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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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10/28

視界

黒沢は、一人で会議室にいた。


『全社司令室』

ホワイトボードに残された文字。

だが部屋には何もない。

机一つ。

古いノートPC。

権限なし。

部下なし。


外では現場が回り続けていた。

怒鳴り声

通知音

走る足音

東堂の指示

熱狂

その熱で膨張している。


黒沢はPCを開いた。

面接前から集めていた情報

入社後に渡された内部資料

それらを並べていく。


株式会社REVERSE

設立七年

店舗数四十八

年商七十四億

普通なら、

すでに組織化が始まっている規模だった。


黒沢は組織図を開く。

代表取締役 御堂

その下に並ぶ部署

「運営」

「商品」

「人事」

「開発」


終わりだった。

少ない。

異常なほどに。


経営企画‐なし

財務部‐なし

店舗支援‐なし

労務専任‐なし


金回り

投資

出店

利益設計

その全てを、

御堂が直接握っていた。


黒沢は次の資料を開く。


部署KPI


運営

店舗売上

前年比

回転率

ランキング


商品

粗利率

在庫滞留率

買取単価

在庫回転率


人事

採用数

離職率

定着率

評価ランク


開発

新規出店速度

坪売上

投資回収率


全てが数値化されていた。

いや。

“数値しか存在していない”。


黒沢はさらにスクロールする。

『人員配置基準』

売上一千万円につき社員一名。

さらに。

『スタッフ含む総人件費率 10%以内』


黒沢は無言になる。


ありえない。

この規模で、

この人件費率は成立しない。

普通なら、

現場が崩壊する。


だがREVERSEは回っている。

いや。

“回し続けている”。


黒沢は理由を探る。

店長は一店舗一人。

副店長なし。

複数社員体制なし。


つまり。

店長一人が、

店舗全責任を持つ。


売上

買取

SNS

教育

シフト

クレーム

数値管理

全部


黒沢は、

ゆっくり息を吐いた。


脳裏に、

現場の光景が浮かぶ。


閉店後も数字を見続ける店長。

休憩中に買取相場を確認する社員。

SNS更新をしながら接客するスタッフ。

あれは努力ではない。

常態化した過負荷だ。


黒沢は背筋に、

薄い寒気を覚えた。


人件費率10%

黒沢はそこで手を止めた。


以前にも見た数字だった。

人が熱狂し、その後壊れる職場で。


さらに別シート。


月間ランキング

店舗順位

個人順位

達成率

前月比

粗利

SNS反応


毎月更新

毎月競争

毎月表彰


ランキング常連だけが、

大型店舗へ異動する。

池袋

新宿

秋葉原

横浜


そして。

黒沢の視線が止まる。


異動履歴


昇格者

大型店舗配属者

エリア責任者候補


その全員に、

ある共通項があった。


『御堂面談済』


黒沢は次々と履歴を開く。

全員だ。

売上を上げた人間。

ランキング上位者。

急成長した店長。

必ず一度、

御堂と接触している。


直接。

短時間。

だが確実に。


黒沢は社員レビューを開く。

『社長に名前を呼ばれた』

『社長が数字を見てくれていた』

『社長に次を任せると言われた』

『社長に期待してるって言われた』

どれも短い。

だが、熱量だけは異常だった。


そして黒沢は気づく。

東堂も同じだ。

あの男もまた、

“選ばれ続けた側”なのだ。

御堂に見出され。

期待され。

任され。

結果を出し続けた。

まだ壊れない。

化け物だ。


黒沢はそこで理解する。


御堂は、

全社員を見ているわけじゃない。

“上がる人間だけ”を見ている。

そして。

必ず接触する。

期待

抜擢

未来

特別感

それを与える。


逆に、

名前が消えた社員には、

記録が残っていない。


黒沢は静かに椅子にもたれた。

なるほど。

この会社は、

人を定着させているんじゃない。

“選ばれたい人間”を、

走らせ続けている。


その結果。

人件費率10%

異常利益率

高速出店

少人数運営

全部が成立している。


御堂は、

金も、

数値も、

人も、

全部握っている。


だが。

それを組織ではやっていない。

“視界”でやっている。


見えている人間だけを、

燃やし続ける。


その瞬間。

黒沢の中で、全てが一本に繋がった。

この会社は、御堂の処理能力そのものだ。

御堂が見えている間だけ、成立する。


そして、

見えなくなった瞬間、崩壊する。


黒沢は小さく呟いた。

「……これか」

その時

会議室のドアが開く。

神谷だった。


「まだいたんですね」

黒沢は画面を閉じない。

神谷は画面を見て、

少しだけ眉を動かした。

「……そこまで見ますか」

黒沢は組織図を見たまま答える。

「問題点が分かりました」

神谷は黙っていた。

黒沢は静かに続ける。

「この会社、組織で回ってません」

「御堂さんが、直接“燃やして”回してる」

神谷は否定しない。

その沈黙だけで、十分だった。


外では、

今日も東堂の声が響いている。

現場は熱狂している。

だが黒沢だけが、

その熱の中心にあるものを見ていた。


才能でもない。

情熱でもない。

“選ばれ続けたい人間たち”だった。


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