3-14 祭りの後
20分ほどで広場でのデモンストレーションは終了し、レアニールたちは待機場所へと戻って来た。背後からは次の演者に対する歓声が聞こえてくる。この後、午前のパレードに参加していた各種団体のデモンストレーションが15時前まで続くのだった。
結局、最後までレアニールの名前が紹介される事はなかった。レアニール自身はあれだけブスだブスだと伝わっているのだから観衆は自分だと解っているだろうと勝手に思い込んでいたのだが、殆どの観衆にとって赤毛の戦巫女役は謎の登場人物のままだった。
「ありがとう・・・それで、どうしてこちらに?」
下馬する際に手綱を取ってくれたグレイヴにレアニールはにこやかにお礼の言葉を口にした後、周囲から聞こえない程度の声で尋ねる。
「国土の工作員を捕まえにね。首尾よく終わったから隠れ蓑にさせてもらったお礼でお手伝いしてたってわけ」
「大丈夫、こっちの仕事は全部終わっているからレアを巻き込む心配はないからね」
爽やかに見えなくもない笑顔で答える変装したグレイヴ、そしていつの間にかやって来た、同じく変装したローランが答える。ローランは巻き込まないを殊更強調する。さりげなく周囲を見回すが「チーム・グレイヴ」の面々の姿は見えない。レアニールのそうした視線に気付いたローランが、他の面々は捕らえた工作員の移送を行う為に既にミルニアを離れたと小声で告げる。
グレイヴとローランは馬を引き離れて行った。ここから少し離れた場所で担当掛員に引き渡すのだろう。神官騎士役と戦巫女役は全ての団体のデモンストレーションが終わった後、ウェルフトー新教の儀式でもう一働き有るが馬は用いない。
改めて周囲を見回すレアニール。マーカスたち騎士役を務めた陸軍兵士はつめかけた家族たちと楽しそうに語り合っている。マーカスは5歳くらいの女の子を抱き上げていた。その子はレアニールと目が合うと盛んに手を振ってきた。それに応え、微笑みを浮かべて手を振り返すレアニール。そこへ同様に家族と会っていたパトリシアが小走りにやってきた。彼女は帽子を取るとレアニールへ差し出す。
「レア様、本当にありがとうございました。おかげで最高の思い出ができました。帽子、お返しします」
それを聞いてレアニールは満足気な笑みを浮かべ首をゆっくり横に振る。
「ふふっ、だから様はいらないってば。それは記念にあげるよ」
「えっ!?・・・いいのですか?」
驚いた顔を浮かべたパトリシアにレアニールは相手に遠慮させることのない、優しい口調で簡便に答える。
「もちろん」
「ありがとうございます!大切にします・・・」
パトリシアは満面の笑顔でその帽子を再び被った。
こうして皆が笑顔になっているのを見て、レアニールは自分がやった事が少なくともこの場にいる者たちにとって間違いではなかったと思い、自然と笑顔になった。
(ミルニアに来て良かったかも・・・ううん、来て良かった!)
そろそろ自分はお暇しようかと、マーカスへ挨拶に行くと彼に「あなたのファンなのです」と自分の子供を紹介された。気恥ずかしさを覚えながらもその5歳の女の子、自分と同じ名のレアニール(注:レアニールという名前はこの世界で珍しくない名前です)と屈みながら話をしていた時だった。
「ニューロス様!」
「?」
背後から突然声を掛けられた。振り返ると一昨日の晩に行った酒場「チーズ牧場」のマスターが人混みを掻き分けるようにして走ってきた。
「はーっはーっはーっ・・・またお会い出来て良かったです」
「そんなに息をきらして、どうされました?」
ちょっとゴメンねと、小さなレアニールにお詫びを入れ屈んでいた姿勢を戻す。滝のように汗を流し息をきらした彼を見て、何かトラブルでもあったのかとレアニールは思ったのだが・・・
「ニューロス様、先日は申し訳ございませんでした!」
「えっ?あ、ちょ、ちょっと、止めてください!」
腰を直角以上に曲げ、深々と頭を下げるマスターにレアニールは思わず慌ててしまった。ここまで謝られる心当たりが全くなかったからなのだが・・・
「間違った似顔絵を鵜呑みにしてニューロス様に大変失礼な態度を取ってしまいました。本当に申し訳ございませんでした!」
「・・・話が見えないのですが、マスターは別に失礼な事をされていませんよね。むしろ私が恥ずかしながら面倒を掛けた気がしますが・・・」
何のことやらと思ったレアニールだったが、店内で他の客が自分をブスと蔑んでいた事だろうかと想像する。だとしてもマスターの責任では無いなと思う。
「いえ、俺の店に折角いらしていただいたニューロス様に不快な思いをさせたのは間違いありません。店主としてお詫びしなければなりません」
再び頭を下げるマスターに律儀な人だな・・・とレアニールは思った。
「いいですよ、過ぎた事ですから。もう気にしていませんし・・・ん」
柔和な笑みを浮かべ、本当にもう気にしていないのにどうしたものかな・・・と思ったレアニールは妙案を思い付いた。
「そうだ!マーカス、打ち上げは今晩かな?」
「はい、場所はまだ決めてなかったですが」
レアニールの声の調子に彼女が何を思い付いたのか気が付いたのだろう、マーカスはニヤリと笑って答えながら自分の部下たちを見渡している。
「マスター、どうかな?全部で・・・」
「自分以下・・・18、いや19名で。撤収作業を考慮すると18時スタートが最良と考えます」
「ありがとう。私も入れて20名、18時からだけれどお願いできるかしら?」
マーカスは騎士と従者役、それと補助の者も入れた人数を告げた後にパトリシアへ視線を送り彼女が手を上げたのを見て19名と訂正した。
「はい、もちろんです!また店に来てもらえるなんて嬉しいです」
マスターは嬉しそうな様子を隠しもしないまま、準備の為に再び走って帰って行った。それを見送ってレアニールはマーカスに尋ねた。
「ところでマーカス、似顔絵って何?」
「え?見てなかったのですか・・・あ、はい、アレは見ない方が良いと思います」
レアニールの質問にマーカスは慌てたように両手をバタバタと振って見ない方が良いと言ったのだが・・・
「はい、これ」
いつに間にか戻ってきていたグレイヴが新聞の切り抜きにしては大きい紙をレアニールの眼前に差し出した。
「うん・・・は?・・・ええっ?・・・」
それを受け取ったレアニールは視線をそれに落とすと絶句し固まってしまった。そこには人というよりは猿と言った方がしっくりくる自分の似顔絵が掲載されていた。もしかして「赤毛猿」という昔のあだ名を基に描かれた風刺画とか?いや、あっちのあだ名は各方面にバレたけれどこっちのあだ名はバレていないはずなのに?あれぇー??
「いやはや、そっくりだねぇ、痛っ!!」
「これの何処がレアに似てるの?女の子をからかって喜んでいたって本気で奥さんに言いつけるわよ」
ローランが真顔でグレイヴの後頭部をフルスイングの拳で叩いた。たまらず後頭部を押さえ蹲るグレイヴ。
「でもどうして・・・うーん・・・」
「それはね・・・」
レアニールは両手で広げるようにして持った新聞の切り抜きを横にしたり、遂には逆さにしたりしながらどうしてこうなったの?と考え込み、唸り声を上げていた。ローランはレアニールの疑問に答えるように事情を説明した。祭礼前に60年ぶりの戦巫女を迎える状況で起きた事件(?)なだけに「戦巫女を貶める為の工作活動か何かか?」との疑いもあってローランは調べていたのだ。
「・・・そのお婆さん、全く悪気は無かった。と言うか、善意しかなかったと言った方が正解かな?レアの顔の部分だけ空白になりそうだったから、それじゃあ戦巫女様に失礼じゃないかと・・・ね。その優しい気持ちに画力が全く追い付いてこなかったというわけよ」
「なるほど、そういうことだったのね」
納得したレアニールはそれじゃあ仕方がないねと苦笑した。この似顔絵を真に受けた人たちによって蔑みを受けたわけだから気分の良いものではなかったのも事実だ。だがミルニアの人々が戦巫女に対して並々ならぬ思い入れをしているのも事実で、それがあったからこその今回のちょっとした騒動なのだろう。
だとしたら・・・本当に仕方ないな、と。
(あ。ということは私ってブスじゃない・・・で良いのかな?でも誰かに聞くわけにもいかないし・・・うーん・・・)
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