1-26 第1章エピローグ・21日遅れの着任
第1章エピローグとなりますm(__)m
4月21日、レアニールは初めて本来の職場であるロザリアの騎士団本部、青隊事務室に出勤し青隊隊長ファビオ・ペラルージ中佐の前で着任申告を行った。
「色々とご苦労だったな。それでだ、少尉がムーサで従事した事については公式に記録できるものではない。よって申し訳ないが13日までは無断欠勤していたことになる」
(はーっ、やっぱり・・・)
ファビオは事務的な口調で告げる。その言葉にレアニールは心の中で盛大に溜息を吐いた。
「安心しろ、給与計算上での話だ。人事評価においては詳細記載無しのマル特1従事で記録される」
マル特1従事、評価表に概要すらも書けない国家機密相当の情報が絡む任務に当たった事を示す符号だった。それをファビオは少しだけ目元を緩めて告げる。それでも給料は減らされるんだ・・・と、レアニールの気持ちは晴れなかった。これで経費が認められなかったら大損もいいところだなと自嘲の笑みも出そうになる。
「それにしても・・・フッ・・・いや、すまないな。間違いでムーサまで行って来たって・・・ブッ・・・本当にすまない、はははは!」
堪え切れなくなったファビオは笑い出した。遂には腹を抱えて蹲り笑い転げる目の前の上官を見つめ、こんな時どんな顔をしたら良いのだろうとレアニールは天井を見上げ途方にくれる。チラリと同期のライドを見れば彼は机に突っ伏して声を殺して笑っている。それに対して迷うことなく憤怒の表情を向けるレアニール。
(ライドめ!後で覚えてなさいよ!)
*****
その日の午後、レアニールは神殿警護隊副隊長グレイヴ・ショール大佐に呼ばれて神官騎士団本部庁舎の隣、同様に白い石壁造りの神殿警護隊本部庁舎へやって来た。ムーサでの別れ際に彼が言っていた経費の支払いの件だろうと、呼び出された理由に当たりを付けていた。エントランスで来意を告げると副隊長室まで案内が付けられた。庁舎内を勝手に歩き回られないようにするためだろうなと想像する。
「ニューロス少尉、案内します」
そう言って現れたのは栗色の髪の毛の女性、神官騎士団の制服に類似したもの、ただし上着やブーツが黒い神殿警護隊の制服を纏った大尉だった。
何処かで聞いた声だなと思いつつ敬礼を交わした後、レアニールは彼女の後ろに従って廊下を進む。すると前方から厳つい風貌のどっしりとした体躯の男性隊員が歩いてきた。神殿警護隊の黒服には長らく前線勤務に就いた事を示す青い飾り帯が誇らしげに付けられている。歴戦の隊員だなとレアニールは思った。彼は少佐の階級章を付けていたのだが・・・
「えっ、バーンズ曹長?」
すれ違いつつ敬礼したレアニールはその少佐がバーンズ曹長だと気が付いた。
「はっはっはっ、リカルド・ヘンダーソン特務少佐だ。今後ともよろしく」
ヘンダーソン特務少佐は答礼すると空気が抜けるような笑い声を上げながら去って行った。それをポカーンとした顔で見送るレアニール。
「少尉、こういう時は気が付いても名前などを呼ばず目だけで合図するのが礼儀ってものですよ」
案内の大尉がニコリと笑う。その笑顔の目元を見てレアニールは彼女が誰だか分かった。
「あーっ・・・」
思わず頭を抱えて蹲るレアニール。
「ふっふっふっ、ご理解いただいたようで何よりです」
大尉は腰に手を当て得意げに笑う。それは変装を解いたカーラだった。
「大尉殿、もしかしてあの分隊って・・・」
恐る恐るといった風でカーラを見上げるレアニール。
「はい、全員神殿警護隊員でした、てへっ」
片目を瞑り軽く自分の頭を後ろから叩きつつ舌をチョロっと出すカーラ。
「あーーーーーーっっっ!」
再び頭を抱えるレアニール。
「自分はクレア・カーライル大尉、ちなみにアンナはローラン・ブレンダ大尉だよ」
「・・・カーライル大尉「クレアでいいよ」・・・あ、うん、クレア、私・・・歴戦の神殿警護隊員を前にしてかなり恥ずかしかったのでは?」
ワナワナと震えながらカーラことクレアを見上げてレアニールは問うた。クレアはふふーんと笑うと自信満々といった風に答えた。
「大丈夫、仕事ぶりは立派だったし評価も高い上で笑い話になっているから。これって凄いことなんだよ?」
結局笑い話にされているのには変わらないじゃないか!とレアニールは心の中で叫んだ。涙目になりながらフラフラと立ち上がる。その時、廊下の角から顔を半分だけ覗かせてニタリと笑っているアンナ、ローラン・ブレンダ大尉の姿を見つけた。
*****
「ひどいです!あんまりです!」
レアニールは通された神殿警護隊副隊長室の応接机をバンバンと叩いていた。彼女の正面に座ったグレイヴは頭を掻きつつ誤魔化しの口笛を吹いている。無駄に巧い口笛なのが余計に頭にくる。クレア、彼女はグレイヴの副官だったが先ほどまでグレイブの後に立っていたのに姿が見えない。いや、グレイヴが座るソファーの後で蹲り笑いを堪えていた。
「俺と違ってクレアたちはノーヒントに近かったからなぁ。リック・・・ああ、ヘンダーソン特務少佐な。リックのヤツのベテラン下士官ぶりが堂に入っていたから疑わなかっただろう?」
何食わぬ顔で応じるグレイヴだったが・・・
「あーっはっはっはっはっ、いやいやゴメンゴメン。でも・・・ふっ、あーはっはっはっはっはっ!」
涙目で見上げるようにしていたレアニールを見て腹を抱えて笑い声を上げるグレイヴ。
パカーン。
「笑い過ぎです」
先ほどまで笑いを堪えて蹲っていた事を棚に上げてクレアがグレイヴの後頭部をお盆で勢いよく叩く。見事なフルスイングだった
「のぉぉぉぉっっっっ・・・おま、少しは加減しろよ」
「奥様から大佐が女の子にちょっかいを出したら全力で殺れと仰せつかっております」
何食わぬ顔で答えるクレア。
「お前、今殺るって言わなかったか?」
「言葉のあやです。お気になさらずに」
「・・・はい、ごめんなさい」
ジロリと見下ろすクレアにグレイヴは素直に謝る。そんなやり取りを見ていてレアニールはプッと吹き出した。
「ああ、すまんな。クレア、あれを」
レアニールが軽く吹いたのを見てグレイヴは笑みを浮かべて頷く。グレイヴの指示を受けたクレアが応接机の上に封筒を置いた。
「経費だ。確認してくれ」
レアニールは頷くと封筒の中身を確認した。連邦紙幣で5千シーグ(およそ100万円)入っていた。
「え?多くないですか?」
戸惑った顔を上げたレアニールにグレイヴはうんうんと頷く。
「クレア、説明を」
「はい、臨時雇用上級の日当が1日50で550、これは4月2日から12日までの計算です。旅費日当が遠隔地加算も含めて330、潜入任務などに適用される危険手当が4回実施した計算で400、食費が220、宿泊費が同行者分の立て替えも考慮し1,950、その他に大佐の証明で拠点確保費用や被服などの購入費用実費分ということで1,500、数字をキリ良くするため大佐の財布から抜き取ったのが50」
「うんうん・・・っておい、お前本当に手癖悪いぞ!」
呆れた声を出すグレイヴにクレアはそれくらい当然ですとばかりに胸を張った。
「ま、いいか。だが俺のお気持ちが50って思われるのはちょっと癪だね」
そう言ってグレイヴは笑う。レアニールは充分いただきましたと笑顔で答える。
「でだ、今晩だが今回色々と心労を掛けた面々に俺から詫びをしようと思っているのだが・・・レア、来るかい?」
後ろではクレアがにっこり微笑んでいる。レアニールはその誘いに喜色満面で答えた。
「はい、喜んで!」
その夜の飲み会ハイライト
レアニール、グレイヴの顔面へ12日ぶり3回目の飲み物噴射
第1章・完
第2章の前に本編開始時から5年前、レアニール13歳の挿話を前・中・後編投稿します。
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