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赤毛の神官騎士レアニール ~その女、無自覚につき~  作者: ふぁるくらむ
第3章 赤毛の騎士、戦巫女になる
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挿話 独立戦争記念行事の一コマ

※3-4の前に入る話、独立戦争記念行事でレアニールがやらかした(と本人は思っている)話です。


 8月9日、怒涛の2日間が終わりレアニールは寮の部屋で昼前まで寝ていた。正確には5時に起きて日課であるウェルフトー神へのお祈りをした後に2度寝の贅沢を楽しんだのだが。

今日と明日は休日だ。特に予定も無くのんびり過ごすつもりでいた。そう、部屋でのんびり・・・


 休日だから寮の食堂はやっていない。近場で済ませてこようと髪を後ろで一つに纏めて軽装に着替えて部屋を出る。皆が外出しているのか寮の中は閑散としている。外に出る前、談話室に置いてある昨日の新聞を手に取った。昨日は早朝から生誕祭の祭礼へ参加していたから読んでいなかったのだ。


「ふんふふーん♪・・・え?」


 鼻歌混じりに畳んであった新聞を開き・・・すぐに裏返しにして手放した。


「ちょ、ちょっと待って・・・」


 もう一度新聞を手に取り表に返す。


「あーっっ!!嘘でしょー!?」


 思わず間抜けな絶叫を上げてしまった。その新聞、1面には独立戦争記念行事でのレアニールの写真が大きく掲載されていたのだった。




 独立戦争記念行事パレードの前段も終わって休憩地点のルキオ広場。そのあちらこちらではパレード参加者による模擬戦が繰り広げられていた。まるで騎士同士の訓練のように行われているものや古式の作法に則った決闘のようなもの、金属同士がぶつかり合う音が賑やかに響いている。

 記念行事公式のものではない模擬戦だったが、毎年これを楽しみに広場へ見物に来る観客もいるほどの人気がある。だったら公式にすれば良いのでは?という声も有るが運営はあくまでもパレード前段・後段の間に設けられた休憩時間内に勝手にやっている事という姿勢を崩さない。公式行事にしてしまうと休憩時間が削られるか長くなるかのどちらかになるし、人員の手配やら面倒が生じるからだ。



「これ、レプリカだけれど使用している材料と構造は本物どおりだってさ。思っていた以上に動き易いぜ」

「へぇ、そうなんだ」


 パレード後段から参加するレアニールは広場の一角で同期のライドとマヤに会っていた。前段から参加していた彼ら、今は頭全体を覆う兜を脱ぎ用意されていた折り畳みの椅子に腰かけている。


「なんなら模擬戦でもやってみるか?」

「いいね、やろうよ!」

「じゃあ次は私だからね。レア、ライド相手にへばらないでね」

「まさかぁ」


 3人で盛り上がりつつ椅子から立ち上がると近くの空いていた場所へと数歩移動した。ライドは兜を被り直しバイザーを跳ね上げる。レアニールは持っていた錫杖をマヤに預け、代わりに彼女が持っていた片手剣と長方形型の盾を受け取った。


「準備良し、いつでも始められるぜ」

「私もいいよ」


 向かい合ったレアニールとライドは抜剣すると何度かそれを軽く当て合い打ち鳴らす。そうすることで周囲の者たちに模擬戦を始めることを告げ、場所を空けてもらうわけだ。これは非公式ながらも決められているルールの一つでもある。


「想定は?」

「鎧の動きを見るだけだからなぁ・・・剣技演習の19番でどうだ?」

「うん、わかった。ライドが先攻でどうぞ」


 闇雲に打ち合うのではなく、士官学校時代の剣技演習で定められた手順、その19番を2人は選択した。予めどちらがどの方向から打ち込むかなど、細かく定められているそれに従ってやれば不慮の怪我をする事はないはずだった。定められた手順といえども打ち合う速度を上げるなどすればそれらしく見える。

 ちなみに手順は26番まである。


「よーし、いくぞ!」

「かかってきなさい!ってね」


 バイザーを下ろしたライドは騎士の如く一度剣を正面に立てると右側から斬りかかってくる。


キーン!


 鋭い金属音を立てそれを盾で受けるレアニール。互いにサッと剣を引くと今度はレアニールが左、右と続けて斬りつけライドがそれを盾と剣で受ける。


「へぇ、本当に動き易そうだね・・・っと!」


 次いでライドの突きを軽く捌くようにして受けながら感心したように言うレアニール。


「ああ、鎧無しと大して変わらない感じだよ・・・ってね!」


 上段から大きく斬りかかったレアニールの剣を下からすくい上げるようにして受けるライド。

 剣戟の音に釣られたかのように見守るギャラリーが増えてきた。

 本の虫だと言われているライドだが運動能力が低いというわけではない。副業に精を出さず士官学校での勉学に勤しめば楽に主席を取っていたのでは?と言われていたが、それは運動能力も加味しての話であった。


「勝負付ける?」

「いや、引き分けでいいんじゃね?」

「そうだね。次を最終に繰り上げて終わりにしましょ」

「承知」


 2人が選んだ19番の手順、その3分の2まで進めていたが最終の打ち合いまで、その間を省略することにした。一歩ずつ下がると互いに同時、ライドは右から、レアニールは左から斬り込む。


ガキーン!


 火花を散らしぶつかり合う剣、そのまま鍔迫り合いのようにしてから互いにサッと身を翻した。


「それまで!」


 レアニールとライドの話が聞こえていたわけではないだろうが、手順最終の動作に繰り上げたのを見てマヤが試合終了を告げた。それを受けて向かい合っていた2人は同時に剣を鞘に納めると直立不動の姿勢から一礼、歩み寄ると握手を交わす。

 途端、周囲から拍手が疎らながら起きる。見回せば10人くらいの観客がいたようだ。


「あまり集まらなかったな・・・」


 その観客に右手を上げて応えつつライドがポツリと言う。


「向こうの派手な模擬戦に比べたらこれだけの人が見てくれただけでも御の字ってものでしょ」


 右手を上げて同様に観客へ応えていたレアニールだったが、ライドの呟きが聞こえて微苦笑を浮かべながら呆れたように言う。それでもライドはまだ不満気だ。


「次は私だね」


 マヤはライドにレアニールから預かっていた錫杖を渡し、代わりに彼が使っていた剣と盾を受け取る。そして兜を被ろうとしたところでライドに止められた。


「マヤ、兜無しで行けよ。お前の兜、サイズ合ってなかっただろう?これサイズ合ってないと大変だぜ」

「うへぇ・・・じゃあそうするかな」


 つり目がちな眼尻をわずかに下げたマヤは被ろうとしていた兜をライドに預けながらレアニールに剣技演習の番号を提案する。


「23番・・・高速でどう?」

「23番ね、いいよ。最終まで通しで行く?」

「もちろん」


 23番、何度となく士官学校時代に2人でやった番号だ。互いに身体がそれを覚えているとばかりに、ライドの試合開始を告げる掛け声と共に高速で打ち合いを始めた。


「へぇ、結構火花が出るのだね」

「でしょ!あはは、楽しいかも」


 この広場での模擬戦を想定しているのか、ライドとマヤが持っていた衣装用の模擬剣は打ち合うと盛大な火花が出る。2人は鋭い剣戟音を響かせつつ、人目を引く盛大な火花を散らして打ち合う。


「始めてみて気が付いたのだけれど!」

「何、マヤ?」

「23番って・・・派手さに欠けたね!」

「何を求めているのよ・・・って、観客受けだよね・・・もう終わりに近いし仕方ないじゃん!」


 確かに剣戟音と火花は激しいが動きに華が有るかと問われれば・・・無い。殆ど脚を止めての打ち合いだったからだ。ただし、当人たちはその自覚が無かったが観客は次第に多く集まっていた。美しい金髪の女性神官騎士が兜無しの鎧姿で戦っている。しかも相手はこれまた美しい赤毛の神官騎士だ。赤毛で昔の騎士服姿という事で、殆どの観客はそれが60年ぶりの戦巫女だと気が付いていた。

 これで人目を引かないわけが無かった。


「それまで!」


 自然と終わらせても良かったがライドが終了の掛け声を、2人が最後の打ち合いをして引いた瞬間に掛けた。こうした時、外しがちなライドにしては絶妙なタイミングであった。

 その瞬間、周囲から先ほどまでとは比べられないほど大きい拍手と歓声が上がった。気が付けば観客の数は50人くらいになっている。


「えっ、何時の間にこんなに・・・」

「だって戦巫女が戦っているのだよ、人が集まってこない方がおかしいじゃない」

「マヤ、お前が戦っていたから・・・ってのも有るからな」


 周囲の観客へ2人で手を振っているとライドが不満気な様子でマヤへ突っ込みを入れた。


「私は関係無いでしょ?」

「「どう考えてもある」」


 レアニールにしてみれば自分よりもマヤの方が目立っていたと思っている。確かに今着ている騎士服も派手といえば派手だがマヤたちが着用している白銀の鎧の方が目立っている。それに、親友の贔屓目だとしてもマヤは美人だし・・・と。


「レア!」


 そこにベルントの声が背後から聞こえた。振り返ってみるとロザリア法国騎士団の黒騎士姿、黒い全身鎧に身を包んだベルントが大振りな両手剣を肩に担いで歩み寄ってきたところだった。


「連戦の余力は有るかい?」


 そう言ってニヤリと笑うベルント。レアニールはそれに嬉しそうに応えた。


「もちろんです!ベン、黒騎士役だったのですね」

「ああ、似合っているだろう?」

「はい!とてもお似合いです」


 実際、ベルントの姿はこれぞ黒騎士といった風格に満ち溢れていた。殆どの参加者が鎧甲冑に着られているといった体なのに、彼は自分のために漆黒の鎧が存在しているかのような佇まいであった。


「どうします?剣技練習でやります?」

「そうだな、27番でどうだ?」


 ベルントはニヤリと笑って27番と言う。存在しない番号、それはアドリブでの打ち合い・・・と言うよりも本気の試合を指す意味でもあった。


「・・・受けて立ちましょう」


 それを聞いてレアニールは不敵な笑みをベルントに向ける。これとは別にしてベルントとは一度やり合ってみたいと思っていたのだ。実に良い機会だった。

そんなレアニールを見てベルントは楽しそうに笑うと兜を被った。


「そうこなくっちゃな。ははは、楽しくなってきたぞ!」


 レアニールは周囲に集まった観客を見回す。かなりの人数が自分とベルントとの模擬戦が始まるのを待っていた。彼らが見たいのは黒騎士に挑む戦巫女の姿だろうか?そうだとしたならば武器は剣じゃない方が良いだろうか?そうだね、そうしよう。


「マヤ、これ返すね」

「えっ?まさか錫杖でやるの?」

「うん・・・こっちの方が観客はお望みかな?って」


 笑いを堪えるようにしてマヤは錫杖を両手で恭しく捧げ持って渡してくる。それを同じく両手で受け取ったレアニールは2歩下がるとシャランと飾り環の音を鳴らし錫杖を回しながらベルントへ向き直る。そして石畳にカツンと音を立てて錫杖を垂直に立てた。


「ははは、いいね。では行くぞ!」

「はい!」


 両手剣を大きく右斜め上段に構えたベルントが駆け込みながらそれを振り下ろしてきた。それを軽く左へ身を回転させつつ避けたレアニール。その回転を利用して左から水平に錫杖を振る。


「ていっ!」


 ベルントはそれをまるで剣を盾のようにして受けた。鋭い金属音と火花が散る。彼はそのまま押し返すようにして剣を振り上げると半歩引きつつ低い水平斬りを繰り出してきた。


「うおりゃぁ!」


 レアニールは敢えてそれを後方へジャンプして避ける。普段ならそうした避け方はしないのだが、今の彼女は観客の声援に調子に乗り始めていた。そのまま後へ、空中で身体を一回転させると軽々と着地する。

 そこに追撃とばかりに突きを繰り出すベルント。


「手加減無しですか!そうですか!」


 それを連続バク転で避けたレアニールは楽しそうに叫んだ。


「わはは!こういう時は手加減したら怪我するもんだぞ!」

「あはは!正論過ぎです!今度は私から行きますよ!」

「来い!戦巫女!」


 レアニールは正面からベルントへ駆け込む。それを迎え撃つように剣を横薙ぎに繰り出すベルント。その間合いの外縁ギリギリでレアニールは錫杖を石畳に立て棒高跳びのように高く飛び上がり避ける。わざと滞空時間を長めに取るようにして跳んだレアニールは空中で前方に一回転してからベルントの胸元へ飛び蹴りを喰らわせる。


「たあっ!」

「なんの!」


 レアニールの狙いどおり対処時間を与えられたベルントは剣を盾のようにしてそれを防ぐ。その剣の腹に両脚で蹴りを入れた瞬間、ベルントはレアニールを空中に押し返した。


「よっ・・・と!」


 押し返されたレアニールは捻りを入れた後方宙返りをしつつベルントの兜を狙って錫杖を横払いに振るうと軽く当てた。そして彼に背を向けるようにして軽々と着地する。そのタイミングを狙ってベルントが斜め上方から斬りかかってきたが・・・


キーンッ!


 後ろ向きのまま錫杖でそれを受けクルリと回すようにして剣の切先を下げさせた。


「さすが飛び蹴り神官!」

「わわっ、それは言わないでくださいってば!」

「わははは!喜んでやってたくせに!そろそろ俺も恰好良いところ出させてくれよ」

「もちろんです!」


 ベルントはレアニールとの模擬戦の前に3戦ばかりこなしてきていた。黒騎士たる彼の模擬戦は見応えのある物で、現在この戦いを見守っている観客の多くはベルントに付いて移動してきた者が殆どだった。そんな彼らの前で繰り広げられていた黒騎士と戦巫女の戦いは期待以上のものだった。大振な両手剣を軽々と、まるでそこらの棒きれの如く振り回す黒騎士の圧倒的なパワーと剣技。それに対し舞うように攻撃を避け、そして飛ぶようにして攻撃を繰り出す美しき戦巫女・・・盛り上がらないわけがなかった。

 大きな歓声がさらなる観客を呼び込み、レアニールとベルントの周りはこの日一番の盛り上がりとなっていた・・・



 3分は打ち合っただろうか。互いに渾身の一撃を放ってそれをぶつけ合い、盛大な火花を散らして引いた所でライドが終了の笛を吹いた。いつの間にか何処かから調達してきたようだ。

 途端、大きな歓声と拍手が沸き上がる。


「なかなか良い試合だったと思うが・・・どうだ?」

「この盛り上がりがその証拠ですね。ベン、ありがとうございました」


 2人は握手を交わした後、万雷の拍手を送る観衆へと手を振る。


「マヤは美人2人の戦いで華が有ったし、黒騎士はメチャ恰好良かったし・・・俺との試合って忘れられているじゃん」

「ボヤかないの。ライドが始めたおかげて盛り上がったのだから、そういう功績は自分の胸だけにしまっておきなさいな」

「なんか上手く言いくるめられているだけの気がする・・・」


 ボヤくライドを笑いながら慰めるマヤ。彼女の言葉に仕方ないなとライドは笑った。



 盛り上がりを見せた突然の模擬戦だったが観衆から送らた万雷の拍手にレアニールは気分良く手を振り返していた。そのまま周囲へ視線を巡らせていくと自分の背後に騎士団需品部のアイリーン・エイダ部長が満面の笑顔で立っていたのに気付いた。だがよく見ると彼女はこめかみの辺りをヒクヒクさせている。嫌な予感がしたレアニールは会釈だけして逃げようとしたのだが・・・エイダ部長はその前にハイトーンの声を響かせた。


「ニューロス大尉、あなたが制服を破損しまくる理由がよーく解りました」


 丁寧な物言いだが角がいたる所から生えているかのような錯覚を覚え、思わず直立不動となるレアニール。


「ああした動きに適していない服でなんてことしてくれているのですか!」

「・・・はい、ごめんなさい」


 こうなると素直に謝るしかないなと、姿勢を正し頭を下げる。そう言えば数日前も第1種制服を全損させてエイダ部長に謝ったばかりだった。

 エイダ部長は諦めたように小さく溜息を吐くと少々乱れていたレアニールの騎士服、肩掛けの辺りを直す。


「ええ、まぁ構いませんよ。この騎士服、そういう事もあるだろうと第2種並に補強してありますから」

「え、そうだったのですか」


 思わず嬉しそうに聞き返してしまったレアニールだったが・・・


「だからといって!派手に動いて構わないって意味ではありませんからね。重々ご注意のほどを」

「はい、気を付けます・・・」


 不用意な一言がエイダ部長の逆鱗に触れ、結局再び頭を下げる羽目になった。



「ははは、怒られてやんの」

「こら、ライド」


 エイダ部長の説教が終わり彼女が去っていったのを見てライドが軽口を叩いたがレアニールがそれに反応する前にマヤが注意する。

 そして3人で笑った。


 ひとしきり笑った後、レアニールは身体をほぐすように伸びをしながら広場を見渡した。まだまだ広場各所では神官騎士たちが模擬戦を繰り広げている。それはまるで古の時代、拠点の城で訓練に明け暮れる騎士の姿を想像させた。


「それにしても・・・騎士団って感じだね」

「はぁ?なんだそりゃ?・・・いや、そうかもな」


 ポツリと聞こえたレアニールの言葉に首を傾げるライドだったが周囲を見渡し同じ感想を抱いたようだ。


「これで騎士団歌とか流れていたら更に良い感じだな」

「この場合の騎士団歌というと原曲かな?ウェルフトー神語のものなら歌えるよ」

「じゃあ歌ってみてよ」

「うん、少しだけね・・・」


 マヤにお願いされてレアニールは最初の1小節を小声で歌ってみせる。


『西の地に集いし我ら 兄弟の絆を結び共に戦わん・・・』

「はぁーっ、小さな声で歌うのが勿体無いぞ・・・」

「かえって歌い辛くないの?」

「・・・うん、正直言うとね。こうした歌は響かせる前提で作られているから」


 小声の歌を聞いて少々ご不満な様子の2人。マヤにいたっては逆に歌い辛いだろうと心配してくる始末だった。


「・・・やっちゃえ」

「ああ、やっちゃえばいいじゃん」


 真顔で迫って来るマヤとライド。それに対し嫌そうな顔を浮かべたレアニールだったが遂に2人の圧に屈した。


「ええーっ・・・わかったわよ、やってやるわよ」


 歌い辛いからと錫杖をマヤに預け、姿勢を正し直したレアニールは再び歌の最初からと始めたのだが・・・


『西の地に集いし我ら 兄弟の絆を結び共に戦わん・・・』

「まだ小さい!」

「もっともっと!」

「ああっ、もうっ!・・・『西の地に集いし我ら 兄弟の絆を結び共に戦わん 暗黒の嵐の中を進み光を灯す 我らが往く道は険しくとも・・・』


 こうなったら全力で歌ってやるわよと、実家の教会で歌う時よりも声量を上げて歌い出すレアニール。喧噪に包まれていた広場にレアニールの歌が響き渡り始めた。

 突然響き始めたレアニールの歌声、始めは怪訝そうな顔を浮かべていた神官騎士たちだったが、それが古の騎士団歌だと気付くと模擬戦をやっていた者もそれを止め自然とレアニールの周りに集まりだした。そしてレアニールを中心に円陣を組むようにすると一斉に跪き祈りの姿勢を取る。無駄に・・・と言っても差し支えないほどノリが良い者だけが参加していた神官騎士たち、自分たちが何をすべきか即座に理解し行動に移したのだった。見ればマヤもライドの首根っこを摑まえるようにして跪いていた。

 気が付けば騎士たちの中心で歌う構図が出来てしまっていた。


(あ、これってあの絵と似たような構図だわ)


 その時、レアニールの脳裏に『出撃前の神官騎士』という絵画が思い浮かんだ。跪き祈る神官騎士たちの中心で戦巫女が歌うというものだった。レアニールは脳裏に浮かんだイメージに従い、ついついその絵の戦巫女と同じポーズを取ってしまった。右手は緩やかに天を指し、左手は騎士たちへ柔らかく差し伸べる。


 騒がしかった広場は静寂に包まれレアニールの歌声だけが響いていた。

 跪いていたのは神官騎士だけでなく他の参加者たちも、そして観客たちもだった。中には感極まって涙を流す者もいた。もちろんレアニールはそれには気付いていない。

 調子に乗った彼女はただ声量を上げて・・・気持ち良く歌い続けていた。


『我らは進む 漆黒の闇の中に光見つけ突き進む 我らは誰も見捨てない 共に勝利を掴むまで 兄弟たちよ歩みを止めるな 共に勝利を掴むまで 我ら栄光のロザリア神官騎士団』


 そこでレアニールは周囲の騎士たちへ立ち上がるよう、ゆっくりと両手を空へと掲げ上げた。それに従い立ち上がった騎士たちは最後の歌詞を一斉に唱和する。


『我ら栄光のロザリア神官騎士団!我ら栄光のロザリア神官騎士団!』


 それを数度繰り返したところで団長役のファビオと目が合った。レアニールはニコリと笑い、どうぞと手を差し出す。その意図は正しく彼に伝わった。

 皆が歌い終わった瞬間、ファビオは拳を天に突き上げて万歳の掛け声を発した。


「フラー!」

「「「「「「「「フラー!!!!」」」」」」」

「フラー!」

「「「「「「「「フラー!!!!」」」」」」」


 神官騎士だけではなく他の参加者や観客たちも唱和していたそれは地響きのように辺り

に木霊していた。

 まるでこれから大一番の戦へ出陣する前のような光景だった。


「あはっ、これぞ騎士団・・・だね」

「うん・・・これは感動ものだね」

「控え目に言って・・・最高だ!」


 まだまだ続く万歳を唱和しながら、3人は肩を組んで笑いあった。



 この後、雑踏警備の担当たちから予定外の騒ぎを起こすなとレアニールは怒られてしまった。それを横で聞いていたファビオら神官騎士の面々がふざけんるなとばかりに彼らと乱闘騒ぎ直前となり、レアニールはそれを制する羽目になってしまった。

 仲間の神官騎士が騒ぎを起こすのを戦巫女が止める、それは神官騎士団が本当の騎士団だった時代からのお約束ともいえるイベントだった。

 もちろんそんな事まで再現するつもりなんてレアニールには毛頭無かったのだけれど。


お読みいただきありがとうございました。


第4章の前に短編を一つ上げますので、そちらもお読みいただければ幸いです。

第3章エピローグにチラっと名前が出てきた聖女の話です。この世界の聖女はどうしてこのような位置付けとなったのか、そうした話になります。


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