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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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一つの戦いの終わり

 部屋を出た足で謁見の間を訪れると、来るのを待っていたとばかりに魔王がいた。


「答えは出たか?」

「ああ……少なくとも、あんたの望んだ答えじゃない」


 そして俺は、天霊が滅ぶことのない形で代償を消すという手段を模索することを告げる。


「ただ、こうしている間にもフィーナの……聖女の記憶は消えていく。ひとまず天霊の所を訪れて、どうなるかだな」

「そうか」

「あんたとしては不服じゃないか?」

「敗者は勝者に従うまでだ」


 返答はそれだけだった……魔王は生きているが勝敗は決した。よって、それに従うと。

 ただ、懸念はある。魔王はもう戦わないと語っているが――


「こちらの言動を疑っているようだな」

「それは、まあ」

「なら、よりわかりやすい行動に移そう」


 そう告げると、魔王は玉座の傍らから何かを取り出す……それはザックのような荷物だった。


「残った同胞を引き連れ、この領域を脱する」

「え……?」

「力を蓄えねばならない。おそらく数百年単位は掛かるだろう……少なくとも、貴殿が生きている間にエルーシア王国の土を踏むことは、あるまい」


 ……本当に、戦いは終わったのだと理解する。少なくともフィーナを始め、この国の人々に対する脅威は減るだろう。


「とはいえ、山岳地帯に当面瘴気が溜まるため、魔物は出続ける。それが解決する前に、数年は必要だろうな」

「魔物相手なら、余裕で対処できるだろうし、問題はないだろ」


 魔王はここで俺へ視線を向ける。最後の最後で勝負でもするのかと内心身構えたのだが、


「……明日にはここを経つ。城はそのままにしておくため、貴殿は別に使ってもらって構わない」

「放置でいいのか?」

「貴殿が色々と動き回っている間に、準備は済ませた。もし人間達がここに踏み込んでも、金貨一つ巡り会うことはない」


 この城はもう空っぽということか。


「ただ、貴殿がここにいると知れたら面倒なことにはなるぞ」

「記憶が消えているから、だな」


 人間であることは明白だが、なぜ魔王城にいるのかという疑問がつきまとうわけで、


「まあ、俺もすぐにここを経つから大丈夫だ」

「……最後に、一つ助言しておこう」


 と、魔王が語る。そこで俺は、


「ずいぶんと優しいな」

「場合によっては天霊を討つ選択をするかもしれないと考えれば、事細かに語った方が良いだろう」


 魔王としてはあくまで俺を利用して、という心情があるみたいだな。


「貴殿が背負った代償は、一度離れれば効果がまた生まれる」


 そして語った内容は……俺は首を傾げ、


「どういうことだ?」

「この地に踏み込み、私と出会った後に一度戻ったわけだが、再度ここを訪れた結果、人間達は再び記憶が消えているはずだ」

「なるほど、少しでも離れれば初対面になってしまうと」

「それを防ぐには、常に行動を共にする必要がある……あるいは、魔力による影響を受け続ければいいはずだ」


 つまり俺が離れ魔力の影響下になくなった瞬間、記憶を失うということか。


「そしてもう一つ重要なことがある」

「……何だ?」

「記憶が消える、ということで貴殿の存在が完全に消えたように思えてしまうが……実際は違う。貴殿がいたという痕跡は残るし、それを見て疑問に思った人間は、もしかすると何かしら悪影響を及ぼす危険性がある」

「具体的には……」

「代償により記憶は消えるが、その部分は完全に抜け落ちる……だが、そこに何かがあったという記憶は残り続ける。都合良く誰かに置き換わるといったこともないため、自身の記憶が抜け落ちているという自覚を抱くと、何かしら反動が起きるかもしれない」


 影響がありそうなのは、フィーナなのだが……。


「貴殿の懸念は聖女への影響だろう?」

「そうだな」

「力を得ていこう、四六時中共に行動していたか?」

「……さすがにつきっきりというわけじゃないが、一緒に行動したことは何度もある」

「貴殿が関わった者達全員の記憶がなくなっているため、下手に指摘されない限りは違和感を抱くという可能性は低いと思うが、もしゼルシアで過ごしていた部屋などに痕跡が残っているならば、処理はした方がいいだろう」


 ……確かに、ゼルシアの城内、俺の部屋の中には私物が残っているな。


「場合によってはゼルシアに侵入できる手はずくらいは用意するが」

「ずいぶんと優しいな」

「形はどうあれ、こうして関わった以上は……な」


 ――魔王は、どういう気持ちで言及をしたのだろうか。魔族を虐殺した俺は、最大の脅威であり討つべき存在なのだとは思うのだが。


「どうする? 魔王の力など必要がない、と言われればそれまでだが」

「いや、ありがたくもらっておくよ」


 俺の言葉に魔王は「わかった」と応じる……そうして魔王と会話を成し、ゼルシアへ入り込める方法という餞別までもらった後、俺は魔王城を離れた。

 魔王もまた城を出て、俺に背を向け魔族の領域を後にする……歩いて行く後ろ姿はもの悲しくもあった。それは俺が全てを破壊したためか、それとも――


「……行くか」


 考えても仕方がない。そう思い直して俺は、ゼルシアへと戻ることにしたのだった。


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