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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4 混ざる世界と交わらないキミたち

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第103話 学問の成れの果て

 数物連携飲み会は結果として散々なものとなった。だけど結果的には楪がマウント返しできたことと、ムーちゃんと知り合いになれたから良しとした。あの日以来俺は学内でムーちゃんの取り巻き(陰キャナイト)になる権利が与えられたので日々がすごく充実している気がするよ!表の大学生活は充実していたが、裏側ではなかなかに苦戦していた。とりあえずちょっと前に盗んだ国の機密書類から読み取れた葉桐が買収しようとしているテック系のスタートアップ企業の株を先回りして買っておいた。いくつかの企業は51%を超えて株式をゲットできたので、葉桐の陰謀を多少は妨害できるはずだ。だけどやはりあいつの陰謀の輪郭が全く見えてこない。だけど最近気がついたことがある。


「この葉桐論文って実はすげぇヒントになるんじゃね?」


 俺は駒場キャンパスの図書館で本棚に背を預けて床にすわりプリントした葉桐論文を読みながら、参考となりそうな書籍を床に広げて睨めっこしていた。だけどこの論文おそろしく難解なのだ。まず黒塗りの部分が多い。これが解読をひどく困難にしている。その上、この論文の用語が酷く難解かつ独特なものばかり。そして使われている概念が限りなく純粋な物理学に近そうなのだ。だから解読がちっとも進まない。そんな時だ。


「あっ常盤くん?こんなところで会うなんてびっくりかな。うふふ」


「そうだね。俺もびっくり。だけど君の顔が見れて嬉しいよ。ふふふ」


 ムーちゃんが俺の目の前に立っていた。両手を後ろで組んで上半身を傾けた超あざと可愛いポーズを取っている。そしてそのまま俺の目の前でしゃがんで、床に広げていた本を拾ってページをめくる。ムーちゃんの目はページを楽し気に見詰め居ていた。ぎゃくに俺の目ははしゃがんでM字開脚状態になって露になったパンツに夢中になっている。それは理ケジョの姫らしい水色の縞パンだった。ニーソとの境界線がいとまばゆい!


「床に本広げて論文読んでる常盤くんってなんかワイルドなマッドサイエンティストみたいでなんかかっこいいね。私勉強頑張ってる人って好きだなぁ」


 それって今勉強にメッチャ励んでる俺のことが好きってことだよね!?理ケジョの姫の言葉に俺は一喜一憂せざるを得ない。だけどこの場に物理の専門家であるムーちゃんが来てくれたのはありがたい。


「ねぇムーちゃん。ちょっと物理でわかんないことあるんだけど」


「ん?なーに?何でも聞いてよ。物理は得意だからね」


 俺はムーちゃんに葉桐論文を渡す。ムーちゃんはそれを受け取って、そのまま床に女の子座りした。パンツが見れなくなって残念だけど、座り方のおかげで絶対領域が強調されてドキドキするエロさがあってよしである。


「そこに書いてある祷際宇宙って概念がちっともわかんなくてさ。どういうことなの?」


「祷際宇宙…?なにそれ?え?…あれ?え?これってあの超域文明学際情報学環府の機関紙の論文?しかもあの葉桐翔斗博士の?!」


 ムーちゃんはひどく驚いていた。そして論文をぺらぺらとめくっていく。その顔はどことなく興奮気味に見える。だけど黒塗りのページに差し掛かり、だんだんとどこかがっかりしたように唇を結んだ。


「ムーちゃん?どうかしたの?」


「ああ…葉桐博士はやっぱり…狂気に飲まれちゃったのね…この論文は残念だけど…」


 ムーちゃんは首を悲し気に振っている。


「葉桐博士って有名人なの?それでこの論文っていったいなんなの?」


 探偵の情報によると皇都大学の教授の一人をやっていたことだけは知っている。もうすでに故人であることも掴んでいる。そしてあの葉桐宙翔の祖父であることも。


「葉桐翔斗博士は物理学界隈じゃとても有名な研究者。生きてさえいればノーベル賞も夢じゃなかったレベルの大天才。私が子供の頃には事故で亡くなってた。彼の成果は今でも科学史に燦然と輝いて残っている。だけど…」


「そんなにすごい人なんだ。だけど?どういうこと?」


 ムーちゃんはどことなく気まずそうな顔をしている。


「葉桐博士は天才だったんだけど、ある時物理学会の学術誌にあまりにもおかしな論文を提出したそうなの。だけど当然、誰もそれを理解できなかったから査読は通らなかった。だからかわりに学会でそれを発表した。聴衆は凍りついたそうよ。なにせ、葉桐博士は真剣な顔で、【人類文明を救うフレームワーク】を発見したと発表したの。物理学界隈じゃダメな方で伝説になっちゃったわ。その理論はあまりにも荒唐無稽な上に意味不明過ぎて誰も相手にしなかった。疑似科学の一種だと判断されてそれっきり物理学会からは相手にされなくなったんだって。その後葉桐教授は物理学から離れてしまった。だけど実家がお金持ちだったらしくて、皇都大学に多大な寄付を行って超域文明学際情報学環府という研究機関を立ち上げたの通称『学府』っていうんだけど。そこで学問の垣根を超えて研究者を集めて色々と研究していたそうなの」


 なにか話が都市伝説染みてきた。確かにちょっと前まで超域文明学際情報学環府はたしかに皇都大学に存在していた。組織改編で解散になってしまったらしいが、そこの卒業生たちは各地の研究機関、大企業、省庁に散っていたったそうだ。そこまでは掴んでいる。


「研究自体のレベルはすごく高かったんだけど、『学府』の人たちはちょっとまともじゃなかったって噂を聞いてるよ。そして肝心の葉桐博士の研究は結局『学府』の外に発表されることもなく事故で死んでしまったの。でもこれがその論文なんでしょ?黒塗りだらけだけど」


「みたいだね。一応本物だよ。出所は聞かないで欲しいけど」


「葉桐博士のファンは多いの。今でもその非業の死とあまりにも偉大なる功績ゆえに神格化されてるの。私もついさっきまではファンだった。だけどね。残念だけど、この論文には科学的な意味での厳密性はたぶんないと思うわ」


 ムーちゃんはため息を吐いて、論文を俺の方によこした。


「黒塗りの下まではさすがにわからないけど、開示部分だけを見ているとまったくロジックが通ってないし、論拠となるデータも怪しげだし、たぶん疑似科学、いいえ思想?それとも衒学か、あるいは妄想じゃないかな?…ふぅ…憧れの天才学者の末路がこれだなんて…学問ってどうしてこうも報われないんだろうね」


 どことなく悲しそうな顔のムーちゃんを見るのが俺にはつらかった。だから俺は立ち上がり、彼女の手を握って立たせてやった。俺の突然の行動ゆえにだろう。ムーちゃんは頬を赤く染めていた。


「常盤くん…ちょっと手…恥ずかしいよ…」


「俺は学問は報われないものだと思わない。学科は違うけど、俺は毎日自分の好きなことをここで学んで楽しいって思ってる。俺はここで学んだものを生かして、様々なものを沢山創って見せる」


 ムーちゃんは俺のことを目を丸くして見詰めていた。俺は笑って言う。


「そのうち俺が創ったものを君にも見せるよ。そしたら学問が報われるものだって証明される。ムーちゃんはきっと笑顔になれる。俺はそう信じてる」


 そしてムーちゃんは俺の言葉にふっと控えめだけど、朗らかに笑ってくれた。


「その言葉は科学的じゃないね。だけど私は信じてあげる。だって不思議と笑顔になれるから」


 俺の手をムーちゃんは優しく握り返してくれた。それだけで今は心が満たされるのを感じた。それだけできっといいはずなんだ。俺たち学生ってやつはきっとこれでいいんだ。そう思える。





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