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従者の姉

 

「そういえば、君は自分の兄弟に興味がないんだね」


 ご主人様が、なんの前触れもなく突然に話を始めるのはいつものことだったけれど、お絵描きして遊んでいた子供みたいな僕に向かって急に真面目な声音で話しかけてきたものだから驚いた。


「見知らぬ人ですから、関係性はあるけど知らない相手に興味も何もないでしょう」


 急にこいつが今日から兄弟ですって言われる漫画は読んだことがあるけど、僕の場合それすら少し違う。


「それもそうだね、他人って感じるのは至極当然だ」


 目も合わさずにペンを動かす。なかなか上手くいかない。意見を求めるために聞いてみることにする。



「ところでこれ何に見えます?」



 絵をご主人様側に向けてくるりと1回転、彼は一瞥してこう言った。



「グリフォンか何か」


 グリフォンじゃない。


「カカオくん描いたんですけど」


 どうにも上手くいかない。僕はどうやら絵が下手らしい。

 輪郭からして何かわからない生き物になってきたとは思ったが、四足歩行の生き物に見えてしまっていたとは思わなかった。しかし、鷲の頭だか鳶の頭だかを持つ生き物に見えたのなら、まだ希望はあるはず。

 微妙な顔して自分の絵を眺めてみる。確かにカカオくんには見えなかった。

 それを見たご主人様は、悪い悪い、なんて心底思ってもいなさそうなことを呟いた後、僕の描いていた紙の端っこに、何か書き始める。


 スラスラと描かれていくそれは下書きも無いのに精密で、やけに写実的だった。


「わぁ、カカオくんだ」


 ご主人様は絵が上手い、初めて知った。じゃあ猫さん、次はわんこ、なんてリクエストをあげていくと、その様子が面白く見えたのかクスクス笑いながらも了承してくれた。

 楽しかった。


「ご主人は絵が上手いんですね、僕なんてカカドターニャの実ですらうまく描けなくて」


「なんでそれを描こうと思ったんだ」







 今日は食い意地の張ったカカオくんがどれだけの食料を胃に収められるのか実験をしようと思う。


 どうせなんでも食べるので、拾ってきた木の実から失敗作の薬品まで、いろいろとあげてみる。普通の動物相手だったら絶対のしないが、なんでも食べることができる(推定)カカオくんならきっと大丈夫。

 駄目だったとしてもきっと仕方ないで割り切ってしまう程度の中なはずだ。


「カカオくん、耐久実験だよ、まずはこの木の実から」


 はい、とて渡せば喜んで食べ始める。食べ終わってすぐにまだないのかと目の前で飛び跳ね始めるので可愛いと感じた。


 次々に渡していき、手持ちの数十個はあったリンゴほどの大きさの木の実が消えたので別のものを渡す。


 ぽんぽん渡したものが消えていき、だんだん飽きてくる。

 カカオくんは飽きずに今もなんかしら口をもごもごさせて食べている。こいつの胃袋はブラックホールだった。


 あげるものがなくなったところで終了。

 結果は測定不能ということにしておく。



 首を傾げてもうおしまいなのかという顔をするカカオに、もうないことをアピール。

 残念そうに肩を落とす彼もしくは彼女を見て、鳥のくせして器用なものだなと感想を抱く。



 ご主人様が帰ってきたので、お出迎えした後夕飯だか朝食だかわからないが食事を取る。

 既に朝日がのぼりかけていた。僕はそろそろ眠くなってきたので寝ることにする。夜行性になってしまったが、まぁ、昼に行動することもあるし、そもそもきちんと睡眠さえとっていれば問題ないだろう。


 生活リズムが狂いすぎているという自覚はあるが、直す気になれなかった。



「ガトー」


 寝に行こうと思って扉に手をかけたあたりで後ろから声をかけられた。言わずもがな声の主はご主人様だ。


「なんでしょうか」


 夜食でも作れと言われるのかと思って脳内で何を作るか思考に入る。クッキー、プリン…あ、りんご煮るかな。


「兄弟に会えると言ったら、君は会いにいくか?」


 思っていたのとは全く違う内容だった。


 ご主人様の質問の意図が全くもってわからない。『会えるとしたら会いたいか』興味はあれど、どちらでも良いのが本音なのだが、これはどう答えるのが正解なのか。ご主人様はどっちを望んでいるのか、全く検討もつかない。


 かといって僕が、あなたの思うままに、なんて答えることをこの人は望んでいないだろう。物と所有主の関係なのだからそれでもいいとは思うのに、微妙に嫌そうな顔することはわかりきっている。


「どっちでもいいです。興味ないので」


 本音を包み隠すより曝け出す方が楽だと思ったのでそう答えた。これは正解だったらしい。ご主人様は目を丸くした後、少し笑った。


「そうか……いや、なに、草の国の女王が……君の姉にあたる者が君に会いたいと、言っていた、なんて話を聞いてな」


「草の国……」


 聞き覚えがある。なんだったか。

 少し考えてうんうん唸っていると、ご主人様が助言した。


「エイリィのやつに連れられたイベントに、出ていたから、聞き覚えがあるのだろう、見たこともあるはずだ」


「見た目は全く覚えてないのですけど、そういえばそんな方がいましたね」


 本当に興味ないんだな、なんて言われた。その通りである。


「そんな凄そうな方が僕みたいな失敗作同然のモノに?」


「そんな蔑んだ言い方しなくてもいいのになぁ……元々君の兄弟たちはお互いのことをどうとも思わない奴が多いんだが、君の姉だけ別でな。兄弟仲良くは夢なんだそうだ」


「仲良くするのは構わないんですけど、わざわざ会いにいくほど親しくする気もないんですけど……」


「君らの兄たちもそんなノリだったらしい。まぁ、伝聞でしかないから、本人たちが本当にどう思ってるかなんてわからないんだがな」



「ところで、夜食食べます?」


「食べる」


 寝るのは遅くなったし、兄弟についての話も結局なあなあで終わった。


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