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死霊術師放浪記  作者: アケチカ


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2/2

悲しくなんかない

ブックマーク、評価ありがとうございます。


「少年のご両親はここにおいでだろうか」


 女性の声がけに周囲はざわつき、皆が釣られるように後ろの方に目をやった。あいにく俺は振り返ることすらできないので気配でしか分からないが、授業参観のごとく、俺の親も授けの儀とやらに参加しているようだ。

 誰かが指をさす。


 親。親かぁ。全然記憶にないぞ? 男子高生である俺の家族情報、今の男児の家族情報、どちらもない。それどころか、この子の記憶も感情もまるっとない。

 赤ちゃんで転生して、今俺の意識になったのか、組み伏せられた時に俺が憑依した形なのか、今もってよくわからん。

 とりあえず、死んだ記憶はない。


「あぁあの、いや、違うんです!」


 気弱そうな男性の声が響き、場は一気に静まり返った。


「違うんです……大司教様」


 震える男性の声に、白い法衣をまとった女性はゆっくりと腕組みを解きながら「わかっていますとも」と深く頷いた。


「あなたがたは何も悪くはありません。すべて女神ウカノロス様の思し召しです」


「え、えぇ! その子は、そう、拾い子なのですよ。あ、雨の日に。妻に、子供ができなくて、それで、放っておけなくて。な、なぁ、お前」


「う、うぅぅ」


「お、俺は大工だし妻は裁縫師だし、か、関係ないですよ」


「あぅぅ、ひっ、うぅ」


 男性の声のあとに、すすり泣く女性の声。

 いや、どう聞いても実子だろ。何さくっと俺たちは関係ないです発言してんだ。まぁ、所詮は子供の命より自分たちの安全か。どうやら、「私たちはどうなってもいいから、子供だけは!」という展開にはならないらしい。


 心に冷たいものが降り積もりはするものの、悲しくはない。この子の記憶も感情もないから、他人事として聞いていられる。一緒にいた記憶と感情があったら、今ごろ俺は泣き叫んでいただろう。

 悲しくはない。悲しくはないが、切ない。この広い場所にたくさんの人がいるのに、誰も俺を助けようとはしてくれない。


 拘束スタート。この先に待ち受けるのは、死か、追放か。


 いや、あんまりじゃなかろうか。


「それでは、この私が預からせていただきましょう」


 大司教様と呼ばれた女性がほほ笑みを深くした。


「死霊術師とはいえ人の子。この手で救えるやもしれません。慈悲深き女神ウカノロス様のお導きにより、じっけ、コホン、対処致しましょう」


 おい、今実験って言いそうにならなかった? 人体実験とか勘弁してほしいんだけど。


「は、はい。お願いします」


 俺はあっさりと売り渡された。いや、引き渡された。女性、たぶん母親の咽び泣く声が聞こえるが、俺の名を呼ぶことも、駆け寄ってくることもない。

 そして、俺も彼らを呼ぶことはなく、泣くこともできないでいる。涙って出ないもんだね。


 俺を押さえていた人たちに引っ張り起こされる。騎士、いや、兵士だろうか。どうやら俺は屈強な男二人に押しつぶされていたらしい。

 ふにゃふにゃの幼児に何たる仕打ち。腕は引っ張っただけで抜けるんだぞ。無防備な膝小僧から出血しているのが見える。


 うむ。しっかり幼児だ。見下ろす自分の姿はちんちくりんに小さい。白い靴下、小さな黒い靴。胸元には黒いリボン。女児と違い、男児は白と黒が基本のようだ。

 両脇から抱えられ、ぷらんぷらんしたまま運ばれていく俺。無駄に冷めているというか、まだどこか他人事だ。いや、痛いけどね、あちこち。


 人垣が俺たちを避けて割れていく。泣き崩れた女性と、寄り添う男性が目に入った。たぶん両親だろうが、なんの感情も湧いてこなかった。そんな子供を見て、彼らは何を思うのだろうな。広間から連れ出されながら、そんなことを思った。



「しかし、泣きもせずおとなしいな、こいつ」


「状況がわかってないんだろ、まだ五歳だし」


「それでも怖がるとかしねぇ?」


「手間がかからなくていいじゃねぇか」


 両脇の兵士がそんな会話をしながら俺を運んでいる。どこへ連れて行くんだろう。牢屋とかかな。

 ……ってか、俺五歳なのっ!? 五歳って、こんなちっちゃかったっけな。小学校前か、こんなもんか。


 廊下をズンズン歩き、とある部屋に入る二人。もちろん俺も連れ込まれる。

 来客室、待合室的な場所かな。向かい合ったソファーとその間にローテーブル、仕切りの奥には簡易キッチンらしきものがあるのが見えた。


「おい、血が垂れる」


「あ〜、回復させとくか。死なれても困るし」


 俺を降ろした二人のうち一人が、ベルトに付いていたポーチから小さな瓶を取り出した。大人の親指くらいの小瓶だ。


「そら、飲め」


 ぐいっと差し出される。勢いに後ろに仰け反るもそのまま口に突っ込まされそうな勢いに、慌てて手を伸ばした。

 うわ、手首にガッツリ指の形にアザがある……。

 受け取った小瓶の中には緑色の液体が入っていた。


「それ中級だろ。高いやつ」


「初級なんざ持ってねぇよ」


「まあ、俺も持ってない」


「どうせ支給されんだからいいだろ」


「それもそうか」


 支給品だからとホイホイ高額なものを使うのはどうなんだ。話の内容からして、俺の怪我程度は初級で治るということか。

 まあ、飲みますけど。俺の懐は痛まないし。

 蓋は押すと横にスライドして開いた。意を決してひと思いに呷る。うーん、マズイ。甘くて苦くて喉にギューッと来る。

 だが効果はすぐに現れた。体の中がぽかっとして、痛みが引いていくのが分かる。手首に付いていたアザが消え、膝からも跡形もなく擦り傷が消えた。顎の痛みも、背中の痛みも消えた。

 異世界回復薬スゴイ!


「よし。座ってろ」


 兵士が指さしたのは床だ。分かってますとも。犯罪者的な扱いですもんね。ソファーには座らせてくれないよね。俺はちんまりと体育座りになった。その両脇に男たちが立つ。


 俺、これからどうなるんだろう……。

お読みいただきありがとうございます。

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