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最終話 雨上がり

鳥の声で、男は目を覚ました。

まぶたの裏に朝の光が滲んでいる。

冷たいはずの身体は、妙に温かかった。

雨はやんでいた。

庭の土は濡れて黒く沈み、昨夜の嵐が嘘のように静かだった。

遠くで車の走る音。近所の犬の鳴き声。どこにでもある朝だった。

男はゆっくりと身を起こした。

痛みはなかった。

足首も、肩も、冷え切っていたはずの指先も、何事もなかったように動く。


「……夢か」


そう呟いた声は、自分でも驚くほど掠れていた。

庭の隅を見る。

あの穴は、きれいに塞がっていた。

盛り上がった土もない。掘り返した跡もない。

ただ雑草が濡れて揺れているだけだった。

玄関は半開きのまま。

男はふらつく足で家の中へ戻った。

廊下には泥の跡が残っていた。

ズリ……と何かを引きずったような、長い筋。

居間へ続き、台所へ続き、そして男の寝室の前で途切れていた。

男の喉が鳴る。

寝室の襖は閉まっている。

昨夜、自分は庭で倒れたはずだ。

なら、誰がこの部屋へ入ったのか。

震える手で襖に触れる。

ゆっくり開ける。

部屋の中央に、布団が敷かれていた。

見覚えのない、丁寧な敷き方だった。

枕元にはコップ一杯の水。

そして、その横に小さなメモが置かれている。

濡れて滲んだ文字で、たった一言。



——おかえり。



男は後ずさった。

その拍子に、背中が何かへ触れる。

振り向く。

そこには誰もいない。

だが耳元で、濡れた声が笑った。



「ツギ…は、アナ…たが…入る番…。」

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