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Route Of Elsion  作者: 世界史B
不完全で不安定な世界の中は
43/53

輝け、虚空の遥かまで

カントは窓枠に頬杖をついて遥か後方に流れ行く空を窓から眺めた。隣ではフェルトとエイラが興奮気味に会話をしている。カントとて軌道エレベーターに乗るのは初めてのことではないにしろ最後に乗ったのは11年前、終戦直前だ。記憶はほぼ無いに等しい。重量を振り切る不思議な感覚に心が踊らないわけではないのだがそれ以上にカントには重大な事実をジードから知らされていた。



時は24時間前に遡る。ジードの集合でブリッジにはカント、エイラ、フェルト、ノインが集められていた。悪いニュースだ、と前置きをしてからジードは重々しく話し始めた。

「前々から噂されていた旧コロニー連合の置き土産が発見された」

「それは……本当ですか?」

「ああ。自由軍の内部スパイからの情報だ。ついでに言うと奴らもそれの確保に動き出したらしい」

「ち、ちょっと待ってくれよ、ってことは……」

「まあ、正面的な戦闘を想定している可能性は高いな」

カントの脳裏に日本での記憶が蘇った。

コロニー自由軍と合衆政府軍との大きな戦闘が大々的に伝われば地球は恐らくコロニーそのものを敵と認識する。全ての人がそうではないにしろそういう流れができるのはまず間違いない。その上誘拐されたミサキの救出は絶望的になる。それだけは何としても防がなければならなかった。

「その顔を見るにここでじっとしているつもりはないみたいだな」

「当たり前だろ」



それから24時間、驚くべき早さでジードは軌道エレベーターの座席と貨物の手配を終わらせ、現在カントは人生2度目の地球から宇宙へ上がっている。

残った時間いっぱいをエルシオンの修復に費やしたためソディアは修理が間に合わず、地球に置いていくことになった。その代わりに新しい戦艦がエレベーターの終着点、ステーションで宇宙軍から支給される手筈になっている。

ベルト着用サインが消えるのを確認してベルトを外すとふわり、と体が浮き上がった。地球にいたのはほんの短い間だったのに不思議とこの感覚が懐かしく感じる。

カント達はエレベーターを降り、戦艦が用意されているというE3出口へ向かった。

「新しいのはどんな艦なのかな」

「合衆軍の新型艦と聞いています」

「カント、ちょっと」

フェルトとエルが楽しげに話している、と言ってもフェルトが一方的に盛り上がっているだけに見える、の横でノインが話しかけてきた。

「その、地球でエルシオンについて何かなかった?」

「何か?」

「うん、その機体をどうかしたいみたいな……」

ノインは歯切れが悪く、いまいち要領を得ない。

「例えば……機体を調べさせてほしい、とか」

カントは記憶を手繰ってみる。修理させてほしい、という申し出ならあったが調べさせてほしい、とまでは言われなかった。そもそも自社で開発した機体を改めて調べる必要も無いだろう。それに修理もしてもらえずじまいだった。カントは首を横に振って答えた。

「いいや?特には無かったな」

カントが目を合わせようとするとノインは慌てて視線を逸らした。

「そう……あ、それはそうとエルシオンは君の戦闘データを元に最適化してある。とはいえ修理の方は急造品だから10分の10、とまではいかないけどね」

ノインの煮え切らない態度に疑問を感じつつもそれからノインが話を掘り返さなかったのでカントも特に気にすることなく日常会話に戻った。


「うわ……」

カントは目の前の巨大な白い塊を見上げて思わず間抜けな声を漏らした。

「ジード アイルガン艦長ですか、私はアルベルト シューマッハ軍曹であります」

「そうか、ご苦労だった」

ジードはアルベルトから受け取った端末機に受領印を記入し、艦内に足を踏み入れた。

マグニジア、それが新たな艦の名前だ。ソディアと同じ第6級強襲艦でジードが最も扱い慣れている部類だ。支給の早さから言ってケインが裏で糸を引いているのはまず間違いないだろう。

『エルシオン、並びにアルゴンは既に収容済みだ。各員、出航準備はいいな?』

カントはまず1番にドックに向かい、あちこちについた傷や汚れが一層されて新品同様になったエルシオンを見上げた。

「綺麗になってよかったな」

「はい。パイロットの足を引っ張ってばかりでしたから」

「冗談言うな、俺が今こうやって生きてられるのもお前の頑張りありきだからな」

「そうでしょうか」

「そうだよ」

外観は武装を含め大きく違っているが内装はソディアと大した違いは無い。これも一々艦が変わるたびに地理感を叩き直す必要が無いようにとの配慮なのだがカントにとってもそれがありがたかった。そもそも自分がのる船という船は際限なく大きすぎる、と何度ぼやいたことか知れない。


「マグニジア、発進」

少し緊張気味のジードの声と共にマグニジアはゆっくりとステーションから発進した。

「カント、エルは一緒じゃないのか」

エルシオンの隣のアルゴンのコックピットからエイラが顔を出した。

「フェルトと一緒なんじゃないか?」

「確かに2人とも仲が良さそうだものな」

「仲が良いっつうかフェルトが一方的にくっついてる感じだけどな」

果たしてその目的が純粋な友人関係の構築にあるのか、メカニックとしての好奇心なのか、カントにそれを聞くだけの勇気はなかった。

「それより、新しいアルゴンの調子はどうだ?」

エイラは少し肩をすくめてみせた。

「まあ、新しい機体に乗った時は大体こんなものだがな」

エイラはカントの隣に降り立ち、新しくなった自分の機体を見上げた。

現在『アルゴン』と呼ばれている合衆政府軍の主力機の正式名称『アルゴンⅢ』、正式採用機アルゴンの第三世代機で今回マグニジアとともにエイラ用に支給されたのは『アルゴンⅣ』、合衆政府軍が次世代の主力機を念頭に試験運用中の機体だ。

基本的な部分はⅢとほとんど変わらないが試験機だけあって扱いに慣れるのに少し時間がかかるのだろう。

「そうだカント、慣らしがてら私とシミュレーションをしてみないか?」

「じゃあ俺はノインを呼んでくるよ」


「ノイン?ちょっといいか?」

カントはノインの部屋をノックした。少し間を空けてノインが扉を開いた。

隙間から机の上には回線が開きっぱなしの通話機が置いてあったのが見えた。

「あ、ごめん電話中だった?」

「いや、大丈夫。僕に何か?」

「シミュレーションのセットをしてもらおうと思ってさ」

「わかった。僕もすぐ行くから先にドックに行っててくれないかな」


ノインは手早くケーブルを繋ぎ、模擬戦の準備を整えた。カントがエルシオンのコックピットに乗り込むとモニターには深い宇宙の光景が広がっていた。

『手加減は無しだからな!』

脇の小さなモニターにエイラの顔が映る。カントはどこかコックピットが広いような気がした。考えてみればエルがいない状態でエルシオンに乗ることなど初めてだ。エルの声が無いと何故か落ち着かない。

『ぼーっとしてる暇はやらない!』

正確にコックピットを狙うビームをカントはほぼ条件反射で躱した。エルシオンの武装はビームブラスターとシールド。地球に落下する前と同じものだ。

小刻みに機体を振りながらブラスターを放つ。アルゴンは前進しつつそれをシールドで受け、エルシオンに肉薄する。

バックブーストで距離を取り、もう一度冷静にアルゴンを狙う。ブラスターの直撃を受けたシールドはもう使い物にならない。ならば、とカントはわざとアルゴンの脚部と腕部を狙った。やはりエイラはまだ慣れていないのかアルゴンの脚部にビームを掠らせてしまう。

『……なかなか上手いじゃないか』

エイラの顔から余裕が消えた。宇宙では地上と違い、脚部を破壊しても決定打になるわけではない。だがそれでもある程度機動力を削ぐことはできる。

カントはエルシオンの機動力を生かして一定距離を保ちつつブラスターでコックピットを狙った。

『アルゴンを甘く見るなよ!』

その瞬間、アルゴンが急激に加速した。加速時間こそ一瞬だが摩擦のない宇宙ではそれが削られることなく速度に結びつく。あまりの速度にカントは回避が追いつかず、ブラスターで応戦しようと腕を前に突き出す。だがエイラそれをあえて前に出ることによって射線を切り、腰部のブレードラックからブレードを抜きはなった。

『これで終わりだ!」

「この!」

だがそこでシミュレーションは強制終了した。そしてコックピットの中にジードの切迫した声が響く。

「前方に敵艦を確認。総員、戦闘態勢をとれ」

ノインは準備した時同様これまた手早くエルシオンとアルゴンに接続されたケーブルを片付けた。

ノインと入れ違いにエルがドックに走りこんできた。

「すみません。遅れました」

「いや、大丈夫」

エルはパイロットシートの背もたれを前に倒した。するとそこには子供ならばすっぽり収まってしまうくらいの大きさの空間が生まれる。

「いつもそこにいてくれたんだな」

ここにエルが収まると『いつもの感じ』に戻った。背もたれを元に戻し、シートに腰掛けるとちょうど背中合わせで座る形になる。カントは心なしか背中が温かいような気がした。

「カント キサラギ、エルシオン、行きます!」

シールドとブラスターを受け取ってマグニジアから飛び立つ。確かに遠目に見覚えのある艦影が見えた。

『俺たちの目的はあくまで遺物捜索だ。可能な限り戦闘は避けたい』

「だけどあの戦艦はミサキを……」

『だとしても、だ』

「くそ……」

カントは遠くに見える戦艦を見つめた。あの中にミサキがいるかもしれない。そう思うと居ても立っても居られない気持ちだったがまた独断行動をして全員を危険に晒すのはもっと御免だった。

突然、敵の戦艦が光ったと思った、その直後、マグニジアの脇を光の柱が掠めていった。

『く、仕方がない、カント、エイラ、なるべくマグニジアから離れるな!それと9時方向にあるデブリ帯には行くなよ!』

続けざまに放たれた閃光をマグニジアは大きく艦体を傾けて躱し、主砲を撃ち返した。

敵艦からはやはり見覚えのある、いやそれ以上に因縁のある青いヘリアム、そして初めて見る黒とグレーの機体がまっすぐこちらに近づいて来た。カントを大気圏ギリギリまで追いかけて来た赤い機体は見えない。

「あの黒い機体、分かるか?」

カントはエルとエイラ2人に向けて聞いた。

『いや、初めて見るな』

[データベースに該当機体無し。どんな能力を持っているかわかりません。注意してください]

『ならば私が黒い方を持つ。カントはもう一方を頼んだぞ!』

敵も二手に分かれ、青いヘリアムはエルシオンの方へ向かって来た。

ヘリアムはミサイルを発射した、が何故かミサイルはエルシオンの方へは飛んで来ず、エルシオンから大きく外れた所で停止した。そんな攻撃にもなっていない攻撃が何回か続く。

「何だ?ミサイルの故障か?」

故障であろうがそうでなかろうがこのチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。

距離を保ちつつ敵を狙う。だがやはりそう簡単には当たってくれないようでブラスターは掠りもしない。躱す合間にも敵はロケットバズーカを撃ってくる。

今度もバズーカでシールドにダメージを蓄積させてから肩のビームキャノンでシールドごと破壊するつもりなのだろうがカントとてその意に沿ってやるつもりはなかった。シールドでは極力受けず、可能な限り回避する。

敵も焦りが出て来たのか、次第に攻撃が粗くなってきた。ビームキャノンを2基同時に撃つ。だがそれはエルシオンから大きく逸れてあらぬ方向へ飛んで行った。

「もらった!」

一気に距離を詰め、必中の距離でブラスターを構えた。敵にとっては絶体絶命の状況だ。だがカントにはヘリアムの不思議とパイロットが勝利の笑みを浮かべた、そんな気がした。

[背面、熱源確認!]

明らかに慌てたエルの声が聞こえた。

「んなっ……」

ブラスターのトリガーを引く間も無く背面にミサイルが命中した。

「どこから撃ってきた!レーダーに熱反応は……」

ミサイルの爆発による衝撃で機体が前方に僅かに動く。すると再びあらぬ方向からのミサイルが命中した。

「周囲の熱反応は!」

[ありません。突然現れるので対応のしようが……]

「何もない所から突然熱源が生まれるわけ……」

ないだろ、と言おうとしてその言葉にふと違和感を覚えた。

「エルシオン、レーダーを電波式に切り替えろ!]

[了解]

今までサーモセンサーだったレーダー画面が電波レーダーに切り替わる。するとエルシオンを中心にする広範囲にミサイルがばら撒かれていた。推進装置が停止しているため当然サーモセンサーには映らない。

「方向がわかっちまえば……」

だがその瞬間、目の前が眩いばかりに光り輝いた。モニターに映る光は内部のパイロットに害が及ばないレベルにまで調節してくれているはずだからもしこれを直接見ていたら目が潰れていただろう。

[警告。超高熱反応……]

エルの声ではっと我に返り、下に飛び退りつつシールドを構える。その目の前を戦艦の主砲が掠め飛んで行った。ビームが掠めたシールドの表面が溶解している。あと1秒も遅ければカントは塵も残さず宇宙の藻屑となっていたに違いない。


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