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第32話 生徒会長は連れ去られ、委員長はオチていった…後編

丸山の事を知らないと言った俺を、またしても珍しいものを見るように目を丸くして見てくる楓。


「ほんと鷹村って変わってるよね…丸山はサッカー部の部長で逸材だって新聞にも取り上げられたやつなんだよ?しかも生徒会副会長で成績優秀なモテ男っていう……あたしは部長会議で時々話すんだけどあんな丸山初めて見たよ、めっちゃ女の子とかには優しいのに」


えっ、そんなに凄いの?余計慎重にいかなきゃ……

霞の嫌がる姿は見たくはなかった、だが急に部外者の俺が割って入って事を荒立てるわけにもいかない。

まだ彼の事をよく知らないが、生徒会内で霞の立場が俺の軽率な行動で揺らぐは嫌だ……


「へぇ……すごぉい……」

「丸山に興味ない男子もそれはそれで珍しいよ。よく女の子紹介してって言ってる男子多いんだけど……鷹村は違うんだねぇ」

「まぁ……そうかも……」


別に女の子紹介してほしくないし……霞がいればそれでいいし………


こんな反応が精一杯。なんとも無機質な返事だが許してくれ。

そんな俺たちの会話をまたしても遮断するかのように保健室のドアが勢いよく開いた。

俺はその音の方向に顔を向けると、なぜかまた丸山の姿がある。

そして彼は俺のもとへ一直線に歩み寄り、はっきりと声をかけてきた。


「おい、お前ちょっとこい!………………楓はそこで休んでていいからな」

「……へっ?俺?」


まるで今にも殴りかかってきそうな眼光で俺を睨んでくる丸山。

そんな彼に不穏な空気を感じた俺は、戸惑いながらもとりあえず彼の後を追った。

変に抵抗したら楓に飛び火しそうな勢いだったからだ。


保健室の外に出ると、丸山は扉をそっと閉め辺りに視線を巡らせたあと俺に向かって急に怒鳴り散らしてきた。


「お前柴乃宮さんのなんなの?彼女騙してつきまとってんだろ?調子乗んなよ!見てるだけでムカつくんだよ!」


……えっ?急に何こいつ、めっちゃ性格悪っ。男に厳しいタイプ!?こわぁ…

あっけに取られる俺に目もくれず、唾を飛ばす勢いで怒鳴り続ける丸山に若干引く。


「しかもお前、楓にも怪我させたのか?何様だよ、立場わきまえろよ!嫌われ者の不良の分際で!」


ちょっとその言葉は俺には効く。

しかし明らかに冷静さを欠いているように見える丸山に何か言うのは悪手だろう。

この感じだと霞や楓になにかあってもいけない。

冷静に事実を述べ、自分だけにヘイトを向けようと決めた俺は口を開いた。


「………そうだな。俺が気を配れなくて楓を怪我をさせた」


「柴乃宮さんや楓は俺と同じこっち側の人間なんだよ!お前みたいに悪い噂しか聞かないゴミみたいなヤツとは違うんだよ!そんなヤツが俺たちに関わってくんな!目障りなんだよ!」


「……そうかもな」


「ひょっとしてお前、柴乃宮さんに惚れたりしてんのか?キモいなぁ……叶うわけないだろ!?ああいう女は俺みたいな優秀な人間の為のもんなんだよ!邪魔すんな!」


俺は無意識にグッと拳を握りしめていた。

自分がどう見られているかなんてわかってる。それは別にいい。

でも、こいつのその言葉だけは許容できない。


霞を“ああいう女”ってひとくくりにして、まるで自分の所有物みたいに扱いやがった。人はモノじゃない、心があるんだ……

頭に血がのぼった。でも振り上げたくなる拳を俺は下ろした。

俺の怒りなんかで霞や楓に影が差すなんてそれだけは絶対に嫌だったから……


「言いたいことはそれだけか?」

「ああ、ちゃんと覚えとけ!ゴミ野郎!」


そう言い放ち身を翻してその場を立ち去ってゆく丸山の背中を、俺は視線を逸らさずずっと見つめていた。やがてその姿が見えなくなると、俺は大きくため息をついて頭を冷やす。


「はぁぁぁ……マジ災難だな……」


俺は気を取り直し保健室に戻ろうとドアを開けた。

その瞬間、目の前に急に現れた楓の姿につい驚きの声を上げてしまう。


「おいっ!?かっ、楓!?もう歩いて大丈夫なのか?もう少しベッドにいたほうが……」


反射的に彼女の顔を見ると頬に涙が滴っている。せっかくさっき笑顔になっていたのにどうしたっていうんだ……


「たかむらぁ……ごめんね、ごめんね……」


急に俺の胸に飛び込んでくると顔を埋めて泣き始めた彼女に、俺は完全に戸惑いあたふたと手を宙に浮かせることしかできなかった。


「どっ、どうしたんだよ急に!?楓?」

「丸山………あいつ最低!!いい奴だと勘違いしてたあたしが馬鹿みたい!鷹村にこんな酷いこと言って……」

「お前……聞いてたのか?」


……マズい、あんなのは俺の中で処理すればよかったのに楓に心配させちまった!?


「鷹村は悪くないのに!!悪くないのに……なんであたしを怪我させたなんていったの?!悪いのはあたしなのに!」

「それはお互い様だろ?パートナーなんだから、なっ??それにあんな感情的になってるヤツに突っかかって、もしお前とか霞にとばっちりがいったら嫌だからな……とにかくお前ら守らないといけないって思って……」


彼女の涙は細い雨のように俺の胸を静かに、でも確実に濡らし続けていた。


「なんであたしを……まだ知り合ってそんなに経ってないあたしを守るの………?」

「それは……親しい親しくないとか関係無く、女の子を守るのは男として当然だろ?」

「女の子………?あたしが……?」


胸から顔を上げて泣きはらし真っ赤になった目を丸くしてパチパチとする彼女。


「ああそうだろ?」

「ほえっ………あたし鷹村に女の子だって見られてるの?」

「お前何言ってんだ?違うの?女の子だよな………?」


えっ?もしかして男の娘でしたってパターン!?いやでも確かにおっぱいあったしそれは……いやでも……


「えへへっ……へへへへっ♡もちろん女の子だよ?♡」


不安に陥る俺をよそに、彼女はまた笑顔に変わる。

乙女心はマジでわからん。もう変化が台風並み。


「そっか……あたし女の子なんだ……女の子なんだぁ」

「おいっ!お前しれっと俺の服で涙拭いてない!?冷たっ!!」


彼女はもう一度、顔を俺の胸に擦りつけてきた。

くすぐったい感覚と首筋に当たる柔らかい髪に思わずドキッとする。そして表情を隠したまま俺の胸に顔をうずめ、ぽつりと問いかけてくる。


「ねぇ鷹村……ほんとは丸山くらいどうにか出来たんでしょ?」

「わかんねぇけど……何かあれば努力はする……でも暴力は嫌いだ……」

「……………ありがとね、守ってくれて………♡」

「……おう」


恥ずかしさが急にこみ上げてくる。そんな感じで言われるとは思ってもみなかった。楓からそんな言葉が出てくるなんて……


「ねぇ、鷹村はあたしの頭……撫でれる?」


急に方向制の違う質問をぶち込んでくる彼女に俺の頭は???で覆われる。

一体どういう流れでそうなった?

つい間抜けな声が出てしまう。


「えっ?なんて?」

「撫でれるか聞いてんの!あたし背が高いから頭撫でれる男子少ないの……」

「ああ?ああ…まあ、撫でれるとは思うが……?」


よくわからないが確かに改めて見ると彼女は背が少し高いかも。でも俺は彼女の頭を見下ろせる。


「じゃあ撫でてみて……」

「……なんで?」

「あたしを泣かせたじゃん!そのお詫びとしてやって」

「はあっ!?お前勝手に泣いたんじゃ!?」

「ほら早く!!」


さすが体育会系は押しが強い。グイグイ来る。

それに負けた俺は恥ずかしさを堪え、渋々彼女の頭に手を置き少しだけ撫でてやった。時折香る彼女の爽やかな柑橘のいい香りが妙に俺の心をざわつかせる。


「えへへっ♡……撫でれるじゃん……」


やっと俺の胸から顔を離した彼女は照れ笑いを浮かべていた。なぜか上機嫌な彼女は俺に向かってまたお礼を伝えてきた。


「鷹村色々ありがとうね!なんか元気出た!あと丸山はマジであたし許さないから、あいつ絶対ぶっ飛ばす!!」


そう言って胸の前で拳を作って片方の手の平にパンッと打ち付ける彼女。

実に頼もしく危なっかしい……


「おいっ!せっかく俺が丸く収めようとしてるのにやめろって!穏便に!」

「へへっ!冗談冗談!」

「頼むから今日の事はみんなに内緒な?頼むよ?」

「わかってるって!!」


そう言っていたずらに笑う彼女は既に普段の彼女だった。それに安心をしながらも、彼女が余計な事を何もしないよう俺は神に祈った——




次回:これって修羅場?朝から委員長はぶち切れ


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