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第34話 霞とほのぼの出来ないお昼休み

その日の昼休み——

最近の昼休みは俺の高校生活にとって一番の癒やしの時間だ。

霞の手料理が詰まった弁当を、彼女と二人っきりで話をしながらゆっくりと楽しめる時間。そして今日も、俺はいつものベンチに座り彼女を待っていた。


「恭介、おまたせ」


その声の方へ顔を向けると、霞が家で見せる優しい笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってくる姿がある。

彼女は慣れた様子で俺の隣に腰を下ろすと、大判のハンカチに包まれた弁当箱を手渡してきた。

この弁当箱は彼女とペアだったりするのも俺は嬉しい。


俺と霞は同時に手を伸ばしそっとお弁当の包みをほどくと、いつもの昼食の時間が始まった。


「いつも弁当…ありがとな」

「いいのよ、今はまだこんな事でしか恭介に尽くせないもの」

「こんな事って……これ相当凄くない?」

「そうかしら?でも私はもっとあなたに尽くしたいわよ?まだまだ全然足りないって思ってるわ」

「霞、そんな尽くしたいって言われても……俺、困る……」


平気でそんな事を言う彼女にドキドキするのもいつものこと。

なんだかんだ彼女も俺に買われたことを常に意識してしまっている証拠だろう。それが本当にもどかしい。

むりやり彼女に尽くしてもらう事なんて俺は望んでない。


「そもそも、恭介が私を抱いてくれないのも私が尽くせない原因なのよ?溜まってるなら別の方法で処理するとかでもしてあげるのに……」

「ブフッ!?ゲホッゲホッ……かっ霞!食事中!!」


処理って言葉に反応しすぎて、喉に米粒が飛び込み思わずむせてしまう。今日も彼女はアクセル全開。学校も家も関係ない。


そんな事言ったら想像しちゃうでしょ!?せっかく忘れてたのに!溜まってるのは間違いないけど……ってか最近霞と同棲はじめてから自家発電も……っていかんいかん……


「前に言ったでしょ?そもそも私は尽くすことが好きなのよ。だから最近は欲求不満気味ね」

「お前なぁ………」


尽くされたいよ?本音はね?なんなら甘々にイチャイチャしたいよ?付き合ってたら…


ペースは絶対崩さない彼女の心意気は流石だ。

そんな彼女に半ば呆れ気味に目線を向けると、彼女は少しうつむいて話の舵を切った。


「そういえば今日、楓凄かったわね……」


やっぱりこの話題は避けて通れないよなぁ……

そんな事を思う。霞に相当睨まれていたことも知ってるし。


「そうだな…まあ、丸く収まってよかったよ」

「恭介の誤解が解けたのは安心したけど、私は逆に心配事が増えちゃったわ」

「心配事?」


俺はその言葉が指す意味がまったくわからず、眉をひそめて首をかしげた。


「恭介は楓に変な気を起こさないとか言ってたクセにこの数日で彼女のおっぱい揉んで、ハグもして……次はキスかしら?それともセックス?」

「かっ、霞!?そんなことしないって!どれもアクシデントだっただろ!?」

「そう?本当にそう言い切れる?もし楓が全裸で抱いてって迫ってきたら恭介はどうするのかしら?」

「バカッ!?そんな事あるわけないだろ!?」


いやいや、あのスポーティー元気っ子が全裸で抱いてって言ってくるシチュってどんなのよ!?それはマジで想像できないって!


俺の答えに不満があるのか、彼女は口を尖らせてジト目で俺を見てくる。


「だからあなたのそういう所が心配なのよ……私の前から急に居なくなったりしないでね?」


どこかいじけたような口調の彼女。なぜそうなるのか俺には理解が出来ない。ただそんな彼女を見たくないから全力で否定する。


「だからそんな事しないって!その……俺は霞のご主人様なんだろ?ならずっと一緒だろ?普通……」


言ってるこっちが恥ずかしい。こんな不器用な言葉しか言えない俺だが、彼女は笑顔を取り戻してくれたようだ。とりあえず一安心…


「……そうね、私はあなたのモノだものね♡」


そう言って彼女はそっと俺の肩に頭を預けると、どこか遠くを見つめるような目でぽつりと昔話を語りはじめた。


「恭介覚えてる?昔あなたが私の代わりにクラスのみんなに怒ってくれたこと………」

「………会議の事か?」


それは俺も鮮明に覚えている。

この学校に転校してきてまだ間もない頃。霞がクラス委員に任命されて何度目かのクラス会議での出来事。

文化祭の出し物の会議でクラスがまとまらず、霞が苦戦しているのを見ているのが辛くて勝手に身体が動いていた。


たった一言『柴乃宮が困ってるだろ?協力するなら意見出せ、しないなら黙って従ってろ。中途半端なのが一番ダリぃんだよ』と言っただけでクラスは静まり、スムーズに会議が回った。まあそこから俺へのヘイトが強くなったんだけどね。

今思えばもっと言い方があったとは思うけど。


その頃から既に俺は彼女に惹かれていた…


「そう。覚えててくれたのね、あの時は本当に助かったわ……今日の恭介もあの時みたいだなって思ったら懐かしくて」

「そうか?今日はだいぶキョドってたぞ?」

「そうかしら?少なくとも私は格好いいって思ったわ♡楓に嫉妬しちゃう位に……」

「おい、マジで照れるからそれで終わりな……」


霞には敵わない。そんな事言われて嬉しくないわけないだろ。

思わず緩んでしまった頬を隠すように俺はそっと視線を膝に落とす。

すると不意に霞の手が俺の肩を軽く叩いた。


「恭介、口元にご飯粒付いてるわよ?」

「えっ、マジ?」


俺がそれを取ろうとするより早く、霞の手が俺の口元にそっと伸びてきた。

そして、その指先が俺の唇の端に触れる。

思わずドキッとして顔を上げると、そこには照れくさそうに笑う霞の顔がすぐ目の前にあった。



     チュッ♡



ためらいもなく彼女の唇が静かに俺の唇に触れた。

その瞬間、世界の音が消え時だけが止まったような錯覚に包まれる。

思考も感情も追いつかず、俺は瞬きさえ忘れてただ目の前の彼女の美しい顔を見つめていた。


「……霞?おまえ……」

「ふふっ♡」


言葉を振り絞ってもそれが限界。続けられない。


「恭介、私だって嫉妬はするのよ?ご主人様の学校で初めてのハグも、おっぱいを揉まれる経験も楓に取られちゃった……だからキスは私のモノ♡」

「キスはって……誰か見てたら……」

「見られたって私はいいわ。それくらいの覚悟はあるもの」

「その覚悟要らなくない!?」

「ぐだぐだ言わないの!いいじゃない、誰も見てなかったんだから!………それとね……」


また吐息が触れる距離まで迫ってきた彼女は、微笑を浮かべながら背筋が凍るような言葉を俺の耳元に落とした。


「どんな理由があったとしても楓とエッチしたら、()()()()()()……」

「…………………………………はい。」


こっっっわ!?…………霞ぶっ殺すって言葉使うの!?そもそもそんな事起こらないって!


すぐにニッコリと笑顔に変わった彼女は、何事もなかったように弁当をつつきはじめる。


「ほらっ恭介、手が止まってるわよ?」


そんな彼女の声に反応して、俺も震える手で無意識に箸を進めはじめるのだった。


その日、俺は初めて学校で生徒会長とキスをした——



次回:生徒会長と委員長とほのぼの放課後カフェ


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