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異世界スキル整備士(改訂版)  作者: なるかめ
プロローグ

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3/3

第2話 魔改造の歪み、仲間との旅立ち

前話では、壊れたスキルを初めて“直した”カイト。


だが、それは終わりではなく、始まりだった。


この世界では、壊れた力は元に戻らない。

暴走すれば、拘束か、処分。


そんな常識の中で——

“整備士”という存在は、何を変えてしまうのか。


そして、壊れたものを“直す”力は、

本当に救いなのか、それとも——


第2話。

歪みは、静かに広がり始める。



朝の空気は、やけに騒がしかった。


昨日の暴走騒ぎが嘘みたいに、街は動き始めている。

商人の呼び声。荷車の軋む音。行き交う人々。


だが——


俺の視界の奥では、まだ光がちらついていた。


細く歪んだ線。

焼けた結節。

詰まりかけた流れ。


壊れかけたスキルは、そこかしこにある。


「……多すぎるだろ」


俺は石段に腰を下ろし、小さく呟いた。


隣で腕を組んでいるレイナが、鼻で笑う。


「見えてるから気になるだけだ。普通は気づきもしない」


「それが普通ってのも、どうなんだよ」


俺が言うと、レイナは肩をすくめた。


「だから壊れる。だから死ぬ。それがこの世界だ」


あっさりと言い切る。


通行人の視線が、ちらちらとこちらに向く。


「あれが……昨日の」

「整備士ってやつか」


居心地が悪い。


逃げたい——


その感覚が、一瞬だけ胸をよぎる。


前の人生の癖だ。


「なあ、レイナ」

俺は声を落とした。

「この“回路”って、やっぱり誰にも見えてないんだよな」


「見えるわけがない」

レイナは即答した。

「見えたら、とっくにこんな世界終わってる」


「だよな……」


広場の端には、昨日の爆発でできた亀裂が残っている。

黒く焦げた石畳。


だが俺には、その上に重なるように——歪んだ光が見えていた。


「この世界ってさ……種族もバラバラだよな」


「エルフ、ドワーフ、竜族、魔族」

レイナは指折り数える。

「魔物はもっと多い。共存? 綺麗事だな」


「争い前提か」


「そうだ。だから強さが要る」


レイナは胸元の刻印を軽く叩いた。


「その“強さ”を無理やり作るのが魔改造だ」


壊れた回路。

暴れる力。


昨日の光景が、脳裏によみがえる。


「正規の工房なら合うものを選べる」とレイナは続けた。

「だが金がなければ違う。拾い物、継ぎ足し、中古品」


「無理やり繋ぐ、と」


「そうだ。歪む。壊れる。そして暴走する」


「普通は治せないのか?」


「治せない」


即答だった。


「壊れたら終わりだ。拘束か、処分。監察隊の仕事になる」


背中が冷える。


「……じゃあ俺がやってることは」


「異端だ」

レイナは言った。

「存在されたら困る奴が多すぎる」


少し間を置いて、俺を見る。


「だから、お前は狙われる」


黒い外套の男。


あの視線。


「……分かってる」


本当は分かっていない。


それでも——


壊れているものが見える。

直せる。


それだけは確かだった。


そのとき、足音が近づいた。


振り向くと、杖を抱えた少女が立っている。


「あの……」


「来たな」

レイナが口の端を上げる。

「仕事だぞ、整備士」


少女は杖を差し出した。


「これ……また変なんです」


俺は杖に触れる。


《対象:魔術》

《状態:魔力漏出》

《効率:32%》


「低すぎる……」


回路が歪みすぎている。


「これでよく使ってたな……」


少女が身を縮める。


「やっぱり……壊れてますか?」


「壊れてるっていうか——無理してる」


俺は腰を下ろす。


「直せる。でも少し時間かかる」


「お願いします!」


迷いがない。


俺は回路を展開する。


線が浮かぶ。


歪みが見える。


触れる。


——理解が流れ込む。


「……ああ、そういうことか」


手が動く。


ほどく。

外す。

整える。


繋ぐ。


通す。


——通った。


濁りが消える。


回路が整列する。


「……っ」


気持ちいい。


流れが“正しくなる”。


ぞくり、と身体の奥が震える。


——もっと触りたい。


一瞬、そんな衝動が走る。


「……っ」


俺は慌てて手を引いた。


《整備成功》

《効率:87%》


「終わりだ」


少女が杖を構える。


火球が浮かぶ。


揺れない。


——爆ぜた。


「え……?」


もう一発。


安定している。


「すごい……!」


目が輝く。


「名前は?」と俺は聞いた。


「セリスです!」

「セリス・アルミナです!」


俺は一瞬だけ言葉に詰まる。


こんな風に、まっすぐ名前を名乗られたのは久しぶりだった。


「……カイトだ」


セリスは小さくその名前を繰り返した。


「……カイトさん」


確かめるように。


「さっき、怖くて……動けなかったのに」

セリスは少し俯く。


「でも今は……もう一回、やれる気がします」


その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。


その瞬間——


ドンッ!!


爆音。


地面が揺れる。


《新規暴走反応》


レイナの顔が変わる。


「……でかいな」


地面が裂ける。


その上。


黒外套の男が立っていた。


腕が動く。


——回路が引き裂かれる。


「……壊すのは簡単だ」


男は、退屈そうに言った。


「直す方が、面白い」


ぞくりとする。


光の塊が這い出す。


怪物。


「人為的だ……」


レイナが剣を抜く。


「下がってろ!」


「私もやります!」とセリスが言う。


俺は回路を見る。


壊れている。


だが——直せる。


「動きを止めろ!」


戦闘。


隙ができる。


「今だ!」


俺は回路に触れる。


暴れる。

崩れる。


押さえ込む。


繋ぐ。


整える。


——通せ。


光が暴れる。


だが抑え込む。


一本にする。


整える。


――収束。


怪物が崩れる。


静寂。


レイナはしばらく何も言わなかった。


やがて小さく息を吐く。


「……本物だな」


その一言が、重く落ちる。


俺は空を見る。


黒外套は消えていた。


——だが。


空気の中に、まだ“歪み”だけが残っていた。


「……壊してる奴がいる」


拳を握る。


「壊すのは簡単だ……か」


俺は呟いた。


「なら——壊されるなら、直す」


低く言う。


「何度でも」


セリスがこちらを見る。


「一緒に行ってもいいですか?」とセリスは言った。


一歩、踏み出してくる。


「私……さっき、何もできなかった」

セリスはまっすぐ俺を見る。


「でも、今なら……少しは役に立てる気がします」


少し考えて、頷く。


「好きにしろ。でも無理はするな」


セリスが笑う。


レイナも小さく笑う。


だが——


壊れた回路は消えない。


そして——


壊そうとする意思も。


整備士の仕事は——


終わらない。


第2話・完

第2話を読んでいただき、ありがとうございます。


カイトの“整備士”としての立ち位置が、

少しずつ見えてきた回になりました。


そして——

レイナ、セリスという仲間。

さらに、“壊す側”の存在。


世界はただ壊れているのではなく、

“壊されている”可能性が見えてきます。


直すことは、救いなのか。

それとも、新たな歪みを生むのか。


カイトはまだ、その答えを知りません。


それでも彼は、手を伸ばします。

壊れたものを前にして——


次話では、

仲間として動き始めた三人と、

この世界の“歪みの深さ”にさらに踏み込んでいきます。


引き続き、よろしくお願いします。

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