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■第三十二章:あとがき

この物語を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


まず、お詫びをさせてください。この物語は、決して読みやすい作品ではありませんでした。主人公・朝倉新五郎の行動原理は、倫理や常識の枠組みから見れば、まごうことなき「狂気」だったかもしれません。タイムリープという奇跡を使い、圧倒的な知性と経済力、そして周到な計画をもって、最愛の女性の人生を先回りし、自分の用意した箱庭へと完璧に閉じ込めていく――それは純愛の皮を被った、あまりにも重く独善的な統制劇でした。


それでも、あなたは最後まで読み切ってくださいました。そのことに、まずは心から感謝します。


――しかし、その物語の芯にあるものは、決して嘘ではありません。


実は、この小説に描いたいくつかの過去――主人公が学校の統廃合により、小学三年生の時に出会った初恋の記憶や、高校生の夜に自宅電話から彼女にかけ「大学生になったら付き合ってほしい」と交わしたあの約束の温度は、私自身の現実の記憶です。


彼女は、私が決して及ばないほどの努力家でした。彼女の知能や知性は、私の知る限り常人のそれではありませんでした。だからこそ、物語に登場する狂人である私をも受け入れるだけの器があったのだと、私は信じています。彼女は「大学に入ったら」という言葉を、ごく当たり前のように受け入れました。当時、大学に進むことは今ほど簡単ではありませんでした。その言葉を当然のように受け入れた彼女は、決して私のような凡人ではなく、大学に容易に入学できる学力と知能を備えていたのでしょう。


彼女は、私が未来人だと告白したときも、最初は驚きながらも、最後には『その話、もっと聞かせて』と言いました。これは、彼女が私の狂気を理解しようとしたのではなく、私という人間を理解しようとしたのだと思うのです。彼女の理解力は、恐らくこの程度はあったと、私は信じています。


もし彼女が今もどこかで生きているなら、この物語を読んだ時、きっとこう言うでしょう。『シンゴロちゃん、やっぱり変な人ね』と。そして、それこそが、私にとっての最大の褒め言葉なのです。


現実の私は、物語の主人公のような圧倒的な能力を持っていません。時間を巻き戻すこともできなければ、巨万の富で世界をねじ伏せることも、完璧な要塞で災害や理不尽から彼女を完全に守り抜くこともできませんでした。


ままならない現実と、取り戻せない時間の残酷さのなかで、ただ一つ残されたのは、あの頃交わした約束と、決して消えることのない記憶だけでした。


もしも、タイムリープという奇跡が許されるのならば。もしも、あの頃の選択をすべてやり直して、彼女のすべてを自分の手で守り抜くことができるのならば。


この物語は、そんな叶わない願いと、どうしようもないほどの執着を、フィクションという魔法の器に流し込んで形にしたものです。


主人公が作り上げた箱庭は、歪で、醜く、そして狂気に満ちていました。けれど、その底にあった「彼女を失いたくない」「もう一度あの横顔に出会いたい」という切実な想いだけは、まぎれもなく本物でした。


非常に自分勝手でエゴを最大限にしている主人公ですが、もし私があの立場であったならば、可能な限りの勉強や資格取得など、自分を追い込むような努力を惜しみなく行うことでしょう。数十年の「喪失」と「失敗」をなかったことにするには、恐らく過剰なまでの準備が必要です。自分の幸福――そして彼女の幸福――という極めてエゴイスティックで狂気的な行いを成し遂げることしか、私にはできなかったのだと、今ではそう思います。


主人公が未来の知識を資金の拡大のためにほとんど使わなかったのは、金を追うことが目的ではなかったからです。彼は「彼女と共にいる」という一点にすべてを収束させました。その一点に集中するために、それ以外の選択肢をすべて捨てた。それが、彼の狂気の形であり、同時に彼の誠実さでした。成功した投資家は世間に知られる存在になってしまう。彼は、そのような「雑音」が彼女との関係にとって猛毒であることを知っていたのです。彼女と居られればいい。それ以外の極端な名声や富は、彼にとって不要なものにすぎませんでした。


彼の愛は、歪で、醜く、そして狂気的でした。けれど、その愛の根底にあるのは、ただ一人の人間を永遠に想い続けるという、驚くほど一途な心でした。


この物語は、そんな一つの愛の形を描いたものです。多くの人にとっては受け入れがたいものかもしれません。しかし、それでもこの物語が、誰かの心のどこかに、小さな響きを残せたのなら。それだけで、私は十分に報われます。


最後に――この物語を最後まで読み届けてくださったあなたに、もう一度だけお礼を言わせてください。

そして問いを投げさせてください。


本当に、ありがとうございました。


「あなたの『たったひとつのほしいもの』は何でしょうか?」



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