1-21 バーコードの逆襲
4月9日、朝の6時に容赦なく起こされたレアニールは寝たかどうか分からない曖昧な記憶でテリーと共に監視役に就いた。監視中は自然と目が冴えたが交代となった9時には眠気が容赦なく襲い掛かってきた。カーラとシンはレアニールが監視に就く前に戻ってきていた。
「お嬢さん、このような場所で貴女は燦然と輝き私の心を虜にした。愚かな私めの心をどうか慰めてください・・・とかなんとか言うわけよ、私の腰に手を回しながら」
いつの間にか椅子が増えている拠点の一室、カーラとシンが昨晩のパーティーの話をしている。それをロバートとアンナが朝食を食べながら面白そうに聞いていた。その後ろでレアニールは心ここにあらずといった具合でそれを聞いている。今話しているカーラの言葉は頭に殆ど入ってこない。アンナに淹れてもらった濃いめのコーヒーが入ったカップを口元へ運ぶが口に入れるか入れないかの辺りで止まる。ロバートはその様子をチラリと見たが何も言わず再びカーラとシンへ視線を向けた。
(実質初任務で気持ちが高ぶったままで眠れなかったのだろうな。ま、色々と規格外だがレア自身は新人、無理ないか)
それはロバートだけでなくレアニールの様子に気付いていた者共通の認識であった。
「でだ、酔っぱらってステージに上がった町役場のおっさん、キングってあだ名なのかな、まぁキング!キング!って皆がコールしたら頭をグルグル、上半身ごと大きく回し始めてさ」
(おじさん、ぐーるぐる・・・)
意識が飛びそうなレアニールはカーラに替わって話始めたシンの話を聞いてはいたが正常な思考処理が営業終了した彼女の頭は斜め上の処理を開始していた。
「なんだっけ、東方の芸能で・・・長い髪の毛をグルングルン回すヤツ・・・畜生、名前が出てこない。とにかくそれみたいにグルングルン上半身ごと頭を回し始めたのさ。おっさん、頭がバーコードだったのだけれど、てっぺんを隠していた髪の毛を逆立ててグルングルン」
(おじさん、ぐるんぐるん)
テケテンテンテンテンというお囃子と共に役場幹部がレアニールの脳裏を横切って行く。そこに何故かホイスが2人付いてきた。そして役場幹部と2人に増えたホイスが並ぶとバーコード頭を上半身ごとグルングルン振り回し始めた。3人揃って左側頭部から髪の毛がシャキーンと真っ直ぐ逆立ち更地の頭頂部を堂々と晒してグルングルン。ステージにはスポットライトが向けられ時折頭頂部にそれが当たってピカ!光が当たってピカ!「ほいっ!ほいっ!」と掛け声も軽くおじさんたち絶好調!更に高速グルングルン!ピカ!ピカ!
「ぶふぉぉぉぉっっっっ!」
「うわっ!?レア何やってくれてんだ!?」
何故か一瞬だけ通常営業に戻ったレアニールの頭だったものの、不幸な事に妄想の映像がしっかりそこに残っていた。それを認識した瞬間、レアニールのツボにはまってしまった。更に不幸な事に寝ぼけながら彼女はコーヒーを口に含んでいた。それを盛大に噴いてしまった。狙ってはいなかったがロバートの顔面へ向かって噴いてしまった。
「げほっげほっ・・・」
椅子から転げ落ち口元を押さえ咽るレアニール。なんとかそれを収めたレアニールの頭は完全に覚醒し何をやってしまったか、正常に認識した。
(うわーっ、やっちゃった・・・)
ペタンと床に正座するようにして座ったレアニールは口元を押さえたまま恐る恐る顔を上げる。目の前には頭からコーヒーを滴らせたロバートがニコニコしながら立っていた。
「レアニール・ニューロス少尉、俺は女の子にコーヒー噴き掛けられる特殊な趣味は持ち合わせてないのだが、これほど見事に被ってしまうと間違いなく嫁さんに勘違いされる。なぁ、どうすればいいと思う?ああ、解っている、俺は冷静じゃない。怒っているわけじゃないが何が起きたのか脳が適切な処理を拒絶していやがる。どうしたら良いか可及的速やかに意見を求める」
彼は早口で、ほぼ地が出た状態で言う。声音は確かに怒っているようではなかったのだが・・・
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
レアニールは床に頭を擦り付けるようにして詫びをする。所謂、土下座というやつだ。
「いやいやいや、謝罪を求めているんじゃないから!と言うかそれ止めて!俺が非道な男に見えちゃうから!ほら、皆の冷たい視線が俺に集まっているから!とりあえずシャワーでも浴びて着替えてきて!俺は後でいいから、なんならこのままでもいいし」
慌てたようにバタバタと手を振ってレアニールを止めようとするロバート。先ほどの台詞は冗談を含めていたのだが、実際に周囲から冷たい視線が自分に刺さっている事に気付くとレアニールの前に正座をすると深々と頭を下げた。
「ごめんなさい、調子に乗り過ぎました」
それを聞いてレアニールはゆっくりと上体を起こす。
「ううん、私が謝らなくてはならないのは確かだから・・・本当にごめんね」
そしてもう一度謝ろうとしたレアニールをアンナが止める。
「ストーップ、はいそこまで」
タオルとコップに入った水を持ってアンナはレアニールの右隣へ片膝を付く。
「ほら、とりあえずこれで拭いて。それとお水飲んで」
「ううっ、ありがとう・・・」
手渡されたタオルで口元を拭いたレアニールは次いでコップを受け取り水を口に含んだ。その彼女の耳元でアンナが囁く。彼女は何がレアニールのツボに入ったか、正しく認識していた・・・
「・・・バーコードがグルングルン」
「ぶふぉぉぉぉっっっっ!」
アンナの一言でバーコードおじさんの集団グルングルンを脳内で再演してしまい、防御力が極限まで低下していたレアニールは目の前に座るロバートの顔面へ盛大に水を噴き出した。
さすがにふざけ過ぎだと面々はバーンズ曹長に怒られた。本当は彼よりも階級が上位だと思われるロバートも一緒に並んで怒られた。レアニールはそれを黙って聞いていた。それは長いものではなかったし自分に向けたものでもなかった。だがベテラン下士官の叱責の圧に彼女は身が縮む思いだった。
「それと少尉殿、あの態度はいただけませんぞ。部下の前での緊張を抜く為の態度と弛んだ態度は別物と心得ていてください」
皆への叱責が終わるとバーンズは後に立っていたレアニールへ振り返る。バーンズは彼女が寝ぼけていた事を叱責していた。自分にも矛先が向いた事にレアニールは姿勢を正し、それを受けて当然だと素直に反省する。
「バーンズ曹長、ご指摘ありがとうございます。その言葉、心に刻みます」
身を引き締めて答えたレアニールにバーンズは満足そうに頷く。その時だった。
「コンコン、コンコン」
隣の部屋、監視に当たっているテリーが床を軽く叩きガブリエル商会に変化が有った事を知らせてきた。
ちなみにホイスはバーコード頭ではない。
作者のバーコードへの扱いが酷いのはトラウマとかあるわけじゃありませんよ?
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