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Route Of Elsion  作者: 世界史B
忘れられた爪痕の世界の中で
12/53

当たり前でなかった当たり前

「メイリン!何だあのルミナスアートは!」

メイリンがトレーラーの中に入るなり男がそう怒鳴りつけた。

「まあまあ、ライナ、そういきり立つな、メイリンにも何か考えがあったんじゃろ?」

「ですが長老……」

「あれがプラヴァスティのものでないのは確認しました。それに……私はあのLAがプラヴァスティのコヨーテを一撃で破壊するのを見ました」

その言葉にトレーラーにどよめきが起こった。

「あのコヨーテを一撃だと?本当か!」

「それで?それだけであれをここまで連れてきた訳ではあるまい?」

「あのLAが協力してくれるなら……取り戻せるかもしれない」

その言葉に面々は複雑な顔になり、泣き出す者まで現れた。

「メイリン、お前さんの気持ちもよっくわかる。じゃがいくらあの白いLAが強くとも1機だけでは……それにプラヴァスティと対抗すると言ってパイロットが承諾してくれるかどうか……」

長老が皆の意見を代弁した。しかしメイリンはそこで諦めるわけにはいかなかった。



「入って」

しばらく砂嵐の吹き荒ぶ外で待たせられ、やっとカントがトレーラーの中へ案内された。

「お邪魔しまーす」

と、言ったもののそこには誰もいなかった。トレーラーの入り口は2重扉になっていて外の砂が入らないようになっているのだ。

「お、お邪魔します」

今度は中に人がいるのを確認してから言う。そこでカントは目を疑った。トレーラーの中はちゃんとした家のような構造をしていたからだ。キッチンがあり、照明があり、そして中央の大きなテーブルの周りに上は老人から下は子供までが10数人、座っていた。

「まあそこに座ってくだされ」

老人に勧められるまま近くの椅子に腰を下ろす。

「先程あなたの操縦する白いルミナスアートがプラヴァスティのコヨーテを一撃で撃破したと聞きました」

あのバイクの奴が言ったのか、カントがそう思ってバイクに乗っていた少女を横目で見た。尤も、少女はだぼだぼの服を着ていたし、髪もショートだったのでカントに性別まではわからなかったのだが。

「そこであなたに頼みがあります。どうか……我らの故郷をプラヴァスティから取り戻す手伝いをしてはくださらんか?」

まずカントにはプラヴァスティなるものが何かわからなかった。しかし先程カントに対して攻撃を仕掛けたところから何かしらの敵意を抱かれていることは疑う余地もない。しかしここにいる人々を見てもどうだ。カントを見る目、目、目。こちらもカントに対して友好的とは思えない。

「あなたは見たところここの住人ではない。コロニーの者か、地球の者か、どちらにしろどうにかして連絡をしなければいかんのじゃろ?」

そこでカントは目の前の弱々しい老人の目つきが変わった、ように感じた。この言い回しから考えてこの老人はカントがソディアと連絡するための方法を知っている。

一瞬ハッタリかもしれないとも思った。しかし現状、この老人の提案にすがるしかない。ここを離れたとしてどちらに行けばいいのかも分からないのだから。プラヴァスティなる組織のことも気になったがこの老人の提案を呑む以外の選択肢はカントには無かった。

「……母艦と連絡を取る方法が?」

「うむ。わしらの故郷に古い気象衛星を使った衛生通信機があるのじゃ。それを使えばあなたの母艦と連絡できるじゃろう」

「わかった。あんた達の故郷を取り戻す手伝いをしよう」

すると老人はニッコリと所々抜けた歯を見せて笑った。



その後、カントはトレーラーの中を案内され、そこに住む人々を1人1人紹介された。トレーラーの後ろ部分には居住スペースがあり、前半分はそれぞれに区切られた寝室兼プライベートスペースになっていた。

カントもここに寝泊まりするよう勧められたがエルシオンの中で眠るからと断った。これは遠慮したからではなく、単純に未だ信用できなかったからだ。カントがエルシオンに戻ろうと外に出るとメイリンがバイクの給油をしているところに出くわした。

「……何?」

カントの視線に気づいたのか、メイリンの方からカントに訝しげな視線を向けた。この視線だ、とカントは思った。

「なあ、何で皆んなそんな目で俺を見るんだ?さっきからすげー気になるんだよね」

周りに誰もいないことを確認し、カントは聞いてみた。

「君がトレーラーの寝室を使わなかった理由と同じ」

フェルトは作業の手を止めずに答えた。なるほど言われてみれば、とカントは思った。突然現れた謎の男とLAに助けを求めているのだ。不安にもなるし、そう易々と信用できるわけもない。

いつもなら簡単に理解できただろう。やっぱ疲れてんのかな、とカントは頭を掻いた。

「あー、それじゃ、お前らの故郷って何処にあるんだ?あとプラヴァスティについても聞いておきたいな」

この質問にはさすがにメイリンも顔を上げざるをえなかった。

「あなた……それが何かも知らずにボク達の依頼を受けたの?」

「まあ……何かマズかったか?」

するとメイリンは大袈裟にため息を吐いて見せた。

「プラヴァスティはこの辺を荒らし回る武装集団。ほら、君が戦った戦車もそいつらの」

カントは先程の戦車との戦いを改めて思い出してみた。視界の悪い中で確実にエルシオンに砲弾を当ててきているところから確かに戦闘に慣れている感じはした。

「あれが奴ら……プラヴァスティの主力兵器。あいつらはコヨーテ78式って呼んでるみたい」

「他には?ルミナスアートは無いのか?」

今の時代、カントの知っている世界での主力兵器はLAだ。戦車なんて骨董品を未だ使っていること自体驚きだったのにそれが主力と聞いたカントは目を丸くして尋ねた。

「ルミナスアート……」

そう呟いたメイリンは途端に表情を硬くした。

「あるよ。ハイエン ブルニスク……プラヴァスティの首領のガーボンが」

「そうか……」

戦車だけならともかく、ルミナスアートまでも保持しているとなるといくらエルシオンでも1機では厳しいかもしれない……そう考えて空を仰いだカントはそこで1つの疑問に突き当たった。

「そういやここにルミナスアートを作る設備があるのか?」

カントはルミナスアートの構造など殆ど何も知らないが少なくともそれがとてつもない精密機器であることくらい予想はつく。そしてそんなものを作るのにどれだけ大掛かりな設備が必要かも。戦車だって例外ではない。となるとこの死の大地にそれだけの大工場が存在しなくてはならない。そしてそこには大きな町があるはず、そう考えたのだ。しかしメイリンは肩を竦め、首を横に振った。

「そんなものある訳ない。時々合衆政府軍がルミナスアートとか機械部品の廃材を捨てていく、プラヴァスティはそれを利用してジャンク品を作ってる。まあこのトレーラーも、ボクのバイクもそれが基だから一概に非難はできないけどね」

そう言いながらメイリンは目の前のバイクに目をやった。つられてカントもバイクを見る。確かに部品は不揃いだし、市販されているものよりも無骨な感じがする。

その上LAのパーツらしき小型ミサイルランチャーが後部に取り付けられていた。カントはもう1つ大きな疑問、そもそもなぜこんな所に住んでいるのか、それが気になったのだが何か聞いてはいけないことのような気がして、結局聞けずじまいだった。



それからメイリンはトレーラーへ戻り、カントはエルシオンの中へ戻った。マスクはしていたと言っても当然こんな激しい砂嵐を想定してできている訳もなく、濾過されたコックピット内の空気が堪らなく美味しく感じた。メイリンは頭をすっぽり覆うヘルメットのせいかはたまた単なる慣れなのか平気そうにしていたが。

[勧告。外気はΩII放射線に汚染されています。これが人体にどんな悪影響を及ぼす可能性があるか不明な為長時間の外出は控えてください]

「今はそれよりもさっきの戦車のデータを出してくれ」

[了解]

その音声からほぼ同時にコックピットのモニターにカントが戦ったコヨーテ78式のデータが表示された。判明している武装は180ミリ滑腔砲、そして7.7ミリガトリング砲の2つだ。

「ん?7.7ミリってやたら小さくないか?」

主砲が180ミリもあるのに対して7.7ミリというのは不釣り合いなほど小口径だ。これではエルシオンどころか並みのLAの装甲を抜くこともできない。

[考察。小口径ガトリング砲は対人戦用のものもと思われます]

確かに生身の人間に対してなら十分すぎる威力だ。

[警告。大気圏内ではスラスターの排熱が追いつかない為連続飛行の上限は30秒になります]

これからカントが何をしようとしているのか察したのかエルシオンの方から警告を入れてきた。

「わかった。やっぱ宇宙と同じようにはいかないか……」

これでまた操縦に慣れる所からやり直さなければならない。カントはため息を吐いた。



「……と、こんな感じか?」

カントも何とか地上での操縦に慣れを見せてきた。少なくとももう敵の前で転倒するような無様な真似はしないだろう。と、その時エルシオンの足元で誰かが手を振っているのが見えた。まだトレーラーの人々は未だカントへの不信感を拭いきれないようで、カントに話しかけようとするのは1人くらいのものなのでそれが誰かは考えずともわかるのだが。

「はい」

カントがエルシオンから降り、トレーラーに入るとメイリンはボトルを投げ渡した。

「何だ?これ」

「水。喉渇いてるでしょ」

確かに中を見てみると透明な液体が入っていた。

「お、ありがとな」

カントが水を飲もうとボトルを傾けた時、どこからか視線を感じた。トレーラーを見渡すとテーブルを挟んでカントの向かい側にいる男の子がカントを、正確にはカントの持っているボトルをじっと見つめていた。

「メイリン、あいつも飲みたそうにしてるぞ?」

するとメイリンは自分が飲んでいたボトルをを見つめ、目を伏せた。

「……ここでは水は貴重だから、1人1人毎日量が決められてる。可哀想かもしれないけどそれがここの……ここで生きていく為のルールだから」

カントの住んでいたコロニーでは水なんて水道の蛇口を少し捻れば当たり前のように出てきた。ソディアでだってそうだ。水を大切にしろとは口酸っぱく言われてきたが水を飲みたくても飲めないという状況は経験したことがなかった。ましてや幼い頃住んでいた地球ではなおさらだ。同じ地球なのにこうまで違うのか、カントは自分持っている水を見つめた。メイリンは毎日水の量は決められていると言った。しかし突然カントが現れた、となれば当然皆の分からカントの分が差し引かれたということだ。そう思うと途端に申し訳ない気持ちで一杯になった。

「ほら!」

結局カントに考えついたのは男の子にボトルを渡すという選択肢だけだった。ボトルを受け取った男の子……確かアデルと言ったか、は嬉しそうに水を飲み始めた。

「……これ」

ずいとメイリンに横からボトルを押し付けられた。中にはまだ半分ほど中身が入っている。

「ありがとう。それと……それ、飲んでいいから」

それだけ言ってメイリンは寝室の方へ歩いて行った。しかしメイリンがドアに手をかけたところでトレーラーの後部の扉が勢いよく開き、息を荒げたライナが飛び込んできた。

「た……大変だ!すぐそこにボロンがいるぞ!」

その言葉でトレーラーの中の空気が凍りついた。しかしそれも一瞬、あちこちで絶望の声が上がりだす。

「どうしてだ?もう見つかったのか?」

「もう終わりよ!今からじゃ逃げきれない!」

状況が呑み込めないカントは長老に何が起きているのか聞いた。すると長老の代わりに既にヘルメットを被ったメイリンが答えた。

「ボロンはプラヴァスティのルミナスアート。ライナ、数は?」

「お、おい、何でメイリンが出る必要がある?こいつに任せとけばいいいいんだろ?」

こいつ、はまず間違いなくカントのことだろう。確かにカントはソディアとの連絡に加え、貴重な水や食料まで提供してもらっているのだ。ライナの言うことも一理あるのかもしれない。しかしメイリンは無表情のままもう1度繰り返した。

「数は?」

「……っ!ボロンが3機、コヨーテが5機だよ!」

メイリンに根負けし、ぶっきらぼうにライナは言う。それを聞くなりメイリンは無言でトレーラーから出て行った。カントも追おうとすると出口のところでライナに肩を掴まれた。

「あいつに何かあったらただじゃおかない」



「カント、早く」

カントがトレーラーから出るとメイリンは既にバイクに跨り、エンジンを始動させていた。カントも急いでエルシオンへと向かう。

[パイロットの搭乗を確認。コクピット内の空気を浄化します]

「レーダーは……やっぱ使えないか」

レーダーの情報を示すモニターには相変わらずひどいノイズが入っておりとても使えたものではない。しかしモニターに目を凝らして見ると遠くに人影、いや大きさから言ってLAが2、3機ほどこちらに向かってきているのが見えた。メイリンは既にそちらへ向かっている。

「……この距離なら当たるか?」

カントはエルシオンに膝をつかせ、両手でビームブラスターを構えた。そして敵機に狙いを定める。まだこちらに気づいていないため照準の誤差は少し、1度撃てばこちらの位置が知られてしまうため1度きりのチャンスだ。

「よし……」

ふうっと息を吐き、トリガーを押した。確実に直撃コースだったはずだ。しかしビームはボロンを掠め、少しのダメージを負わせることもなく消えていった。

「へ?何でだ?」

[解説。大気圏内ではビームは空気による減衰を起こすため宇宙空間に比べて射程距離が著しく短くなります。そして地球上では自転と磁場の影響で直進しません]

「もっと早く言ってくれ!」

カントは舌打ちした。ボロンは明らかに戦闘態勢に入っている。その上メイリンが先行しているのだ。カントは思い切りエルシオンを加速させた。

「この距離なら!」

今度は十分に接近してビームを放つ。金色の閃光がLAの胸に巨大な風穴を空ける。ボロンと呼ばれたLAは確かに人型をしていたがそれぞれのパーツは不揃いでカントの知っているLAとは大きく違っていた。

1機撃破して一息吐いたのも束の間、LAの後ろにいたコヨーテがエルシオンの両側に展開、カントが右側の敵にブラスターを向けると左側の敵がバズーカを撃ち、エルシオンの背部に直撃した。激しい揺れがコクピットを襲う。それによって照準がブレ、ビームは明後日の方向に飛んでいった。幸い機体に大したダメージは無いもののこれではなぶり殺しである。

[敵武装は恐らく180ミリ滑腔砲と思われます。単発なら当機の装甲が破られることはありません。しかし同じ場所に集中的に直撃すればコアフレームにダメージが入る場合があります]

「くそっ!」

盾で正面からの攻撃は防げるが背後はそうもいかない。エルシオンをぐるりと包囲したコヨーテとボロンはジリジリとその輪を縮めていた。

その時、ボロンの背後で爆発が起こった。メイリンだ。包囲のさらに外側を回りながらミサイルを撃ち込んでいた。その瞬間、敵の注意が一瞬メイリンに集中する。

「今だ!」

その隙にブラスターでボロンを1機撃破、大きく飛んでコヨーテを1機踏み潰した。いくら装甲板を張っているといってもLAの重量がかかればひとたまりも無い。素早くもう1機のコヨーテにもブラスターを放った。これで敵はLAが1機、戦車が3機となった。このままではまずいと判断したのだろうか、最後のボロンが腰からコンバットナイフを引き抜き、エルシオンに突進してきた。ボロンの足底には車輪が取り付けられており、地上での高速機動が可能になっていた。それを躱しきれず盾で受けるとボロンの突進速度と機体重量でエルシオンが後ろに滑る。それでもスラスターで加速をかけ、シールドで敵を押し戻す。しかし今度は敵が後ろに移動、今度は前につんのめる形になった。無防備になったコックピットをコンバットナイフが狙う。

「負け……てたまるか!」

カントは姿勢制御をせず、あえてそのままの姿勢でボロンに体当たりした。意表を突かれたボロンのパイロットは咄嗟に反応できず、エルシオンに押し倒される。間髪入れず腰部からブレードを取り出し、展開。コックピットを斬りつけた。ボロンが大きな音を立てて爆散する。

「……終わった……のか?」

残りのコヨーテは退却して既にカントの視界から消えようとしていた。下でメイリンが何か叫んでいたが戦いが終わり、気の抜けたカントはそれに気づかなかった。


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