痛覚から始まる
痛い。
いや、痛いな。
え? めっちゃ痛いんだけど!?
頭とお腹と背中がぎゅーぎゅーと圧迫されている。痛いし苦しいし、真っ暗だし……。なんだコレ、え、俺まさか死ぬ? そんな、まだ……。
〇〇してないのに!
とか言おうと思ったが、思い付かない。というか、思い出せない。
マジか。
名前……名前が出てこんぞ? あ、でも、現役男子高生! 帰宅部! バイト先は某ファーストフード店! よーしよし、ちゃんと覚えて……ないな。それ以上出てこないんだけど。なんで? 頭打った?
とりあえずあちこち痛いんで体をよじろうとしたが、それすらできない状況らしい。金縛り? 金縛りなのか、これ。えーと確か脳は起きてるけど、体は寝てる的な……。あ、足はちょっと動く。バタバタできる。
うん? これ今俺うつ伏せか?
つか、これ以上圧迫されたら穴という穴から色々出そう!
お、落ち着け。金縛りとか、ベッドのすき間に挟まってるとか、た、たぶんそんな感じでしょ。いや、俺いつ寝たっけか? こうなる直前まで、何してたっけか。
とりあえず、目を開けるんだ、俺!!
「残念だ」
不意に凛とした声が聞こえた。と思ったら、周囲のざわめきも耳に届き始めた。早鐘を打つ自分の鼓動の音のほうがうるさいが。
少なくとも周囲に複数人がいる状況のようだ。俺の部屋ではなさそう。じゃあ、どこだここ。
なんとか目を開けることができた。すぐ近くに地面があった。ザラザラとした石畳だ。それが人工物だと分かるのは、ちょうど真っすぐな継ぎ目がそこにあったから。うーん、天然石かな……。大理石ではないっぽい。
とか言ってる場合じゃない。
痛いと思ったら、そんな石畳に俺は思いっきり押さえつけられているようだった。後頭部に誰かの指が食い込み、石と接触している顎は割れてるんじゃないかと思うくらい痛い。
お腹と背中が痛いのは、乗っかられて膝で押さえつけられているからだろう。背骨が折れそうだ。
ついでに両腕は背中側で拘束されている。
乱暴すぎやしないだろうか。俺が何したっていうんだ。炎上もんだぞ、これ。そんなヤバいことしたの、俺? こんな事態に陥っている原因に関する記憶が全然サルベージできないんだけども。
「まことに残念だ、少年」
再びの声。女性の声だ。聞いたことがない、若い女性の声。
必死に目線を上げると、正面に腕組みをした女性が俺を見下ろしていた。彼女の左右におじいさんと、ふくよかなおっさんが並んでいる。
三人とも白い、法衣、というんだろうか、全体的に長めで、金銀の刺しゅうが入っている衣装を着ていた。どう見ても宗教的な偉い人っぽい。
真ん中の人は超美人だ。プラチナブロンドの腰まであるゆるふわの髪、鼻筋の通った濃いめの化粧、そして。組んだ腕に押し上げられこぼれる胸部装甲。でけぇ。
……いや、見るでしょ! 目に入るんだもん、見るでしょ! 無駄に胸部分だけピッチリした衣装なんだもん!
ていうか、女性の俺を見下ろすその視線はゴミか害虫を見るときのものだ。まさか思考を読んでいるわけではあるまい。蔑まされて喜ぶとか興奮するとか、そういう性癖はないからやめてほしい。
ていうか! 今少年って言った!? 視線の先にいるのは俺ってことは、俺のこと言ってるよね? 生まれてこの方、年相応にしか見られたことないんだけど! 男子高生に「少年」はないだろう。いや、青少年……少年で間違いではないのか……?
ところで、顔が固定されているから横目でキョロキョロしてるんだけど、俺の左右には七五三のごとく服に着せられている幼児と呼んでも過言ではない背格好の子供たちがいるではないか。
フリフリのついた白シャツと、つるつる膝小僧もまぶしい短パンの男児。肩ベルト、白ソックスに黒のソックスガーター。いわゆるこれがショタか。
女児はバレエの衣装みたいなのを着ていてカラフル。髪に花を飾るのが流行りなのか、マナーなのか。一丁前に化粧もしているようだ。
怯えたような目で俺の方を見つつも距離を取っている幼児たち。いくつぐらいだろう。保育園とか幼稚園とかそれくらいかな。身近に幼児がいないもんで、よく分からんのだが。
しかし、女性の言葉と並びからいって、俺ってばショタ化してるんじゃあるまいか。
ていうか、今さらだが、これ異世界よな? 大聖堂的な場所っぽいし。いや、大聖堂あるけど、地球に。一般男子高生に壮大なコスプレドッキリとか有り得んもんな。こっそり移動させて場所用意して幼児集めてよりはまだ異世界転移、転生? のがしっくり来る。この場合、憑依か。え? てか、俺死んじゃった!? 死んで、おこちゃまになっちゃったの!?
俺が内心愕然としている間、周囲はざわめき続けている。腕組みした女性は、タイミングを見計らっているのか、言葉もなく薄い笑みを浮かべて俺を見下ろしているだけだ。
……正直めっちゃ怖ぇ……。
法衣を着た三人の背後には白くて大きな女神像がそびえていた。両手を広げて天を仰ぐその姿は、地面からなめるように見上げている俺には巨大な力そのものにしか見えない。
ところで、俺はどうして拘束されているのだろうか。
その答えは、次の女性の言葉で知れた。
「この聖なる国アンビヤクノスの光り溢れる都、聖ジリアン。その中枢にて神聖な光り輝く女神ウカノロスの御わす聖ジュノ教会において、死霊術師が授けられようとは……」
どうでもいいけど、聖とか光多いな。くどくね?
ていうか、死霊術師とな!?
え、それ俺のことだよな? それでこんなことになってんの? 意味わかんないだけど。
死霊術師、カッコイイじゃないの。
「恐ろしい! 良くないことが起こるのでは?」
「授けの儀で、斯様に穢らわしきジョブを得るとは!」
「災いの兆しに違いない!」
「ああ、女神ウカノロス様! 私たちをお救いください!」
周囲からそんな声が聞こえてくる。
つまりはそういうことらしい。
俺のせいじゃなくない? それとも俺が願ったから死霊術師になったとかいう理由? ついさっきからの記憶しかないんで、責任取れと言われても困るのだが。
お読みいただきありがとうございます。
不定期で書いていきます。




