4-2 私、失恋したの?・前編
10月38日、レアニールは青隊事務室で出張中に溜まっていた書類、もちろんその全てではなく彼女の閲覧が必要だったものや不在中に発生した各種事件の概要を同僚が纏めてくれていたものを読んでいた。
ただし、目は文字を追っているが内容が頭に入ってこない。実際、ジルスとマヤの姿を目撃してからずっとこんな調子だった。昨日は帰庁して復命した後、見間違いだったかもと紫隊の事務室にマヤを尋ねたが彼女は休暇を取っており出勤していなかった。そうなると見間違いではなかったのか・・・ということになる。それからはジルスとマヤの関係は何なのだろう?と、結論が導き出せない堂々巡りに陥った。昨晩は寝たのか寝てないのか記憶すら定かではない。それでも身体に刻み込まれた朝のお祈りの時間には目が覚めた。いつもならそうした自分の行動に苦笑するところだろうが今のレアニールにそんな余裕なんて無かった。
このような状態なものだから青隊事務室にマヤが入ってきたのにも気が付かない。そればかりか・・・
「レア」
席の後ろでマヤが呼び掛けたのだが心ここに在らずとあって全く反応を示さないレアニール。
どうしたのだろうと、少し首を傾げたマヤはレアニールの肩を軽く叩きながら再度呼び掛けた。
「レア」
「あっ!・・・」
えらく驚いたように振り返るレアニール。そこでようやく自分の背後にマヤが立っているのに気が付いた。そんなレアニールの様子にマヤは微苦笑を浮かべつつ、長い出張を労うように声を掛ける。
「レア、お帰り」
「う、うん、マヤ・・・ただいま」
普通に答えたつもりだったが声のトーンは幾分か低くなってしまった。マヤは身を屈めると心配するようにレアニールの顔を覗き込んだ。
「どうしたの、元気無いよ?」
「ううん、そんなことないよ。船旅の疲れが取れないだけだから」
思わず目を逸らしたくなる衝動にかられたがなんとか堪えるレアニール。今、どんな顔をしてマヤと話をしたら良いのか、全く分からなかった。
「それならいいけれど・・・」
心からレアニールを気遣うよう心配そうな顔をするマヤ。そうだよね、親友だものね・・・と、落ち着く為に何度も心の中で繰り返すとようやく微笑み返す事ができた。
そんなレアニールの表情を見てマヤは安堵したような顔になると衝撃的な言葉を口にした。
「・・・私ね、今度結婚することになったんだ」
「え?」
全ての思考が飛び頭の中が真っ白になってしまった。胸が痛みだし呼吸が早くなりそうになる。それを懸命に押さえつけ平静を装うレアニール。そうだ、まだ相手はジルスと決まったわけじゃない、決まったわけじゃない・・・と。
「それでね、相手をレアに紹介したいんだけれど1230に中庭東のベンチに来れる?」
「う、うん・・・」
コクコクと細かく頷いたように見えていたかもしれない。だがそれは身体の震えだった。落ち着け、落ち着けと心の中で何度も念じるレアニール。
「レア?」
「あ、ごめん、あまりにも突然だから驚いちゃって・・・」
そうなんだねとマヤは微笑むと視線を上げて事務室の中を見渡した。
「ライドは?」
「確か・・・あ、証拠物件の押収現場の立ち会いに行ったよ。戻りは1200予定だったかな」
「そっか・・・うん、じゃあまた後で。見たら驚くよ」
マヤは軽くウインクをすると足早に青隊事務室を出て行った。その後ろ姿を見送ったレアニールだったが視界がグラグラと揺れる錯覚に囚われる。
(そうだ、まだマヤの結婚相手がジルと確定したわけじゃないんだ。もしかしたらマヤと一緒にいたのはジルとよく似た背格好で顔もそっくりな人かもしれないし)
それが誤魔化しに過ぎない事は彼女自身がよく解っていたが今はそう思うようにして心を落ち着かせることしか出来ない。
そう、レアニールがジルスを見間違えるなんて事は絶対になかったのだ。
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