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根菜と葉野菜のミネストローネ~茜の果実と殻の子の出逢い~  作者: コメッコ29


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準備と壊心

「福さん、そろそろ行くね」

 菜々海が静かに立ち上がる。


「この手紙。姉さんの机の引き出しに入っていたの。ぐちゃぐちゃに丸まっていたし、途中までしか書いてないんだけれど…」

 菜々海は綺麗に伸ばした一枚の便せんを僕に差し出した。


「今の福さんなら読んでも大丈夫かな?来年はお姉ちゃんに会いに行こうね」


 そう言って菜々海は歩き出した。その背中は、日差しの中に溶けてゆくみたいだったけれど、少しだけ足取りが軽いように見えた。


 ふと手紙に目を落とす。見慣れた文字が飛び込んできた。丁寧で少しだけ丸っこい、女の子らしい読みやすい字。…空の字だ



 月へ

 わたしのワガママでこんなことになってごめんなさい。

 友達が彼氏と別れた時、わたしはひどいことを言ってしまったの。

 それからその子とちょっとギクシャクして…それが嫌で…


 学校の課題も研究も忙しくて、気がついたら毎日が辛くて…

 なんだか、もう凄く疲れていたんだと思う。


 きっと月は優しいから、全部話せば笑って許してくれたと思うよ。

 でもね。どうしても言えなかった。言えなかったの…


 夢に向かって一歩一歩進んでいくのが羨ましくて。ほんの少しだけ妬ましいと思ってしまった。そんな自分が嫌で嫌でたまらなかったよ。


 月に別れようって言われた時は、『ああ、やっぱりね』って思ったよ。こんなわたしと一緒にいるのは、月にとってもよくないと思った…

 わたしも、かわいそうになりたかったのかもしれない。


 3年間、今まで本当にありがとう。月と過ごした日々はわたしの宝物です。いっぱい色んなものをもらったね。全部大切にします。


 ねぇ、月。わたしとはこんな風になってしまったけれど…ななとは変わらず仲よくしてあげてね。

 それを…わたしの最後のワガママにします。


 でもね、それでもやっぱり別れたくないよ。


 思い出の文化祭楽しかったな。

 一緒にオプオプのお散歩行きたかったよ。

 また江の島に行きたかったよ…

 あの約束守れなくて…ご




 そこで手紙は終わっていた。

 白い余白が、空の言えなかった言葉で埋め尽くされているように感じた。


 何で僕は、何も気がつくことができなかったんだ…

 思えば、空とは最初からすれ違いだったように思う。




 高校最後の夏休みも終わり、同級生は受験モードだったけれど、高校生最後の文化祭に向けてクラスは盛り上がっていた。


 僕らのクラスは多数決の結果、うどん屋をやることになった。『うどん屋花道』当然雑用は僕と空が駆り出される。


 面倒臭いことも沢山あるけれども、空と一緒にいられる時間が増えて、僕は内心浮かれていた。


 放課後、文化祭の準備で残っている時に空が唐突に聞いてきた。


「福田くんは受験どうするの?」

 痛いところをついてきた。実際、将来のことや進路のことは遠ざけていた。


「まだ何も決めてないかな?やりたいこともないし…」

 曖昧に答える。


「そうなんだ。でも福田くんお料理得意なんでしょ?そっちの道は?自分のお店作ったり。似合うと思うよ。そしたらわたし通うな」


 僕が漠然と考えていたことだ。マキさんの元旦那さんのお店に凄く興味が湧いていた。


「綾瀬さんは?」

「わたしは推薦組。東邦大の薬学部かな?」

 空は成績も優秀だった。


「薬剤師になるの?薬学部は大変ってバイト先の先輩が言ってたよ」

「その先輩って青木って人?この前、菜々海が告られて困ってた」


 あー青木さんも菜々海ちゃんのこと狙ってたもんな。ついに告ったんだ。


「そうなんだ。菜々海ちゃん人気あるからね。この前もお客さんから何か貰ってたよ」

「あの子、誰にでもああだから…勘違いさせちゃうんだよ。福田くんはななのことどう思う?」


 好きな人に他の女の子のことを聞かれると困る。しかも妹だし。マキさんが言っていたように菜々海ちゃんは本当に僕のことを…

 頭がこんがらがりながら答える。


「いいこだと思うよ」

 嘘は言ってない。


「ななは福田くんのこと好きみたいだよ?毎日福田くんのこと聞いてくるし、ほら?わたしがやたらと好きな漫画とか、音楽とか聞いてた時期あったじゃない?全部ななが聞いてこいって…」


 全身の血が逆流するような感覚に襲われた。


 僕と話をしていたのは菜々海ちゃんの為?そうだったのかと思うと、やりきれない気持ちが僕を打ちのめす。

 平静を装って聞いてみる。

「僕が、菜々海ちゃんと付き合うことになったらどうする?」


「ちょっと複雑かな?でも応援するよ」

 複雑かな?って何?でも応援するって。


 告白もしてないのに振られた気分だった。


 僕と話をしている時の綾瀬さんは凄く楽しそうにしていたし、いつも笑顔だった。

 夏休みに一度だけ二人で出かけた時も悪くない雰囲気だったし、ひょっとしたら僕のことを…なんて期待もしていた。


 文化祭の後で告白しようと、ベタベタだけど考えていたのに…


『綾瀬さんは?好きな人いないの?』

 喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。まだ決定打は聞きたくなかった…


 誰かが言っていたのか、漫画のセリフだったか忘れたけど、その言葉が突き刺さった。


『自分が好きになった人が自分のことを好きだなんて奇跡だよ。だから両想いって尊いんだよ』


 ああ、僕には奇跡は起きなかったんだな。


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