第33話 これって修羅場?朝から委員長はぶち切れ
体育祭まであと2日、木曜日の朝——
俺はいつも通りに霞と時間差登校をして朝の教室に足を踏み入れた。
自分の席までいくと、鞄を下ろして席に着く。
しかし今日はなぜかいつも以上に居心地が悪い。
それに違和感を覚えた俺は周囲に意識を張り巡らせた。
するとやけに多くの生徒がこちらを見ているような気配を感じ取った。そのとき、不意に耳に飛び込んできたのは誰かのひそひそ声だった。
(ねぇ鷹村君、暴力ふるって楓怪我させたんだって。丸山くんが言ってたよ)
(鷹村が昨日楓に抱きついてセクハラしたらしいぞ、最低だな。丸山が言ってたぞ)
あーそういうこと。影響力ある人って怖いね、しかも噂が盛られてるし……事実も混じってるから余計タチ悪い……
まあ俺の事なら別にいい。ほっとけばそのうちみんな忘れるから。
そう自分に言い聞かせて感覚を遮断し、外の景色へ意識を移そうとした。
しかし、クラス中に響く大声に俺の意識が引き戻されてしまった。
「あぁぁぁもう我慢出来ない!!!あったまきた!!みんなして鷹村の悪口言って恥ずかしくないの!?ちゃんと見たの!?そんなの全部嘘よ!丸山の!!」
俺の心臓が跳ね上がる。その声はクラスの中心辺り、急に椅子から立ち上がった楓から出ていたから。
「鷹村はね…あたしが練習でコケちゃった時に怪我しないように自分からあたしの前に倒れてギュッて受け止めてくれたの!!それで怪我したかもしれないあたしを抱えて保健室に連れて行ってくれて、ずっと心配してくれて……それは柴乃宮さんも見てたでしょ?ねっ?」
「……ええそうね。楓は間違ってないわよ」
楓のその問いに霞は冷静に答えた。
でもギュッは余計かも楓……ギュッは……
「この中に柴乃宮さん以外で鷹村とちゃんと話したことある人いる?いるなら出てきなさいよ!」
静まりかえるクラス。焦り始める俺。これは予想外でぇす…
「いないでしょ!話した事もないのにみんなで勝手に鷹村のこと悪者にして!鷹村はみんなよりずっと強くて、優しくて、格好いいんだから!!鷹村を悪く言うならあたしが許さない!!」
………まてまてまて、楓それは言い過ぎ。嬉しいけど。というかクラス煽っちゃダメ!
焦りながら霞と楓の顔を交互に見る。既に泣きそうな顔をしている楓に霞はなぜか小さく笑顔を向けていた。
「なにが丸山よ!みんなあいつのこと知らなすぎ!昨日、鷹村呼び出して急に酷いこと言ったのよ!なんて言ったと思う!?それはね……!!!」
「楓!ストップ!!ちょっとストッーーープ!!それ以上はいかん!」
俺は無意識に席を飛び出て楓の元に走り、両肩を押さえて彼女をなだめていた。
流石にここで丸山の立場を崩したら楓が危ない。
あいつ、めっちゃ性格悪いから。それだけはわかったから……
(鷹村!?)
クラスがざわめく中、そんなのも気にせずとにかく肩をさすって楓をなだめ続ける。彼女は本格的に涙を浮かべはじめてしまう。
「気を使ってくれてありがとな楓。でもここでそれ言っちゃうとほら、色々さ、な?」
「だって………だってみんなが……鷹村はそんなんじゃないのに……」
「わかったから。お前がそう思ってくれてるだけでも俺嬉しいから、な?」
「たかむらぁ、でもぉ……あたし悔しいよぉ!!」
「おいっ!?楓!?」
急に俺に抱きついて泣き始める楓。それを見てクラス全体が焦りはじめているのがわかる。
そもそもクラス委員長であり学校で有名な美女に入るであろう楓が泣いてるワケで、それだけで説得力が半端ない。
そしてひとりだけ殺意が籠もったような鋭い眼光を向けてくるヤツも……もちろん霞……
これどうすればいいの!?これ修羅場!?俺マジで何もしてないじゃん!
なんて思うがどうしようもない。いまだに俺に抱きついて泣く楓の肩をポンポンとしながら、俺が考え得る最良の言葉をクラスに投げようと思った…
「えっとぉ………みんな……」
だが言葉がでてこない。パニクりすぎて頭が回らない。何この状況……
俺はもう開き直って心のままに声を上げた。
「あのさ……俺を悪く言うのは全然いいんだけど、楓がこんな風になるのはみんな嫌だよな?友達だろ?楓も悪くないしみんなも意図的じゃないワケだし……みんな仲良くしような?」
はい、何言ってんのか自分でもわかんない。
でもなぜか伝わったっぽい。ぽつりぽつりと名前も覚えていないヤツから俺に向けて言葉が飛んでくる。
「ごめんなさい鷹村君……」「そうだよな、わるい、鷹村……」
そんな中、俺は話し続けた。
「俺じゃなくてさ……楓の事を気を使ってあげてくれ。あと楓も感情的になってみんなに色々言っちゃったんだからごめんなさいしような?」
俺の必死の説得。笑えるほど幼稚なその言葉でもクラスは受け入れてくれたのか、楓にも『ごめん』という言葉が掛かりはじめる。
楓も少し気持ちが落ち着いたのか、涙を手で拭うと俺から少しだけ距離を取った。
でもなぜか腕だけはまだ俺に絡んだままだった。
楓さん…出来れば腕を離してほしいんですが?霞が怖いので……ほらっ拳握ってるから……
とは言えないので俺は気づかないふり。
「みんな、あたしも……ごめんね」
そのたった一言が、停滞していた空気を解きほぐした。
それからクラスは自然といつもの調子を取り戻し日常へとゆっくり戻り始める。
俺はそれを見て胸の奥から安堵の息を吐き出した。
しかし、ほんの少しだけいつもと違う部分がある。
それは俺に話し掛けてくる人が数人でてきたって事。
霞との出会いが、彼女を買った事が引き金になり、楓との邂逅が運命の歯車を回した。
俺の学園生活は大きく変わり始めていることに俺はまだ気づけていなかった——
次回:霞とほのぼの出来ないお昼休み…
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