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Route Of Elsion  作者: 世界史B
忘れられた爪痕の世界の中で
14/53

だから、止まない、辞めない。

「……なんでだよ」

カントが先程連れて来られた広場はもとよりLAが保管されていたであろう建物もしらみ潰しに探したがどこにも無いのだ。

「あんな大きなものそう隠せるとは思えないけどね」

メイリンも一緒になってさがしたが一向に見つかる気配はない。

「見て。奴らが戻ってくる」

さらに追い討ちをかけるようにメイリンが指さした先に立ち昇る砂煙が見えた。大方、いやほぼ確実にLAの走行煙だろう。もう一刻の猶予も無かった。ここで死ぬか、エルシオンを探し続けるか……

「クソっ!」

悪態をつきながら基地の外へと走る。もうハイエン達の駆るLA群は目と鼻の先に迫っていた。

基地の外周を囲うバリケードの所まで辿り着いた。カントがグズグズしていたせいで正門は既に塞がれ、壁をよじ登るしかない。カントが立ち往生しているうちにメイリンはひょいひょいと壁を蹴ってその上まで登りついた。

「ほら、早く」

そこからカントに手を伸ばす。その手を借りてカントも壁を登り、乗り越えようとした辺りで基地内が騒がしくなりだした。カント達が逃げ出したことに気づかれたようだ。

「走って」

メイリンの後ろを赤茶けた大地を蹴って走る。その後ろでダダダッ、と銃声が聞こえた。鉛製の銃弾がカントの耳元をかすめていった。



「おい!撃つのを止めろ!弾の無駄だ!」

ハイエンの一喝で銃を乱射していた男達が一斉にその手を止めた。手元で爆音がしていてもハイエンの声だけは不思議と耳に響く。単に声がよく通るだけではなくそれだけの迫力がハイエンにはあり、それだけ部下に恐れられてもいる証拠だ。

「しかし……このままでは逃げられてしまいます」

「バカ、奴のルミナスアートはこっちにあるんだ、すぐに奴の方から首を差し出しに来るさ、それより物資の仕分けをしろ!」

ハイエンは自分の口元が少しつり上がっていることに気づいた。

「……面白くなってきやがった」

初めて自分のLAを大破まで追い詰め、初めて黒星を刻み込み、そして悠々と逃げていった、そんな男に出会えたことでハイエンの心は自然と踊っていた。



「っ!」

突然前を走っていたメイリンがバランスを崩す。懸命に立て直そうとしているが1、2歩進んでついに倒れこんだ。

「おい、どうし……」

そこまで言ってカントの目はメイリンの脚に釘付けになった。太ももの位置から流れ出たおびただしい量の血が土に吸い込まれてゆく。いつの間にか射撃は止まっていたがカントにそんなことを気にしている余裕は無かった。

「だ……いじょうぶ」

懸命に立とうとするがすぐにバランスを崩してしまう。

「大丈夫じゃねぇだろ、ほら、肩貸せ」

カントもスクールで簡単な応急手当ては習ったが銃創の処置法など想定の範囲外だ。その上こんな場所に病院などあるはずもない。360度どこを見ても赤茶色の土地と荒れ狂う砂煙だけだ。

「えっと確か……」

全ての応急手当ての基本はまず出血を止める、人間は確か……何パーセントかの血液が出ると死んでしまう。血を止めるには……

カントは授業の記憶を必死に呼び起こすがこう肝心な時に限って記憶というものは出てきてくれない。

応急手当ての知識などいつ使うんだ、と真面目に聞いていなかった自分を呪うがもう後の祭り。とりあえず後ろからの銃撃が収まったのを確認してメイリンを仰向けに寝かせる。

「ま、まずは止血しなきゃな……」

幸いにも銃弾は貫通していたので傷より上の部分を縛……ろうとして気づいた。今ここには包帯なんて気の利いたものありはしない。何か縛れるもの、と考えて真っ先に思い浮かんだのが自分が着ている服。映画ではよくやっているがまさか自分がすることになるとはな、などと思いながらカントは着ているシャツの端を細く引き裂き、メイリンに巻く。かなりきつく縛ったので出血は止まったものの一刻も早く適切な処置をしないと傷口が化膿して取り返しのつかないことになりかねない。トレーラーにはそれがあるのかもしれないが今は行方知れずだ。

「どうすっかな……」

カントもメイリンの横に寝転んだ。どちらにしろこのままでは2人とも死を待つばかりだ。自分が何とかしなければ……そう思うほどに頭の中はごちゃごちゃになっていく。

「君……だけでも逃げたら?今は静かだけどいつまた追いかけてくるかわからないよ?」

「じゃあお前はどうすんだよ」

「……」

メイリンは何も答えない。しかしそれが何よりも明確な回答だった。

「……ここから少し進むと小さな小屋がある。そこを曲がってまっすぐ行くとちょっとした集落みたいな所があるんだ。まあ人はいないんだけど。そこは少なくともここよりはマシじゃない?」

メイリンは弱々しくある方角を指さした。

「そうか」

カントはそれだけ言って立ち上がった。それを見てもう満足、とメイリンは目を閉じる。しかし暗闇の中で自分の体がふわりと持ち上がるのを感じた。驚いて目を開けてみると自分の目の前にはカントの背中があった。正確にはその後頭部。

「ちょっと……何をしてるの?」

「何って、お前が言う集落跡とやらに行くんだよ」

「そうじゃなくて、何でボクを背負ってるのさ」

「だってお前歩けないだろ?あ、流石に抱っこは勘弁な」

メイリンが言わんとしていることを知ってか知らずか、敢えて触れないのかはメイリンにはわからなかったがカントは軽い冗談さえ飛ばしてみせる。まるで自分はまだ元気が有り余っています、とでも言いたげに。


カントが歩き始めてからそろそろ1時間ほどだろうか、仮にほんの10分ほどだったとしてもカントには何十時間にも感じられた。ただでさえ人を背負って歩くというのは体力を喰う。その上数メートル先も見えない砂嵐に照りつける日光。カントの体力はそろそろ限界に達しつつあった。

おそらくそれが背中のメイリンにも伝わったのだろう。メイリンは自分から切り出した。

「もう、ボクを置いて行きなよ、このままじゃ君も力尽きちゃうよ?」

それを聞かないふりをしたのか、はたまた喋る気力も無いのか、カントはだんまりだ。少なくともメイリンをおろす素振りは見せない。

「もう……いいって、君も辛いんだろ?降ろしちゃいなよ。君1人ならまだたどり着ける」

こうなったら力ずくでも、とカントの背中でもがいてみる。しかしそれよりも強い力で太ももを押さえつけられた。

「どう……して?」

「バッ……カ、お前、の道案内無しで俺がそこまでたどり着けるわけないだろ?」

メイリンには理解ができなかった。どうしてこうまでして自分を助けようとするのか、どう考えてもその理由が見当たらない。その問いを返す前に、メイリンが言い返す代わりに何故か涙が溢れた。

「ねえ、どうして私たちがこんなところに住んでるか知ってる?」

反応はない、しかしお構い無しにメイリンは続けた。

「大戦末期にね、ここ……昔はユーラシア大陸って呼ばれてた地域にコロニーが落とされて、私たちの故郷は塵に消えた」

そう。コロニー独立戦争終結の1ヶ月前、既に劣勢に追い込まれていたコロニー連合はコロニーを合州軍本部に落とす、というとんでもない作戦を立てた。

結果、11番目に造られ、当時地球から最も近かったコロニーエルフが地球に落下した。それは連合軍本部への落下は避けられたものの当時最も巨大だった大陸の中央部に衝突、およそ地球の3分の1が廃墟すら残らない死の土地へと変わった。

戦争で出た死者の7割はこのコロニー落下で出たという。メイリン達は当時何らかの理由で生き残った人々、ということだ。

「……それで、私たちは住む所を失った。当時地球に難民を保護できるほどの余裕は無かったし、頼みのコロニーも1番新しいのが落とされて使えないし、でどこも溢れた人口を賄える場所が無かった」

「……」

「で、残った所といえばこの土地しか無かった、というわけ。ここは政府も管理のサジを投げたみたいだから何も言われなかったし、だからこそああして廃棄物を捨てに来るんだろうからね、まあ私も父さんに聞いただけだけど」

カントの反応が無いにもかかわらずメイリンは淡々と話し続けた。それがカントの気力を繋ぐ自分にできる唯一の手段だと信じて。

今自分が本気で抵抗したらカントから離れることができるかもしれない。しかしメイリンにはそれができなかった。代わりにカントの肩を強く握りしめ、涙を見せるまいと顔を背中に押し付けた。


「……見えた」

背中のメイリンの声でカントは足元を見つめていた顔を上げた。霞んだ視界の先に小さな小屋のようなものが見えた。

その小屋は板を何枚か組み合わせただけで簡素な造りだったがそれでも日光が直撃しない屋根はあったし、風もある程度は防げた。

カントは小屋にメイリンを下ろすと自分も倒れこむようにその床に寝そべった。唇はひび割れるほど乾いていたし頭も痛い。息も苦しい上に足などもうしばらくは動きそうにない。

「……ありがと」

隣でぼそりとそんな声が聞こえた。カントが歩いている間必死に語りかけてその気力を繋いでくれた声。何度か気を失いそうになる度この声に現実に戻された。この声が無ければここまでたどり着くことなど到底できなかっただろう。

「こっちこそありがとな」

しかしまだ道のりは半分だ。ここから集落跡へ行くには更に歩き続けなければならない。しかし今はとてもそんなことができる状況ではないのでひとまずここで休むことにしたのだ。

ひとまず一休み……そう思うとカントの意識は瞬く間遠のき、深い寝息を立て始めた。


暑さと口の中の砂の感触でカントは目を覚ました。砂を吐き出そうと起き上がると手に何か液体が触れた。ドロッとしていて微かに鉄の匂いのする液体は大きな水たまりとなって彼女の体を赤く染め上げていた……

「うわぁっ!」

カントは跳ね起きた。それから辺りを見渡し、血だまりができていないことを確認する。

「夢か……」

ふと外を見るともう日が沈んで夜の帳が世界を包み込んでいた。

「そろそろ行くか」

太陽が沈んで気温が下がっているなら今を逃す手は無いとメイリンの方を振り返る。しかしメイリンからの返事は無かった。

「メイリン?」

慌てて駆け寄る。メイリンは額に玉のような脂汗を浮かべ、荒い息を吐いていた。もしやと思って額に手を当てて見ると驚くほど熱い。

「おい!大丈夫か?」

この時カントは気づかなかったのだがメイリンは破傷風になりかけていた。発熱や呼吸が荒くなるのはその前兆だ。しかしカントにもメイリンに何か良からぬことが起きている、そしてその大方の原因はカントが縛った布の下、太ももの真ん中辺りを貫いた銃創である、ということも想像に容易かった。

「でも道具も何も無きゃどうしようも……」

あのトレーラーが近くを通れば、と口に出そうとしてカントはふと気づいた。いや、今まで気づくまいと必死に思ってきた。もう1つあるではないか、確実に救急キットがある場所が。全身真っ白な機体、そのコックピットの中に。

「……」

荒い吐息を漏らすメイリンと自分の手を交互に見比べる。

「ちょっと待ってろ」

そう言って夜空も見えぬ中、小屋を後にした。


「さて、問題はどこにあるか、だな……」

頭で考えるより口に出した方がいい、と言うが本当だろうか、少なくとも今のカントにいい考えは思い浮かばない。

「あれ、これ記憶法だっけ?……ま、いいか」

とにもかくにもまずはエルシオンを奪還しないことには何も始まらない。

夜の道は昼間とは打って変わって肌寒く、雰囲気もガラリと変わっていていたがほぼ真っ直ぐにしか歩いていないのが幸いだった。昼間歩いた道無き道を逆向きに今度は走る。

体力は全快とまではいかなかったが今走らずしていつ走るんだ、と自分を鼓舞し、もう動きたくないと悲鳴を上げる足を無理矢理踏み出した。



「……はぁ、はぁ……」

とうとう何も考えつかないまま戻ってきてしまった。流石に正門周辺は警備が厳しくて入れそうもない。仕方なく外壁でどこかよじ登れそうな部分を探す。

するとカントとメイリンが脱出するときによじ登った所だけ壁が低くなっていた。よく見てみるそこは少しだけ土地が盛り上がっていて壁が低く見えるのだ。だからあの時簡単によじ登れたのか、とカントは感心しつつその壁に手をかけ、体を一気に持ち上げる。

そして壁の中へ進入した。しかし問題はここからだ。まずどこにエルシオンがあるのか、というかそもそもここに置いているのかすら怪しい。

「どこに……」

とカントが足を踏み出した瞬間、目も眩むような閃光がカントを襲った。一瞬何が起きたのかわからなかったが聞き覚えのある声がスピーカーに乗って聞こえてきた。

「よォ、探し物は見つかったか?」

低く、よくドスの効いた声。それだけで場を圧倒する迫力を秘めている。

「クソっ!」

何か考えるより先に足が動いていた。建物の陰に素早く飛び込む。その直後、今までカントが立っていた位置にLA用の90ミリ弾がめり込んだ。あと一瞬遅れていたらカントはひき肉顔負けの肉片になっていただろう。

目が少しづつ慣れて周囲が認識できるようになってきた。

「クソ!俺はバカか?」

カントがそう舌打ちするのも無理はない。なぜハイエンがカントの居場所をこんなにも早く見つけることができたのか、その答えは至極単純だ。『カントが来る場所がわかっていれば』見つけるのは子供にでもできるほど簡単だ。基地の周辺を囲む壁は1人でよじ登るには高すぎる。

しかしカントとメイリンが脱出した所でありカントが先程乗り越えた壁はその部分だけ低くなっていた。ならば正面入り口を除けばカントが入ってこれるのはそこしか無いのだ。

自分をなじりながら建物を盾にしつつカントは走った。この状況でこのまま逃してくれるとも思えない。ならば一刻も早くエルシオンを見つける他は無いのだ。

「どこだ?どこにある?どこに隠す?」

必死に思考を巡らせる。もし自分が敵だったらどうするか、どこに隠すか、自分にはすぐにわかって敵には絶対に見つからない場所……

「うわっ!」

考えている間にカントの足元にボロンの90ミリ弾がめり込む。その衝撃に足を取られカントは地面に転げた。しかしそこで止まれば死は免れない。しかしカントが恐れていた追撃は来なかった。そこは敵のLAを保管しておく建物のすぐ隣。何か遮蔽物があるわけでもなく何か危険物があるわけでも無い。ただの更地だ。

「ただの更地……?」

何故かカントは自分の思考の一部に引っかかった。普段なら流してしまうような1フレーズだがその時のカントには何か重大なヒントが隠されているように感じたのだ。

「そうか」

すぐ足元の砂を蹴飛ばす。すると下には固い鉄の板のようなものが顔を出した。ハイエンもカントがしようとしていることに気づいたようだ。マシンガンをカントに向ける。正確にカントを狙っていた照準が大きくぶれた。カメラを振るとそこには足から血を流し、額に脂汗を滲ませながらも発射済みのロケットランチャーを抱えた少女が1人。

「もう……待ちくたびれ……た」

弾丸はその質量と速度で硬い鉄板をぶち破り、穴を開けた。1つ1つの穴は小さくともそれが何十発も当たれば人が通れるほどの大きさになる。

「クソ!」

今度はハイエンの舌打ちだ。カントはハイエンの開けた穴から鉄板の下へと潜った。そこにあったのはカントの予想通り、純白に輝く機体。その胸に手を当て、ハッチを開く。ここを離れていたのはほんの数時間のはずなのに冷たいシートの感触が、ずらりと並んだ計器類やスイッチの数々が、どこか懐かしい気さえした。

「エルシオン、起動」

その言葉で純白の機体のデュアルアイが光り、各所が赤く発光する。

LAの力にかかれば鉄板を押し上げることなど造作もない。上に被さっていた板を跳ね上げ、エルシオンは立ち上がった。そして間髪入れずハイエンの乗るボロンに体当たりをかます。

「ぐぁっ!」

エルシオンのパワーに負けたボロンが大きく横に飛ばされる。しかしその周りのボロン達が一斉に射撃を始めた。

「メイリン!」

機体を前かがみにし、ハッチを開けて手を伸ばす。地面に座り込んだ少女は一瞬驚いた顔をしていたがすぐに腕を伸ばし、カントの手を握った。その柔らかく、汗ばんだ手を引き、メイリンをコクピットに滑り込ませるとハッチを閉じ、機体にダッシュをかけた。バルカンで牽制しながら突っ込んで来る機体にはタックル。ひとまずこの場を離れなければならない。跳ね飛ばしたボロンに背を向けて最大加速をかける。

「どうして逃げるの?」

メイリンが不思議そうな顔でカントの目を覗き込む。大きな瞳に自分の姿が歪んで映っているのが見えた。

「どうしてって……武器も無いし」

今は逃げることが最優先だろ、と言おうとしたカントの言葉を遮ってメイリンが重ねた。

「今だったらあのハイエンを殺せる」

カントは自分を見るメイリンの目に底知れぬ何かを見た気がした。それはカントが以前敵を見逃した時のでもなく、命がけでカントを助けた時のものでもなかった。

「メイリン落ち着け、お前の傷だって早く手当てしないといけないだろうが」

背後から飛んでくる弾丸を回避機動で躱しながらカントは言った。既に敵のルミナスアートは指の先ほどの大きさになり、もう追ってくることはないだろう。もう逃げ切れた、とメイリンに言おうとしたその時、カントの膝にまたがっていたメイリンが力なくカントに体重を預けてきた。驚いて顔を見てみるとやはり熱をもったように赤く、息も荒い。

「エルシオン!メイリンに効く薬は無いか?」

エルシオンのコックピットには色々な種類の薬品が常備されているがカントが扱える薬など風邪薬くらいのものだ。当然そんなものでメイリンが良くなるとは思えない。

[診断のため傷口を正面モニターに向けてください]

「今の聞いたか?ちょっと痛むと思うけど我慢しろよ?」

メイリンから返事はない。ぐったりとカントに体を預けたきり動かない。カントはメイリンを仰向けにして腿を縛っている布を解いた。布はべっとりと血が染み付いておりその濃さは布を解くほど濃くなっていった。

[幹部、大腿。外傷、銃創。出血、多量。機体常備薬の検索……モルヒネを注射、リプトン錠薬を2錠服用させてください]

カントはコックピットシートの下の引き出しを開け、指示された薬を探し出した。そしてモルヒネを幹部のすぐ上に注射する。しかし困ったのが錠薬だ。このメイリンの様子では錠薬を飲み込むのは難しいだろう。万一むせたり喉に引っかかると大変なことになりかねない。

「おい、メイリン、頼むから目を覚ましてくれ、この薬を飲めば良くなるらしいんだが飲めるか?」

相変わらずメイリンはぐったりしたままだ。顔を赤くして息も荒い。心なしか熱が少し上がったような気もする。

「……くそ!恨むなよ?」

カントは手元の水を口に含み、錠薬を2つ、口に放り込んだ。そして苦味に耐えながら嚙み砕く。そして錠薬を完全に水に溶かすとメイリンの唇に自分の唇を押し付け、流し込んだ。むせないように少しずつ、少しずつ。


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