するために体を起こそうとした時に声が聞こえた。

「敵襲!!」

 敵?なんてタイミングで来るんだ。体がいうことを効かないじゃないか。クソっ!早く動きやがれ!

 何とかうつ伏せになり、無理やり体を起こす。まだ視界が定まらないが、パーティーメンバーが2人ほど剣を構えてこちらを向いている。

 2人だと?俺除いたあと5人はどうした?俺は最後尾にいたはずだから、少なくともあと4人は見えないとおかしい。

「デイル!後ろだ!早く構えろ!死ぬぞ!」

 俺に命令する声が聞こえる。目の前に居る2人が叫んでいるようだ。足元がおぼつかない中、剣を鞘から抜き、盾を構え、後ろに振り向こうとする。ゆっくりしか動けないのがもどかしい。だが、あそこまでメンバーが慌てているのだ、冗談ではないだろう。痛み始めた体を無理やり動かし、何とか振り向くことに成功する。

 だが、魔獣や盗賊等の脅威になるものが視界にいない。なんだ、たちの悪い冗談か?だが、あそこまで切羽詰まった声で冗談は言わないだろう。

 どこからか、風を切る強い音が聞こえる。まだ耳があまりしっかりと聞こえてないのが恨めしい。何も見えない恐怖から、盾をしっかりと構え、何時衝撃が来ても構わないように準備する。どこかで馬の鳴き声が聞こえた。後ろからじゃ無い。何処だ?と少し思考が蘇った所にまた衝撃が訪れた。

「グアッ!?」

 再度視界が急激に変わり、地面にたたきつけられる。今度は盾から左肩辺りに衝撃が走った後に飛ばされた気がする。だが、先程より滞空時間が長く感じ、叩きつけられた衝撃も強かった。

 何の衝撃が起きたのかさっぱりわからない。痛みも痛すぎて感じてないのか、消えている。体が言うことを聞かない。本当に敵襲のようなので、早く起きなければと焦るが、一向に体は動いてくれない。せめて音だけも情報として入れようと思ったのだが、衝撃のため、はっきりと聞こえる音が無い。

 今手に入る情報としては、空が青いというだけだ。それ以外は何も聞こえないし、何も感じない。こんな所を襲われたら俺は死んでしまうだろう。その死の恐怖から逃れるために、無理やり体を動かそうとする。手足が何とか少し動くことが出来た。盾を持っている左手が重いので、右腕を無理やり左側に這わせて行き、体をうつ伏せになるように仕向ける。

 両手が揃うくらいになった時、何とか体のしびれが取れ始め、少し自由になってきた。

 ようやくうつ伏せになり、ゆっくりと体を起こし始めた。

 まだ、体がいうことを効かないのでゆっくりとしか動けないのがもどかしい。早く敵を確認し、体制を整えなければならない。膝立ちになり、腰から無理やり体を起こそうとした時に、耳がだいぶ回復してきた。

「ぐ……う……」

 うめき声が少し聞こえる。そのうめき声の方に少し目を動かすとパーティーメンバーが一人赤く染まっていた。

 一気に思考が警戒モートになるが、体はまだ起こせるほど自由にならない。

 無理やり体を起こした時、とんでもない光景が目に入ってきた。

「何があったんだ……」

 最後尾にいたはずの俺は、4台あった馬車の最前列まで飛ばされ、その全容を見ることが出来た。

 馬車4台も一台は壊れ、二台は倒れ、そして、パーティーメンバー全員が倒れており、何人かはピクリとも動いて無い惨状だった。


 ~~~~~



「さて、出発しようか」

「はーい」

 ティモールさんにセイシュで迫られた翌日朝、俺達はレーニアに向かい、冒険者5人、馬車4台の体制で出発した。先ほどの脳天気な声は場上からノンナが。

「ノンナはやっぱり楽だろうね」

「多分楽かもー?」

「なら夜間の歩哨は長めだね」

「ええっ!それはないよー!お肌せっかく良くなってきたのにー!」

 微妙に違うポイントから講義を入れるノンナ。正直そんなこをするつもりはないけど。

「そう言うなら化粧水とか買ってきたのか?」

「えーとー……」

 全くこの娘は。女子力あげたいとか色々と言っていたのに、すっかりと忘れている。肌年齢は早めのお手入れが大事なんだよ?

「私は自分の肌に合う良い物買ってきました!フェスティナ商会にあったので、レーニアでも買うことが出来そうです!」

 リーアは色々と探してきたようだ。年齢でも肌が綺麗な状態なのに、温泉で磨き、更に化粧水で保つ。しっかりと女子の地力が付いているようだ。

「私の母親が愛用していた化粧水はまだ使いきっていませんが、フェスティナ商会で販売していた物を購入してきました。リーアと同じものでしたが、かなりいいものだと思います」

 レンティも女子力の点では気にしないで良さそうだ。美意識と言うものには幼い頃から学んできたようなことを言っていたはず。一安心というと上から目線になるが、男性の目線としても、将来は心配なさそうだ。

「やっぱり買ってなかったのですね?シザーリオにかまけすぎです!」

「ナイアちゃーん!貸してー?」

「ダメです!」

「そんなぁー……」

 会話に入ることが難しい内容になってきたが、平和な光景だ。女3人寄れば姦しいというが、この光景はやかましいより、微笑ましいと思えてしまうのは、年をとったからか?いや、30になったばかりでそう思うのはまだ早いだろう。まだ、おじさんと言われるとイラッと来る。うん。まだ若いと思っておこう……。


 結局、アピ周辺、森の中の街道では、先日遭遇したベア1匹以外、出会うことは無かった。やはり、ユーベル達盗賊団がいたからなのか、1日前に商隊が出発していたからか。素材による追加金が無いのは寂しいが、楽なのはいいことだ。


 昼食後、再度出発しようとした所に、グラスボアが遠くに見えた。

「グラスボアです。接敵7分ほど。少し体大きめですね」

「そーら、ノンナいってこーい」

「なにそれー!私ワンコ?」

「うん、ごめん。ちょっとふざけた。シザーリオとの初の実践もありかな?と思ってね」

「はーい。それじゃ、いってくるねー!」

「いってらっしゃい。ナイア、念の為にサポートよろしく」

「はい。わかりました」


 シザーリオにまたがり、槍を持ちキャンター(駈歩)でグラスボアに向かうノンナ。ナイアは念の為にロングボウ矢筒から外し構えている。正直全く不安になっていないが、初の実践だ。多少は気になっている。

 接敵7分とはグラスボアの足と、こちらの歩く速度での接敵時間であるため、馬との接敵時間であれば3分ほどだろう。ナイアも見てくれていることだし、あまり構えずにのんびりと観覧させてもらおう。


 グラスボアと接敵する直前、ノンナが槍をランスのように構える。シザーリオの後ろ足が大きく屈み、爆発的に飛び出す。キャンター(駈歩)からギャロップ(襲歩)へと移行した。初めは勢いで前足側が高い位置になっていたが、少し進むと前後が並行になる。そろそろトップスピードになるという所で、槍の先端をグラスボアに向け突きを放つ。

「ブギィィー!」

 ノンナの槍が当たった位置がグラスボアの右肩であったことが災いとなり、一撃で絶命できなかった。ここで否定的な意見を書いているのだが、その理由が右肩から右前足の部分が切り取られてしまっていたためだ。つまり今グラスボアは3本足になっている状態である。

 突進の勢いを殺すことが出来ないグラスボアはそのまま右前に勢い良く倒れ、既に虫の息となっている。

「あらー……。当たる位置が悪かったねー……」

「そうですね……。あれは少し可哀想ですね」

「一撃で足飛ばしちゃうなんて、かなりすごいことですよね?」

「……フミトさんの鉄はどうなってるのですか?」

「ごめん。俺もわかんない。だって、馬車に置いてあるバスタードソードはこんなこと無かったよ?」

 口々に感想を言い合う。正直ここまで切れ味が良いとは思ってなかった。イメージとしてはノンナが槍を相手に刺さった瞬間勢いに負けてやりを手放すという事になったであろう。それがどうしてかしっかりと切り抜いてしまったのだ。

「爺さん達何か細工したのかな……?」

「細工ですか?例えばどんな方法なのでしょうか?」

「いや、正直わかんない」

 ナイアが質問してくるが、こちらにも全く検討がつかない。一般的な日本刀や玉鋼がここまで切れ味が良くなると言うのは無いと思う。あったとしても元々対人武器であったはずなので、魔獣の骨を切り裂くということは到底出来ないと思っていた。

「もう、オーパーツになってるな……」

「え?何ですか?」

「いや、何でもない……」

 今度アピに行った時に爺さん達に販売を止めさせなきゃまずいことになるような気がしてきた。いや、レーニアから手紙で良いから一言送ろう。

 色々な感想が飛び交う中、ノンナはシザーリオをトロット(速歩)くらいに落とし、グラスボアに近づく。降りてから槍を振り下ろし、グラスボアの喉を切る。もう完全に身動き取れていないのでこのまま血抜きに移行してしまおうということだろう。

「さて、手伝いに行くかな」

「私も行きます」

 俺とナイアがノンナの元へと向かうことになった。


「ノンナ、お疲れ様。なんかとんでもないことになったな」

「うん!これすごいね!えいやっ!って突いたらスッと入ってサクッと抜けちゃったんだよ!」

「俺もそれに似た経験したよ。先日のベアの時がそれに近かった」

「だから、一撃で落としてしまったのですね?」

「そう。だから俺もびっくりしてたでしょ?ノンナもそんな気持ちだろ?」

「うん!まだ興奮してるもん!ホントびっくりしたよ!」

「少し恐ろしい武器を持ってしまった気がします……」

 今までの武器では到底出来なかった行動であるので、戸惑うことは当たり前だろう。更に色々とまずいことが増えそうで怖い。

「一つ心配事が出来たけど、その相談は夕食時で良いかな?」

「はい、私も何となく言いたいことがわかりました。全員揃った時のほうが良さそうですね」

「ん?どういうことなの?」

「夜説明するから、それまでは気にしないで良いのよ」

「はーい」



 血抜きを終え、内蔵を取り出し洗い、埋めた後素材を荷馬車に入れ、再出発をする。まだ野営地までは半日かかる。先ほどの光景を思い出しながら不安になる案件を想定しながら歩いた。


 野営地近くまで進んだ所、魔獣の襲撃があった。

「敵襲!左前!ウルフ10!接敵10分!」

「ちょっと多いな。そういえばレンティ、阻害系の魔法は使えるの?」

「阻害系ですか?」

「うん。障害を作るタイプとか、相手に絡みつくタイプとか、相手の体に効果を発揮するタイプとか」

「いくつかは使えます。ただ、命中精度は多分他の魔法と変わらないと思いますが」

「当たって何匹か行動不能になればいいやって感じで使ってみてよ」

「はい。わかりました。では中心で狙って5匹範囲に入る『スパイダーアンカー』を使ってみます」

「うん。よろしく。ということで、真ん中命中したら左右の5匹だけになると思う。運良ければ楽できるよ」

「命中させてくださいね、レンティさん」

「頑張ってみます」

「それと、ノンナ、シザーリオはジルフ爺さんに預けて今回は下で戦ってくれ。位置はレンティの左隣だ」

「はーい」

「爺さん、ギルン、よろしく」

「あいよ」

「それじゃ、行動開始!」


 こちらはリーアを先頭とした凸形陣で進み、接敵する時レンティの『スパイダーアンカー』が放たれる。

「4匹行けました!」

「了解!6匹来るよ!注意!」

 4匹は蜘蛛の糸に絡まったように絡めとられながら動きを止めている。魔法の効力が維持されるのは一般的には2分ほどだ。2分あればウルフ6匹なら殲滅できるだろう。

 残りの6匹が速度を上げ走ってくる。一気に距離を詰め、前3人の喉元へと3匹が飛ぶ。

 ワンパターンな行動なため、軽く避けつつカタナを出し、そして引く。ウルフの口元に刃先が入り、そのままの勢いで切れて絶命する。少しだけ3人の泥棒さんの日本刀使いの気分になる。

 リーアは、初撃を盾で躱し、そして盾で抑えこみ、長剣を振り下ろす方法で相手を屠っていた。

 左側から大きく回ってきた1匹がノンナに向かうが、飛びつく前に槍で突き刺されていた。

 ナイアは俺と同じように左側に避け、切り裂いていた。だが、その切られた隣から1匹のウルフがレンティに向かい飛びかかる。

「レンティ!」

 思わず叫んだが、レンティは短槍を使い、ウルフの攻撃を上手く交わしていた。どうやらリーアとの戦闘訓練が生かされているようだ。

 残念ながら、そのウルフを倒すことが出来ず、ナイアが後ろから心臓のあたりに向かい突きを放ち、絶命させる。

 最後の1匹はリーアが相手をしていた。ナイアのとどめとさほど差がないくらいに盾で一撃食らわせ、怯ませた後突き刺し絶命させていた。


「ふぅ。6匹はこれで終わりだな。さて、後4匹。待つか?」

「いえ、まだ時間はあるはずです。行って大丈夫だと思います」

 魔法の効果時間を考慮した答えがレンティからかかる。

「わかった。抜けてくるのも居るかもしれないから、注意しながら前進!」

 結局1匹もスパイダーアンカーから抜け出すことが出来ず、各個にとどめを刺された。


「レンティ、お手柄!」

「いえ、たまたま命中しただけです」

「そっちもだけど、ウルフの攻撃ちゃんと防いでたでしょ、そっちが一番のお手柄だよ」

 びっくりした後、少し顔が赤くなるレンティ。

「いえ、結局ナイアさんに手助けしてもらいましたし、大したことありません」

「そうではありませんよ。今までのレンティさんでは多分腕に噛みつかれるくらいしていたかもしれません。それが無傷で切り抜けられたということを評価しているのですよ」

「そうそう。行きの時に無傷で他のメンバーから助けが来ることを待つのが重要だって言ってたでしょー」

 俺以外のメンバーからも賛辞が飛ぶ。ますます赤くなるレンティ。

「……ありがとうございます……」

 小さな声でお礼を言うとうつむいてしまった。

「可愛いレンティをそれ以上いじめちゃダメだよ」

 と止めに入ったつもりなのだが、レンティが俺の後ろからポコポコ叩いてくる。うむ。とどめを刺してしまったようだ。周りから温かい目が後ろにと、呆れた目が俺宛に交互に向く。

「さて、ウルフを剥いちゃおう。俺は穴を掘ってるから他よろしく」






レンティは耐え切れなくなりました。


2016/01/04 三点リーダ修正

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