痛いほどわかる、辛いほど感じる
予め誘導範囲を狭くしたミサイルを各所にばら撒き、エルシオンを上手くその中心に誘き寄せる。すると1度反応したミサイルが連鎖的にエルシオンを襲い、回避する間も無いままジルコニアの主砲が届く地点まで誘導されてしまう。
最初からハイド達の狙いはエルシオンだけだったのだ。ラッセルを倒すほどにパイロットが腕を上げているのなら正面から戦闘を仕掛けて勝つのは難しい、という保険だった。
だからビームの下からエルシオンが飛び出してきた時、ハイドは驚きを隠せなった。戦艦の主砲だ。少しでも擦れば致命傷になる。その上ハイドの見る限りベストなタイミングでの艦砲射撃。この2つを合わせても倒せないエルシオンをハイドは恐れさえした。
敵のビームが迸る。ハイドは条件反射的にそれを躱した。ジルコニアの主砲で倒せないのは完全な誤算だった。急いで周囲を見渡す。ロジェンもジルコニアもそれぞれの敵で手一杯の様子だ。残るハイドに残された手段は1つだった。
「逃すか!」
ヘリアムは真っ直ぐ9時の方向、デブリ帯の方へ飛んだ。カントもそれを追いかける。
ヘリアムは前進しながら後ろ向きにバズーカやビームキャノンを器用に撃つ。さすがに精度はそれほど高くないがそれでも回避運動を織り込まなければならないためなかなか2機間の差は縮まらない。
「どうやったら後ろ向きに狙えるんだよ」
[警告。このままではデブリ帯に突入します]
「ここまでやられたんだ、今さら諦められねぇだろ!」
通信越しにがなりたてるジードの声を無視してカントは暗礁漂う宙域へと高速で突っ込んだ。
前方のヘリアムはひょいひょいと軽やかに岩礁を飛び抜けていく。カントもそれに必死に食らいついていくがとても攻撃に回れるほどの余裕は無い。全天モニターで見るその景色はまるで隕石の大群が自分の横を掠め飛んでいくかのようだった。
だがデブリというものはその中心部に近づくほど岩礁の密度は高くなってゆくもので、食らいつく、というのも容易ではなくなってきた。
目の前にある岩礁を1つ躱そうと横にスラスターを強く吹かせようとするとその隣の岩礁に衝突してしまうのだ。密度が上がってくればくるほどその力加減はシビアになる。
目の前の岩礁を躱した所でカントはヘリアムの姿を見失った。
[警告。正面、衝突コースです]
ヘリアムを捜そうと辺りを見渡す余裕も無く、目の前にはマグニジアの10倍はあろうかという巨大な岩礁が迫っていた。
「こ、のおおっ!」
全力で機体を横に動かす。その先を考えない一か八かの賭けだったがそれ以前に巨大岩礁を回避することもままならず、咄嗟にカントは機体と岩礁の間にシールドを挟み込んだ。ガリガリと岩礁を削りながらも何とか巨大岩礁を乗り切ることができた。
「……はあ、死ぬかと……」
シールドのおかげでエルシオン本体はほとんど無傷だ。
[警告。正面、衝突コースです]
「んなっ……」
カントはどうやら賭けに負けてしまったようだった。躱した先にもしっかり岩礁が控えていたのだ。だが幸運だったのはそれが先程のように巨大ではないということ。
「エルシオン!ブラスターフル出力!」
[了解。ビームブラスター出力最大。エネルギーコンデンサ強制解放。急速チャージ完了]
「ブチ抜けぇ!」
前方の岩礁に向けてブラスターを照射する。眩いばかりの閃光が岩を貫き一本の光の道を作り出した。
[銃身オーバーヒート。100秒の冷却時間を要します]
カントは一度エルシオンを停止させた。そしてレーダーを見るが敵影はどこにも見当たらない。
「あいつどこ行ったんだ?」
[デブリ帯は岩礁によって磁場が乱れるためレーダーが効きません]
「まじかよ」
仕方なく目視で敵を探すが周囲に隠れる場所があり過ぎて警戒のしようがない。
「仕方ない。このままマグニジアに……」
カントが引き返そうと機体を反転させた直後だった。背後から2本のビームが襲いかかった。反射的にシールドで受けてしまうがシールドは今しがた岩礁に擦ってボロボロな状態だ。高出力のビームなど受けようものならひとたまりもなく融解してしまう。
「しまった……」
シールドがその防御力を失う寸前、何とかビームを回避する。ビームの方向から位置を探るが既にそこに敵はおらず、また振り出しに戻ってしまった。
「エルシオン、ここの立体マップって出せるか?」
[デブリは常に流動するため正確なマップは存在しません]
「そうか……」
マップが使えないとなるとやはり目視しかない……と口の中で呟いてカントは気づいた。レーダーもだめ、マップも無い。確かに崖っぷちの状況だがそれは相手も同じ。相手だって目視しかないはずなのだ。なぜこんな簡単なことにも気づかなかったのか、と両頬を叩いた。
「ん……?」
ハイドの視界からエルシオンの姿が消えた。目視以外に索敵手段のない現状、先に敵を見つけた方が圧倒的に有利だ。動くものは蜘蛛の子一匹見逃すまいと目を皿のようにしてモニターとにらめっこする。
事実、ハイドは焦りを隠しきれずにいた。最初の計算であったジルコニアからの砲撃を躱され、やむなくデブリ帯に逃げ込んだのだがまさか漂う岩礁を躱して追いかけてくるとは思わなかった。
さらに先程の背後からのビームキャノンも凌いで見せた。これは機体の性能がどうという域を超えている。エルシオンのパイロットは最後にハイドが感じた時よりも格段に腕を上げていた。それこそ別人かと疑うほど。
「だが……俺は負けるわけにはいかない」
ハイドはそう自分に言い聞かせた。なぜ自分はこうして戦場に身を置いているのか。それを再び脳に刻み込んだ。
わざと岩陰から身を晒し、そして360度全周囲に気を張り巡らせた。
カントの目に無防備に姿を晒すヘリアムの姿が映った。まるで戦いを諦めたかのように脱力した様子で姿を現したまま微動だにしない。
「ビームブラスターの冷却はあと何秒要る?」
[残り時間47秒です]
ブラスターはまだ使えない。だがこの絶好のチャンスを逃せば今度いつこの手練れを追い詰めることができるかわからない。それにこのパイロットには聞きたいことも山ほどあった。罠に飛び込むのを覚悟でカントはビームブレードを展開し、一直線にヘリアムに向かって行った。
モニターにブレードを握りしめて接近してくるエルシオンが映った。
「撃ってこない?だがむしろ好都合だ」
ハイドもブレードを展開し、エルシオンの金色の光刃を受け止めた。だが無理に力押ししようとはせず、わざと弾き飛ばされた。
それによってそれによって僅かな間合いが生まれる。すかさず残っていたミサイルを撃ち込み、一瞬だがエルシオンの動きを封じる。少しの間合い、姿を現し、シールドもなく動きの止まった敵。これこそハイドが求めていた状況だった。ミサイルの爆煙も治まらぬ内にその中心に向かってビームキャノンを撃ち込んだ。いくら強靭な装甲も至近距離でキャノンを食らわせれば流石に保たないだろう、とハイドは考えたのだ。
「……手応えが無い?」
確かにベストなタイミングだったはず。だがハイドが放ったキャノンは虚空を撃ち抜いただけだった。
気づいた時には既にエルシオンはヘリアム・カスタムの直上でブレードを振りかぶっていた。間に合わない。そう感じたハイドはわざと片方のビームキャノンをオミットした。ヘリアム・カスタムから外れたキャノンは容易くエルシオンのブレードに両断され、爆発した。
「な、何だ?」
両断したビームキャノンが手元で爆発し、一瞬カントが怯む。その間にヘリアムは体勢を立て直し、すんでのところでエルシオンのブレードを受けとめた。
「こ……の程度で!」
ブレードラックからもう一本のブレードが飛び出す。それを宙空で掴み取り、ヘリアムの腹部に滑らせる。だが驚くべきことにヘリアムはそれすら受けとめて見せたのだ。腕部のロケットバズーカを回転させ、ブレードではなくエルシオンの三の腕の部分を抑えてブレードの侵攻を阻んだ。
『負けるわけには……』
その瞬間、カントは青いヘリアムのパイロットの雄叫びが聞こえた気がした。
『いかないんだよ!』
下方向にブースト、同時にロケットバズーカを発射してエルシオンの体勢を崩す。さらに前方向に一回転してエルシオンを蹴り飛ばした。さらにロケットバズーカを斉射したためエルシオンは身動きが取れないまま岩礁に叩きつけられた。
「くそ!」
カントはヘリアムを見据えるが体勢を立て直す間も無くヘリアムは残ったビームキャノンをエルシオンに向けていた。
[スラスターに損傷。出力が15%に落ちます]
もうだめか、カントが目を閉じたその時、コックピットにジードの声が響き渡った。
『目を瞑るな!最後の瞬間になっても諦めることは絶対にするんじゃない!』
通信の範囲が極小になるデブリ帯だ。そこでこうして声が聞こえるということはジード、つまりマグニジアがすぐそばにいるということ。
まさか、巨大な戦艦でこの岩礁の海を突っ切って?カントは自分の耳が信じられなくなった。しかし目を開けてみれば確かにマグニジアが見える。丁度目の前ではマグニジアの艦砲射撃でヘリアムが離れて行くところだった。




