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006 魔王さまの閃き

 強く、気高く、美しく。

 魔王さまには、“かくあるべし”という魔王の形というものがある。

 そして、そのためには魔王を“引き立てる”ための勇者と言う者の存在が不可欠である。

 その質も重要である。一合も交わすことなく、倒れてしまうような者が相手では、下手をすれば弱い者いじめをしているように捉えかねられない。

 風が強ければ強いほど風車も良く廻る。

 相手の力を限界以上に引き出した上で、自分がさらにその上の力を示して相手を倒すことで、自分を際立たせる。

 その場合、対象となった者もあれだけの相手にこれだけの健闘としたのだからと賞賛の声を浴びることができるだろう。

 数ある物語の中で、最終場面の魔王城にわざわざ敵である勇者を強化する装備が置かれているのは、恐らくは同じ意図に違いない。

 魔王さまは、謁見の間の一段高くなった場所に置かれた椅子に座り、愉悦の笑みを浮かべる。

「くくくっ、ふはは、はーはぁっはっはっ!」

 笑いの三段活用を見事に披露して見せた魔王さま。

 ここで、敵の血でアイシャドウと口紅を引いて見せたら、かなりやばいヤツ認定を受けるであろうが、幸いにして、魔王さまには、その趣味はない。


「しかし、これだけの力を持つ者。いったい、どこの世界から来たのでしょうなぁ……」

 先程のアルフォンスの言葉を受けて思いついてしまったのである。(ひらめ)いちゃったのである。

 勇者が()いて出てくるのを待つのは、もうヤメだ。(サンズイに勇……正しく、漢字が表す通り)

 強い勇者がいないのであれば、自分で他の世界からでも見つけてきて育てればいいじゃないか!

 そして、それを倒す!

 う~、かっちょえ~。


 さて、勇者の育成を思いついたのは良いが、……思う。

 まずは、何から始めれば良いのか。

 何が大事だ。

 頭を捻る。

 知恵を絞る。

 強い勇者、優秀な勇者、勇者のなかの勇者。

 それには、何が必要か。

 腕力、耐久力、知恵、摩力……。

 たくさんの候補のなかからの選別……そうか、まずは素質だ。

「素質のある者を鍛えあげて、さらに(ふるい)にかける。うむ、これぞ!」

 そして、この世界からかき集めても、たかが知れている。


 早速、部下どもを別世界に向けて情報収集に飛ばすとしようぞ。


 魔王さまは立ち上がり、外套を大きく翻した。

「誰ぞ、いないか!」


 世の人は、それを出来レースとか八百長と呼ぶであろうことを、魔王さまは気付いていなかった。


      ◆


 魔王城、会議室。

 調査に送り出す面々が集まった中で魔王さまが発言する。

「我は、勇者を育てることにしたぞ」

 意味がわからぬと、皆が困惑を示すなか、アガレスが手をあごに当てて沈思する。

 勇者を育てる→勇者を飼う→ペット!飼い猫…飼い犬…飼い人→奴隷

 アガレスは連想で答えを閃き、ぽんと手を一つ叩き、顔を上げ、爬虫類の尻尾を反り上げ、喜びの声を上げる。

「それは、源人族を奴隷とするという意味で捉えて宜しいでしょうか」

 ようやくに、人々を支配するという欲望に目覚めてくれた。


 その質問を聞いて、魔王さまの真意に気付いたと言うように、その場の皆の表情が輝き、お互いに頷きあう。

「おぉーっ、それは良い」

「身の程を知らしめてくれる」

「腕が鳴るわっ!」

「これで小うるさい者どもを払うことができる」

 ここに集まっている者も別段、劣等種は皆殺しとか、汚物は消毒だとか思っている者はいなかった。ただ、ことあるごとに言い掛かりをつけてきて、ちょっかいをかけてくる源人族がうざかったのである。


 何故か、源人族の殲滅もしくは支配と言った場の流れになっていることに魔王さまは疑問を呈する。

「えっ、待て待て、何故そうなる。源人族のことなど、どうでも良い。我が話しているのは勇者の育成のことぞ」

「んんっ? ちょ~っと、わからなくなってきました……」

 疑問符を浮かべたアガレスたちに説明する。

 勇者の素質を持つ原石を探し出し、磨き上げる。但し、対象はこの世界ではなく、他の世界。つまりは、異世界の勇者の選抜をする。

「一つの世界から生まれ出る勇者のみに期待していた我は愚鈍であった。あの失神勇者を見て、我は気付いたのだ。ここだけではない。他にも数多(あまた)の世界があるのだ。だとすれば、それらの世界にも数多(かずおお)くの勇者が生まれ出でているに相違ない」

 そこに天然執事(アルフォンス)は、ぼそっと呟く。

「そう言うことであれば、数多の魔お…んぐっ(魔王が生まれ出でているということに相成りませんか)」

 慌てて、アクア・スが天然執事の口を影で覆う。

 そんなことを魔王さまが気付いたりすれば、間違いなく、魔王のなかの魔王=大魔王を決めねばならぬ……とか言い出しそうである。

 難儀は一度に一つで充分である。

「なるほど、魔王さまの考えの趣旨はわかりました。しかし、その方策は如何ように」

「うむ、まず……」

 エレメンタル四姉妹のうちのハルファス(風の精)、カルファス(火の精)、ナルファス(水の精)を、シナヘゲモニ公国に送り、異世界からの召喚術の調査と封印を。まずは、外法(げほう)な勇者召喚は止めさせねばならぬ。

 掌典(しょうてん)職(祭祀を行う者)の長のパイモン(ダークエンジェル)は、その調査結果を加味した異世界への門の構成と効率的な運用の確立を。

 統監であるアガレスは、上位魔などの配下を冥界(ギンヌンガガプ)に送り、そこから“情報(いしき)断片(かけら)”の収集を。

 冥界とは、現存する世界とその世界の根源をなす要素が異なる次元世界。

 我々が過ごしている3次元の空間をただ移動することではたどり着けない世界。

 魂と言う情報因子が素子にまで分解されて放り込まれる世界。

 それは、どこでもなく、どこにでも繋がり、何の色彩もない無の世界。

 アガレスたち、魔人原種の生まれた世界。


 魔王さまの意志を受けて、配下の者どもが動き出した。


      ◆◆◆


 数日後。

 続々と手元に異世界の勇者の情報が寄せられてくる。

 魔王さまは、サロンの応接机で、ぐてぇ~んとなりながら、紙葉をめくる。

 右手には、テケリ・リが持ってきた焼き菓子が掴まれている。


 何々……。


 ゴブリンキングの王国を単騎で制覇!

 ―――ふむふむ。


 100階層のダンジョンを5人パーティで半年で踏破。しかも、ダンジョンボスは20m級の三つ首のヒュドラ!

 ―――半年も掛かったのか。我なら、ダンジョンごと一撃ぞ。


 火の山に住まうエンシェントドラゴンを征伐。付いた二つ名は、ドラゴンスレイヤー!

 ―――ありふれておるのぅ。


 紙葉は焼き菓子を掴んだ手でめくられるので、指の跡がついている。

 テケリ・リの目は、お盆から掴まれて魔王さまの口に運ばれる焼き菓子の軌跡を追っている。

 無自覚に動く魔王さまの右手。少なくなる焼き菓子。徐々に悲しみの色に染まるエルダー・スライムのテケリ・リの顔。

 いつもなら、1、2個を摘まんだ後はテケリ・リにくれるのだ。それを魔王さまの横に座って食べるのを楽しみにしている。


 一万匹のモンスターのスタンピードから村を街を国を守り切った女騎士!

 ―――小粒だ。


 おらが村、最強勇者(笑)!

 ――― ………。


 生まれは最弱スケルトン。しかし、系統進化を果たし、やがて最強に!

 ―――勇者はどこに……。


 異世界転移、元の世界に帰る手掛かりを探して世界(ガルズ)を旅し、悪魔を倒して、自らも倒れ、戦乙女(ヴァルキュリア)と共に天上の宮殿へ!しかし……(第四節に続く)

―――ん!宣伝?いや、死んだんかーい。


 何だか、どれもこれもピンとくるものがないな。

 おら、ワクワクしてきたぞ的な情報はないものか。


 その後も、集められてきた情報を手にするが、どれもこれも似たようなものばかり。

 片手が焼き菓子に伸び、ボリボリと食べカスを床に落としていく。

 それを見て、目を吊り上げる人狼族(ワーウルフ)のループス・カ。う~と唸りつつ、モップで床を掃除する。ついでに時々、偶然を装ってモップで魔王さまの足をつき、不満を表明する。

 そして、流れ作業になってきたところに手にした一枚の紙葉。

 勇者の卵の産地。その星のその土地からは、様々な異世界に勇者として転生(スカウト)されている。

――― んぉ!これだよ、これ。こんな情報が欲しかったのだ。


 何々、その場所は、地球と言う名の惑星上にある日本という島国である。


 興奮した魔王は太ももに溜まった食べカスを床にばらまきつつ立ち上がる。

 振り上げた拳から、零れ落ちた一枚の紙切れ。

 がたんと揺れる応接机。こぼれる紅茶。お盆に残った最後の焼き菓子が宙を舞う。

 それを目で追うテケリ・リ&ループス・カ。

 人狼族とは言え、犬人に属する者に流れる血の故か、ループス・カがその最速と言われる移動速度でもって、宙を舞う焼き菓子に喰らいついた。

 もぐもぐ、ごくん。

 唖然とした表情の後、テケリ・リがループス・カをぽかぽかと殴る。

 目を輝かせて、その紙葉を左手に掲げて見上げる魔王さま。


 人知れず、床に落ちた一枚の紙切れ。

 その紙の最後のほうには、「……とその土地の多数の書物に記されているが、転生先は未確認。継続調査中」とあった。


「起章 虚実空論」終了

閑話を挟んで、「承章 建国宣言」に移ります

だいぶ急ぎ足で進めていますが、いかがでしたでしょうか

感想と評価をいただけると幸いです


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