第154話 ママって呼ぶなよ
俺はミランと楪を連れて空港にやってきた。出発まで時間があるので、俺がとったラウンジにて時間を潰していた。
「ラウンジっていいですねぇ。リア充感半端ないです」
「そうだね。ボクもこういうラグジュアリーな空間好きだなぁ」
ソファに座って楪は楽し気にカクテルを飲んでいた。ミランも足を組んでソファに座り堂々と白ワインを煽っている。おかしいな。婚約阻止するために沖縄に旅立つのにこいつらマジでのほほんとしてやがる。
「緊張感がまるでない」
「いや。カナタ君もないよね。何その手に持ってるやつ」
俺の手にはシャンパンの入ったグラスがあった。サービスでもらったやつである。
「ラウンジでシャンパン持ってるカナタさん、まじウォール街のマフィアですよね!素敵!」
楪が俺のことをスマホで撮っている。SNSにはアップして欲しくない風景である。そしてまったりした後、俺たちはファーストクラスで沖縄に向かったのであった。なお反社扱いされて荷物検査でめちゃめちゃ時間食ってしまったのは絶許である。
沖縄。それはリア充の島。青い空と海、白いビーチ、うまい飯。だけど俺たちはここに遊びに来たわけではない。戦いに来たのだ。心は戦闘モードに切り替えながら、俺は空港を出る。
「ちーーーーーーーーーーーんすこう!!」
「や、やめろぉ!そんな棒なんかにボクは屈しなんて、もぐもぐ」
楪とミランは速攻テンション高く遊んでいた。その分野じゃ一種の天才のはずなのに、馬鹿丸出しである。
「で、ミラン。お前んちの人が迎えに来てくれるんだよね?」
「もぐもぐ。うん。ボクのママが車で来てくれるよ」
「ママ?ママと言ったか」
大学生にもなってママ呼びかよ。弄りがいがありそうなところが童貞なんだよなぁ。
「あ!ママの車だ!おーい!こっちこっち!」
そして俺たちの目の前に派手なオープンカーが止まった。左ハンドルの高級外車だった。あれ?ミランって苦学生してたよね?どういうこと。そして車から運転していた女が降りてきた。
「紹介するね!この人がボクのママだよ!」
「あんたらが美魁の連れかい?わしがこの子のママだよ」
「ママ…?」
紹介されたのは90は超えてそうなしわくちゃな婆さんだった。え?なに?どこに突っ込めばいいの?俺は楪の顔を見る。楪も困惑しているようで顔が強張っている。
「さあ乗りな。うちまで案内してやるよ」
「え?っていうかこのヤバそうな外車にこんな婆さんが乗ってきたの?!怖い!」
ミランはさっと助手席に座ったけど、俺と楪は恐怖で足が固まっていた。後期高齢者超えてどう見ても棺桶に片足突っ込んでる婆さんが乗るスポーツカーとか死亡フラグにしか見えねぇ。
「ちょっとまて?!あんたが運転するのか?!怖い!変われ!俺が運転する!あ!しまった!酒飲んでた!運転出来ねぇえええ!!」
ラウンジで調子こいて酒なんて飲むんじゃなかった!
「さっさと乗りな!この程度でビビってんじゃないよ!こちとらあんたらが生まれる前から車乗り回してんだよ!」
「だから怖えんだろうがババア!くそ!うあああ!乗るしかねぇのかよ!」
仕方なく俺と楪は後部座席に座った。俺たちは自然と手を深くがっちりとつなぐ。そして車は外車特有の甲高い排気音を響かせて一気に加速し発進したのだった。
生きた心地がしなかった。
「カナタさん。ここ天国じゃないですよね?」
「一応沖縄みたいだぞ」
「よがたぁああああ!!」
俺と楪はお互いにぎゅっと抱きしめ合う。生きてるって素晴らしい。
「ここがボクの家だよ!さぁさぁ!どうぞどうぞ!」
辿り着いたのはいかにも沖縄って感じの古民家だった。でも建築士の俺の目は欺けない。この家外側こそ伝統的だけど、中はバリバリの新築だ。すげぇ金かかってる家だ。間違いなくこいつの家けっこう金あるぞ
「ミラン。お前って苦学生だと思ってたんだけど?」
「ん?そうだねぇ。たしかに仕送りなかったしねぇ。本州への進学反対されてたから、自分の面倒は自分で見ろって言われてねぇ。バイトの日々は大変だったなぁ」
「へぇいまどき厳しい家なんだな」
ミランがどこか図太いのはそういうところなのかもしれない。ちょっと尊敬した。童貞だけど。そして俺たちはミランの御実家に入った。中は涼しく快適だったし、沖縄情緒あふれるエスニックな雰囲気がおしゃれ。建築家としてはテンション上がる。
「あんたらの布団用意するのめんどくさいから美魁の部屋で勝手に寝てくれ」
「ママ!お布団くらい用意してあげてよ!」
「あんたのベット広いんだから三人で寝ればよいじゃろ。それくらい今どきの若いもんは普通じゃろ?」
そんなに風紀乱れたつもりないんだけどなぁ。
「し、仕方ないなぁ!か、勘違いしないでよね!カナタ君と楪ちゃんだから許されてるんだからね!他の人と雑魚寝なんてボクはしないんだからね!」
「ツンデレになってねぇよ。まあ、お世話になります」
俺はミランのママ?に頭を下げる。楪もぺこりとお辞儀をした。
「そう言えばパパは?出かけてるの?」
パパもいるのか。もう突っ込むつもりもないが。
「パパなら孫とひ孫たち連れて海行ったぞい」
「あ、そうなんだ。じゃあ夜には帰ってくるかな。カナタ君、パパはその時紹介するね」
「あ、はい」
こいつの家族構成がまったくわからない…。
「さすがにもう夕方だし海って感じじゃないよね。とりあえずボクの部屋来てよ!作戦会議しよう!」
「お、おう。そうだな」
なんか沖縄来てから調子が狂いっぱなしだ。ここらへんで仕切り直したい。俺たちはミランの部屋に向かった。
ミランの部屋は洋風でけっこう広かった。往年のスター俳優や女優のポスターが壁に貼ってあったり、舞台や映画のポスター張ってあったりしてどことなくミランらしさを感じて楽しい。
「で、カナタさん。どうやって綾城さんを助け出すんですか?やっぱり米軍基地に殴り込みですか?」
「それともスパイみたいに潜入するのかな?!ボクすごくわくわくしてる!」
「そんな無茶させないでください」
やろうと思えばできなくもないがあんまり無茶はしたくない。
「だいたい綾城が沖縄の何処にいるのかもわからないしな」
米軍基地は沖縄には沢山ある。殴り込みや潜入して外れたらママ城さんに嘲笑われるだろう。それはごめんこうむりたい。
「確かにそうですね。手詰まりですね。やっぱり結婚式当日を襲撃するしかないんですかね?」
「ん?楪、それどういうこと?」
「え?カナタさんのところには届いてないんですか?ほらこれ結婚式の招待状」
楪がバックから一通の手紙を出す。そこには綾城の結婚式の招待状が入っていた。
「あ!それボクももらった!ウェディングドレスきっと素敵なんだろうなぁ。ワクワクだね!」
「ですよねー」
女子二人がきゃきゃしてる。
「報連相して!え?!なにそれ?!俺には届いてねぇよ!」
ママ城さんの嫌がらせが中学生の女子並みに陰険でげんなりする。でも救出の目途はたったのかな?まあ日付を見るとまだ先だし襲撃の準備をする時間が出来たと思ってポジティブに考えておこう。
「もういい。作戦会議しゅーりょー。もういいよ飲もう飲もう。泡盛とか飲んでみたい」
俺は半分やけになっていた。というか自分にだけ招待状届いてないって意外にダメージでかい。酒飲んでさっぱり忘れたかった。
「あ!それならいい酒あるよ!じゃじゃーん!うちのママが生まれた年に作られた古酒!100年超えてる逸品だよ!」
あの婆?!まさかの100歳越え?!免許返上しろ!まじで!
「綾城さんの分もとっておかないとだから一人一杯づつね」
ミランが俺たちのグラスに古酒を注いでいく。そして俺たちはそれで乾杯した。
目を覚ました。上半身を上げると俺は自分が砂浜にいることに気がついた。
「あら?目覚めたのね?ちゅ」
横には下着姿の綾城がいた。俺の頬っぺたにキスしてくる。なに?何が起きた?!なんでここにいるの?!
「ふぁあああ。あ、カナタさん。おはようございます!ってなにこれぇ?!」
楪が近くに寝ころんでいた。上半身には何も着ていない。乳首にだけちんすこうプリーズとかいてあるシールだけが張ってあった。
「うるさいなぁ。πの数え上げでもして二度寝しててよ。…え?ええ?紅葉さん?!それにカナタ君?!なんでどうして?!」
なぜかムーちゃんもいた。こっちは下半身パンツとニーソだけというエロエロな格好だった。シャツも前は全開に空いていて可愛いブラが見えている。
「はぁ?!なになに?!これどういうこと?!うん?!え?ミランは?!ミランがいねぇ!!?」
あたりを見渡してもミランはいなかった。腕時計を見ると今は朝の7時だ。一体何があったんだ?!近くにはいろいろなガラクタが散乱している。
「一体何が起きたって言うんだ…」
俺たちの身にいったい何が起きたのか…?!それを知るのがとても恐ろしかった。




