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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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偽物

「……何?」


 最初、俺は聞き間違いだと思って眉をひそめた。魔王? こいつは今、自分のことを魔王だと言ったのか?


「信じられないのも無理はないかもしれないが……そちらは魔力を容易に探知できる。ならば、気配を探って確かめればいい」


 相手はそう俺へ告げる。そこでこちらは、魔力を探る……そこで、城から感じられる気配を同質であるのを理解する。


「……本当に、魔王なのか?」

「この姿は話をするために用意したものだが、紛うことなき本物だ」


 ――言われてみると、城から感じられる気配が多少なりとも薄くなっている気がする。俺はそれでも警戒を解かなかったが、魔王は淡々と話し始める。


「まず、そうだな……ここへ来たこと自体は偶発的なものだったようだが、おそらく本来の目的は魔族の領域を調査することだっただろう。派遣した魔物がどうやって作成されたか。また、次の攻撃が来るのか……それを調べるために単身踏み込んだ」


 魔王は、俺が山へ入った理由を明確に悟っている。


「だが結果として、やられる前にやるという方針に切り替えた……その内に持つ力を使って、文字通り魔族を虐殺した」

「人ごとみたいな言い回しだな」

「……冷静に見えるだろうが、私とて腸が煮えくり返る思いだよ」


 そう語るが、俺に殺気を向けることはない。下手に威嚇をすれば俺がさらに暴れるのかもしれないと考えているのか。

 なおかつ、俺は目前にいる魔王の気配を探り、倒せるのではないかと思った……が、目の前にいる魔王が本体なのかわからないし、どう立ち回るかはひとまず話を聞いてからにしよう。


「とはいえ、だ。貴殿がこの場所に転移してきた以上、他に手段はなかっただろう……もっとも、戦意のない同胞すらも屠るという行為は、ある種自分を見失っているようにも見えたが」


「……ああ、そうだな」


 確かに俺は、半ば我を忘れて戦っていた。とはいえ、剣で魔族を斬ることに快楽を感じることはない。どこまでいっても、苦々しいものだ。


「ここにあんたが来たのは、何をするためだ? 雌雄を決するのか?」

「この場に同胞がいたならば、間違いなく殺せと私に告げていただろうな。仇を討てと、滅ぼせと……しかし、その答えは違う」

「なら、何のために?」

「問い掛けにきた。貴殿に」


 何……? 俺は疑問に思いつつ、ふと魔王が俺に対し『貴殿』と言っていることに気付いた。


「俺に何かしら敬意でもあるのか? それとも、刺激しないようにしているのか?」

「両方の意味合いがある……そうだな、口約束であるため信用できないとは思うが、貴殿に表明しよう……私達は今後、人間達に攻撃を仕掛けることはない」


 ――思わぬ発言に、俺は絶句した。


「何度でも言おう、もう攻撃はしない……人間の立場で言えば、これは貴殿の功績だ。一夜で斬り捨てた魔族……その数を考えれば、もはやこちらに戦うだけの力はない」


 思わず、力が抜けそうだった……だが同時に、それでもなお魔王を見据える。

 当然ながら、それが本当なのかもわからない……だから、話が終わるまで俺は剣を握りしめ、警戒を続ける。


「とはいえ、私達の側から始めた戦いだ。魔人の存在も、ルダー砦の防備も、全ては人間という種族を打倒するためのもの……しかし、君の前にその野望は潰えた。城にいる魔族は残り僅かだ。もう戦わない……というより、戦うことはできない。終わりだ」


 無念そうに目を伏せる魔王……その声音は、何もかもをあきらめたかのような雰囲気が確かにあった。


「私達の敗因は、貴殿が力を手にしてしまったことだろう」

「力……」

「……だが同時に、私に抵抗できることが一つだけある」


 俺は剣を構えた……が、魔王はそれを手で制するように突き出し、


「戦うつもりはない。そもそも戦う意味もない……貴殿は得た力がどういうものか、わかっているか?」

「女神リュシアの力だろう?」

「違う」


 即答だった。俺が眉をひそめると、


「女神リュシアとは、過去魔王を打倒した聖女の名……その人物が所持していたため、女神として歴史に名を刻んだ……が、実際のところ、そのリュシアという人物もまた、とある存在に力を与えられた存在だ」

「何……?」

「その存在こそ、貴殿に力を与えた者……人間の言葉で言い表すと、神とでも言うべきだろうか?」


 ――もし魔王の話が本当であれば、人間に神が過去も干渉していた、ということだろうか。


「しかし、厳密に言えば神という存在ではない……その名を騙った偽物だ」

「にせ、もの……?」

「ヤツに目的はない……いや、違うな。人を助けるということに意味はない。ただ魔族という存在を滅ぼすために、他の種族に力を与えているだけだ。魔族という存在が、自分を滅ぼす要因になるため……過去、自分自身に牙を突き立てた存在が魔族であったため、それを滅しようと動いている」

「……お前達はそいつを滅するため、まずは味方をしている人間を滅ぼすということか?」

「その通りだ」

「なら、仮に神のまがい物だとしても、俺達にとっては正義の味方ってことになるんじゃないのか?」

「ああ、そうだな。その通りだ……だが、力を受けた者は代償を背負う。人間で扱いきれるものではないが故に、体を蝕む」


 ――フィーナは記憶を削りながら戦っていた。俺の方は正直どういう代償なのかわからないが、これだけの力だ。何かしらあるはずだ。


「……それは理解している。俺もそう遠くないうちに、死ぬんじゃないか?」

「貴殿はどうやら、どういう代償なのかを理解していないようだ」


 まるで魔王は、全てを理解しているかのように告げる。


「ならば、それを一度確かめるといい」

「……どういう意味だ?」

「貴殿の代償は、人から遠く離れたことによって作用する……今が間違いなくその時だ。唯一私達魔族は貴殿の代償による影響を受けない故に、一度戻ってどういうことなのか理解してくるといい。全てを把握した上で、もう一度話をしよう」


 そして魔王は、俺に対し背を向けた。


「城は開けておく。いつでも来るがいい……その代償を背負い生きていくか、それともここを訪れ新たな道を選ぶか……貴殿自身で、決めろ――」


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