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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4  After 『誰よりも輝ける夏』

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第147話 お嬢様、初めてのバイト

 いつメンといっしょに田吉寮のバーカウンターでお弁当タイムしていた時のことだ。


「あたしもそろそろバイトがしてみたいの」


 綾城がそう呟いた。それを聞いた楪は遠い目をして言う。


「綾城さん。バイトはとてもとても過酷なんですよ。軽々しくそんなこと言っちゃいけません」


「バイトってそんなに身構えるものかな?ボクの知ってるバイトとは違う世界の話なのかな?」


 楪の魂の抜けた遠い目をミランは呆れ顔で見ている。


「金に困ってるわけじゃないよな?」


「そうではないわ。お小遣いなら世間様のお嬢さん方よりもたくさんもらってるもの。経験したいのよ。経験ゼロだから。経験済みな大人になりたいの。いい加減バイト処女を捨てたいわ」


「不純な動機に聞こえてくるの草。ちなみにどんなバイトがしたいの」


「バニーガールスーツを着る以外のバイトがしたいわね」


「何で知ってんの?!ねぇなんでぇ!?」


 女子のネットワークで俺の行動が筒抜けすぎ。俺のプライバシーは一体どこにあるんだろう。


「真面目な話、世間知らずのお嬢様のままなのは恥ずかしいわ。ちゃんとバイトして世間様を知らなきゃいけない。そう思うの」


「すげぇ真面目な意見出てきたな。いい心がけだと思うよ」


「ありがとう。ふぅ。うちの母もあなたみたいにバイトに理解のあればいいのだけどねぇ」


 なんか綾城から煤けた空気感を感じる。なんかあったっぽいな。


「綾城さん!どうかなうちの事務所からグラビアデビュー!例のプールで撮影を手配させるよ!」


 ミランがすごく前のめりでバイト紹介してくる。


「例のプール…?!……ぐぅ右手が疼くぅ!…。……。…でも今回は…遠慮しておくわ…ううぅ…行きたい…」


 綾城の心がめちゃくちゃ揺れてる。


「まあ例のプールは置いておいて、真面目にバイトを探そうか。ケーカイパイセンのところで」


「あの人の紹介するバイトってまともなんでしょうか?わたしは疑念がつきませんよ…」


 楪はわりと前回のバイトで大変な目にあったしな。ていうかケーカイパイセンがアレ過ぎただけだけど。今回は大丈夫だよね?とりま俺たちはケーカイパイセンにお願いすることになったのだ。






 今日のケーカイパイセンは寮の庭の端に勝手に作った畑で野良作業をしていた。この人は大学をまるで自分の家のように扱ってるんだよなぁ。でもそれが許されてるのは、彼の人徳故にだろう。


「パイセンパイセン。うちの綾城に単発のバイト紹介してくださーい」


「うん?バイト?そちらのお嬢様に?」


 地雷系ファッションの綾城を見ながらケーカイパイセンは唸る。


「地雷系かぁ…需要がなぁ…逆にギャル系の単発バイトならすぐに紹介できるぞ」


「ギャル系の逆って地雷系なんですか?てかギャル系のバイトってなんすか?」


「新木場にある大型クラブの臨時イベントスタッフ。ギラギラしてるやつ。モンシロって聞いたことない?」


 パリピ目指してる俺の琴線にかなり触れる感じがあるぞ!というか俺がやりたいくらいだ。


「知ってます!デカいクラブ系イベントのブランドですよね!まじかぁ!ぱねぇ!」


 そんなバイトって間違いなくキラキラ系リア充やん!マストっしょ!


「でもそっちのお嬢さん地雷系だろ?イベントの方向性が違うからなぁ。ちょっと今は地雷系に紹介できるバイトはないかな」


「待ってください!これならどうですか!」


 綾城が声を上げる。ポケットから化粧落としを取り出して顔のメイクを全部拭う。そしてすっぴんの顔が晒される。化粧してないけど派手な顔立ちの美人さんがそこにいた。


「この顔ならどうです?」


 綾城の地顔のラテン系のぱっちりした目とくっきりとした顔立ちは日本人の中ではよく目立つ。


「まあそれならセーフどころか向こうから頼んでくるだろうな。つーか女は化粧で変わるとはわかっちゃいるけど、お前はさらにすごいな」


 ケーカイパイセンもそのビフォーアフターに驚いている。


「綾城もこのバイトに興味あるの?」


「ええ、いかにも”遊んでる大学生”って感じでしょ。こういうのを求めてたのよ。そう。ふふふ。こういうのが。こういうバイトがいいのよ。あはは」


 なんだ?綾城さんからいつもの飄々とした感じが感じられないぞ。なんか悪いものでも食べたのか?って思った。


「じゃあパイセン。俺と綾城をそのバイトに突っ込んでください」


「わかったいいぞ。ところで家で作った野菜食わない?」


 バイトの紹介だけでなく、夏野菜のセットも貰ってしまった。さあバイトが楽しみだなぁ。その時だった。ふっと視線を感じた。それもどぎつい。いままで感じたことのないレベルの殺気。


「「「「っ?!」」」」


 楪以外のメンツはその視線に気がついて、一斉に時計台の方を見る。そこには誰かの人影があった。


「なんだ?!葉桐の手先か?!ふんじばってやる!」


 俺は時計台の方へと駆けだす。そして時計台に入って上へと駆けのぼる。そして屋上へ出た。そこには目だし帽を被り、ライダースーツに灰色の軍用のチェストリグを着た小柄な女がいた。


「怪しすぎ?!まあいい!お縄につけい!!」


 俺はその女に飛び掛かった。だがその女はなんと屋上の手すりをなんの躊躇もなく飛び越えたのだった。


「ふぁ?!えぇ?!」


 俺は驚いて手すりの下をみる。いくらなんでも自殺とかされたら気分が悪い。だが謎の女は時計台の壁に指を引っかけながら軽やかにするすると壁を伝って降りている途中だった。


「なんつー運動神経?!」


 そしてそのまま地面まで降りていき、停めてあったバイクに乗って軽やかに去っていってしまった。


「逃げられた…。マジかよ…」


 一応バイクのナンバーは記憶したけど、多分偽装しているだろう。まだまだ葉桐のところにはとんでも人材がいる。その底の深さに葉桐という存在の薄気味悪さを覚えた。


「はぁ。幸先悪いなぁくそ」


 せっかくのバイトの前なのにこれである。我が身の不運に憤りを隠せなかった。






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