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冒険者  作者: sai


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1

真っ白な部屋で目を覚ました。


「……ここはどこだ?」


辺りを見回す。


あるのは、ただ白い壁だけ。


広さはバスケットコート一面ほどだろうか。長方形の部屋には、家具も扉も窓も何ひとつない。


今朝は……誰かに起こされた気がする。


朝飯は食べたっけ……?


……思い出せない。


不思議なことに、それほど焦りはなかった。


とりあえず壁を叩き、床を踏み鳴らし、部屋中を歩き回ってみる。


隠し扉でもあるかと思ったが、何も見つからない。


気が付けば、一時間ほど経っていた。


「飽きた。……っていうか暇すぎる。」


しばらく天井を見上げたあと、思い切り叫ぶ。


「だれかーーーー!! いませんかーーーー!!」


…………。


返事はない。


自分の声だけが部屋に響き、すぐに消えていく。


「……寝よ。」


考えても仕方がない。


俺はその場に寝転がり、不貞寝を決め込んだ。


◇ ◇ ◇


「葵!! 起きなさい!!」


「……今日休みだから寝かせてって言ったじゃん。」


「そのあとバスケに行くから起こしてって言ったのはあんたでしょう! 早く準備しなさい!」


「昼過ぎからって言ったよね……。まだ寝る。」


「あっ、そう。じゃあ朝ご飯なし、お小遣いなしでいいのね?


ちょっとお使いに行くだけで、ご飯代がコインからお札に変わる予定だったのに。」


そう言いながら、母は財布から千円札を一枚取り出した。


給料日まであと四日。


今月は友人の結婚式が二件もあり、希望を持って挑んだパチンコも見事に敗北。


残り一週間を二千円で過ごさなければならない、非常に厳しい財政状況だった。


「お母様。何をご所望でしょうか。」


二十三にもなって小遣いをもらうのか、なんて声が聞こえてきそうだが関係ない。


千円あればタバコが買える。


コーヒーも飲める。


俺は欲望に正直なのだ。


「コンビニで支払いしてきて。そのついでに朝ご飯と、あんたのタバコも買っていいから。」


「おかあさまーーーーっ!」


犬なら尻尾を千切れそうなくらい振っているだろう。


俺は一瞬で飛び起き、一分で支度を済ませ、母から支払い用紙とお金を受け取る。


……もちろん、膝をついて頭まで下げた。


その瞬間だった。


まるで待っていたかのように、家の悪魔が姿を現す。


「お兄ちゃん♪ 買い物行くの? しかもお金までもらって? 二十三にもなって?」


追い打ちをかけるように嫌味を連発しながら現れたのは妹の茜。


十六歳。


近所でも学校でも、


「可愛い」


「優しい」


「頭がいい」


と評判しか聞かない。


……百歩譲って頭がいいのは認めよう。


ズル賢い、だけどな。


(俺、今まで何回こいつに利用されたんだろ……。)


「妹よ。私はお母様から重大な任務を仰せつかっている。時間がない。また帰ってから話そうではないか。」


勢いだけで言い切り、そのまま逃げようとした。


しかし。


妹の必殺技が放たれる。


「お父――」


「うぐっ!」


なんとか口を塞ぐことに成功した。


うちの父親は、とにかく妹に甘い。


少しどころか、かなりおかしい。


「分かった! 分かったから! 何が欲しい!」


「じゃあね、お兄ちゃん♪


茜、イチゴのアイス食べたいの。


もちろんハー〇ンダーツね?」


……やっぱり悪魔だ。


◇ ◇ ◇


コンビニで用事を済ませた帰り道。


いつものように、広場の片隅へ向かった。


そこには、愛犬・はなの墓がある。


「はな。また茜にパシられたよ、俺。」


この土地は祖父の所有地だ。


祖父もはなをとても可愛がっていたため、ここに墓を建て、そのまま残してくれている。


俺は昔から霊感が強い。


たまに見えるし、感じることもある。


そして、この場所に来ると、ときどき、はなの気配を感じられるのだ。


「おっ、今日はいるな。でも何で姿を見せてくれない?」


家族の中で、一番可愛がっていた自信がある。


ほかの霊はたまに見えるのに、はなだけ見えないのは少し寂しかった。


だが今日は違った。


いつもより騒がしい気配が辺りに満ちている。


次の瞬間。


目の前に、はなが姿を現した。


そして俺のズボンの裾をくわえ、必死に引っ張る。


「はな! やっと出てきてくれたのか!


どうして今まで姿を見せてくれなかったんだよ!」


嬉しさのあまり、周囲のことなど完全に頭から消えていた。


はなに引かれるまま立ち上がる。


その瞬間――


凄まじい衝撃が全身を貫いた。


視界が白く染まり、


俺の意識は闇へと沈んでいった。

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