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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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長い旅

 俺はフィーナの声を聞いた瞬間、動けなくなった。彼女はこちらから見てバルコニーの中央に立ち、周囲を見回しながら声を上げる。


「どこかに、いるんですよね?」


 ここに俺がいるとわかっているわけではない……部屋の状況を見て、いるだろうという推測から紡がれた言葉だった。


「少し前、誰もいないはずのこの部屋で、誰かが寝泊まりしている形跡があった……私はこの部屋を見て、ある予感を抱きました。それは……私は何か、大切なものを忘れているという可能性です」


 それは……俺は答えないまま、彼女の声を聞き続ける。


「違和感を覚え、私は調べました。そして城に滞在している人間の名簿を確認し、ここにいた人の名前が明瞭になった……名はアレス。あなたは……」


 そこでフィーナは口をつぐんだ。記憶が消えている――だからこそ、俺が何者であるのか、それを考えることはできない。

 それと共に、俺自身全ての痕跡を消すのは非常に難しいのだと察した。城に滞在する人員の名簿……調査はしているため、今更それをどうにかしようとしても遅いか。


 荷物を処理すれば全て終わり……と考えていたのが甘かった、ということなのだろう……俺は動かずフィーナのことを見据える。幸い魔王の能力が効いているため、フィーナは俺のことに気付いていない。そしてここで声を出せば……話くらいは聞いてもらえるのだろうか。


 ただ、俺が得た力の代償は、俺という存在を忘れること……そして、忘れ去られた記憶については戻ってこないだろう。ここで彼女と顔を合わせても、意味がないしむしろ混乱させるだけだ。

 だから俺は……次の声を発する前に飛び降りようとした。けれどその時、


「――私にとって、大切な人だったんじゃないの?」


 その言葉は俺に向けられたものではなく、きっと自分に対しての質問だ。


「何かを忘れている……魔物の襲撃があってから、そう感じるようになった……痕跡だけを残して……きっと女神リュシアの力……記憶を削る私と同じような力を持っている人が、ここにはいた」


 ……まあ、彼女なら情報があれば推察できるか。


「そしてその人は……きっと、私と共に戦っていた人のはずなのに……どうして……」


 俯くフィーナ。対する俺は動けなかった……今の俺は、何もしてあげることはできない。

 そこで俺は意を決するかのように飛び降りた。彼女は気付いたかもしれない。けれどそれを無視するように中庭へと着地し――フィーナが誰かを呼ぶよりも先に、俺は全力で城壁の外側へと出たのだった。






 やがて俺は旅を始めた。フィーナの力……その代償を消し去るための旅だ。そのためにはまず、天霊と話をしなければならない。

 俺と向かい合った女性――天霊が口にした場所。そこへ向け進んでいく。この力さえあればいくらでも仕事はできるだろうし、時間さえ掛ければ到達することができるだろう。


「長い旅になりそうだな……」


 果たして、これが正解なのかもわからない。もしかしたら、何も解決しないまま一生を終えるかもしれない……でも、俺は旅の目的を見いだした。この力を得る前は、フィーナと話をするために。そして今は――聖女である彼女を救うために。


「もしかすると、その過程で天霊と争うかもしれないな」


 そうなったらどうすべきなのか……俺は自分の両腕を見据えた。絶対的な力、魔族を蹂躙するほどの能力……夢の中で天霊と顔を合わせた時、俺は一つ直感したことがある。

 それは、天霊が所持していた力の大きさ……それと比較しても俺の力は大きい。きっと、大地など天霊以外の魔力が付与されたためだろう。魔王を倒すための力……そして非常に重い代償。それと引き換えに、俺は天霊でさえも相手取ることができる力を持ったかもしれない。


 天霊としてはここまでしたのは想定なのか、それとも……と、色々と頭の中で考えつつ街道を進む。目的地については既に地図などで確認した。この大陸にある場所ではないため、まずは船で他の大陸へ渡る必要がある。

 正直、距離だけでも相当なものだったし、順調にいっても辿り着くのは……全力で移動すればどうにかなるのだろうか?


「でも、街道を爆走する人間とか怪しまれるだけだよなあ……」


 他国で怪しい行動を起こしたらどうなるのか……と、色々とリスクもある。力に対する代償のこともあるから、可能な限り目立たないよう動くべきだろうと心の中で断じる。

 下手すると、年単位の歳月が掛かるかもしれない……だが、あきらめるつもりはなかった。絶対に、フィーナを救う。そのために、俺は……決意を秘めながら街道を進んでいく。


 ふと、最後に見た彼女の姿が脳裏に蘇る。いたはずの人間。その原因を察していた彼女。もしかすると、あの場所で声を掛けなかったことは後悔するかもしれない……そんな予感を抱きながらも、俺は足に力を入れ、何かに急かされるように港へと急いだのだった。



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