第138話 スーパーホスト伝説~反社のカナタ~覚醒編
俺を指名したミランはキラキラとした無邪気な瞳で俺を見詰めている。そんなに楽しみだったのか。どうして俺がここでホストしてるのを知ったのかはきになるところだが、指名された以上は接客せねばならない。
「うぇーい!ノッてるぅ?!」
俺は先輩ホストのノリを真似しながらミランの隣に座る。
「え?」
「お姉さん超ウルトラスーパーミラクルハイパーきゃわわわいいいねぇ!!」
「は?」
「今夜はトゥナイトトゥげざーオールジャパンでキラキラナイトを楽しみまくろうぜぇ!」
両手の人差し指をぴんと立ててアゲアゲ系なノリを再現する。
「お客さんマジできれいすぎてマジ恋営業しちゃいそう!俺が落す前に俺が落されそうでヤバいバイブスびりびり感じないぃ?」
「………」
ホストとは賑やかでなんぼだ。ミランは大学生だしこういうノリ好きだろう。これはもう完璧な接客でしょう!ボトルゲットは間違いないよね!
「すみませーん。ボーイさーん。割り物の水でお願いしまーす」
ミランはボーイさんにまさかの水を注文する。泡入ってなくない?そしてミランはその水をちびちびと飲みだし始める。
「え?あの?お酒とか飲まない?」
「…別に…いらないかなって…」
すごく冷たい態度を取られた。これ知ってる!こういう顔知ってる!自分が見下してた男の子に告白されちゃったときの女子の顔だ!つまりすごく不機嫌そのものである。
「あのさ…。ボク慣れてるんだよね。こういうノリ。芸能人だし。それに褒められなれてるし、ボクは安い女じゃないからかわいいって言われても即落ちニコマでデレたりしないんだよね。ふぅ。ここには非日常を求めてるんだよね。寒いうぇーいなんて別にいらないかなって」
そして水を飲み干すと、ボーイさんを呼んできて。
「ヘルプに面白い人つけてください」
「大変失礼しました!すぐに面白いやつ連れてきます!」
何この遠回しにお前つまんねー奴みたいな言われてるような気持ち。すごく傷つくんだけど…。ミランの失望に満ちた瞳が俺の心を焦らせる。何か面白いことしなきゃ!そんな焦りが俺をパニックにさせる。だけどその瞬間だった。
『自分に合った売り方があるんだよ』
葛飾フィンセントは俺にそう言い残した。
『気取らないでありのままで客にぶつかっていくのさ』
南総馬琴はそう自分を誇った。
『カナタ君はほら。DV好きなドM系女子とか合うかも!』
勘解由小路寿限無は俺をそう励ました。
みんなの思いが俺の脳裏に輝いて、星のように流れて去っていく。
『イイカラオレニカワレ!!ソコノコムスメヲワカラセテヤル!!』
俺の心の奥底に封じられているもう一人の俺。それは反社の化身たる暴君そのもの。
俺はいまその封じられた扉を開く。覚醒の時、来たり。
「なにてめぇ調子乗ってんだよ成金芸能ビッチが!あんま調子こいってと綾城監督に売り払って、例のプールに沈めてやんぞ!あん?!」
「っひ?!綾城さんと例のプールの組み合わせはまずいよ?!ていうかどうしたの?!さっきまでと様子が違うんだけど…」
ミランは俺のことを怯えた目で見ている。だけどその瞳の奥には甘ったれた雌の媚びが見え隠れしている。俺はその隙を逃したりはしない!靴を脱いで、ミランの膝の上に俺は足を乗せる。
「ちょ、ちょっと!足!少し重い…んだけど…っ…ぁ…」
「だめなの?お前の足ってすげぇ気持ちいいのに、俺に味合わせてくれないの?もしかして最近芸能界で売れてきてるからってお高くとまってる?」
「そ、そんなことないよ…」
俺は足を前後に少し動かして、ミランの太ももを擦る。
「ちょっ…くすぐったい…ん…きゃん…ぅ…ぁ…」
ミランがなんか声をくぐもらせているが俺はそれをスルーする。
「で最近仕事の調子いいんでしょ?ドラマとか見たぞ。いい芝居だったわ」
「うん!そうでしょ!最近すごく調子よくってさ!お芝居の仕事ガンガン来てくれて!それに今度映画の主演のオーディションにチャレンジできることになって!」
「まさにうなぎのぼりだな。俺さぁ。普段は言わないけど、お前のことマジで尊敬してるよ。コツコツ努力しているしファンの期待に必ず応えるその姿勢。売れても仕事を選ばない謙虚なスタイル。お前みたいないい女の傍にいられるのってほんと幸せだと思う」
「そんなこと!カナタくぅん!ボク頑張ってるよ!えへへ!うん!すごく頑張ってるの!」
彼女が犬だったらきっと今頃尻尾を振ってるくらいに嬉しそうな笑顔だ。いい仕事をしたら労うのは人間関係の基本だ。俺はミランの頬を撫でてやる。
「そうそうよくさぁ売れるとグラビア卒業しちゃう奴いっぱいいるじゃん。その点お前ってまだグラビアガンガンやってるじゃん。いいよねそういうのファン大喜びだよね」
「まあそうだね。ボクもそういう女の子ってどうかと思うんだよね。グラビアを黒歴史にしちゃうのってダサいなって思うよほんと」
「「ねー」」
俺たちはお互いに息を合わせてニコニコする。だけど俺はさっきのこいつの態度を許してない。今はミランも好きなジンを飲んでいるけど。さっきまでこいつは水を飲んでいたくそ客なのだ。ノンアルコールドリンクは許すが、水は許せん。それが俺のホストとしての逆鱗に触れていることにミランはまだ気づいていない。
「でもさぁ。世間のファンってお前の水着のグラビアを見てさ楽しんでるじゃん」
「ボクは楽しんでもらえたら芸能人として幸せだよ」
「へぇ。そう。つまりファンがグラビアでオナってびゅびゅしてても、お前はそれが幸せなんだよな?」
その揚げ足取りにミランははっとした顔になった。
「いや、そ、そうういういいみみじゃなくってえてええ!」
「そういう意味だろうが!このグラビアシコシコビッチが!マジで傷ついたわ!ほんとないよこれ!まじでありえないんだけど!」
俺は髪をかき上げて苦しむ演技をする。ミランはそれを見てオロオロしている。
「お前って要はさ!男に水着曝して肌曝してオナってください!って言ってるようなもんでしょ!全国のお前のファンはお前の体見てオナってんだよ!俺だけのミランなのに!お前はファンにオナることを許すようなド変態ビッチってことじゃん。俺も。いいや俺だけじゃないファンの皆さんもお前を清純派だって信じてるのに、お前はグラビアを見られてしこしこされるのに幸せを感じるオナペットビッチ。謝れよ!」
「ご、ごめんね。傷ついたよね。でもそれが仕事だから…仕方なくって…」
「まあ仕事だってのは知ってる。まあ仕方ないよね」
「うん。そうなの仕方ないの!だから許して…」
さてここでボトルを入れさせろと俺の中の葛飾君が騒いでいるけど、まだだ。俺の反社パワァはまだこの女から搾れると囁いている。
「まあ仕方ないよな!オナニーなんて誰だってするし!」
「そうそう誰だってするし!仕方ないよね!」
「「ねー」」
俺たちは息を合わせてニコニコした。だけどミランはかなり瞳をきょろきょろとさせている。罪悪感を植え付けられて押しつぶされそうになっているようだ。だから俺は救いの手を差し伸べる。俺はミランの耳元に唇を近づけて囁いた。
「俺。お前のグラビアで抜いたことあるぜ」
そう囁いた瞬間、ミランは全身をビクンと跳ねさせた。顔は真っ赤に染まって瞳をウルウルと濡れさせている。
「それほんと?」
「ああ、うそじゃないぜ」
「えへへ、うへへ。ボクで抜いてるんだ…ぅ…っぁ!」
もぞもぞと体を揺らすミランがキモいが、それはスルーする。だってホストは接客業なので。
「ミランもさ。するんでしょ。その時は何で抜くの?」
俺がそう尋ねると、ゆでだこのように顔を真っ赤にしてミランはぼそぼそとした声で言った。
「カ、カナタ君に…強制和姦される妄想で昨日は抜きました!」
昨日はって言葉に生々しさを感じる。というか俺は強制和姦なんてしない。
「じゃあさ。俺と出会う前は何で抜いてたの?」
「うん?えーっと。たしかハリウッド俳優の、ほら、悪役系ヒーローの役をよくやるジェ…」
「おいちょっと待てこら。なに俺の前で俺以外の男の名前だそうとしてるの?」
「…はっ?!」
ミランは両手で口を押えている。如何にもやっちまったみたいな顔だ。
「オナニーしたのか?俺以外の男で」
「ちょちょちょっとおおおおお!まってぇえええええ!それはあれだから!ほら!そう!まだカナタ君と出会う前の話だから!ノーカン!ノーカンだよ!」
「何言ってんのお前?俺と出会う前から俺以外の男のこと考えてるとかまじで裏切りでしょ!あり得ないんだけど!!あー!くそ!心がマジでいたい!胸が痛い!痛すぎる!なにこれ。お前だけは違うって信じてたのにぃ」
俺は頭を抱えてテーブルに肘をつく。
「ご、誤解だよカナタ君!たしかにオナネタにカナタ君以外の男の人のことを想像したことあるけど!挿入とかキスとかまでは想像してないから!」
「はぁ?!そんなの誰が信じると思ってんだよ!この精神的非処女が!めっちゃ傷つく…。お前はオナニーするたびに昔の男たちと俺のことを比較するんだろ?マジで萎えるんだけど…」
ミランはオロオロとして目じりに涙を溜めだした。そしてとうとうそれは決壊して、ぽろぽろと泣き始める。
「ごめんねぇ!カナタ君がはじめてじゃなくてごめんね!許して!ほんとうはボクもカナタ君がはじめてがよかったようぅ。昔の自分が許せないょう」
はい言質とりましたー。泡でじゃぶじゃぶ綺麗にしちゃおうねぇー。
「本気でごめんなさいする気ある?これからは一途に俺だけを見詰めてくれる?」
「うん!ボクはカナタ君一筋だよ!薄汚い過去とは決別するよ!」
ミランは泣きながら俺にそう誓ってくれた。なので俺はメニュー表を出して、お値段50万円のシャンパンを指さす。
「シャンパンの泡で過去の汚れ流して落とそ。俺たちの再出発を派手に決めようぜ」
「うん!ボク、シャンパン入れる!」
そしてボーイさんに50万円のシャンパンボトルを注文させる。
「ううぇん。ぶぃきぃ…フヒヒ…。あへぇ…。あん…ぅっ!女の変えられない過去を責めたてる束縛系DVサイコー…ああん!」
ミランがぶるぶると体を震わせて身もだえている。過去一キモイ姿だ。一応この姿は今後dvするときのためにカメラに収めておこう。
『本日最高額のボトルが姫様よりオーダーされました!!!』
俺とミランの席にホストたちが集まってきて手拍子を打って盛り上げてくれる。
『ハイ!ハイ!ハイ!王子様』
「王様と言え」
俺は王子様ではない。ホストの王である。
『王様からの勅語入りまーす!3・2・1!』
『ミラン。俺のボトル童貞、君に捧げるね』
そう言って、俺は肩に抱くミランの頬にちゅっとキスをする。
『『『ひゅーひゅーほおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』
ミランは蕩け切った笑顔で微笑んでいた。そしてマイクを渡す。
『はい。姫様からの一言!3・2・1!』
『ボクも!ボトル処女捧げます!滅茶苦茶にして!』
そして二人でシャンパンの蓋を飛ばす。グラスに注いで乾杯して、二人で至福の時間を味わった。今この瞬間のむシャンパンの味は人生で最も美味しかったのだった。
その後しばらくはミラン相手にシャンパンと共に楽しいお喋りの時間を過ごした。このまま閉店までここで粘りたいなぁって思っていた時だった。
「スメラギさん。すみません。勘解由小路さんからヘルプの要請が入りました」
「え?寿限無が?ヘルプ?しゃーないな」
俺は席を立つ。
「すぐ戻ってくるから待ってて」
「うん。いってらっしゃいー」
「おい。ボーイ。そこの女にはホストをつけるな。いいな。一人で放置させろ」
俺は一応ボーイさんに指示を出しておく。指名ホストが席を離れるとヘルプが席につくが、俺はそんなの許さない。
「束縛系放置プレイ…ぅっ!シャンパンが進むぅ!」
ミランがアヘってるうちに俺は席を離れてボーイさんの案内する席に向かった。そしてそこにいたのは…。
「ムーちゃん?!」
「え?!カナタ君?!うそ!やだ!?どうしてここに?!」
ムーちゃんはミランと違って本気で俺が来たことに驚いているようだ。でも俺もムーちゃんと同じくらい驚いていた。だってムーちゃんのニーソで包まれた足の下には。
「や、やあスメラギ君。ヘルプありがとう。…助けてぇ…この子やばいょう」
寿限無ことホヅミが床に四つん這いしていた。その背中にムーちゃんは足を置いている。
「どんな状況だよこれ?!」
何がどうしてこうなったのか。想像するだけで頭が痛くなるのであった。




