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赤毛の神官騎士レアニール ~その女、無自覚につき~  作者: ふぁるくらむ
第3章 赤毛の騎士、戦巫女になる
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挿話 来賓席にて

投稿忘れていたのを一つ発見。。。

「遅くなりました、神官騎士団のレアニール・ニューロスです」


 レアニールが来賓席下の受付に着いたのは14時45分頃、最後の団体によるデモンストレーションも終わりこれから祭礼本来の慰霊の儀式が始まるまでの小休憩の時だった。


 一度ホテルへ戻ると洗濯も終わって乾いていた神官騎士団第1種制服に着替えてきたレアニール。公式の儀式に出席ということで全ての装飾を付けていたが先ほどまで着ていた昔の騎士服に比べれば地味に見えるのは否めない。

 来賓席下の受付にて係員へ名前を告げる。すると女性のミルニア市役所職員は驚いた顔を隠しもしなかった。ミルニアの人たちが自分を見て驚くその理由を先ほど知ったレアニールは内心苦笑するしかない。それでもすました顔、養母エレナを思い浮かべて慈悲深き神像のような微笑みを保つ。市職員に案内されて来賓席へと上がる。小休息で来賓の多くは休憩スペースへ移動しているのか席はかなり空いていた。案内されたのは来賓席のほぼ中央、グラシーヌの隣だった。その彼女はレアニールの到着を待っていたかのようにそこに座っていた。


「先ほどはお疲れ様でした」


 着席すると同時に慈悲深き神像が如く微笑みを浮かべたグラシーヌが労いの言葉をかけてきた。当のグラシーヌは神官騎士団時代の先輩であるエレナを真似した表情だったのだが・・・それぞれ同じ人物を手本とした表情を浮かべた2人が並んだというわけだ。レアニールは上半身だけそちらへ向け、恭しく礼をする。


「猊下、お見苦しくなかったでしょうか?」

「そんなことはありませんでしたよ。代役もそうでしたし、パトリシアさんへの引継ぎも見事なものでした」

「ありがとうございます」


 案内の市職員がまだ近くにいたから、同じような表情で社交辞令的な言葉を交わす2人。だが互いに目ではこんな会話をしていた。


(いきなりあんな真似させられて大変だったよ、もうっ)

(ううん、最高!周りの反応が面白過ぎて笑いを堪えるのが大変だったのだから。パトリシアさんをしっかりフォローしてくれてありがとね)

(だったらいいですけれど、2度とやりたくないですからね)


 といった具合だった・・・それらは互いに大体正しく伝わっていた。小さく頷き合ったところで市職員が去って行った。それを見てグラシーヌがいつもの気軽な調子で話し掛けてきた。


「欲を言えばレアの歌と奉納舞を見たかったな」

「準備はしていたのだけれどねぇ・・・うん、また別の機会って事で」


 本音を言えば披露したかった。実家の教会を手伝っている頃、小さいけれど多くの祭礼で歌や奉納舞をしてきた。士官学校へ入学して以降は全く縁が無かった。だから久しぶりにそれが出来るかも?などと楽しみにしていたのも事実だったのだ。


「ふふっ、そうね・・・ああ、そうだった。さっき私を呼びに来た兵士ってショール大佐だよね?」

「・・・気付いていたんだ」

「ふふっ、レアがパトリシアさんを馬に乗せる時にね。ほら、彼の奥さんは私の妹だから。それなりに知っているわけ」


 知っているでしょ?とばかりの口ぶりなグラシーヌだったが、初めて聞く話に慈悲深き神像が如く微笑みが消えるレアニール。


「・・・へ?ランさんの妹さん?う、嘘でしょ?」

「本当。ローレライ・ショール。レアはローリーと話をしたこともあったよね?」

「うわっ、本当なんだ・・・」


 グレイヴが恐れる妻、それがグラシーヌの妹であるローレライだったとは・・・あれ?彼女と会ったのは一度きりだけれど、そんな女性だったかな?・・・と、レアニールは記憶を呼び起こそうとする。だけれど、どう思い返してもそんな感じだったとは思えない。結婚すると変わるのか、それとも相手で変わるのか・・・いやいや、夫婦の話だから詮索は無しだねと、それ以上考えるのは止めた。


 そんな会話をしていると休憩時間も終わりに近付く。他の来賓たちも続々と席へと戻って来た。彼らと談笑しながら戻ってきたミルニア市長がグラシーヌの反対隣に座ろうとした。そこで彼はレアニールが着席している事に気が付いた。


「戦巫女様、先ほどのデモンストレーションですが最後まで通しでやられるのを見てみたかったですなぁ」


 端で聞いていると少々下品な物言いにも聞こえる調子で市長が話し掛けてきた。実際、誰も気が付かなかったがグラシーヌのこめかみがピクリと動いた。だがその言葉を向けられたレアニールは全く気にしていない。こんな調子で話し掛けてくる者には実家の手伝い時代から慣れていた。むしろ、近所の中年男性たちに比べれば随分とマシだと思える程度に。

 彼女は間に挟まれる形となるグラシーヌに小さく頭を下げた後、それに応えた。


「私の役割はこの席に座っていること。代役とはいえそれを破ってしまい申し訳なかったと思っております。遅参についても重ねてお詫び申し上げます」


 市長の言葉にレアニールは心底申し訳ないように、殊更丁寧な口調で答えた。実際、代役で出ていた間に式典の段取りを勝手に変えた所もあった。そして、何より遅刻しているのだ。

 だからレアニールの言葉に全くの他意は無かったのだが・・・


「いえいえ、とても素晴らしいものでしたので来年は是非」

「はい、来年は私よりも相応しい者が派遣されるよう、神殿と騎士団本部にはその辺り熟考するべきであると報告を上げておきます」

「えっ?あ、いえ、そういうつもりではなかったのですよ、ははは・・・」

 

 これまたレアニールに他意は無い。彼女にしてみれば来賓席に座っているだけの役割となってしまったのは、自分が8月7日の独立戦争記念行事で「やらかした」事が原因だと思っていたからだ。

 例のブス騒ぎが原因だとは露ほども思っていない。

 ところが市長にしてみれば先ほどからのレアニールの言葉は自分をプログラムから外した事に対する非難、それを湾曲な表現で伝えているものだと受け取っていた。つまりこういう意味だ。


「派遣要請出しておいてただ座っているだけとか何を考えてるの?神殿と本部にはしっかり報告しておくから二度とロザリアから戦巫女が派遣されるとは思わないでね」


 ・・・といったところだ。レアニールが用いる丁寧な言葉使いもそれを裏付けていると思っていた。

 人間、何か後ろめたい事があると物事を悪い方向へ取りがちとなるわけで・・・自分でも気が付かない内に市長の背中は冷や汗でびっしょりとなっていた。



「ところで、その・・・先ほどまでの衣装ではないのですね」

「はい、指定されたとおり連邦国家安全調査団の制服に着替えて参りました」

「あ、はい・・・はは、そうでしたな・・・ははは・・・」


 穏当に話題を変えようとレアニールの服装が先ほどと変わっている事に触れた市長だったが、それを指摘された彼女は本当に申し訳なさそうに指定されたとおりだと口にした。

 だが市長はレアニールの言葉を・・・


「ロザリアから祭礼に呼び付けておいてその衣装着るなとか舐めてんのか?」


 ・・・という意味に変換してしまった。彼にはもう笑って誤魔化すしか方法は残されていなかった。



 繰り返しになるがレアニールの言葉に全く他意は無い。




 そのレアニールだったが、話し掛けてきたのはミルニア市長のイアッチーノ・パブロスキーだと予備知識で知っていた。だけれど彼女は思案していた。昨日の歓迎会、そして今になっても挨拶を受けていない事から知らない体を貫くべきかな?・・・と。


(うーん・・・初対面なのに知っていたというのもこうした席では失礼だよね。本当、色々と面倒だなぁ・・・やっぱり何処の誰とは知らないってことにしておこう)


 レアニール自身は自分から挨拶する事に全く抵抗は無かったが、来賓という立場もある。自分の独断でスジを捻じ曲げてはロザリア神殿や神官騎士団に迷惑を掛けるかもしれない・・・と。だからといって「どちら様ですか?」と聞くのも失礼だろう。だったら知らないフリを貫くしかないかな・・・と思った。そうなるとだ、最上級の相手かもしれないという体で話さなければならないわけで・・・それもあって殊更丁寧な口調で応対していたのだ。

 まさか相手がその丁寧な口調のおかげで色々と曲解しているなんて思ってもいなかった。






 慰霊の儀式やら、午後のプログラムが全て終わったのは16時を少し過ぎた頃だった。来賓の紹介は午後のプログラム開始時に行われており、遅刻してやってきたレアニールの紹介は最後まで行われなかった。

 結局、大部分の観客は戦巫女役の代役を務めたのが何処の誰なのか、知る事も無く終わってしまった。



「晩餐会の会場へご案内するまで、あちらの休憩所でお過ごしください」


 係員の誘導に従って来賓たちは席を立ち移動を始める。他の来賓たちとタイミングを合わせて立ち上がったレアニールだったが移動の列には加わらない。そして移動を始めようとしたグラシーヌへ、朗らかな口調で告げた。


「それでは私はこれにて失礼いたします」


 小さく頷いたグラシーヌがそれに対して何か返答する前に、少し離れた場所で来賓を誘導するように立っていた市長が慌ててやって来た。


「え?晩餐会・・・は?」


 寝耳に水とばかりの市長にレアニールは優雅とも取れる仕草で少しだけ首を傾げる。


「昨日の歓迎会で欠席の連絡をいたしました。係員の方からも了承を得ています」

「あ」


 そこで彼は昨晩を思い出す。確かに部下からその報告を受けていた・・・それに対し少々下品な冗談を交えて了承を追認した気がする。

 まずい・・・と彼は思った。ここでレアニールが欠席となると本格的にロザリア神殿や神官騎士団を敵に回す事になるのでは・・・と。これは是が非でもレアニールに出席してもらわねばと彼は焦った。平静を装うが声は幾分か上擦ってしまう。


「いえ、戦巫女様には是非出席いただきたく・・・席は用意いたしますので」


 なんとしてでも出席を!と説得しようと試みる市長にレアニールはゆっくりと首を横に振る。


「いけません。あなたがどれだけ偉い方であっても一度決めた事を変えるべきではありません。若輩者の私が言うことではありませんが、会場を設営される方にも、料理を担当する方にも迷惑となりましょう。私はそれを望みません」


 言い方を間違えれば嫌味にしかならない言葉を、レアニールは神官らしい丁寧かつ朗らかな物言いで、全く嫌味にならないように告げた。


「・・・あ」


 レアニールのその言葉、自分を必要以上に下げたそれを聞いてミルニア市長は自分が彼女に自己紹介すらしていなかった事にようやく気が付いた。こうなってしまうと説得どころではない。


「それでは失礼いたします。あなた様に光ありますように」


 立ち尽くす市長にレアニールは流麗な手つきでウェルフトー教の印を右手で切る。そして微笑みを向けた後、来賓たちの退場口とは別の階段を降りて行った。

 それを市長は茫然と見送るしかなかった。その彼の隣にグラシーヌが並び立つ。


「ご安心を。彼女は全く気にしておりません」

「そ、そうなのですか?」


 安堵したかのようにグラシーヌを見た市長だったが・・・


「はい、ニューロス司教は寛容な人物ですから」


 慈悲深き神像のような微笑みを浮かべていたグラシーヌではあったがその目には全く熱がこもっていなかった。

 それを見た市長は完全に凍り付いた。彼はグラシーヌがこう言っていると思ったのだ。


「レアニールは許してもロザリア神殿は許しません。あなた、盛大に喧嘩売ってくれましたね?」


 ・・・と。実際、祭礼へレアニールを派遣する申請はロザリア神殿へ行っていた。それを受けた神殿が申請内容を審査し派遣するのに相応しいと神官騎士団本部へ要請した・・・というのが流れだ。だというのにミルニア市が示した態度はロザリア神殿の面子を潰したに等しい。

 つまり、市長は相手が示す態度の解釈についてようやく正解を導き出したのだった。

今回も読んで頂きありがとうございました。

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